903,1990年 日消外会誌 23(4):899∼ 血 管造影 にて腫瘍濃染像を呈 した肝管癌 の 1例 久留米大学第 2 外 科 同 第 2 病 理 ' 津留 昭 雄 吉田 浩 晃 木下 寿 文 大石 喜 六 溝口 博 保 久田 宏 小須賀健一 麻 生 重 明 大 山 和 彦 嘉 村 好 降 城 谷 徹郎 水 笹 栗 靖 之 中 山 和 道 肝外胆管癌 が血 管造影 で腫瘍濃染像を呈す る こ とは比較 的 まれであ るが著者 らは腫瘍濃染像 を呈 し た肝外胆管癌 の 1 症 例 を経験 したので報 告 した。症例 は6 8 歳の男性, 主 訴 は上 腹部痛, 肝 機能異常 を 指摘 され入院後 , 諸 検査 の結果, 胆 管癌 と診断 され手術 を施行 した。病理組織診断 は乳頭管状腺癌 で あ った。 血 管造影上腫瘍濃染像 が どの よ うな原 因 に 由来す るものか検討 した結果, 本 腫瘍 の間質 には 毛細血管 の増殖 が非常 に豊富 で, この毛細 血 管 内 に造影剤 が プ ー リング して腫瘍 が濃 染 した もの と思 われた. ま た本腫瘍 の発生学 上 の母組織 は, あ たか も消化管 出来 を思わせ るごとき特 徴 を有 していた 。 Key words: carcinoma arisen from the right hepatic duct, lesion with hyper vascularity, trachychromatic image は じめに 元来,肝 外 胆管癌 は血 管 造影 上 hypovascularな腫 瘍 であ り腫瘍濃染像 を示す ことは まれで あ る といわれ ∼ てい るゆ ゆ.今 回著者 らは右季肋部痛 を主訴 として来 院 し,血 管造影上,腫 瘍濃染像 を示 した まれ な肝 外胆 管癌 の 1症 例 を経験 したのでその臨床像,画 像所 見 を 入 院 時検 査所 見 : 胆 道 系 酵 素 お よび トラ ンス ア ミ ラーゼの上昇 を認めたが, 他 には異常 は認 め なか った。 腫瘍 マ ー カーは正 常範 囲で あ った ( T a b l e l ) . 腹部超音波検査 t 右 肝管 内 に辺縁不 整 の 2 X l . 5 c m の高 エ コーを皇す る腫瘤像 を認 め, そ の末檎側 の胆管 は拡張 を していた. 腫 瘤 の 内部 エ コーは不均 一 で あ っ 報告す る とともに文献的考察 を加 えた. 症 例 症例 i68歳,男 性. 主訴 :上 腹部痛. Table l Peripheral blood Electrolyte 家族歴 i特 記す べ き事 な し. RBCt 500× 104/mm3 BUN : 13.39mgldl WBCt 6400/mm3 既往歴 :66歳時,脳 梗塞. Hb :146g/dl Crea : 0.83mgldl Na : 141mEq/l K : 3.7 mEq/l 現病歴 :昭 和60年11月頃 よ り上腹部痛 あ り近 医 を受 診 し肝機能異常 を指摘 され精 査 のために入院す る。超 Ht :445% Biochemical examination TB i09mg/dl 音波検査,computed tomography(以 下 CT),endos‐ DB :024 mg/dl copic retrograde pancreatico‐ cholangiography(以 下 GOT :57 K U E R C P ) , 血 管造影 な どの緒検査 の結果, 胆 管癌 の診断 GPT :137 K U LDH :230ヽ VU を受 け昭和6 1 年 2 月 1 2 日に手術 を 目的 として当科 に入 院す る。 入院時現症 : 体 格 中等度, 黄 痘 ( 一) , 貧 血 ( ―) , 運動知覚障害 ( ―) , 病 的反射 ( 一) , 腹 部所見 i 右 季 肋部 に圧痛 ( 十) , 肝 陣腫大 ( ―) , 腫 瘤触知 ( ―) < 1 9 8 9 年1 2 月1 3 日受理> 別 刷請求先 : 津 留 昭 雄 〒8 3 0 久 留米市旭町6 7 久 留米大学医学部第 2 外 科 AL―p :30K A U γGTP :200 mIU TTT :318 Ku U ZTT :1086 Ku U Ch―E :090 pH LAP ,476 G R U T cho t 154 41 mg/dl ICC15 t 55% ICGRmaxl 1 06 Cl : 101mEq/l T . P : 8 . 1 7g / d l (% a|b : 72.9 7-gl : 18.8l( A/G: 2.69 CRP: (-) ESR: 8/24mm FBS : 109mgldl 75g OGTT Amylase : normal : 429IU Tumor markers CEA : 1.6mgldl A F P : 1 . 6m g l d l Urinalysis: normal 80(900) 血管造影 にて腫瘍濃染像 を呈 した肝管癌 の 1例 た (Fig,1). CT検 査 !右 肝 内胆 管 は 拡 張 して お り肝 門 部 に 辺 縁 日消外会誌 23巻 4号 不 整 な低 吸収 域 の 腫 瘍 を認 め た 。 この 腫 場 は 造 影 C T で 造 影 され血 行 の 豊 富 な腫 瘍 で あ る こ とが 想 像 され た (Fig。 2). Fig。l Abdo■ linal ultrasOnography: Tumor H′as recognized M′ i thin the intrahepatic duct(arroヽ V). E R C P i 胆 嚢 は 腫 大 して お り, 総 胆 管 は 軽 度 の 拡 張 を認 め た が , 右 肝 管 は全 く造 影 され な か った 。 左肝 管 Fig。3 ERCP I Right hepatic duct and intrahepatic bile duct、 vere not demonstrated Fig. 2 Upper : Plain CT scan : Tumor was showed as a low density area in the porta hepatis. Bottom: Tumor was detected by enhancedCT scan. Fig. 4 Upper: Common hepatic arteriography: tumor vessels in the right hepatic arteries were recognized at a comparatively early phase in angiography. Bottom: Trachychromatic image of the tumor was recognized in the parenchymatous phase in angiography. 81(901) 1990年4月 お よび左 肝 内胆管 に は 異 常 を認 め なか った (Fig。3). 総 肝 動脈 造 影 法 :動 脈 相 に て右 肝 動 脈 の 分枝 に 腫瘍 血 管 を認 め (Fig.4)実 質 相 に お いて 腫 瘍 濃 染 像 が 認 め られ た (Fig.5). 以 上 の 検 査 所 見 結 果 よ り右 肝 管 癌 と診 断 した 。 手 術 所 見 !昭 和 61年 2月 19日拡 大 右 葉 切 除 お よび リ Fig. 6 Upper: Pathological findings: note the cystic growth pattern of well differrenciated adenocarcinoma with papillary proliferation (HE x 40). Bottom: Note the remarkable inflammatory cell infiltration and proliferation capillary vesselsin the stroma of the tumor (HEx400). ンパ 節 郭清 R2を 行 い 再 建 は 肝 管 空 腸 吻 合 を行 った . 摘 出標 本 1腫 瘍 は 総 肝 管 か ら右 肝 管 に乳 頭 状 に限局 増殖 した l X2cmの 腫 瘍 で あ った (Fig.5 upper). 肉 眼 所 見 !胆 道 癌 取 り扱 い 規 約 に よ る と,腫 瘍 は Br,rp,乳 頭 型 ,1× 2cm,N。 ,SO,V。,P。,HO,HinfO, Panc。 , DO, G。 , Stage I. hw(一 )dw(一 )ew(一 ) った 。 で a b s o l u t e c u r a t i v e r e s e c t i oあn で 病 理 診 断 : 腫 瘍 は 乳 頭 管 状腺 癌 で あ り腫瘍 基 部 に比 較 的 大 きな動 脈 の 存 在 を認 め ( F i g . 5 b o t t o m ) , h i n 島, あ った ( F i g . 6 u p p e r ) . 腫瘍 内 に は 著 明 な ly。 ,vO,で Fig. 5 Upperi MIacroscOpie apearances of the resected specinlen i excised right hepatic lobe and tumor in the extra hepatic bile duct are indicated. Bottom: LOupe ilnage of resected tumori The large artery (attOW)iS recOgnized under the tumor 炎症細胞 の浸潤 を認 め 間質部 には豊 富 な毛細血管 が存 在 した ( F i g . 6 b o t t o m ) . 腫瘍 内 には H E 染 色で エ オ ジ ンに良 く染 ま る分泌顆 粒 を認 め た が, こ の 物 質 は また本腫 瘍 P A S 陽 性 の蛋 自で あ った ( F i g . 7 u p p e r ) 。 には グ リメ リウス陽性 の神経分泌顆粒 も認 めた ( F i g . 7 bottom). 術後経過 : 良 好 にて退院 した。 考 察 肝外胆管 は解剖学的 に血 行 の少 な い臓器 であ り, お のず とそ こに発 生す る腫瘍 は h y p o v a s c u l a r であ ろ う や打ギ十■ ことが予測 され る。 そのため文献上 で も肝外胆管癌 は i懃 血 管 造 影 上 ■y p o v a S C u a r な腫瘍 で あ る とす る報 告 が 多 いのり。 しか し, 今 回著者 らは胆管癌 としては珍 しい h y p e r v a s c u l a r i t y呈 を した 1 症 例 を経 験 した の で 報 告す る と同時 に, 血 管造影 上本腫瘍 の濃染像 が何 に由 来す る ものか原 因 につ いて考察 したので若子 の検討 を 加 え報告 した。本症例 の腫瘍 の支配 血 管 は右肝動脈 の 分枝 に よ り栄養 されてお り, 血 管造影 における h y p e r ‐ vascularityお よび t u m o r s t a i n は摘 出標 本 の 腫 瘍 の 82(902) 血管造影にて腫瘍濃染像を呈 した肝管癌の 1例 Fig. 7 Upper: PAS stain : many secretedgranule of PAS positive is observedin the cystoplasma of tumor (HEx400). Botiom: Glymerius stain: neurosecretorygranule of glymerius positive is observedin the cystoplasma of the large number of neumeroustumor cells.(H.Ex400) 日 消外会議 23巻 4号 腺癌 で あ り乳 頭状 に増殖 した きわ めて実質 の豊富 な腫 場 で あ り, そ の他 の間質部分 は乏 しいが, この間質 内 の毛細 血 管 の増殖 が 高度 で, 間 質 のほ とん どが毛細血 管 で置換 され てい るが ご とき像 を呈 していた. そ のた め この毛細血管 内 に造影剤 が プ ー リング して本例 で は 腫瘍 が濃染 した もの と思われ る. 次 に乳頭状 に増殖 した高 円柱上皮細胞 の胞体 内に は H E 染 色で赤 く染 ま りP A S 陽 性 の 消化 酵 素 を分泌 す る と思われ る大 小 の 分泌類粒 を多数認 め この細胞 は消 化管 で よ く認め られ るパ ネ ー ト細胞 に類似 していた。 また消化管 ホルモ ンを分泌す る と思われ るグ リメ リウ ス陽性 の神経 分泌顆粒 を認めたが, この細胞 は あ たか も E C 細 胞 に類似 していた。 この よ うな形 態 を持 った 2 つ の細胞 の存在 に よ り, 本 腫瘍 の発生学上 の母組織 は あた か も消化管 由来 の性格 を も備 えあわせ持 ってい るだ ろ うこ とが伺 わ れ た。 一 般 に 消 化 管 の 腫 瘍 で は hypewascularityが 高 い こと, ま た本腫瘍 が消化管 由 来 の腫瘍 で あ る こ とを強 く示唆す る病理 学的所見 が あ る この 2 つ を考 え合 わ せ る と, 腫 瘍 が血 管 上 h y p e r ‐ v a s c u l a r な性 格 を備 え もって い て も さほ ど不 思 議 な こ とで は な い と思われた。 ま また植木S l l乳頭部癌 では hypewascularityを 59% に, 的 m o r s t a i n を 2 3 % に 認 めた と報 告 し, そ の 中 で も に が 腫瘤 限局型 頻度 高 い と述 べ てい るが, 本 例 の 肉眼 像 は乳頭部癌 の腫瘤 限局型腫瘍 に も非常 に類似 してい 大 きさ と一 致 していた。組織型 は乳頭管状腺癌 で あ り た。 この こ ともさ らに本腫 瘍 が なぜ血 管上 h 5 7 p e r V a s ― 腫瘍 実質 は きわ めて豊 富であ った。 c u l a r であ るか を強調 す る理 由 に な り うる と思 わ れ 現在 血 管造影上 の腫易 に よる濃 染像 は,1)腫 瘍 に よ る血 管 の圧迫 で造影剤 の プ ー リングが起 こ り造影剤 の 2)腫 瘍 に随伴す る炎症 に よ り濃染像 を呈す る もの,3) ブ こ. 一 方, 胆 管癌 においては時 に 乳頭型 がみ られ る こと 6 1 が 知 られ て い る が, 大 藤 ら 12ょ7 例 中 4 例 1 4 . 8 % に 1 9 8 1 年の第 9 回 日本胆 道外科 ア ンケ T 卜 調査報告 で杉 腫瘍 自体 の原 因 に よ り腫 瘍濃染像 が認 め られ るものが の8 . 0 % を 乳 頭 型 が 占 め 浦 らの全 国集計 で は切 除p l l 中 ドレナ ー ジが 不 良 のため に腫瘍濃 染像 が 出 る もの と, あ る。さらに3)には,a)腫 瘍 自体 が血 行 の豊富 な もの てお り, 当 科 にお け る乳頭型, 乳 頭浸潤型胆管癌 の頻 と,b)腫 瘍 が非 常 に大 き くな り腫瘍 自体 には hyper, 度 は6 / 4 2 例 ( 1 4 % ) , 2 / 4 2 例 ( 5 % ) で vascularityは 無 いのに,腫瘍 周 囲 の組織 が腫瘍 内 に取 ら乳 頭 状胆 管癌 を検 討 した 結 果, 血 管 造 影 上 h y p e r ‐ vascularityを 呈 したのは本例 のみで あ ったの。他 の症 り込 まれたため,あ た か も腫瘍 自身 が濃染像 を呈 して あ ったが, これ い るかの よ うに見 えるものな どがあ る と考 え られ る。 た とえば 黒 田つらの肝外 胆管悪 性腫瘍 の血 管造 影診 断 胆管癌 の乳頭型 の特徴的所見 とは考 え られ なか った。 を さず この血 管 造 影 所 見 は 例 は h y p e t t a s c u l a r i t y示 の検討 で腫瘍濃染像 を呈 した 2例 を報告 してい るが こ また 最 近 経 験 した 本 例 と肉 像 の 類 似 した 胆 管 癌 や の 2例 は切除不能例 の腫瘍 で あ り,本 例 の よ うに腫瘍 自体 が hypettascularityを 示 す例 とは本 質 に 異 な る papillay adenoma8)で も 血 管 造 影 _L hypervascultiy は呈 していなか った,以 上 ,血 管造P//を 基 に本症例 を ことを明記 してお く必要 が あ る と考 える。 一 般 に胆 管 の 癌 組 織 像 は非 常 に 高 分 化 の 腺 癌 と 検討 した ところ,腫 瘍 は発生学上十 二 指腸乳頭部 を含 scirrhousな間質 よ り成 るが,本例 の組織像 は乳頭管状 胆管癌 で あ る こ とが判 明 した 。 めた 消化管 由来 を示唆す る病理所 見 を有す る字と 頭型 の 83(903) 1990年4月 性腫場 の血管 造 影 の診 断的価 値. 日 医放 線会誌 391 1332--1343, 1979 5)植 木敏幸 :乳 頭部癌 の血管造影学的研究。 日外会 本論文 の要 旨は第 10回消化器画像診断 (昭和64年 1月 7 日),シ ンガポ ールにおいて発表 した。 文 献 田中 聴 , 前場隆志, 国方永治 ほか : 早 期左肝管多 発癌 の 1 治験例. 日 消外会誌 2 : 1 3 5 - 1 3 8 , 1 9 8 8 有 山 譲 , 島 口晴耕, 須 山正文 ほか t 胆 道系腫易 一胆 道癌 の血 管 造 影 診 断―, 肝 胆 腺 8 : 7 9 5 799, 1984 大 田博郷,中野 哲 ,綿引 元 ほか !無 症状 にて発 見 され た 肝 門部 早 期 胆 管 癌 1例 .胆 と際 4: 誌 82i658-670,1981 6)大 藤正男,大野孝則,税 所宏光 ほか :早 期癌 の診断 と治療,胆 膵 ―診断.外 科診療 18 i l184-1193, 1979 7 ) 中 山和道, 津留昭雄, 久能 正之 ほか : 外 科医 に必要 な最新画像診断. 外 科 5 0 ! 1 2 2 9 - 1 2 4 0 , 1 9 8 8 8 ) 才 津秀樹, 吉 田治晃, 野中道泰 ほか : 肝 門部胆管 に 発生 した p a p l l l a t t a d e n o m a 1の例 . 日 消外会誌 201 2377--2380, 1987 817--820, 1983 黒 田知純, 打田 日出夫, 中村仁信 ほか ! 肝 外胆管悪 A Case of Hepatic Duct carcinoma with Hypervascularity in Angiography Teruo Tsuru, Hiroyasu Mizoguchi, Shigeaki Aso, Kazuhiko Ohyama, Hiroaki Yoshida, Hiroshi Hisada, Yoshimine Kamura, Tetsurou Shirotani, Hisafumi Kinoshita, Keniti Kosuga Yasuyuki Sasaguri and Toshimichi Nakayama SecondDepartment of Surgery, Kurume University Schoolof Medicine (Director: Prof. Kiroku Ohoishi) It is comparatively rare to see a trachychromatic image of the tumor in an angiogram of an extrahepatic cholangiocarcinoma,but we experiencedone caseof extrahepatic cholangiocarcinomawith a trachromatic image. The patient was a 68-year-oldmale with upper abdomnal pain as the main complaint. After liver dysfunction was detected and he was hospitalized, cholangiocarcinoma was diagnosed on the basis of the results of a detailed examination. The histopathological diagnosis was papillary adenocarcinoma.As a result of an investigation of the cause of the trachychromatic image of the tumor, it was found that propagationof capillarie in the interstitium of this tumor !\'as excellent, as revealed by pooling of contrast medium in the capillaries. The tumor base tissue was consideredto be a gastrointestinal origin embryologically. Reprint requests: Teruo Tsuru SecondDepartment of Surgery, Kurume University Schoolof Medicine 67 Asahimach, Kurume, 830JAPAN
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