【琉球医学会】 【Ryukyu Medical Association】 Title Author(s) Citation Issue Date URL Rights [症例報告]脾血管腫の1例 仲村, 宏樹; 玉城, 哲; 草野, 敏臣; 武藤, 良弘; 戸田, 隆義; 高 江洲, 裕 琉球医学会誌 = Ryukyu Medical Journal, 14(1): 69-73 1994 http://okinawa-repo.lib.u-ryukyu.ac.jp/handle/okinawa/3093 琉球医学会 Ryukyu Med.J., 14(1)69 - 73. 1994 69 牌血管鹿の1例 仲村 宏樹、玉城 哲、草野 敏臣、武藤 良弘 戸田 隆義Ⅰ、高江洲 裕ⅠⅠ 琉球大学医学部外科学第1講座 '同臨床検査医学 =北部地区医師会病院外科 (1993年7月19日受付、 1994年1月25日受理) A Case Report of笥Dlenic Hemangioma Hiroki Nakamura, Satoshi Tamaki, Toshiomi Kusano, Yoshihiro Muto, Takayoshi Toda* and Yutaka Takaesu First Department of Surgery and'Department of Clinical Laboratory Medicine, Faculty of Medicine, University of the Ryukyus, and ‥Northern Okinawa Medical Center ABSTRACT A case of splenic hemangioma in a 37-year-old female is reported and discussed. At the age of 31, the patient was diagnosed to have splenomegaly and anemia. She was referred to the University Hospital for further examination of her splenomegaly and anemia in February 1990. On admission, laboratory findings showed anemia and thrombocytopenia. Upper gastrointestinal series revealed medial compression of the gastric fundus. U】trasonography and computed tomography demonstrated an oval splenic tumor with internal homogeneous density. Splenic angiography showed hypervascular tumor, consistent with splenic hemangioma. Her splenic tumor was lOcm in diameter. On August 17, splenectomy was carried out. The tumor was ll.0×9.5×8.2cm in size and its weight was 685 g. The cut section showed red-purple, hard tumor with small areas of necrosis and fibrosis in the center of the tumor. Histological report was capillary hemangioma. She was uneventful postoperatively and has been doing well for the past 3 years since splenectomy. Ryukyu Med. ]., 14(1)69 - 73, 1994 Key words : spleen, capillary hemangioma, splenectomy 描 言 腫脹の原発性腫癌は稀であるが、画像検査の発達普 及により牌腫癌として発見され、その質的診断と治療 に苦慮することがある。今回著者らは、貧血を契機に 発見された碑毛細血管膳の1例を経験したので、若干 の文献的考察を加えて報告する。 症 例 患 者:37歳、女性 主 訴:貧血 家族歴:父に高血圧あり 既往歴:特記事項なし 現病歴:20歳頃より貧血を指摘されていたが、特に 愁訴はなく放置していた。 31歳時、腹満感を主訴に近医を受診し、牌腫大と貧 血(Hgb 9.0 g/dl)を指摘された。その当時の病院では、 肝機能検査、骨髄穿刺等を施行されたが異常なく以後 貧血の治療を受けていたが、 Hgb 10.0 g/dlを越えた ところで自己判断により治療を中断していた。 平成2年2月、検診にて再度牌腫大と貧血を指摘さ れ、精査加療目的にて平成2年7月当科-紹介され入 院となった。 入院時現症:身長155.2cm,体重47.0kg。血圧 120/70mmHg、脈樽は78/分と整で、栄養状態は良好で o 70 Splenic hemangioma Fig. 1. Upper GI series(left) showing medial compression of the gastric fundus and u】trasonography (right) demonstrating an oval tumor with interna一 hyperechoic mass. Table 1. Laboratory findings on admission Peripheral b一ood RBC (/mm3) Hgb (g/dl) Hct(%) MCV(〝㌦) MCH (pg) MCHC(%) WBC (/mm3) Plt(/n Ret (%o) ESR[lh] (mm) Coagulation Bleeding time PT(min.) APTT dnin.) Fib (mg/d】) HPT(% FDP(〃g) Tumor marker CEA (ng/ml) CA19-9(U/ml) AFP(ng/ml) Fig. 2, Plain CT (upper) showing a homogeneous normodense tumor and enhanced CT (bottom) outlining central hypodense areas. あった。眼瞭結膜に軽度の貧血を認めたが、眼球結膜 に黄症はなかった。胸部所見に異常なく、腹部は平坦、 軟で、右肋弓下に肝を-横指、左肋弓下に陣を四横指 触知したが、両者とも庄痛は認めなかった。 検査所見:血液検査で小球性低色素性貧血、血小板 の減少、不飽和鉄結合能の軽度克進、網状赤血球の増 加がみられた。出血凝固系検査に異常なく、腫癌マー カー(CEA,CA19-9,AFP)も正常であった(Table 1)。 腹部単純X線:正面像では左上腹部に、径約10cm大 の類円型腫癌陰影を認め、側面像においても上腹部に 腫大した類円型の腫癌陰影が存在した。 上部消化管造影:胃等底部から胃体上部大等側にか 仲 村 宏 樹 ほか Fig. 3. Splenic angiophotographs revealing a hypervascular tumor, suggesting of hemangioma (upper; arteria】 phase) , (bottom; venous phase). Fig. 4. Macrophotograph of cut surface of the tumor showing red-purple, hard tumor with central necrosis and fibrosis. 71 けて、背側からの大きな庄排像と同部に約10cm大の類 円型陰影欠損像を認めた(Fig.1)。 胃内視鏡検査:胃管薩部から胃体上部にかけての後 壁に、手拳大の表面平滑な隆起性病変部が観察された が、粘膜面にびらんや潰壕の形成などの異常所見なく、 腫癌による壁外性庄排が疑われた。 腹部超音波検査:左上腹部に比較的境界明瞭で、内 部は高エコー域と低エコー域の混在する不均質な腫癌 が存在した(Fig.1)。 腹部cT検査:単純cTにて、胃に接して牌臓より発 生した境界明瞭で内部は比較的均質な類円型の腫痛を 認めた(Fig.2;upper)。造影cTにおいて、腫痛は中心 部に壊死を思わせる低吸収域が存在するが全体的に高 吸収域を示しており、血管が豊富な臆病を強く疑わせ た(Fig.2;bottom) 。 Rl検査: mTc-Snコロイドを使用した牌シンチグラム において、腫癌部に一致して集積欠損を認めた。 血管造影検査:牌動脈造影にて動脈相では腫痕は hypervascularで、牌内分枝は周囲より中心部へ向って 伸展する車軸状配列を呈し、静脈相においては内部に 漉染像が描出された(Fig.3)。 以上の所見より、良・悪性の鑑別は困難であったが、 牌血管原性腫癌と診断し、平成2年8月17日摘牌術を 施行した。 手術所見:左肋弓下切開にて開腹。腹水なく、牌臓 以外の腹腔内諸臓器に異常はなかった。腫虜は牌臓よ り発生しており、径約11cm大で、表面平滑、外観は赤 褐色やや球状を呈していた。牌腫傷の周囲組織-の浸 潤や牌門部リンパ節腫大などの悪性腫蕩所見を認めな かったため、定型的牌摘術を施行した。 肉眼所見:腫痕は、正常牌の大部分を置換する形で 牌門部より内側へ突出しており、大きさ11.0×9.5× 8.2cm、正常牌を含めた総重量685g、弾性硬で、暗褐 色を呈しており、牌本来の薄い被膜に覆われていた。 割面において腫癌は類円型を呈し、充実性で、中心に 一部、索状の壊死箇所及び器質化した結合組織を認め、 腫痕外側に一部存在する正常牌との境界は明瞭であっ た(Fig.4), 病理組織学的所見:牌腫癌部は正常牌と比較して、 一部充実性のように見える部分もあるが、大部分は管 腔を形成しており、漉染した勝原線経をはさんで毛細 型血管構造が密に増生している像がみられる。 血管内皮細胞にmitosisやchromatinの濃染像等、悪 性を示唆する所見はなく、また壊死を起こした部位に も異型細胞の増生を伴わず、循環障害による梗塞巣と 考えた。 以上の所見より、牌毛細血管腫(capillary hemangi0ma)と診断した。 (Fig. 5.6)< 72 Splenic hemangioma Fig. 5. Microphotographs of the tumor (upper; HE, × 5) (bottom; silver stain, ×5). s; spleen, h; hemangioma. Fig. 6. Microphotographs of the spleen (left) and the tumor (right).(silver stain, ×50). 1; lumen. 考 察 血管腫は増殖した血管からなる良性病変で多くは皮 膚に生じ、しばしば先天性で小児および若年者に多く みられるが、その病因については真性腫癌、過誤膿、 刺激による既存血管の増殖などの諸説があり、明確な 結論には達していないl'。 牌原発の血管腫は非常に希な疾患2'であり、本邦で も1992年現在66例の報告をみるにすぎない3'。組織型 別に発生頻度をみると海綿状血管膿が最も多いが上 目験例のような毛細血管腺の報告例は比較的少なく、 尾野ら5'は牌血管腫19例中3例(15.' が毛細血管腫 であったと報告している。 牌血管腫の年齢分布は、 Husni61の報告によると4ヶ 月-72歳(平均34.7歳)でそのほとんどが成人に発見さ れており、男女比は1.4:1の割合でやや男性に多いの に反して、本邦においては男女比1: 1.4で僅かに女性 に多いと報告7'されていて、報告により性比にも僅か な相違がみられる。 臨床症状については、血管腫は緩徐な発育を示し8㌧ 腫癌の小さいうちはほとんど無症状で、ある程度の大 きさに成長してから腹部症状を呈してくる9'。 本疾患に特有な症状はないが、文献的には腹部腫癌 56.3%、腹痛31.3%、悪心唯吐12.5%、重圧感6.3%、 全身倦怠感6.3%、貧血6.3%と報告されているin)。 一方、無症状のまま経過することも少なくなく、超音 波検査11-…、 cT検査ll・ 14・ 】5)、 RI検査】6㌧血管造影H'など の画像診断の進歩に伴い他の腹部疾患の精密検査中に 偶然発見される例が多く、近年報告例は増えてきた。 碑血管腫の超音波像においては、高エコー領域、無 エコー領域、或いは不均一な混合像を示すなど報告に よって相違がみられる4'。その理由として、腫壕の増 大に従って出現頻度が高くなる出血、変性壊死、線維 化、嚢胞形成16)などが本来の構造の改築を生じ、血管 腫の超音波像を複雑化している原因と考えられる。自 験例は、標本の割画像が示すように一部に壊死、器質 化した結合組織が存在し、それらを反映した低エコー 域を認めるが、全体的にほL均質な充実性腫癌であり、 超音波検査上は腫蕩内の小血管膝が密に集合した部分 を反映して、比較的高エコー域に描出された。 毛細血管腫に特徴的なCT像に関して、単純cTにお いて粋血管腫はやや不均質で、肝に比較して低吸収域 を示し、造影cTにおいて造影されやすいという点で 自験例は典型的なCT像を示した。超音波検査やCT検 査は末だ部位診断にとどまることが多く、当該疾患に 特徴的な所見を描出するには至っていないが、楠本ら7' はDynamic CTを用いて腫蕩内が徐々に造影剤で充満 していく所見で、その質的診断も可能と報告している。 井上らmは、牌毛細血管腫症例における血管造影所 見として動脈相早期より多数の結節状漉染像が出現 し、静脈相で消失したと報告しているが、楠山2㌦ 尾 野ら§)の報告例及び自験例に関しては、腫蕩濃染像は 静脈相に移行しても消失せず、井上ら】7'の症例の血管 造影像と相違する所見を呈した。これらの報告では血 管の豊富な腫痕という点では一致し、この点が診断の 仲 村 宏 樹 ほか よりどころとなり得る。 wITc-Snコロイドシンチグラムにおいては、牌血管 膿に一致して取り込みは低いのが通常とされている が・・"、症例によっては逆に集積像を認めたとの報告も あるI.16)。また自験例のように胃を庄排した血管膿は 非常に珍しくL8㌦ そこで胃外性腫傷による圧迫と胃粘 膜下性癖との鑑別診断が必要であった。 本症の手術適応については、その25%に腫壕の破綻 を生じると報告され"、手術適応の根拠に挙げられて いる。特に出血やうっ血などにより内圧の上昇してい る腫塙、被膜付近に梗塞を伴う腫癌、血腫の増大によ り被膜が壊死、もしくは崩壊している腫癌、外傷後な どは破綻を生じる徴候と考えられていて、手術の適応 とされ一般に摘牌術が施行されている。また、本疾患 が術前に良・悪性の鑑別診断が困椎であること、悪性 化の可能性があることなどの理由により摘牌術が治療 の第一選択とされている。その他、外科的手術の適応 として腫癌による圧迫症状の強い場合、腫癌に増大傾 向の強い場合、牌機能克進やKasabach-Merritt症候群 などの凝固系異常を伴う場合、などが挙げられる。 自験例においては腫癌径の大きさ、破綻の可能性、 碑腫癌によると考えられる血球破壊(貧血)の存在、確 定診断の必要性などを考慮して摘牌術を施行した。但 し、牌揃により免疫学的問題が生じると考えられる乳 児に関しては可能な限り手術を避け、保存的治療を試 みるべきであるlt'。また、腫傷の小さい無症状例に関 しては、超音波検査、 cT検査などによる定期的な経 過観察を試み前述の手術適応に合致する変化が腫場に 生じた場合に碑桶を行うべきと考える。 73 橋亮二,斎藤 隆,吉田 豊,小野寺壮台:碑海 綿状血管腫の1例.臨放33: 1605-1608,1988. 5)尾野光市,岡 統三,柿原美知秋,谷口勝俊,河 野暢之,勝見正治:碑血管臆の1例.口外宝53: 684-691 1984. 6) Husni, E. 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