血 管 芽 細 胞 腫 - 日本皮膚科学会雑誌 検索データベース

ただいま、ページを読み込み中です。5秒以上、このメッセージが表示されている場
合、Adobe® Reader®(もしくはAcrobat®)のAcrobat® JavaScriptを有効にしてください。
Adobe® Reader®のメニュー:「編集」→「環境設定」→「JavaScript」で設定できます。
「Acrobat JavaScriptを使用」にチェックを入れてください。
血 管 芽 細 胞 腫
なお、Adobe® Reader®以外でのPDFビューアで閲覧されている場合もこのメッセージが表示さ
れます。Adobe® Reader®で閲覧するようにしてください。
一一3 例 の記載-一
一
一
木 甫,* 松 木 錬 一**
Angioblastoma
Report
of Three Cases
Hajime Miki and Ryoichi Matsumoto
いわゆる血管芽細胞腫"
第n
(angioblastoma)はわが国
で戦後はじめて記述され,良性の普通の血管腫と悪性の
転移性血管腫瘍との中間に位する1つの独立性皮膚疾患
として次第に認められてきたものである.ここに本症の
3例について述べ,若干の文献的考察を加える.
症 例
第1例 折戸某,n才,少女.初診昭和35年9月21
日.家族に同病はなく,両親は血族結婚でかし.既往歴
にも特記すべきものはない.現病歴:2年前,すなわち
9才の時,左頬に小さト,紅色の皮疹を生じ,軽い癈痔
があった.そのまま放置してしたところ,10力川の間に
比較的速かに現在の大きさにまで発育した.最近].年間
は大きさが殆ど変らない.この間,悍みは消失し,圧痛
を覚えるようになったが,自発痛はなト.発病前後に皮
疹の部位に外傷を受けた記憶はない.
皮膚現症(第1図):左頬の外下部に,ほぼド顎縁に
沿って帯状をなす,2.0×5.
5ciiiの局面かおる.形は細
長で,上半が幅広く,下半は幅が狭い.辺縁は」:半にお
いほかは異常がない.真皮卜層から汗腺の深さあたりま
いてやや不整で境界もしくぶん不鮮明,下半では境界が
で,しかし主としてし,中層に境界鮮明な,大小の,充
はっきりし,整っている.色は暗紅色で,硝子圧を加え
実した細胞団塊がある.団塊の辺縁は円味を帯び,形は
るといくらか槌色するが完全には消えなト.皮膚面より
概ね長目で,長軸は水平に近トが,毛嚢周囲ではこれに
僅かにもり上り,触るとかなり深部まで弾力性硬の浸潤
沿って縦に長くなってトる.個々弧立するもののほか,
かおる.局面内に小結節を触れなし.軽度の圧痛があ
索状に互しに連結するものもある.団塊の周囲に特別の
る.領域リンパ腺の腫脹はなく,体の他の部に皮疹を認
被膜は認められなト(第2図,
めない.
の細胞の胞体は比較的明るく,境界は分明でなし.核は
組織像(第2図):表皮では基底層のソラニン量の多
一般にかなり大形で,トくらか大小かおり,卵円形ない
A).団塊を形成する個々
*金沢大学医学部皮膚科学教室(主任 福代良一教授)大学院学生
**富山市民病院皮泌科医長
From the Department of Dermatology (Director: Prof. R. Fukushiro), Kanazawa University
School of medicine,Kanazawa (Dr. H. Miki) and the Dermato-Urological Clinicof Toyama
Municipal Hospital,Toyama (Dr. R.Matsumoto).
―
733 ―
734
日本皮膚科学会雑誌 第72巷 第9号
第2図 第1例の組織像
A
一全景, H-E染色,×20.真皮1:,巾屑に
細胞団塊かおり,毛嚢周囲では長軸が毛嚢
B.−H-E染色,×400.核はやや長目,胞体
に平行してしる.
られる.
一一ソイゲルト染色,×2【】U.細胞巣内に弾
力線却は認められ≒ト.
D.−PAP染色,×2叩.繊細な嗜銀線組が小
の界ははっきりしなし.小空隙が2,3見
し細長で,染り方はあまり濃くたい.核分裂像は,認めら
腔々らびに個々の細胞をとり凹んでトる.
×10‘(Fonio).出血時間2分30秒,凝同時間開始6分,
れたト.│圃塊内における細胞の配列は密,かっトくらか
完結15分(Sahli-Fonio).
不規則で,口塊内に少数の,小さた,円形たいし細長の
しヽ.
管腔を持つものが多い(第2図,B).腔内に少数の赤血
治療および経過:レ線近接照射療法か1『りI
球を容れてトるものもある.ワイゲルト染色では,細胞
団塊の内部に労力線柿は認められたト(第2図,
lf<ij,Itr部内景に輿常を認めた
( 200r)
行ったところ,腫瘍はいくらか縮小した.その後の経過
C).団
は不明.
塊内に,ワンギーソン染色に紅染する膠原線邨は認めに
第2例 宮崎某,13力Uの女児.初診昭和35年11月4
くトが,アザン染色では青染した繊細た線邨が団竹内を
卜.家欣に同病はなく,父母は血族結婚でなト.既往歴・
いくっかに分け,分かれたそれぞれには血管腔があり,
:!O力月で生れ,正常分娩,生ド時体重は3
腔の外側をさらに線却力川り)まトてしる.嗜銀線維は,
の発育順調,ほかに特記すべきものはなト.現病歴:止
やや太めのものがアザン染色の場合と類似の態度を示し
後20日頃,背中の右側,外下部に赤ト腫瘤のあるのに気
てトる[第]凶,D).鉄染色は団塊内でも,また周囲の
付いた.その後,大きさも色調もほとんど変らなト.圧
組織内でも共仁陰性であった.
痛があるらしく,触れるといやがる.この部位に外傷を
検査成績:末梢血液像では赤血球480×!04,白血球
受けたことはなト.
6200,その百分率正常,血色素90%(Sahli),血小板18
皮膚現症(第3図):背中の右側で,その外下部に2
kg,その後
昭和37年9月20日
735
第3図:第2例の臨床像.背中の右側,外下部
にほぼ菱形の,暗紅色の局面かおり,表面
に少許の鱗屑がp,られろ.
第4図 第2例の組織像
A.一一IトE,×20.真皮のほぼ全層に亘る禰漫性,
腫瘍性細胞浸潤.
B. ― Aの部分拡大1乱×200.
浸作のやや密々処.処々に不完全な血管腔形成が
見られる.C.一同上,×400.浸作細胞の核は
大形,淡染,細長,胞体はやや蜂郷状で境界不明.
中央より右よりにかなり人かな血管腔あり,又処
々に小腔形成がある.D.一同に,×400.処々
の小脇内に1個の赤血球を容れてトる.小腔の壁
は1∼数個の腫傷細胞から成る.E.一PAP染
色,×400.嗜銀線維が網状をたし,小腔ないし
個々の腫瘍細胞を闘んでいる.
736
日本皮膚科学会雑誌 第72巻 第9号
×2.5CII1のほぼ菱形をした局面が].個ある.境界はほぼ
第6図 第3例の組織像
鮮明で,上下の壁の軸はこの部位の皮膚割線方向にだい
たい一致し,側壁にはそれぞれ!個の凹みがみられる.
色は暗紅色で下半は上半より色がすこし濃い.皮膚面よ
り扁平に隆起し,深部までかなり強い浸潤がある.局面
の下半は上半よりも隆起がやや強く,表面に少量の細か
い鱗屑かおる.圧痛があるらしい.表在リンパ腺の腫脹
はなし.体の他部に皮疹はなト.
組織像(第4図):表皮には著変がない.真皮上層か
ら深層にかけて,一面に胴漫性,腫瘍性の細胞浸潤があ
る.浸潤の玉縁は鋭利でないが,下縁はほぼ鮮明であ
る.浸潤の周囲に特別の被膜はなし.毛嚢は浸潤内には
見られない.汗腺は小さしものが浸潤内に少数見られ,
また浸潤内の処々に脂肪細胞の小集団かおる.浸潤には
ところにより多少の疎密かおり,処々に小範囲の比較的
緻密な部分のあるほか,上部よりは下部が一般にやや密
である(第4図,A).浸潤細胞は特別な細胞巣とか細胞
索を作っておらず,一般に不規則に瀾漫性に存在する
が,処々では何かの流れに沿って並んでいるように見え
る(第4図,B).浸潤細胞の核は大形で,紡錘形ないし
やや角張った細長形をなし,ヘマトキシリソに比較的淡
染してしる.胞体は染まりがうすく,境界が分明でな
く,処々では蜂窮状の構造を示す.核に多少の大小はあ
るが,核分裂像は認められない.浸潤内には1なトし数
個の赤血球を容れた,1層の小さな血管腔を形成してい
る所見がかなり多数みられる(第4図,
C,
D).浸潤内
に鉄反応は陰性,また腫瘍細胞内に脂肪染色陽性の願粒
は認められなかった.腫瘍細胞に混って少数の小円形細
胞が散見される.ワソギーソン染色では,繊細な膠原線
維が浸潤内に入りこんでトるのがみられるが,ワイゲル
第5図:第3例の臨床像 背部の右側,肩脛骨の下
方に在る,局面性病変を示す.
A.−H-E,×50.真皮の処々に充実した細胞集
団のあること,第2図,Aによく似ている.
B.一H-E,×200.充実した細胞団塊内に小血
管腔∼小空隙がかなり多数ある.
C.一H-E,×400.ひとつの血管腔に接して腫
瘍細胞の小団塊かおり,うちにかなりの数の
小空隙を含む.腫瘍細胞の核は長目で,血管
内被細胞様である.
737
昭和37年9月20日
ト染色では弾力線組は浸潤内に殆ど見当らない.アザソ
全体として扁平に隆起し,辺縁は不整,色は暗紅色であ
染色では,青染した繊細な膠原線維が網状をなして浸潤
る.つまむと,かなりの浸潤を触れる.圧痛があるらし
内に在るのが,ワソギーソソ染色の場合より一層よく判
い.表面に落屑はない.
る.嗜銀線組も浸潤内へ多量に入り込み,個々の腫瘍細
組織像(第6図):第1例の所見と殆ど同じである.
胞を取り巻いている所見もある(第4図,E).
すなわち,表皮には異常がなく,真皮上層から深層にか
検査成績こ 末梢血液像では赤血球460×104,白血球
けて境界鮮明な,大小の,充実した細胞団塊かおる.第
5900,その百分率正常,血小板21×104.出血時間3分.
1例と異なる処は,真皮のより深くまで,すなわち,真
胸腹部内景に異常はない,
皮と皮下脂肪組織との境界のあたりまで腫瘍細胞の団塊
経過:試験切除後の経過は不明である.
の見られることである.但し,個々の団塊の詳細な所見
第3例 河村某,3才7ヵ月の女児.初診昭和37年3
は第1例と変らぬから,省略する.
月15日.家族に同病はな`く,父母は血族結婚でない.既
検査成績:末梢血液像では赤血球460×10≒ 白血球
往歴:10ヵ月で生れ,正常分娩,生下時の体重は3.2
10,600,その百分率正常.胸腹部内景に異常はなト.ツ
kg,その後の発育順調,ほかに特記すべきものはない.
ベルクリン反応陰性,血清梅毒反応陰性.試験切除後の
現病歴:昨年春頃,すなわち生後2才半頃,背部の右側
経過観察中.
に1円貨幣大の赤ト斑があるのに気付いた.それはかな
考 按
り急速に大きくなり,昨年暮頃には現在の大きさになっ
いわゆる血管芽細胞腫は,わが国において中川1づ二よ
たが,その後はほとんど変らない.はじめ,いくらか嫁
って初めて命名,記述されたものである.その後,報告
がったが,今は圧痛かおるらしい.この部に外傷を受け
例がふえて現在までに10例1
たことはない.
中でも増田3)の記述が詳しい.北村・増田9)は血管性腫
皮膚現症(第5図):第2例とよく似た場所,すなわ
瘍を第2表のように分類したか,上述のも口はこの分
ち背部の右側,肩脛骨の直ぐ下に8.5×3.8cmの,横に
類の「狭義の血管芽細胞腫」に相当すると思われる(以
長目の局面がある.長軸は皮膚割線方向にだいたい一致
下に扱う血管芽細胞腫は全て狭義の血管芽細胞腫とす
している.局面は小結節ないし小斑の集合ならびに融合
る).血管芽細胞腫の特徴を,従来の記録から要約すると
から成り,それらの間に健康皮膚面も存在する.局面は
次のようになる.臨床的には,小結節の集族局面または
8)(第1表)の記録かおり,
第1表 血管芽細胞腫の本邦症例
N0.
報告者 年次
年令性
病年令
部 位
皮 疹
色 調
圧痛
暗紫紅色
∼鮮紅色
宥
小指県人,有茎性,単発
紫紅色
無
浸潤局面,周辺に小結
節
褐紅色
有
小結節の族生
褐紅色
有
右上胸部
小結節の集銕,一部融
合
褐紅色
有
レ線に反応
右府卵部
栂指頭大,潰瘍形成
浸潤局面,面内に小硬
結
暗紅色
有
Co6oに反応
決壊褐紅
色
有
レ線に反応
扁平腫瘍
紫紅色
有
局面
暗褐紅色
不明
褐紅色
不明
局面
暗紅色
有
局面
暗紅色
有
暗紅色
有
1
中川(昭24)
35才女
17,8才
左 上 腕
6×4Cmの局面,周辺
に小結節
2
花 井(昭30)
34才男
33 才
頭 頂 部
3
増 田(昭31)
55才女
53 才
顔,頚(両側)
4
同上い)
27才女
生 来
左府評部,欧寓
5
同上(O
2才男
5ヵ月
6
遮土井(昭33) 2ヵ月男
生 来
7
中 山(昭34) 5ヵ月男
5ヵ月
右 上 腕
8
野原・吉田
(昭35)
7ヵ月男
生直後
左頚,肩,上胸部
9
横浜医大
(昭35)
4ヵ月女
3ヵ月
10
日 大(昭35) 1才7ヵ
月女
3ヵ月
11
12
三木・松本
(昭36)
同 上い)
13
同上(昭37)
左上胸部
左側腹,下腹,大
腿部
11才女
9才
顔(右)
13ヵ月女
20日
背部(右)
3才7ヵ 2才7ヵ月
阿女
背部(右)
腫瘤,硬,中央乳頭状
増殖
小結節の集合∼融合局
面
備 考
切除夜再発
レ線に反応
レ線に反応
738
日本皮膚科学会雑詰 第72巻 第9号
卵2表 血管性腫瘍の分類(北村・増田)
trophic type of hemangioma
"は問題の血管芽細胞腫
一成熟群・・・血管腫
〕 に一致するようである.彼等の記録によると,それは
血 作肺瘍
臨床的にぱa
j討芽細胞/3ユサズズ叢尹胞腫
―未熟群く腫(広義)又b血管内被細胞腫
血管肉腫 c血管外被細胞腫
solid, elevated, purplish red lesion-
which is not compressible ”で,組織学的にぱIt
sists of a solid mass
nimum
con-
of endothelial cells with mi-
of patent vessels. Vessel lumen
have been obli-
浸潤局面で,圧縮性はなく,圧痛がえる.レ線によく反
terated as a result of rapid proliferationof the em-
応するが,そのあと,または切除後の再発右しばしばあ
bryonic endethelium. ” で,これの純粋底型では組織学
る.生来あるか,あるいは生後間もなく発現するものも
的に血管肉腫と間違えられ易く,局所的に進行性で,切除
あり,晩発するものもある.転移を生じない.組織学的
後の再発が起り易いという,この記録が中川"
に心真皮内に限局性の,充実性の細胞団塊かおり,うち
のそれよりも前であることに注意しなければならぬ.
に小空隙ないし小血管腔を台臨腫瘍細胞の異型性は強
Allen et al'"はWatson
(1949)
& Me Carthy の記述を引用し,
くなく,核分裂像も見られない.以上のようで,この腫
後者の云う腫瘍は従来“compact
瘍は組織学的には普通の海綿状血管腫のそれよりやや未
呼ばれていたもので,悪性度の低い血管内被細胞腫と考
熟か,またはそれと本質的な区別をつけにくいといえる
えるのが一番よいと述べている.我が国の記録において
が,臨床的には普通の海綿状血管腫,すなわちいわゆる
も,中川より10年前の鳥12)(1939)の“血管内被細胞
毎状母斑(strawberry
腫”症例は,むしろ血管芽細胞腫とすべきだとされてい
mark)と明らかに異る.他方,
hemangioma
” とも
血管内被細胞腫,同外被細胞腫および血管肉腫とは臨床
る9).筆者の調べたところでは,その他にも類似の記録
的に右組織学的にも区別されうる.従って,血管芽細胞
が若干ある.すなわち,風間"'
腫は良性の血管性腫瘍のひとっで,普通の海綿状血管腫
に発生せる血管内被細胞腫の1例”,柴山"・
C1933)の“被角血管腫
(1933)の
とは異なる,少なくとも臨床的なひとっのentityとし
48才の男の頭部に発生しだ血管内被細胞腫”,平賀15)
て認めてよいと思われる.
(1934)の5ヵ月女児にみられた腫瘍,簡'"
われわれの第1および第8例は臨床的にも,組織学的
58才の男の1例などは問題の血管芽細胞腫ではなかった
に焉この腫瘍の定型的なもので,特に問題はない.しか
かと思われるのである.以上,名称は異なるけれど,中川
し,第2例は臨床的にはこの腫瘍として差支えないと思
の記述より前に,同じ腫瘍と思われるものの記録か内.
われるが,組織学的にはそれと異なる処かおる.腫瘍細
外の文献にあること詑注意したい.なお,中川の“血管
胞に異型性の少ないこと,核分裂像の見られたいこと,
芽細胞腫”と云う名称にっいてであるか,これは漠然と
および小空隙ないし小血管腔を作る傾向をもっこと,以
した総括名と誤られ易く,適当な名称とは云い難い.
et a】.の引用している"
(19S9)の
上は従来の血管芽細胞腫のそれと共通するが,本例では
差当ってば,
Allen
腫瘍細胞が限局性の細胞巣を作らず,禰漫性に存在する
hemangioma
” の方がより良くはないかと思われる.
compact
点が従来のものと明らかに異なる.この点では,普通の
次に,血管芽細胞腫の本邦報告例13例(自験例を含
海綿状血管腫の構造とも異なる.しかし,血管内被細胞
む,第1表)にづいて統計的にみると,女9例,男4例
腫,同外被細胞腫および血管肉腫の組織構造にはそれぞ
となる.発病年令では生後1年以内に発病したもの8
れ特徴かおり,それらのいずれとも異なる.強いて云え
例,他は遅発例,増田3)の第2例では,生来存したもの
ば,血管芽細胞腫の組織学的な漏漫性型とても云うしか
か12∼18才頃急に拡大したと云う.部位は18例中12例が
ない,その意味で,この腫瘍の普通の,いねば組織学的
上半身に腫瘍を待った.皮疹は小結節の集族よりなるも
限局型よりも,いくらかより未熟と云えよう.いずれに
の,および浸潤局面をなすもの,潰瘍形成や乳頭状増殖
して乱われわれの第2例のような,腫瘍細胞の禰漫性・
を示したものかあった.色調は紫紅色,褐紅色,暗褐紅
浸潤から成る血管芽細胞腫の記録はわが国にまだないよ
色等.この腫瘍に特徴的と云われる圧痛は11例中10例に
うである.
認められた.治療としてのレ線ないしC060に反応した
,ところで,従来,外国の文献には血管芽細胞腫の記録
記録は5例にある.切除後の再発にっいては中川の1例
Wat-
しか記録がない.組織所見を記述の確かな6例にっいて
or hyper-
みると,われわれの第2例を除き.真皮における境界鮮
はないとされていたが,筆者の調べたところでは,
son & McCarthy"'
(1940)の“angioblastic
昭和37年9月20日
739
明窓腫瘍細胞集団が共通所見で,構成細胞は若干の異型
維が巣内に認められた.反応性細胞浸潤は4例に認めら
性のある,淡染性,泡沫状,紡錘状の核を有する,胞体
れた.皮膚附属器および皮下組織に変化⑤あった例けな
の明るい,血管内被細胞様の細胞である.核分裂像を認
し卜
めた記述は2例1・2)にある.これら腫瘍細胞集団は未熟
むすび
な管腔形成の傾向を示すのが特徴で,管腔には無構造の
血管芽細胞腫の3例について述べ,若干の文献的考察
もの,中に1,2個の赤血球を容れた幼若血管と思われ
を加えた.うち2例は従来の記述に一致するものであっ
るもの,更に明らかな毛細血管を作るものなど,種々の段
たか,残りの1例は臨床的にはともかく,組織学的に腫
階かおり,それらが同一症例に混在する.腫瘍細胞集団
瘍細胞の潔漫性浸潤を示す,特異な症例であった.
内に鉄および色素を認めた記録1)が1例ある.腫瘍細胞
本論文に述べられた第!および第2例の要旨は第201
集団内の結合織線維にっいての記述は3例にみられ,そ
回日本皮膚科学会金沢地方会(昭和36年2月26ロ)にお
れらではいずれも膠原線維が細胞巣内に認められたが,
いて発表され,第3例は第206回同地方会(昭和37年5
弾力線維は認められなかった.また,3例ともに嗜銀線
月27日)においてスライド供覧された.
ABSTRACT
Case
l.-A
11-year-old girl noticed a small
size, on the left lower
jaw two years
ago. 0n
elevated, dark red, firm, non-compressible
of 2.0×5.5 cm on the site above
tumor
showed in
and a few
the dermis
and
The
of
tumor
"back twelve
days
non-compressible,
There
spindle-shaped
were
The
plaque
biopsy specimen
masses
with a size
obtained from
composed
of tumor
a tumor
tumor
on the right lower
with
nummerous
No lipid granules
of irregularly arranged
nuclei and not
capillary lumina
within the cytoplasms
area
a size of 2.0×2.5cm
within
and
tumor
cells which
firm,
cells and
dermis.
had large, faintly
foamy protoplasms.
the infiltration. No
tumor
of the
was
on the surface. Histolo-
well-defined, somewhat
of the
the
cells
mitotic figures。
revealed a diffuse, dense cell infiltration through the whole
infiltration consisted
stained,
birth.
tender
dark-red colored and slightly scaled
gical examination
The
examination there was a slightly
compact
No
girl developed
after the
gradually in
cells had ill-deflned,clear cytoplasms
large, oval or elongated, pale-stained nuclei.
Case 2.-A 13-month-old
which increased
somewhat
mentioned. A
a number
capillary lumina.
tumor,
no
mitotic figures・
reactions
to the
Berlin blue stain in the infiltration。
Case
3.-A 3-year and 7 month-old
'of 2 years and
7 months.
Ted, firm, somewhat
area
of the
back.
On
tender plaque
girl developed a tumor
examination
there
showed
back
at
the
was a slightly elevated,
with a size of 8.5×3.8cm
Histological examination
on the
almost
age
dark
on the right infrascapular
the same
findings as those
in Case 1.
文・献
4)地土井襄璽: 同誌,
1)中川清:日皮会誌,
59, 92,昭24.
2)花井定彦:内科の領域,
3, 437,昭30.
215,昭35.
:3)増田勉:皮と泌,
5)中山重男:臨床皮泌,
18, 489,昭31.
20,
13,
209,昭33.同・誌,
57,昭34.
22,
740
日本皮膚科学会雑誌
6)野原望,吉田彦太郎: 皮と泌,
同誌,23,317,昭36.
22, 215,昭35.
A.: Peripheral Vascular
Philaderphia, Saunders
Diseases, 2nd Ed.,
Co・ (1955)
7)横浜医大:口皮会誌,
70, 388,昭35.
8)口大=同誌, 70, 736,昭35.
12)唐晟訓:目皮会誌,
46, 191,昭14.
13)風間種子:日本医大誌,
4, 1121,昭8.
9)北村包彦:日本皮膚科全書,第7巻第1冊,東
14)柴山敬:皮と泌,I,427,昭8.
p. 348.
京,金原出版,昭和32,
173頁.
10) Watson, W.L. & Me Carthy, W.D.: Surg・,
15)平賀芳雄:日皮公誌,
35, 215,昭9.
16)簡仁南:皮紀要, 34, 52,昭14。
Gynec. & Obst・, 71, 569 (1940).
11) Allen, E.V。Barker,
N.W. & Hines, JR. E.
(昭和37年6月15ロ受付)