正しく食べます!「赤・黄・緑」 - 教育委員会

食育実践リポート
正しく食べます!「赤・黄・緑」
9
初任者研修に協力して
埼玉県川口市立本町小学校
導研究)として授業を行いました。「栄養教諭
としての仕事の1つとして、初任の学級担任に
3年生で行われた学級活動での授業の様子を
給食指導、そして食育の意義を十分に知ってい
リポートします。この日のテーマは赤・黄・緑
ただきたいと思っています。初任者研修の枠組
の食べ物のはたらきを知り、バランスのとれた
みで授業づくりに参加することにはたくさんの
朝ごはんを食べることの大切さを考えること。
メリットがあります。まず初任の先生は、これ
このテーマについては本町小では、2年生から
まであまり食育の指導を受けてこなかったため
発達段階に応じてくり返し教えられるもので
『食の指導はどう行われるべきか』ということ
す。2年生では絵本を使って栄養の3つの色の
が理解されていません。また大学の養成課程で
はたらきの概要を知らせ、3年生では文部科学
も勉強していません。ですからまず教師生活の
省の『食生活学習教材中学年用』を使い、朝ご
一番初めの段階できちんと食育の大切さや栄養
はん調べをします。さらに4年生では埼玉県教
教諭としての思いを伝えておきたい。今後その
育委員会の『食育学習教材』を使い、「よりよ
先生が異動されてもきちんとした食育指導をし
く成長するためには」とからだの成長と絡め、
ていただけるようになると思うのです。忙しい
再び学級活動の時間で取り組みます。「栄養バ
時間をなんとかやりくりして初任者研修にかか
ランスのとれた食事=赤・黄・緑の食べ物がそ
わる一番の理由はここです。また初任者研修で
ろっているもの」をこうして定着させていくこ
は、『一緒にTTで授業に入りたいんだけど…』
とで、5年生からの家庭科での学習にスムーズ
と持ち掛ければ、いつも大歓迎されます。私に
につながっていきます。
とっても指導教員の先生と一緒に若い先生に授
今年度は初任の学級担任が高田先生と指導教
員の指導を受けながら、初任者の校内研修(指
業づくりを教える中で勉強になることが多いの
です」と高田先生はおっしゃる。
第3学年2組 学級活動指導案
平成21年10月23日
指導者:T1 西川麻里絵
1.題材
T2 高田マリ
正しく食べます!「赤・黄・緑」
2.児童の実態と題材設定の理由
本学級の児童は、毎日給食を楽しみにしている児童と好ききらいがあり残してしまう児童がいる。
また、夕食を食べる時間が遅く、朝起きたときに空腹を感じず朝食をしっかり食べてこない児童な
どがいる。
66
食育フォーラム 2010 -1
児童はこれまでに一日を元気に過ごすための朝ごはんについて学習してきた。そこで、3年生で
は食品は栄養のはたらきによって3つに分けることができ、健康に育つためにバランスよく食べる
ことが必要であることを知らせたいと考えた。また、健康な生活を送るためには、規則正しい食生
活も関係することを理解させたいと考え、この題材を設定した。
本題材では、栄養教諭とのTTを実施し、学校給食を生きた教材として使用しながら、これから毎
日食べる単校給食をより身近に感じてもらい、『食生活を考えよう』(文部科学省食育学習教材中学
年用)を教材として、朝ごはんの大切さや健康な家庭生活について意識させたい。
3.指導のねらい
(1)赤黄緑の食品を理解し、それぞれの栄養のはたらきを知る。
(2)規則正しい食生活をしようとする態度を育てる。
4.事前指導
『食生活を考えよう』P2、3の「1日のスタートは朝ごはんから」のチェックシートを行う。
5.展開
学習活動
①1日のスタート
は朝ごはんから
(『 食 生 活 を 考
えよう』P2、3)
②本時の課題を知
る。
◆評価 ○指導のポイント T1(担任)T2(栄養教諭)
資料
○自分の朝ごはんと生活習慣をふり返らせ、思っ 『食生活を考えよう』
たことを発表させる。(T1)
○朝ごはんの内容について気づくようにする。(T
1)
○児童から出た意見を板書する。(T2)
T1「『食生活を考えよう』の2ページと3ペー
ジを開きましょう。水曜日に朝ごはんのチェ
ックをしました。覚えていますか。それを見
て気づいたことを書いてもらいましたが、そ
れを発表してください」
児童「野菜が少なかった」「普段の日はあまり食
べていなかったけど土日はたくさん食べてい
た」「赤の食品が少なかったので、赤黄緑の
食べ物をバランスよく食べたい」など
T1「赤黄緑という言葉が出てきましたね。じつ
は先生は3年2組のみんなが朝どんなものを
食べているかをチェックしました。まずご飯・
パンを食べている人は31人、肉・魚・大豆の
おかずを食べている人は15人、野菜のおかず
も15人、スープやみそ汁は11人、くだもの
は8人でした。それから飲み物は27人でした。
この結果を頭に入れながら、一緒に今日の勉
強の課題を読みましょう」
正しく食べます!「赤・黄・緑」
バランスのよい食事を考えよう
時間(分)
3
15
2010 -1 食育フォーラム
67
食育実践リポート
③赤黄緑の栄養の
はたらきと食品
を知る。
(『 食 生 活 を 考
えよう』P7)
68
食育フォーラム 2010 -1
○栄養教諭の話を聞かせる。(T1)
赤黄緑掲示物
○赤黄緑の栄養のはたらきと食品について話をす
3色エプロン
る。(T2)
食品カード
・黄…エネルギーのもと。主食、さとう、油
・赤…からだをつくる。肉、大豆、牛乳
・緑…からだの調子をととのえる。野菜、くだも
の
T1「では食べ物のスペシャリスト、高田先生の
お話を聴きましょう」
T2「今、この課題を見て『赤黄緑って、あのこ
とかな』とすぐにわかった人はいますか?」
(児童挙手)
T2「はい。2年生のときに『元気くん』の絵本
で勉強しましたね。今日はその続きですが、
あのときのことを少し思い出しながら、これ
から先生のお話を聴いてください」
T2「まずは黄色から。黄色の食べ物はからだの
中に入ると、おもにからだを動かすエネルギ
ーになります。わかりやすいように車にたと
えてみましょう。車を動かすエネルギーとな
るものは何でしょう?」
児童「エンジン?」「ガソリンです」
T2「そうです。では具体的にどんな食べ物が黄
色の食べ物か覚えている人はいますか?」
児童「パン、チーズとかです」
T2「う∼ん、ちょっとちがうかな」
児童「パンとかご飯、めんやいもです」
T2「そうです。朝ごはんでいうと、ご飯やパン。
それがおなかの中に入ると、午前中がんばっ
て勉強ができるエネルギーのもとになります」
T2「では次は赤です。赤の食べ物はおもにみん
なのからだをつくります。ところで、みんな
のからだは何でできていますか?」
児童「骨」「肉」「大豆…」
T2「大豆?この間大豆の勉強をしたときのこと
かな。大豆も赤の食べ物で、からだをつくる
もとになると言いましたね。ではその大豆の
栄養素の名前を覚えている人はいますか?」
児童「たんばく質です」
T2「そうですね。赤の食べ物には『たんぱく質』
という栄養素が入っています。みんなのから
だは骨とか筋肉からできていますが、赤の食
べ物はこうしたものをつくる栄養になるので
す。さっき『朝ごはんに赤の食べ物が少なか
った』というお友だちがいました。この表で
いうと肉・魚・卵といったものが赤の食べ物
となります」
T2「では最後。緑の食べ物ですが、これはおも
にからだの調子をととのえるはたらきがあり
ます。では調子とはどんなことでしょう。た
とえば『からだの調子が悪い』というのはど
ういうことでしょう?」
児童「朝ごはんを食べない?」「インフルエンザ
にかかる…」
T2「はい。今、新型インフルエンザがはやって
いますね。インフルエンザの場合は少し違い
ますが、緑の食べ物を食べるとからだの抵抗
力を強めてかぜにかかりにくくなります。そ
れからもう一つあります。ヒントは『さわや
かな朝を迎えられる』。わかった人はいますか?
朝ごはんをしっかり食べると食べた後にそれ
があります。食べて学校に来るまでにするこ
とといえば…」
児童「顔を洗う…」「トイレ」
T2「からだ調子をととのえる大事なことのもう
ひとつはうんちです。これは大切なことです。
朝学校に来る前にトイレは必ず済ましてきて
ください。そうでないと午前中、急にトイレ
に行きたくなったら困ってしまうでしょう。
またそうした状態は『からだの調子がいい』
とは言えません。からだの調子をよくするた
めにもきちんとトイレに行ってください。緑
の食べ物はおなかのそうじをしてすっきりう
んちが出る手伝いをしてくれます。ではこの
緑の食べ物は何かわかりますか?」
児童「野菜」「くだものです」
T2「はい、緑の食べ物は野菜とくだものですね。
さて食べ物はこの赤黄緑の3つのどれかに分
けることができます。この表を見てみましょ
う。黄色はご飯やパン、それに油も入ります。
赤は肉、魚、卵、あと給食で毎日出る牛乳も
ここに入ります。最後の緑は野菜とくだもの
です。このことをもう一度しっかり覚えてく
ださい」
④前日の給食を赤
黄緑に分ける。
○3色のエプロンを3人の児童に着させる。
(T1T2)
○順番に食品カードを渡し、エプロンに入れさせ
る。(T1)
5
T2「昨日はみなさん給食をしっかり食べました
か。昨日の給食メニューを思い出してみまし
ょう」(メニューの表を見せて、一斉に読む)
2010 -1 食育フォーラム
69
食育実践リポート
T2「思い出しましたか? とくにポトフにはい
ろんなものが入っていましたね。では昨日の
給食をこの3つの栄養の色に分けてみたいと
思います。では昨日の給食はどんな食べ物か
ら作られていたか、これから紹介したいと思
いますが、もうわかる人はいますか?」(児童、
食品の名前をさまざまにあげる)
T2「牛乳、みかんはすぐわかりますね。また揚
げパンはパンだけではなくて…」
児童「きなこ」
T2「きなこだと思った?揚げパンにはまずさと
うが使われていました。じつは粉はきなこで
はなかったのですが、何の粉かわかった人は
いますか?」
児童「アーモンド」
T2「そう。アーモンドなのです。それから揚げ
パンなので油も使いました。またポトフには
じゃがいも、にんじん、肉が入っていました。
何の肉かわかる人はいますか?」
児童「豚肉」
T2「はい。ほかに野菜は3種類ありました」
児童「キャベツ」「たまねぎ」「パセリ」
T2「ではこれらをこれから赤黄緑に分けていき
たいと思います。その前に…ジャ∼ン、赤黄
緑のエプロンをお友だちにつけてもらいたい
と思います」
(T1、エプロンをつける児童を3人指名する。
また12枚の食品カードを代表児童にふり分ける)
T1「では食品カードを持った人は、その食品が
入ると思った色のエプロンのポケットに入れ
てください」
⑤学校給食はバラ
○ 給食の栄養分けの発表をする。(T2)
ンスがよいこと
を確認する。
T2「ではみんなが分けてくれたものを確認して
いきましょう。まず黄色からです。『さとう』
が入っていました。正解ですか?」
児童「合っている」
(T2、エプロンのポケットから代表の児童が入
れた食品カードを出して答え合わせをしていく)
T2「アーモンドが赤に入っていました。これは
今日の12枚のカードの中でいちばん難しいも
のです。アーモンドは種を食べるものです。
70
食育フォーラム 2010 -1
この仲間にはごまやくるみがあります。ごま
はしぼって油がとれるほどたくさんの油をふ
くんでいる食品です。アーモンドが赤でない
とすると、どれになりますか?」
児童「黄色」
T2「正解です。アーモンドはごまやくるみと同
じく黄色の仲間です。この難しかったアーモ
ンドを除いては全部正解でした。数を見てみ
ると黄色5種類、赤2種類、緑5種類でした。
こうしてみると給食には栄養の全部の色がそ
ろっていますね。みんなが食べている給食は
このように栄養のバランスがとてもよいもの
なのです」
⑥バランスのよい
食事について考
○栄養教諭の話やアンケートの結果から、これか
ワークシート
7
らの食生活についても考えるように支援する。
えワークシート
(T1)
に記入し、発表
○ワークシートを配る。(T2)
する。
○机間指導を行い、戸惑っている児童に声をかけ
る。(T1 T2)
T1「高田先生のお話を聴いて、バランスのよい
食事とはどんなことか、ワークシートに書き
ましょう」
(児童ワークシートに記入)
T1「それでは発表してもらいましょう」
児童「高田先生のお話を聴いて、毎日、赤黄緑の
食べ物を食べるように気をつけたい」「赤黄
緑の食べ物を全部そろえると元気になるから、
これからは給食も全部食べるようにしたいと
思います」「給食には赤黄緑の食べ物が全部
あるという話が聴けてよかった」など
◆赤黄緑の食品を分け、それぞれの栄養のはたら
きを理解している。(知識・理解)ワークシート
2010 -1 食育フォーラム
71
食育実践リポート
⑦班で話し合う。
○バランスのよい食事や規則正しい食生活にする
ためにはどうすればよいかという視点で具体的
に考えさせる。(T1)
○栄養の話などの助言をする。(T2)
8
T1「それではバランスのよい食事をするために
自分たちで今できることをこれからグループ
で考えてもらいます。バランスのよい食事と
いうのは、赤黄緑の3色の食べ物がそろって
いる食事のことでした。ではそのためにみん
なはどんなことができるのか。ただ食べるだ
けでいいのかな?またどんな生活をしたらよ
いのでしょう。たとえば朝、起きられなくて
あまり食べられないという人がいたよね。好
ききらいしないということも大切だね。そん
なことをグループで話し合ってください」
⑧自分ができるこ
とを考え発表す
る。
○話し合いを称賛し、実践に向けての意識をもた
せる。(T1)
○解決策の中で具体的でよいものを称賛し、実践
するときの助言をする。(T2)
T1「はい。途中の人も鉛筆を置きましょう。い
い意見がたくさん出てきたようです。ではバ
ランスのよい朝ごはんにするために自分たち
ができることについて、これから発表しても
らいましょう」(班を指名する)
児童「早寝早起きをして、自分できちんと起きて
朝ごはんを食べる」「出されたものは全部残
さず食べる」「お母さんに赤黄緑をそろえて
くれるようにお願いする」
◆規則正しい食生活をするためにできることを考
えようとしている。(関心・意欲・態度)ワー
クシート
⑨本時のまとめを
する。
○今日の授業で学習したことを家の人に伝えて1
週間実施し、感想をもらい、家庭でも食生活を
ふり返るように指示する。(T1)
T1「いろいろな意見が出ました。ではこれから
1週間朝ごはん調べをしてもらいますが、バ
ランスのよい朝ごはんを食べるために自分が
できそうなことを最後の欄に1つ書いてもら
います」
72
食育フォーラム 2010 -1
5
T2「授業のはじめに朝ごはんのアンケートに答
えたときに自分がどうだったかを思い出して、
今日勉強したことでどうしたいかを考え、書
いてください」
○ 「頭で食べる」ことを伝える。(T2)
T1「では高田先生から最後にお話をいただきま
す」
T2「最初の朝ごはんアンケートを見ると、みん
なは黄色の食べ物、ご飯やパンはしっかり食
べているけど、赤や緑の食べ物を食べる人が
半分くらいでした。また月曜日から金曜日ま
ではあまり食べないけど休みの日ならしっか
り食べるという人もいましたね。これは時間
が関係しています。みんなのめあての中にも
早寝早起きがありましたから、しっかり起き
てお家の人がつくってくれた朝ごはんをきち
んと食べてもらいたいと思います。また2年
生のときも学習しましたが、今日あらためて
赤黄緑の栄養の話をしました。そのことをし
っかり頭に入れて、いつも考えながら食べる
ようにしてください。もちろん食べるのは口
からですが、考えて食べることを『頭で食べ
る』と言います。食べ物の栄養のこと、そし
て時間のこともしっかり考えて食べるように
しましょう」
6.事後指導
・1週間の朝食調べを行う。(ワークシート)
・給食の時間に給食の食材を確認し、くり返し栄養の話をする。
・地域の食べ物の旬や、行事食・郷土料理の伝統の味について学習する。
“教諭”としての期待にこたえながら
この授業の後も指導教員の北原先生が見守る
中、研修室で高田先生と4年生担任の初任の先
生が一緒に、次に行う予定の授業のリハーサル
を行った。指導案に沿いながら一通り授業のシ
ミュレーションを行い、ポイントとなる場面で
は教材となる円グラフの見せ方や発問の仕方な
どを丁寧に検討し合いながら進めていた。
いつも高田先生の授業では、子どもにわかり
2010 -1 食育フォーラム
73
食育実践リポート
やすい話し方やとっさの子どもの発言にも機転
町小の食育指導はおもにTTで行われているが、
を利かせながら対応される姿に感心させられる
先輩教師としての力量が初任の先生にとっては
のだが、そのことを高田先生に話すと「いえい
心強い手助けとなり、また授業のあり方を共に
え、初めは私もよく振り回されていました。そ
語り合える仲間として学校の中でも頼りにされ
れではいけないと、次は想定した答え以外をし
る存在となる。高田先生は「栄養教諭となって
つこく言う子はほっておいて授業を進めてしま
から、校長先生は私を『高田教諭』と言って外
ったこともあります。でもその後、当時助言し
に紹介してくださいます。また『指導の手引き』
てくださった先生から『それではいけないよ』
(2009年9月号参照)をまとめたことで、職員
ときつく言われ、以後自分で気をつけていると
会議で『食育の観点から見てどう思いますか』
ころです。そのあたりのバランスはいつも難し
と助言を求められるようにもなりました。“栄
いですね」とおっしゃる。
養教諭”がひとりの教師として、周りからとて
授業をどううまくかじ取りしていくかは経験
も強い期待を寄せられているのを感じます。そ
がやはり大きくものをいうが、同時に学校内で
れだけ責任も大きいのですが、こうした初任者
日ごろからクラスや子どもたちの様子を把握し
研修などの仕事を通して、ぜひ『栄養教諭なら
ておくことも大切だそうだ。「そのあたりが学
ではの仕事』を作りあげていきたいと思ってい
校に栄養教諭が配置されている大きな強みでは
ます」と話された。
ないでしょうか」と高田先生はおっしゃる。本
74
食育フォーラム 2010 -1