新BIS規制「第二の柱」で 試されるリスク管理能力 - Nomura Research

Financial Information Technology Focus June 2005
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金融機関経営
新BIS規制「第二の柱」で
試されるリスク管理能力
銀行勘定の金利リスク管理を要請する新BIS規制の「第二の柱」において、
金融機関に真に期待されるのは実質的なリスク管理能力の向上である。
「第二の柱」とアウトライヤー銀行
に注目が集まったが、現時点では各国の監督
アウトライヤー(outlier:外れ値という意
当局が未だ対応方針の表明に慎重な姿勢を見
味)銀行という言葉は、金融業界にあっても
せていること、第一の柱である自己資本規制
リスク管理業務に従事する者を除けば、耳に
への対応期限が迫る中で金融機関にとって相
する機会はそれほど多くないであろう。アウ
対的に緊急度が低いこと、などから最近は当
トライヤー銀行とは2004年6月に確定した新
初に比べてややトーンダウンした感もあった。
BIS規制に盛り込まれた概念である。
新BIS規制は「3つの柱」から成っており、
高まる金利リスクへの懸念
第一の柱は銀行に自己資本比率を遵守させる
しかし、超低金利経済下にある日本におい
ことを通じて規律を維持すること、第二の柱
て金融機関が抱える金利リスクの深刻度合が
は銀行自身によって策定された自己資本戦略
増すにつれ、再び銀行勘定の金利リスクに注
を当局が検証するプロセスを通じて規律を維
目が集まり始めている。事実、依然として続
持すること、そして第三の柱はリスク管理に
く貸出先の伸び悩みを背景に、金融機関は収
関する情報開示により市場原理を通じて規律
益確保を目的として有価証券、特に債券への
を維持することとなっている。ここで、第二
投資比率を高めてきている(図表1)上、貸
の柱は第一の柱から漏れたリスクを対象とし
出においても住宅ローン市場の競争激化に伴
てより緩やかな縛りの下で規律維持の実効性
い長期固定金利物のローン残高が拡大するな
を高め、また、第三の柱は第一の柱と第二の
ど、総じて金融機関が抱える金利リスクは増
柱を補完/強化する位置付けである。
大していると言える。
Writer's Profile
第二の柱が対象とする各種リスクの中で、
これに対して日銀も明確に懸念を表明し始め
金融機関の経営に最も大きなインパクトを持
小粥 泰樹
Yasuki Okai
つとされるのが銀行勘定の金利リスクであ
金融ITイノベーション
る。そして、標準化された金利ショック
研究部長
専門は金融市場分析/
リスク管理
[email protected]
図表1 有価証券の総資産に占める比率(%)
1)
(200ベーシスポイント) の下で自己資本
'00/3
'01/3
'02/3
'03/3
'04/3
'04/9
都銀
16.1
20.8
18.7
21.1
26.5
26.7
地銀I
19.7
22.2
22.7
24.0
25.4
26.4
地銀II
16.7
16.9
17.6
18.6
20.4
21.4
(TierI+TierII)の20%を超える経済価値の
低下が生じる場合、当該金融機関をアウトラ
イヤー銀行と呼ぶのである。
アウトライヤーという言葉の響きが刺激的
なこともあり、市中協議案として新BIS規制
が提示された頃は銀行勘定の金利リスク管理
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(出所)全国銀行協会
野村総合研究所 金融 IT イノベーション研究部
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NOTE
ている。2005年4月作成の「平成17年度の考査
果として、アウトライヤー銀行の基準に掛か
の実施方針等について」という資料において平
っているか否かを当局へ示す上で、実に様々
成16年度の考査結果をレビューしているが、金
な前提状況について説明する必要が金融機関
利上昇リスクに対する大手銀行の取組み状況を
側に生じるのである。
評価する一方で、地域金融機関に対しては金利
このことは金融機関のリスク管理にとって
リスク管理の重要性が高まっているにも関わら
見かけ以上に大きな意味を持つ。これまで大
ず、「・・・経営体力に関連付けたリスク限度枠の
手金融機関を除けば、金融機関における全社
設定が未だ浸透していないなど、管理体制が十
リスク管理は自己資本比率を含むリスクの計
分でない事例も少なからず見受けられた。・・・」
量化活動が中心となっており、リスク量を増
との判断を下している。
減するリスクコントロールや、リスク資本配
また、同資料において今年度(平成17年度)
賦を通じた経営効率改善にまで踏み込んで寄
の考査の実施方針が謳われているが、その中
与している例は少ないとされる(例えば、図
で金融機関における統合リスク管理の強化を
表2を参照)。このような現状にあって第二
促していくことが明確に示されている。そし
の柱へ対応するということは、リスクの把握
て、有価証券運用が増加している地域金融機
能力においても、リスクのコミュニケーショ
関に対しては「・・・有価証券に配賦する資本
ン能力においても格段に高いレベルの能力が
を定め、経営体力と関連つけた形で投資量・
リスク管理担当者に要求されることになるの
リスク量の限度枠を設定するよう促してい
である。
く。・・・」とある。新BIS規制の第二の柱への
第二の柱への対応で金融機関に本質的に期
対応を意識して、金融機関に銀行勘定をも含
待されていることは、単なる金利リスクの抑
めたリスク管理の実践を求めていく方向性が
制ではなく、リスク管理能力の質的レベルア
明らかである。
ップと統合リスク管理の実践であるというこ
1) より正確には、BISがま
とめた「金利リスクの管理と
監督のための諸原則」(2004
年7月)において上下200ベー
シスポイントの平行移動か保
有期間1年(240営業日)、最
低5年の観測期間で計測され
る金利変動の1乃至99パーセ
ントタイル値のいずれかとさ
れている。
2) 金利変動によらず安定的
に滞留する決済性預金のこ
と。コア預金を金利上昇に対
する経済的クッションと見な
す考え方がある。
3) 金利低下時に借入れ側に
とって借り換えのインセンテ
ィブが生じる。これは貸手側
にとって期限前償還のリスク
となる。
とは、いくら強調してもし過ぎることのない
求められる実質的なリスク管理能力
重要なポイントである。
N
しかし、第二の柱への対応がアウトライヤ
ー銀行としての認定を回避することと、短絡
図表2 部門毎の資本配賦
的に考えるべきではない。そもそも標準的な
実施
実施予定
予定なし
都銀
80.0%
20.0%
─
地銀I
20.8%
58.3%
20.8%
地銀II
10.0%
35.0%
55.0%
金利ショックとして200ベーシスポイントを
仮定したとしても、金融機関のバランスシー
ト全体の金利感応度に関しては標準的な計量
方法が存在するわけではない。コア預金の考
2)
え方 やローンの期限前償還リスクの考え方
3)
など、金利上昇時の経済的インパクトを推計
するには各金融機関が個別の考え方に基づい
(注)数値は実施している金融機関の構成比
(出所)金融情報システム平成16年冬号より抜粋
て検討すべき多くの事項が残されている。結
野村総合研究所 金融 IT イノベーション研究部
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