誰がための公務員改革 -人材育成を核とした改革への提案- - Nomura

NRI Public Management Review
誰がための公務員改革
-人材育成を核とした改革への提案-
株式会社 野村総合研究所
社会産業コンサルティング部
副主任コンサルタント
妹尾
昌俊
国家公務員)を大事にし、働く人の意欲を高
1.はじめに
めるということである。本稿では、この視点
公務員制度改革に対する政治の本気度が高
が昨今の改革論議には欠けており、なぜ必要
まってきた。平成 19 年には、能力・実績主
とされるのか、また、どのようにすればよい
義(新人事評価制度の構築等)と再就職に関
のかについて論じることとする。
する規制(官民人材交流センターの設置等)
を 2 本柱とする、国家公務員法等の一部を改
正する法律が成立した。平成 20 年 4 月には、
2.公務員「制度」改革論議の特徴
政府は今国会での成立を目指し、幹部公務員
の人事管理を省庁横断的に担う内閣人事庁の
1)3つの特徴
設置や、キャリア・システム(採用試験に基
これまで政府を中心に検討が進められてき
づき幹部候補を事実上固定化するシステム)
た改革論議には 3 つの特徴がある(図表1)。
の廃止などを盛り込んだ国家公務員制度改革
基本法案を閣議決定した。
1 つ目の特徴は、あくまでも公務員「制度」
改革であったという点である。望ましい制度
これまで公務員制度改革は何度も構想され
を構築することにこそ主眼が置かれ、制度の
たが、頓挫してきた。「戦後の公務員制度は、
運用や制度改革には馴染まない、愚直な取り
昭和 20 年代後半から改革に関する各種の答
組みについては過小評価する向きがあった。
申等が提出されるなど、様々な問題点を抱え
2 つ目の特徴は、天下りに対する世論の批
ながらも抜本的な改革がなされないまま半世
判や、省庁のセクショナリズムに対する政治
紀が過ぎた」とも言われている * 1 。しかし、
家からの批判が強く影響してきたという点で
仮に基本法案が成立すれば、平成 19 年から
ある。公務員が政治家、ひいては国民のため
の改革とあわせて、戦後の改革に次ぐ大改革
に働くべきであることは当然であり、公務員
となるであろう。現に基本法案の前身となる
改革が国民のため、政治家のためであること
報告書の原案を起草した堺屋太一氏は「この
は理解できるが、一方で、公務員のためにも
まま実行すれば(報告書の提案どおり法律が
なるという視点が欠けていると考える。
成立すれば)大改革だ」と述べている
*2
3 つ目の特徴は、退職管理(天下り)、採用
。
大改革であることは確かだが、それだけで
(キャリア・システム)、人事評価は広い意味
は不十分だと筆者は考えている。もっと別の
で処遇(給与や昇格・昇進)に関わる課題で
大切なことがあるのではないか。それは、何
ある。処遇管理や処遇に関する資源の配分が
も目新しいことではない。働く人(ここでは
重要であることは否定しないが、一方で、人
*1
*2
櫻井敏雄「公務員制度改革の経緯と今後の展望」(『立法と調査』2008 年 1 月)
産経新聞 2008 年 2 月 1 日。括弧内は引用者補足。なお、国家公務員制度改革基本法は基本方針を定め
るものであり、具体的な制度設計は別の法律等が必要とされる。
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材育成や働く人のモチベーションという視点
図表1
は弱かった。
これまでの公務員改革論議と筆者が考える公務員改革との比較
これまでの公務員改革論議で
重要視されてきた価値
筆者が提案する重要な価値
制度改革
制度運用や制度改革には馴染まない愚直な取り組みの改善
国民や政治家のための改革
公務員のためにもなる改革
処遇の管理・配分
人材育成、モチベーション
務員制度改革基本法案のみを見るのではなく、
2)具体的な内容
こうした 3 つの特徴が具体的にどのような
関連する動きとして、もう少し前から振り返
ると図表2のようになる。
形で表れてきたか見てみよう。直近の国家公
図表2
成立年
最近の公務員改革の動き
公務員改革大綱
(閣議決定)
国家公務員法等の
一部を改正する法律
国家公務員制度改革
基本法案
平成 13 年 12 月
平成 19 年 6 月
今国会で審議
基本理念
・真に国民本位の行政の実現を ・21 世紀にふさわしい行政シス ・国民全体の奉仕者である国家
図る
テムを支える公務員像を実現 公務員一人一人が、その能力
・公務員制度改革全体をパッケ を高めつつ、国民の立場に立
ージとして検討を進めつつ、 ち、責任を自覚し、誇りを持
実現できる改革から迅速に実 って職務を遂行する
現
採用
・採用試験制度の見直し(Ⅰ種 ・採用・任用等に関する基本方 ・キャリア・システムの廃止、
試験の試験内容の見直し等) 針を策定
総合職・一般職・専門職によ
・民間からの人材の確保
・その他は大きな言及なし
る試験の実施
・官民の人材交流の推進
・国際競争力の高い人材の確保
・国際競争力の高い人材の育成
育成
・人材育成を図る仕組みの整備 ・大きな言及なし
・本府省幹部候補職員を計画的
に育成する仕組みの導入
・職員の能力開発と自主性への
配慮(留学派遣の充実等)
・機動的・弾力的な組織・定員 ・大きな言及なし
管理
・国家戦略スタッフの創設
・超過勤務の縮減
・国会議員への政策の説明に関
し大臣を補佐する職(政務専
門官)を置き、それ以外の職
員の国会議員への接触に関
し、大臣の指示を必要とする
・国家戦略スタッフの創設(総
理を補佐する職)
能力発揮
・能力等級制度の導入
・能力・実績主義に基づく新評 ・内閣人事庁の創設、同庁によ
・能力評価と業績評価からなる 価制度の導入
る幹部職員の人事管理
新評価制度の導入
・分限事由の明確化
・人事評価の基準における職業
評価・処遇
倫理の導入
・初任給の引上げ、職員の能力
及び実績に応じた処遇の徹底
退職
・営利企業への再就職に係る承 ・再就職あっせんの規制及び官 ・定年まで勤務できる環境の整
認制度と行為規制
民人材交流センターの設置
備
・退職職員による働きかけに対
する規制
出所)各法律、閣議決定内容等をもとに整理
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能力が発揮されるよう促す仕組み(育成や評
3.なぜこのままではいけないのか
価以外)については、政治家への接触の制限
これまでの改革で検討されてきた課題と積
が関係するが、この規制は官の能力発揮とい
み残されてきた課題を整理したものが図表3
う視点というよりは、政が官にコントロール
である。人事マネジメントは採用という入口
されないようにするという視点が強い。能力
から、退職という出口まで対象とする。これ
が発揮された行動や成果を評価し、評価結果
までの改革論議で具体化されてきた施策は、
を処遇に反映することについては、新人事評
主にこの入口と出口が中心であり、真ん中が
価制度の制度構築や幹部公務員の一元的管理
脆弱である。育成については「幹部候補を計
を具体的に進めようとしているものの、公務
画的に育成」、
「 国際競争力のある人材の育成」
員の納得感が高い運用となるのかどうかなど、
といった抽象度の高い内容が多く、具体的な
今後の課題も多い。
人材育成施策には踏み込めていない。次に、
図表3
採
これまでの
改革
積み残し
課題
用
これまでの改革論議の対象と積み残し課題
育 成
能 力 発 揮
評 価・処 遇
退
職
zキャリア・システムの z留学派遣の充実
廃止
z民からを含む多様な人
材の登用
z官の政治家への接触の z能力・実績主義による z天下りの規制
規制
等級制度、評価制度の z退職職員による働きか
z内閣を補佐するスタッ
導入
けに対する規制
フの拡充
z幹部公務員の一元管理
z優秀な人材が集まる処 zOJT、Off-JTにおける
遇の充実
気づきの提供
z適材適所の配置
z残業の削減などのワー z納得感の高い評価・処 z50歳代の大先輩社員の
活用
ク・ライフ・バランス
遇の運用
z多様な人材の活用(ダ z評価の人材育成への活
イバーシティ)
用
いくら採用と退職を改革・改善しても、現
な公務員制度改革の必要性を掲げている。確
在いる公務員の活性化なくしては組織のパフ
かに採用から退職までの個々の項目は互いに
ォーマンスが上がらないことは、誰もが納得
影響しあう(例えば、評価と育成、処遇と採
することであろう。しかも、昨今の改革メニ
用など)。しかし、育成から評価・処遇までが
ューの多く(天下り規制、キャリア廃止、実
十分でない以上、現時点の個々の改革アイテ
績主義導入等)は、現職の公務員にとっては
ムでは、相互に相乗効果を発揮するトータル
手厳しい内容となり、運用次第ではモチベー
な人事改革となっているとは言い難い。
ションを低下させる危険性を持つ。ある識者
今、進もうとしている改革は、
「 制度改革」、
は昨今の公務員制度改革について「今どき雇
「 国 民 や 政 治 家 の た め の 改 革 」、「 処 遇 の 管
い人(公務員)にむち打って働かせる雇用主
理・配分」という 3 つの志向が強すぎる。そ
(国民)などはやらない。同じ給料を払うな
して、バブル崩壊後、1990 年後半に多くの日
ら、なるべく気持ちよく働いてもらうという
本企業がたどった道ともよく似ている。民の
のは、制度改革論議以前の人事管理の基本で
経験を振り返ると、名目上の理由が何であれ
ある」と述べている * 3 。
総人件費の削減、あるいは金銭やポストの限
また、政府はパッケージとしてのトータル
*3
られたパイの配分という目的から、成果主義
清家篤「公務員制度改革の焦点-プロ意識高める工夫を」日経新聞経済教室 2008 年 4 月 3 日。括弧内
は引用者補足。
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提案する。
的な人事制度が導入された。制度設計の中身
はよく検討されたものの、運用に苦しみ、チ
ームワークや中長期的な人材育成が軽視され、
社員のモチベーション低下や組織力の低下を
4.人材育成を核とした改革
招いた事例が多く見られた。これらの事例で
は制度が悪かったのではなく、「制度改革」、
公務員を大事にする改革、人材育成を核と
「経営者(または短期志向の株主)のための
する改革とは具体的に何なのか。図表3の積
改革」、「処遇の管理、配分」にウェイトを置
み残し課題に関した施策が対応するが、大き
き過ぎたことが失敗の原因であったと筆者は
く分けて 3 点ある。
考える。現に、人材と組織の活性化が進み、
業績の良い企業の多くでは、成果主義的な人
1)残業の削減とコア業務への時間投資
OJT(仕事を通じた育成)
・Off-JT(研修等
事制度の骨格(目標管理制度の導入や評価を
処遇へ反映させること)は変更しないままで、
の仕事を離れた育成)の充実をいくら唱えて
運用方法を工夫したり、人材育成を強化した
も、それが進まない原因の解消なくしては難
りしている事例が多く見られる(例えば、ト
しい。図表4の若手公務員の声に代表されて
ヨタ自動車㈱、アサヒビール㈱等)。
いるように、超過勤務が人材育成に大きなマ
公務員制度改革は抵抗勢力もあり、非常に
イナス要因となっている。玄田有史氏は『働
実現が難しい改革である。優先順位を付けて
く過剰』という本の中で「超過勤務の一番の
着手するのは当然であろう。しかし、今の優
弊害は人材育成がおろそかになることであ
先順位の付け方が正しいのであろうか。筆者
る」と述べているが、
「働く過剰」は公務員の
は、これまでの改革の振り子をやや戻し、人
世界にもよく当てはまることである。
材育成を公務員制度改善の核に据えることを
図表4
若手公務員の声
・定員の大幅な削減や業務量の増大により、雑務の処理に追われ、政策をじっくり考えたり勉強する
余裕がない。
・国会議員から要求された資料の作成等に関する作業が膨大である。また、国会議員の質問通告が遅
いため、深夜(早朝)に及ぶ超過勤務や休日出勤を行わざるを得ない。
・政治主導の名の下に、本来あるべき政策の立案・実施が歪められることがあるが、公務員バッシン
グもあって、それを改めることができず、空しく感じられる。自分の行っている仕事が国のために
なっているという実感を持てない。
・忙しすぎて 2、3 年先を見た政策の仕込みを行う時間的余裕がなく、また、現場の一次情報が不足し
ているため、調整型・思いつきの政策が多くなってきている。
・超過勤務があまりにも多いため、職員が心身に異常を来す等の問題が起きている。
出所)内閣官房行政改革推進事務局「各府省の若手職員等に対するヒアリングの結果」平成 13 年 2 月
非本来業務による残業を削減し、本来業務
は金銭や生活の安定という金銭的報酬ではな
(政策立案等)に時間を使うようになること
く、仕事へのやりがいや公共のためになるこ
は、人材育成という点のみではなく、採用や
と、スケールの大きな仕事ができることとい
能力発揮という側面からも重要である。公務
う、いわば「仕事報酬」のためである(図表
員になる人はなぜ公務員を選んだのか。それ
5)。こうした志のある優秀な人材を採用し、
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また、モチベーションを高めて能力の発揮を
めとする多様な人材が働きやすい職場をつく
促すためにも、残業削減は重要な課題である。
るという意味で、松下電器産業㈱や P&G、
人口減少社会が到来し、優秀な人材の獲得
GE などで取り組まれている。これを推進す
競争はすでに起こっている。国家公務員Ⅰ種
る背景には、優秀な人材の獲得という点も大
の人気が落ち始め、ロースクールや金融会社、
きいが、人材が偏れば、多様な消費者のニー
コンサルティング会社などへ人材が獲られて
ズや市場の変化を見逃しかねないという危機
いるということも言われている
*4
。公務なら
ではの仕事に集中できる職場づくりが採用上
も、リテンション(人材の流出防止)上も重
要である。
感がある。国民の目線になった公務という点
で、公務員の世界にも重要な示唆である。
残業の削減に対して、具体的な施策として
は、部下に資料を何もかも用意させず、必要
最近、ワーク・ライフ・バランスという言
な業務マネジメントを行うという管理職の資
葉を使う企業も増えてきた。さらに、これを
質向上と、民に任せられるものは民に任せる
進めてダイバーシティ経営という視点も注目
というアウトソーシングの推進が必要となる。
されている。ダイバーシティとは女性をはじ
図表5
公務員になろうとした理由
68.2%
68.9%
公共のために仕事ができる
29.9%
28.9%
24.1%
28.5%
専門知識が生かせる
性格・能力が適している
12.5%
12.6%
キャリア形成として有効である
72.3%
73.7%
仕事にやりがいがある
55.1%
52.3%
スケールの大きい仕事ができる
能力本位で実績が評価される
0.1%
0.8%
9.5%
9.8%
堅実で生活が安定している
国民から尊敬される
昇進等に将来性がある
給与等の勤務条件がよい
民間に比べて余裕が持てる
教授等に勧められた
家族や先輩・友人に勧められた
0.6%
0.5%
3.6%
3.0%
1.6%
1.4%
1.2%
0.8%
1.2%
2.0%
4.5%
4.7%
平成18年度
平成19年度
注)1種試験採用者 653 人(うち女性 141 人)へのアンケート結果
出所)人事院「I 種試験等からの新規採用職員に対するアンケート調査」(平成 19 年 4 月実施)
メリットもあるものの、本人の希望や適性が
2)適材適所の人材配置・異動
育成した人材を、その能力が発揮される適
あまり反映されていないとすれば、デメリッ
所に配置させる必要がある。数年間で定期的
トも大きい。ある民間企業の人事担当者は「人
にローテーションする公務員の世界では、そ
事異動(担当者が変わること)はリスク要因」
うした視点は弱い。ローテーション人事には
と述べていた。異動しないのも組織活性化等
*4
人事院 平成 18 年度年次報告書
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の点からリスクを伴うが、異動させるのにも
が 2 日間で能力・適性を自己分析し、将来の
相当のリスクを伴うことを再認識することが
キャリアプランを作成する「キャリア開発研
必要ではないだろうか。
修」を実施するとともに、キャリア計画を記
すでにいくつかの自治体では、人事異動に
載したキャリア調書により、所属で面談を行
本人の希望が相当反映される運用を行ってい
い、その結果を踏まえて人事異動に反映して
る。例えば、静岡県ではキャリア・ディベロ
いる。特に、専門分野を希望する職員は、能
ップメント・プログラム(CDP)が取り組ま
力・適性を判断した上で、優先的に希望分野
れている * 5 。CDPでは、主に 30 歳代の職員
に配属されるということである。
図表6
静岡県
キャリア・ディベロップメント・プログラム
出所)総務省ホームページ
に、最終的な結果などの処遇に関する情報を
3)人材育成の観点からの人事評価の活用
3 つ目の提案は、これまで処遇の管理・配
分に主眼が置かれてきた人事評価制度を、人
伝えるだけではなく、今後伸ばすべき点や改
善点などを伝えるということである。
材育成目的へ活用することである。民間の営
前者の事例としてトヨタ自動車㈱が特徴的
業職などとは異なり、公務員の仕事には①国
である * 6 。同社では管理職のうち、ラインを
民や社会に対する中長期的結果が重要、②チ
担当するマネジャー職の評価項目は課題創造
ームワークで取り組む業務が多い、③金銭的
力(20%)、課題遂行力(30%)、組織マネジ
処遇(賞与、月例給等)やポストで報いるに
メント力(20%)、人材活用力(20%)、人望
はパイに限界がある、という特徴がある。人
(10%)であり、人材育成に直結する項目(後
事評価を処遇への反映という狭い視点のみで
の 2 つ)が 30%も占めている。また、職場の
捉えると、短期志向、チームワークの軽視と
先輩・後輩間での教え教えられるという人材
いう民間企業で成果主義の失敗例と言われる
育成を重視しており、入社 4 年目までは担当
ことが起こる可能性もある。
の先輩がマンツーマンで指導にあたる(職場
人材育成目的の人事評価には 2 つの重要な
ポイントがある。1 つは、人材育成に貢献し
先輩制度)。職場先輩としての働きぶりは、人
事評価にも影響する。
た場合、高く評価するということである。も
このトヨタ自動車㈱の事例は、公務員改革
う 1 つには、評価結果のフィードバックの際
にとって 3 つの点で示唆的である。第1に、
*5
*6
総務省ホームページ参照
http://203.140.31.100/iken/pdf/070328_6_4.pdf及びhttp://www.soumu.go.jp/iken/pdf/080305_9_6.pdf
井上久男『トヨタ 愚直なる人づくり』2007 年
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評価ウェイトからわかるように、経営のメッ
セージとして人材育成を重視していることが
社員に伝わる。第 2 に、制度改革のみに注目
するのではなく、人材育成につながるように
制度をきっちりと運用すること、また、職場
先輩制度のように大きな制度改革ではなく、
地道で愚直な取り組みを実践していることで
ある。第3に、世界的に業績と人材育成が注
目されているトヨタ自動車㈱でさえ、職場で
の教え教えられるという人間関係が希薄化し
ているのではないかという危機感をもとに、
人材育成をさらに強化しようとしている点で
ある。
5.おわりに
公務員改革では「誰がための改革」という
点を、もう一度見直す必要がある。国民のた
めの改革を目指して行ってみたものの、肝心
の公務員のやる気がそがれてしまうようでは、
結果として国民のためにはならない。改革で
大切にしたいのは、①制度運用や制度改革に
は載らない愚直な取り組みの改善、②公務員
のためにもなる改革、③人材育成、モチベー
ションという、誰しも自分の身になってみれ
ばごく自然な取り組みである。
筆 者
妹尾 昌俊(せのお まさとし)
株式会社 野村総合研究所
社会産業コンサルティング部
副主任コンサルタント
専門は、公的組織の戦略立案支援、地方分
権、道州制、教育改革 など
E-mail: m-senoo@nri.co.jp
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