エンプティカン・エクササイズ: 棘上筋強化のための考察 - NSCAジャパン

C NSCA JAPAN
Volume 18, Number 8, pages 43-45
Flexibility and Rehab Tips
エンプティカン・エクササイズ:
棘上筋強化のための考察
The Empty Can Exercise: Considerations for Strengthening the Supraspinatus
Morey J. Kolber, PT, PhD, CSCS Kristina S. Beekhuizen, PT, PhD, CSCS
Department of Physical Therapy, Nova Southeastern University, Fort Lauderdale, Florida
要約
トレーニングプログラムに、ロー
とが判明した(2,11)。ただし、確かに
傷者にも適用可能なECエクササイズ
ECエクササイズは棘上筋の活性化に
の処方を勧める。
テーターカフの強化を目的として
効果を発揮するが、不適切なパフォー
設計された予防エクササイズが含
マンスは肩の傷害を引き起こす危険が
まれることは多い。エンプティカ
ある。
解剖学的およびバイオメカニクス
的考察
ンは、一般に利用されているロー
効果的かつ安全なテクニックを用い
棘上筋(図1)は、肩甲骨の棘上窩か
テーターカフ・エクササイズの一
てECエクササイズを行なうには、現
ら起始し、肩峰の下を通って上腕骨を
つであり、棘上筋を強化すると言
段階で科学的な裏づけを得ている、解
外周し、上腕骨大結節で停止する
(10)
。
われている。本稿では、エンプティ
剖学的およびバイオメカニクス的要素
解剖学的に見ると、棘上筋は混合的筋
カン・エクササイズに固有の効果
を考慮する必要がある。本稿では、科
線維組成を有し、およそ54±6%がタ
に関して考察を行なう。
学的証拠に基づいて、受傷者にも非受
イプⅠ線維のミオシン重鎖複合体であ
序論
67 %もの人が、生涯に一度は肩の
故障を経験する
(7)
。ローテーターカ
フ(RTC)
は、棘上筋、棘下筋、小円筋、
肩甲下筋からなり、文献で取り上げら
れている肩の故障のかなりの割合を占
める(8,9,14)
。多くの研究者は、RTC
を構成する筋群の中でも、特に棘上筋
の活性化のカギを握るエクササイズ
を見極めようとして力を注いできた
(2,4,5,11-13)
。その結果、一般に処方
される他のエクササイズと比べて、エ
ンプティカン
(以下EC)エクササイズ
が棘上筋の活性化に特に有効であるこ
図1 肩の構造
(A)後面から見た棘上筋組織
(矢印)
Copyright Primal Pictures Ltd.www.primalpictures.com
(B)正面から見た棘上筋
(★)
と肩峰
(*)
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る(6)
。したがって、持久力と筋力の
なわれる。特定のトレーニング頻度を
を内旋させて棘上筋の緊張を高め、活
どちらを必要とするかによって、ト
裏付ける研究は存在しないが、目標と
性を最大化させることが必要である。
レーニングの比重は変わりうる。棘上
する効果を得るには、トレーニング中
肩甲面に沿って腕を挙上すると、上
筋の主要な機能は、
(a)肩関節を安定
のタイミングを選ばず、1週間に最大
腕骨頭は約60°外旋して、上腕骨大結
させること、
(b)腕挙上中の肩関節に
2 ~ 3セッション行なわれることが多
節と肩峰の間におけるローテーター
おけるインピンジメントを防ぐこと、
い。ECエクササイズは次の要領で行
カフのインピンジメントを防止する
(c)独立して、固有の肩関節の動作を
なわれる。空き缶を持つしぐさを真似
(10)。ECエクササイズ中に要求され
行なうことである
(10)
。棘上筋は、腕
て、親指が床を指す位置まで腕を内旋
る腕の内旋は、棘上筋の活性を向上さ
を挙上するなどの単純な動作中や、競
させる
(図2)
。腕を内旋させたら、肩
せる手段となる。しかしながら、それ
技者に求められるような複雑な肩の動
甲面
(腕を側方へ挙上する場合と、前
は同時に、インピンジメントを起こさ
作中に圧迫を受けることによって、肩
方へ挙上する場合との中間)で、脇か
ずに腕を挙上するために必要な外旋
関節の安定をもたらす。また肩関節の
ら約60 °まで腕を挙上する(図2)
。次
を妨げるものでもある。ECエクササ
圧迫以外に、三角筋と協働して腕を挙
に腕を下降させ、これを繰り返してエ
イズ中に腕を60°以上に挙上すること
上する働きも担う。棘上筋が弱い場合
クササイズを行なう。棘上筋は混合的
は、肩インピンジメントを招きかねな
は、腕を挙上する際に、肩関節の痛み
筋線維組成であるため(6)、適切な負
い(3,10)。このリスクを回避するには、
や肩関節の脆弱性が認められる。棘上
荷を決定するには、エクササイズの目
適切なフォームを厳守すること、特に
筋の筋力向上に最も有効なエクササイ
的が筋力向上にあるのか、筋肥大にあ
60°以上の腕の挙上を避けることであ
ズに関しては統一見解が存在しない。
るのか、筋持久力の向上にあるのかを
る。適切なテクニックを用いて行なえ
しかし、ECエクササイズ
(図2)
によっ
考慮すべきである。また、リハビリテー
ば、ECエクササイズは受傷者におい
て、棘上筋の活性が最大化することを
ションとして行なうにせよ、傷害予防
ても非受傷者においても、棘上筋の筋
示す有力なデータがある
(2,11)
。
として行なうにせよ、苦痛を感じずに
力と持久力の向上、および筋肥大に役
目標レップ数を達成することが可能な
立つであろう。ECエクササイズは肩
ECエクササイズのテクニック
負荷を処方するべきである。持久力の
の障害に処方されることがあるが、過
ECエクササイズは、ダンベルやエ
向上が求められている場合は、トレー
去に肩インピンジメントと診断されて
ラスティックバンドなどの負荷を加え
ニング量12 ~ 20レップ×2 ~ 3セッ
いる場合は、ECエクササイズに類似
る手段を用いて、座位または立位で行
トを最大挙上重量(1RM)の67 %以下
した動作を行うと、症状を悪化させる
の負荷で処方する(1)。一般に、筋力
傾向がある。つまり、エクササイズに
向上と筋肥大の2つの目標をともに達
よる効果よりもインピンジメントのリ
成するためには、6 ~ 12レップ×3セッ
スクのほうが大きいと考えられる。
ト を67 ~ 85 % 1RMで 行 な い、 セ ッ
ト 間 の 休 息 を60 ~ 90秒 と す る
(1)
。
結論
リハビリテーションの一環として行な
ECエクササイズは、棘上筋の活性
われる場合など、1RMが測定できな
化に対して効果的なエクササイズであ
いときは、高レップ数での結果を予
ることが判明している(2,11,13)
。ただ
測方程式にあてはめることによって、
し、棘上筋の活性を最大化させること
推定1RMが得られるであろう。最大
が知られてはいるが、その実施にはリ
反復回数の重量から1RMを推定する
スクが伴う。ECエクササイズで60°以
詳 細 に 関 し て は、Baechleら に よ る
上に腕を挙上すると、肩関節のインピ
『Essentials of Strength Training and
ンジメントが起きやすい。リハビリ
Conditioning』
(1)を参照されたい。
テーションの専門家やストレングス&
コンディショニング専門職は、ECエ
図2 ECエクササイズ:親指が床を指す
ように腕を内旋させ、脇に対して腕を
60°まで挙上する。
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不適切なフォーム
クササイズを処方するにあたって、適
適切なテクニックによってECエク
切なフォームを心得ていなければなら
ササイズを実施するためには、肩関節
ない。腕を60°以上に挙上しないよう
October 2011 Volume 18 Number 8
フでインピンジメントが発生するリス
クを軽減できるであろう。最後に、肩
インピンジメント症候群の診断を過去
に受けている場合は、ECエクササイ
ズを避けて、代替エクササイズを行な
うことが望ましい。◆
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From Strength and Conditioning Journal
Volume 31, Number 2, pages 38-40
著者紹介
Morey J. Kolber:Nova Southeastern
Universityの理学療法学部の助教。
Kristina S. Beekhuizen:Nova Southeastern
Universityの理学療法学部の助教。
NSCAジャパン主催セミナー
日程
講習会名
時間、定員
開催地
内 容
南関東地域ディレクターセミナー
10/16
(日)
レベルアッププログラム・レベルⅡ講習
クイックリフト動作の特徴
10:00 ~ 17:00 ウ イ ダ ー ト レ ー ニ ン 基本技術の深化~肩甲骨と骨盤のコントロール
グラボ(東京都港区芝浦
とグリップの習得
定員25名
1-13-16)
【レベルⅡポイント:0.6】
南関東地域ディレクターセミナー
筋膜の性質とセルフ筋膜リリース
11/3
チェーンリアクションバイオメカニクス入門
テ
ィ
ッ
プ
ネ
ス
三
軒
茶
(木・祝) 10:00 ~ 16:00 屋店(東京都世田谷太子
定員30名
※ADI/JAFA AQUA更新単位 2.5単位
堂2-15-5)
11/6
(日)
受講料
東海地域ディレクターセミナー
ランニングフォームの修正方法
12:30 ~ 17:45 サン・ワークアウト(名 ランニング障害の見分け方
古屋市西区城西4-32-5)
定員50名
講 師
CEU
平山邦明
CSCS, NSCA-CPT,
認定検定員
桜井秀和
CSCS, NSCA-CPT,
認定検定員
0.6
(A)
谷 佳織
Gray Institute-FAFS,
ACSM-HFS
トラビス・ジョンソン
0.5
(A)
Ph.D. Gray Institute-FAFS
牧野 仁
ジョギングインストラク
ターマスター , JATI-AATI,
NESTA-PDA
0.5
(A)
【10/16】 NSCA会員:6,300円 一般:7,500円
【11/3・11/6】NSCA会員:5,250円 一般:6,300円
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◆69ページにも掲載。レベルアッププログラムについては、68ページ、ウェブサイトをご参照ください。セミナーは定員に達している場合がございます。
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Information
に厳しく指導すれば、ローテーターカ