©NSCA JAPAN Volume 15, Number 1, pages 32-34 Special Populations 連載 17 運動、身体活動と、脂質代謝異常症 Exercise, Physical Activity, and Dyslipidemia Paul Sorace, MS, ACSM RCEP, CSCS Private Lifestyle Management, LLC, Florham Park, New Jersey 要約 脂質代謝異常症は、冠動脈疾患の発 症と進行に直接関与している。身体 活動と運動の増加、および(必要な 場合には)体重と脂肪の低減をもた らす生活習慣の改善は、脂質代謝異 常症や食後高脂血症などの脂質異常 の改善に大きな影響を及ぼし、結果 として冠動脈疾患の発症率を低下さ せる。 コレステロールは柔らかく、脂肪性 動脈硬化症の発症、または予防という 重)リポタンパク(High density lipopro- 全く異なる役割を果たしている。主要 tein :HDL)の減少である。脂質代謝 なリポタンパクの定義を表1に示した。 異常症の原因には、リポタンパク質粒 子、アポリポタンパク質、および酵素 脂質代謝異常症 欠乏症などの問題がある。米国心臓協 脂質代謝異常症は、3つの脂質異常 会(American Heart Association)の報告 を特徴としている。すなわち、中性脂 によると、総コレステロール値が高境 肪(トリグリセリド)の増加、低密度(比 界値か、それより高い米国人は、約1 重)リポタンパク(Low density lipopro- 億7百万人に及んでいる(3) 。表2は、 teins :LDL)の増加、そして高密度(比 コレステロールとリポタンパクの正常 表1 コレステロール/リポタンパクの種類 で、ワックス状の物質であり、全身に 存在する。コレステロールには重要な 働きがあり、ある種のホルモン、胆汁 中性脂肪(TG :トリグリセリド):食事や体内に含まれる大部分の脂肪の型。中性脂肪は血中にも 酸、細胞膜などの原料となる。我々が 存在し、コレステロールと結合して主要な血漿脂質を構成する。 摂取する多くの食物に含まれており、体 内でも主に肝臓で産生される。コレス テロールなどの脂質(脂肪)は、血液に 溶け込むことができない。従って、コ レステロールは、リポタンパクによっ て血液中を運搬される。リポタンパク は、その種類によって、アテローム性 32 総コレステロール:血清中のコレステロールの総量 低密度リポタンパク(LDL):体内のコレステロールの主要な輸送体。LDL は、動脈内でのプラーク 形成の原因となるため、一般に悪玉コレステロールとして知られている。LDL には異なる 7 種類の大き さがある。より小さく、より高密度の LDL が、アテローム生成が高い。 高密度リポタンパク(HDL):タンパク質の占める割合が高く、中性脂肪(トリグリセリド)とコレ ステロールが少ない。HDL は、コレステロールの回収に関与し、心疾患と脳卒中を防ぐと考えられてい る。HDL は、動脈内でのコレステロールの沈着防止に役立つため、一般に善玉コレステロールとして知 られている。HDL には、HDL2 と HDL3 の異なる亜分画が存在する。HDL2 は、心疾患を予防する と思われる亜分画である。 January/February 2008•Strength & Conditioning 表 2 全米コレステロール 教育プログラム(NCEP) 成人治療委員会(ATP-Ⅲ)に 基づいたコレステロールのガイドライン 表3 脂質代謝異常症の病因 ・遺伝 ・加齢 総コレステロール ・男性(同年齢の男性と比べて、閉経前の女性は一般に総コレステロール値が低い) 適正値 高境界値 高値 ・過体重または肥満(特に腹部の肥満) < 200mg / dl 200 ∼ 239mg / dl ≧ 240mg / dl ・喫煙 ・大量のアルコール摂取 LDL コレステロール 適正値 準適正値 高境界値 高値 非常に高値 < 100mg / dl 100 ∼ 129mg / dl 130 ∼ 159mg / dl 160 ∼ 189mg / dl ≧ 190mg / dl ・飽和脂肪、トランス脂肪酸、およびコレステロールが多く、食物繊維の少ない食事 ・運動不足 ・特定の薬物投与(β遮断薬、シアジド系利尿剤など) ・アナボリックステロイド ・糖尿病 HDL コレステロール 高値 低値 ≧ 60mg / dl < 40mg / dl を摂取した後に起こる。PPLは特に、血 中性脂肪 正常値 境界値 高値 非常に高値 ・甲状腺機能障害 < 150mg / dl 150 ∼ 199mg / dl 200 ∼ 499mg / dl ≧ 500mg / dl 重/脂肪の減少(運動の有無にかかわら 清中性脂肪(serum triglycerides : ず)が必要であることが示唆されている TGs)の放出の遅延と定義され、高脂肪 (2,4) 。しかし、長期にわたる有酸素性運 食を摂取した後の TG 曲線の下部面積 動はLDL 亜分画を変化させ、粒子の小 が増加することで具体的に示される。 さなLDLs を、より粒子が大きくアテロ PPL は、個人のTG 代謝能力を総合的 ーム生成が低いLDLsに変換させる (2,9) 。 値と異常値を示している。脂質代謝異 に反映しており、PPL の亢進または遷 LDL コレステロール値が低減されなく 常症は、心臓血管系疾患の重大な危険 延は、心疾患発症の重大な危険因子で ても、このような効果が心臓発作と脳 因子である。脂質代謝異常症は、動脈 ある(8) 。 卒中の危険性を軽減するであろう。 運動と脂質代謝 運動と身体活動のガイドライン 壁に線維性プラークを形成する原因と なり(2) 、さらに、近年定義されたメタ ボリック症候群の特徴でもある(6) 。メ TGs の低減とHDLs の増加は、運動 リポタンパクに有益な効果をもたら タボリック症候群とは、冠状動脈性心 が脂質代謝に及ぼす最も一貫した効果 すためには、強度よりも総活動量の方 疾患の一連の危険因子のことであり、 である。TGs は、脂質酵素であるリポ が重要なようである(4,9) 。長時間の高 インスリン抵抗性(耐糖能異常) 、アテ タンパクリパーゼによって超低密度リ 強度有酸素性運動を (体力不足や多忙な ローム(粥腫)性脂質代謝異常(高トリ ポタンパクから放出された後、骨格筋 スケジュールなどが理由で) 行わない人、 グリセリドと低HDL コレステロール) 、 でエネルギーとして使用される。この または行えない人にとって、この点は 高血圧、腹部肥満、炎症誘発状態、血 ようなプロセスは、血清TGs を低減す 特に重要な意味を持つ。しかしながら、 栓誘発状態などが含まれる。そして、脂 ると同時に、肝臓におけるHDL の生産 血中脂質、特にTGs とHDLs に変化を 質代謝異常症の病因は多数存在してい 増加、血液中におけるHDL 3からHDL 引き起こすには、身体活動によって、毎 る(表3) 。 2への変換を促進する(2) 。 日相当な量のエネルギー(週に1,200 ∼ これに比べ、運動による総コレステ 2,200kcal) を消費する必要がある (2,5,4) 。 ロールとLDL コレステロールの減少は、 運動と血中脂質との量‐反応関係は、 食後高脂血症(Postprandial lipemia: 常に起こるわけではない。先行研究に アテローム性脂質代謝異常症を実質的 PPL)は、一過性の高脂血症(血中の脂 よれば、総コレステロール値とLDL コ に改善するには、相当な量の身体活動 質過剰)であり、大量に脂肪を含む食物 レステロール値の有意な低下には、体 (週に24 ∼32km 以上の早歩きかジョギ 食後高脂血症 January/February 2008•Strength & Conditioning 33 表4 血中脂質を改善するための有酸素性運動と身体活動のガイドライン 頻度 強度 4 ∼ 7 回/週 50 ∼ 85 % VO 2 max ・ 時間 週の最低カロリー消費量 30 ∼ 60 分 1,200 ∼ 2,200kcal 以上 活動は1度に行っても、あるいは1日を通して断続的に行ってもよい。ここに示したガイドラインは、個人の状況(体力不足、合併症など)に応じて修正が必要である。 ング)が必要であることを示唆している (4) 。 持久力トレーニングを行っている者 のPPL 値は低い(7) 。しかし、このよ うな望ましい傾向は、ディトレーニン グで直ちに逆転する。運動によるTG 低 下作用は、長期的なトレーニングに対 する適応というよりも、主に、最近の 運動に対する急性代謝反応の結果と思 われる(7) 。従って、習慣的に身体活動 を行うことが、連続的か断続的かに関 わらず、PPL を低下させる(1) 。重要な ことは、身体活動が習慣的(中程度の強 度で30 ∼60 分、できれば毎日か、週 5∼6日)でなければならないというこ とである。 血中脂質を改善するためにデザイン されたコンディショニングプログラム では、有酸素性運動を重視すべきであ る。最近の論文は、レジスタンストレ ーニングもPPL を有効に改善する可能 性があることを示唆している。しかし、 データがまだ不十分であり、具体的な 推奨例を提示することはできない(10) 。 レジスタンストレーニングはむしろ、従 来の効果(筋力、筋持久力の向上など) を目的に、総合的なエクササイズプロ References 1. Altena, T.S., J.L. Michaelson, S.D. Ball, and T.R. Thomas. Single sessions of intermittent and continuous exercise and postprandial lipemia. Med. Sci. Sports Exerc. 36: (8) 1364-1371. 2004. 2. American College of Sports Medicine. In: ACSM's Resource Manual for Guidelines for Exercise Testing and Prescription (3rd ed.). J.L. Roitman, M. Kelsey, T.P. LaFontaine, D.R. Southward, and M.A. York, eds. Baltimore: Williams & Wilkins. 1998. pp. 294-301. 3. American Heart Association. Heart Disease and Stroke Statistics-2005 Update. Available at: www.americanheart.org/presenter.jhtml?identifie r=1928. Accessed December 24, 2005. 4. Durstine, J.L., P.W. Grandjean, C.A. Cox, and P.D. Thompson. Lipids, lipoproteins, and exercise. J. Cardiopulm. Rehabil. 22: (6) 385398. 2002. 5. Durstine, J.L., and G.E. Moore. ACSM's Exercise Management for Persons With Chronic Diseases and Disabilities (2nd ed). Champaign, IL: Human Kinetics. pp. 142-148. 2003. 6. Es, S. Executive summary of the third report of the National Cholesterol Education Program Expert Panel on Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Cholesterol in Adults (Adult Treatment Panel III). JAMA. 285: (19) 2486-2497. 2001. 7. Gill, J.M., and A.E. Hardman. Exercise and postprandial lipid metabolism: An update on potential mechanisms and interactions with highcarbohydrate diets (review). J Nutr. Biochem. 14: (3) 122-132. 2003. 8. Hyson, D., J.C. Rutledge, and L. Berglund. Postprandial lipemia and cardiovascular disease. Curr. Atheroscler. Rep. 5: (6) 437-444. 2003. 9. Kraus, W.E., J.A. Houmard, B.D. Duscha, K.J. Knetzger, M.B. Wharton, J.S. McCartney, C.W. Bales, S. Henes, G.P. Samsa, J.D. Otvos, K.R. Kulkarni, and C.A. Slentz. Effects of the amount and identity of exercise on plasma lipoproteins. N. Engl. J. Med. 347: (19) 1483-1492. 2002. 10. Petitt, D.S., S.A. Arngrimsson, and K.J. Cureton. Effect of resistance exercise on postprandial lipemia. J. Appl. Physiol. 94: (2) 694-700. 2003. 著者紹介 Paul Sorace : Private Lifestyle Management, LLC の上級運動生理学者。 information 地域ディレクター募集 日本の各地域におけるNSCA ジャパン会員を 対象とした勉強会や講習会などを企画、開催し、 各地域における会員の活動を支援する役割を担う 地域ディレクター(AD)とアシスタント地域デ ィレクター(AAD)を募集しています。AD 募 集地域は、北海道、沖縄地域です。また、アシス タントAD は全地域で募集しています。 ●応募条件 ・NSCA ジャパン会員で、NSCA-CPT またはCSCS を3 年以上有する人 ・ NSCA ジャパンの S&C の普及や、会員同士のネ ットワークを広めることに興味を持つ、積極的な人 ●応募方法:以下の書類をNSCA ジャパン事務 局までご郵送ください ・履歴書 ・ AD 活動に向けての抱負(800 字以内) 2007 年12 月現在のAD とアシスタントAD(敬称略) 東北地域 関東地域 北信越地域 東海地域 関西地域 中四国地域 グラムに取り入れるべきであろう。同 じことが柔軟性エクササイズにも当て 九州地域 はまる。表4に、血中脂質の改善を目 的とした、有酸素性運動と身体活動の ガイドラインを示した。◆ 34 From Strength and Conditioning Journal Volume 28, Number 4, pages 57-59 January/February 2008•Strength & Conditioning AD :金崎泰英, CSCS AAD :渡部真吉, NSCA-CPT :川岡臣昭, CSCS AD :齋藤登, NSCA-CPT AD :岩井雄史, CSCS;NSCA-CPT AD :花木祐真, CSCS AAD :高橋順彦, NSCA-CPT AD :森井秀樹, CSCS;NSCA-CPT AD :米沢和洋, CSCS,*D;NSCACPT,*D AD :合原勝之, CSCS;NSCA-CPT AAD :河野儀久, CSCS;NSCA-CPT NSCA ジャパン 事務局 http://www.nsca-japan.com
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