動脈管開存症 (PDA:Patent Ductus Arteriosus - 社会保険中京病院

動脈管開存症
(PDA:Patent Ductus Arteriosus)
胎児期は開いていて、通常生後数時間から 1 週間程度で閉鎖する動脈管(肺動脈と下行大動脈の
間にある血管)がそのまま開いている病気です。先天性心疾患中 3.6-12.6%に見られます。
その開存の太さにより重症・中等症・軽症に分かれます。重症は心不全症状や肺高血圧症を合併し
ますので、手術(結紮(糸でしばる)あるいは切断)を行います。手術時期は人工心肺を使わない手術
ですので、いつでも可能(未熟児でも)です。遅すぎると肺高血圧の固定化:アイゼンメンジャー症候群
になる可能性があるので注意が必要です。中等症・軽症では無症状で合併症も少ないため、新生児・
乳児期での治療は不要ですが、細菌性心内膜炎の危険がありますので 2-3 歳以上で治療をします。
従来の治療は開胸手術しかありませんでしたが、コイル塞栓術というカテーテル治療ができるようにな
りました。小児循環器科では狭窄径 2.5mm 以下のものに行っています。成人になると、動脈管壁が石
灰化し開胸手術もコイル塞栓術も困難性が増すため、小児期に治療を受けることが勧められます。
大動脈縮窄症
(CoA:Coarctation of the Aorta)
大動脈弓の遠位部に限局性の狭窄が生じる病気です。合併する心室中隔欠損など他の心内奇形の
ため、多くは新生児期から 1 年以内に心不全をおこします。また下半身への血液の流れが悪くなり、腎
不全や肝不全をきたします。
他に重い心奇形を合併しない大動脈縮窄は比較的予後がよく、心不全をおこした場合でも薬物治療
によく反応しますが、手術をしなかった場合 10 歳まで生きられるのは、統計上 50%程度となります。
心不全や肺高血圧を伴う心室中隔欠損などの他の心奇形を合併した大動脈縮窄では、薬物治療だ
けでは 70%以上が死亡するため、通常、診断を確定した後に手術を行います。
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大動脈弓離断症
(IAA:Interruption of Aortic Arch)
大動脈弓離断症では全身に血流を送る大動脈の弓部とよばれる部分が一部欠損し、心臓からの大
動脈弓部の血流が途中で途絶え、動脈管開存症を合併し動脈管から途絶えた先の血流を供給してい
ます。しばしば他の心奇形を合併します。大動脈弓部が欠損する部位によって大きく A 型、B 型、C 型
に分類されています。体の上部には心臓から酸素化された血液が流れますが、下肢には肺動脈から
の酸素化されていない血液が流れるため下肢にチアノーゼがみられます。動脈管が閉じてきた場合、
循環不全を生じ様々な症状を呈するため直ちに処置が必要となります。根治するためには手術が必要
で他の心奇形がない場合には大動脈の再建を行います。他の心奇形を合併する場合には一回または
二回にわけて手術を行います。
心房中隔欠損症
(ASD:Atrial Septal Defect)
心臓は左右の心房と心室という様に計 4 つの部屋に区切られていますが、この左右の心房を隔てて
いる壁(中隔)に“穴”が開いている病気です。多くの場合は幼少期には心不全などに至ることもなく、
無症状で気づかれないままでいます。従って、小学校入学時の心臓検診などで初めて見つかることも
多く、また、成人してから見つかる場合もあります。穴の大きさが小さなものでは特に治療の必要もなく
経過観察のみで良いです。大きなものは放置しておくと心不全、不整脈、肺高血圧などの合併症を発
症する可能性があります。治療法は従来、開胸手術によるものが主体で、最近では手術創を小さく、目
立ちにくくすることに努めています。
平成 18 年 4 月からはカテーテル治療(ASO; Amplatzer Septal Occluder)が日本でも認められ、社会保
険中京病院はこの治療を行うことができる認定施設です。この新しい治療法の導入により適応の幅が
拡がっていく可能性があるので、安全性を充分に加味しながら対応していきます。
心室中隔欠損症
(VSD:Ventricular Septal Defect)
生まれつき、心室中隔(左心室と右心室の間の壁)に穴が開いた状態を言います。左心室の方が右
心室よりも圧が高い通常の状態であれば、左心室から右心室への血流が出来ます。先天性心疾患の
中で最も多い疾患で、全先天性心疾患の約 60%を占めると言われています。
小さなものであれば、無症状で一生を過ごすものや、成長の過程で自然に閉鎖するものもあります。
感染性心内膜炎を起こすことがあり、予防、早期治療が大切です。
穴の大きさが大きなものや心室間の血流の量が多いもの、右心室や肺動脈の圧が高いもの、大動
脈弁がはまり込んでいるもの、他の疾患を併発した場合など、将来的に心不全の状態が予想された時
に手術を必要とする場合があります。手術後、肺高血圧が遺残しない限り、良いと言われています。手
術は多くはパッチで欠損孔を閉じます。
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房室中隔欠損症
(AVSD:Atrio-Ventricular Septal Defect)
房室中隔欠損症はこれまで心内膜床欠損症ともよばれていた病気ですが最近では房室中隔欠損症
と呼ばれるのが一般的です。心房中隔欠損、心室中隔欠損、房室弁の形成異常を伴っています。完全
型、不完全型に分けられ心室中隔欠損を伴わないものを不完全型房室中隔欠損症といいます。
完全型では乳児期から体重増加不良、多呼吸といった症状がみられ早期に処置を必要とします。乳
児期に根治術を行う場合と、まず肺動脈絞扼術という比較的侵襲の少ない手術を行い、体重がある程
度増えてから根治術を行う場合があります。
不完全型では心房中隔欠損症に似たような経過をしばしばとります。
根治術は両型とも欠損孔をパッチで閉じます。
ファロー四徴症
(TOF:Tetralogy of Fallot)
ファロー四徴症は先天性心疾患の中でも比較的頻度の高い疾患で、そのうち約 10%に染色体異常
を合併することがあります。四徴とは①心室中隔欠損、②大動脈の心室中隔への騎乗、③右室流出
路の狭窄または閉鎖、④右室肥大、の 4 つの所見を指していいます。代表的な症状はチアノーゼです。
そのうち約 30%に特有なチアノーゼ発作を起こし、高度の発作では意識消失や痙攣を起こすことがあ
ります。治療としては肺動脈への血流の程度で異なってきます。肺動脈狭窄の場合、チアノーゼ発作
の予防のため薬物治療を行います。薬物治療で治まらない場合と肺動脈閉鎖の場合は肺動脈への短
絡手術が必要となります。短絡手術の目的として、チアノーゼ発作を止める目的、チアノーゼを軽減し
て合併症を予防する目的、肺動脈の発達を促す目的などで行われます。心内修復術は早ければ 1 歳
前後で行うこともあります。経過により手術時期は変わってきます。
両大血管右室起始症
(DORV:Double outler right Ventricle)
大血管(大動脈と肺動脈)の大部分が解剖学的右室より起始している心疾患で、先天性心疾患の
1%程にみられます。この疾患は、心室中隔欠損の位置や大血管の状態でさらに細かく分類されます。
肺への血流が適度に保たれていない場合は、乳児期に一時的な手術が必要となります。肺へ血流
が多い肺血流増加群では肺動脈絞扼術を行い肺を保護し、逆に少ない場合は体肺動脈短絡手術を
行い肺血管を育てる手術をおこないます。大動脈奇形(大動脈縮窄症、大動脈弓離断症)が合併すれ
ばこの時同時に修復します。
最終的な手術は、病態により複雑に分かれます。
1.心室の一つが低形成あるいは二つの心室として残せない場合
・・・単心室症に準じてフォンタン型手術を目指します。
2.上記以外は二心室での修復(biventricular repair)を目指します。
a)心室中隔を通して両心室の血流を分けられる場合
・・・パッチで左心室の血流を大動脈へ導くように修復します。
b)パッチを当てることで問題があったり、心室中隔の位置によりパッチを当てられなかったり、大血
管
の状態などで、ラステリー手術(右心室と肺動脈を人工血管などでつなぐ)、ジャテーン手
術(大動脈と肺動脈を入れ換える)、セニング手術(心房内で血流を入れ換える)を行うことがありま
す。
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完全大血管転位症
(TGA:Transposition of the Great Arteries)
正常の心臓では左心室から大動脈が、右心室から肺動脈が出ています。しかしこの病気では心臓の
右室から大動脈が、左室から肺動脈が出ており、本来の大血管の位置とは逆になっています。わが国
の先天性心疾患全体の8%を占めており、生まれた直後からチアノーゼという酸素不足の状態を生じ
ます。心室中隔欠損と肺動脈狭窄の合併の有無により 3~4 型に分類されますが、その中でも治療を
行わなかった場合最も予後の悪いⅠ型では、生まれて 1 ヶ月で酸素不足のため 80%が亡くなります。
この病気では診断がつき次第、手術が必要で、現在ではジャテーン手術という大血管をつけかえる
手術やラステリー手術が型によって行われています。
修正大血管転位症
(c-TGA:Corrected Transposition of the Great Arteries)
比較的稀な心奇形で、発生頻度は、先天性心疾患の 1%足らずです。右房が左室-肺動脈へとつな
がり、左房が右室-大動脈へつながる奇形です。つまり、心室構造が入れ替わっているので、静脈血
は、右房→左室→肺動脈の経路をとり、動脈血は、左房→右室→大動脈へと流れます。その結果、静
脈血は、正常と同様に肺循環系に入り、動脈血は、正常と同様に体循環系に流れるため、形態的に異
常があっても、機能面では異常は修正されているという観点から、修正大血管転換と呼ばれます。
特徴は、80%以上に、何らかの心奇形、例えば、心室中隔欠損、肺動脈狭窄または閉鎖、三尖弁閉
鎖不全や、各種の不整脈などを合併し、多彩な病像を呈します。しかし、単純に右室と左室が入れ替
わっているだけの場合は、特に治療を必要としないこともあります。従って、治療方針は、合併心奇形
の重症度によって様々です。
また、本症の 16%に内臓逆位(胃や腸などの位置が正常と逆)がみられます。
部分肺静脈還流異常症
(PAPVC:Partial Anomalous Pulmonary Venous Connection)
本来、肺から左心房に還流する 4 本の肺静脈のうち1~3本が左心房に還流せず、上大静脈や右心
房に還流する病気を部分肺静脈還流異常症といいます。心房中隔欠損症をしばしば合併します。血液
の左右短絡量がすくない場合は必ずしも手術を行う必要はありませんが、他の心疾患を合併していた
り、何か症状がある場合、左右短絡量が多い場合には手術を考慮します。
手術は、肺静脈がどこに還流しているかで異なりますが、パッチなどで本来の左房
に還るようにつなぎ治します。
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総肺静脈還流異常症
(TAPVC:Total Anomalous Pulmonary Venous Connection)
本来、肺静脈は左房に還流しますが、全ての肺静脈が左房と交通を失い、直接右房または体静脈と
交通を有する状態を言います。様々なタイプがありますが、その 1/3 は複雑心奇形を伴います。先天
性心疾患の 0.3~2%の頻度と言われています。
手術をしなければ、肺静脈閉塞を伴わない場合で、生後 1 ヶ月頃には多呼吸、哺乳力低下、体重増
加不良を認め、1 歳まで生存できる確率は 20%と言われています。逆に 20 歳以上で発見される例もま
れに存在します。
手術の成績は近年著しく向上し、早期死亡率は 0~15%、術後 10 年目の生存率も 90%と言われていま
す。術後残遺症として、不整脈と肺静脈閉塞が重要で、手術後 80%に何らかの不整脈を認めるという
報告があります。肺静脈閉塞は手術後 2~3 ヶ月で発症することが多く、手術をしたり、カテーテル治療
が試みられますが、いずれにおいても再狭窄の頻度が高いと言われています。
手術は、肺静脈がどこに還流しているかで異なりますが、本来の左房に還るようにつなぎ治します。
三尖弁閉鎖症
(TA:Tricuspid Atresia)
三尖弁閉鎖とは、右心房と右心室の間にある三尖弁が閉鎖し交通が遮断された心奇形です。体静
脈血は心房間の交通孔を経由して右房から左房に流れ、肺への血流は心室中隔欠損あるいは動脈
管から保たれます。心臓の形態から大きく 3 つに分類され、その型により治療法が異なってきます。症
状も形態により変化し①肺血流が・ク少する場合は、チアノーゼ・低酸素発作を生じ、逆に②肺血流が
増加する場合は、呼吸障害・心不全症状などを生じます。治療として、①には肺動脈への短絡手術
(Blalock-Taussig 手術)を、②には肺動脈絞扼術を行います。そして将来的には機能的根治術(Fontan
型手術)を施行します。しかし Fontan 型手術には適応基準があり、条件によって困難な症例もありま
す。
純型肺動脈閉鎖症
(Pulmonary Atresia with Intact Ventricular Septal Defect)
純型肺動脈閉鎖とは右室から肺動脈の間が閉鎖し、通常低形成の右心室を認めます。肺への血流
は動脈管に依存し、生後動脈管が閉じてくると低酸素血症をきたし直ちに処置を必要とします。プロス
タグランジンという動脈管を開存させる働きのある薬を用いる事により低酸素血症を改善した後、手術
やカテーテル治療によって右室と肺動脈の交通をつくるかシャント手術を行い、右心室の成長をまって
将来根治術を行います。右心室をできるだけ育つようにしますが、発育が十分でない場合はフォンタン
型の手術を行います。
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単心室症
(SV:Single Ventricle)
先天性心疾患の 1~2%にみられるチアノーゼ性心疾患です。一つの心室(主たる心室)に二つの房室
弁あるいは共通房室弁が接続するもので、もう一つの心室は痕跡程度しかないこともあります。主たる
心室の形態により右室型単心室、左室型単心室に別れます。さらに肺動脈狭窄や大血管異常を伴う
ことがあり、それぞれにより治療方針が変わります。治療を行わなければ、半分の患者さんは 1 か月以
内に死亡します。大血管の異常により肺へ行く血流が多すぎたり少なすぎたり、あるいは他の心奇形
が合併するほど重症になります。逆に肺血流が適度に保たれていると、乳幼児期には症状が出ないこ
ともあります。現時点では段階を踏んで手術を行うことが主流です。すなわち肺への血流の程度によっ
て肺血流増加群と肺血流減少群に分け、初回手術では前者は肺動脈絞扼術(肺血流を制限する)を、
後者では体肺動脈短絡手術(肺血流を増やす)を行います。もし主たる心室が左心室で、心室を二つ
の空間に分けることが可能であれば心室中隔作成術を行います。そうでなければ、主たる心室を体心
室(全身に血液を送るための心室)とし、フォンタン型手術を目指します。この場合全身から戻ってきた
血液は心臓を経由せず直接肺へ流れるようにします。その他大血管や心臓に奇形が合併した場合は、
最終手術前に修復します。
左心低形成症候群
(HLHS:Hypoplastic Left Heart Syndrome)
機能的に外科修復できうる先天性心疾患の中では最重症の一つに挙げられます。本来、全身へ酸
素化された血液を送り出すための大切な構造物である僧帽弁、左心室、大動脈弁、上行大動脈を含
めた左心系の低形成が主要因です。このため、肺で酸素化された血液は右心房で静脈血と混ざった
後に、右心室、肺動脈、そして動脈管を通して全身へ血液を供給する形で出生してくることになります。
出生後は動脈管が閉じてしまうと全身への血液が閉ざされ、生命を維持できなくなります。また、動脈
管が開いていても肺動脈の方に血流が偏ってしまうとやはり全身の血流が減ってしまいます。このた
め、現在、多くの施設でいくつかの形で生命維持への外科的(または内科的)手法が取られています。
代表的な手法に Norwood 型手術があります。この手術により全身と肺への血行を動脈管にたよること
なく維持できることになります。しかし、生後まもなくからこの手術を安全に乗り切ることが困難とされる
場合には左右の肺動脈への血流を減らし、動脈管を開けたままにしておく両側肺動脈絞扼術が行わ
れています。
エプシュタイン奇形
(Ebstein's anormaly)
三尖弁の形成過程の異常により、三尖弁が変形し、かつ右室内にずれて付着することで、右室機能
不全と三尖弁狭窄・閉鎖不全を認める病気です。
定型的には新生児期にチアノーゼと呼ばれる酸素不足の状態を起します。この時期を生き延びられ
た場合、重症例でチアノーゼや心不全の持続するものや、他の心奇形を合併するもの等を除けば、小
児期の予後は比較的良好です。しかし他の心奇形を合併するものの予後はとても悪くなります。
この病気の手術治療はまだ満足のいく成績が出ておらず、自然経過をたどっている方も多くいます。
手術方法は個々の状態に合わせて選択されますが、落ち込んでいる三尖弁を吊り上げる Hardy 法、三
尖弁置換術、Glenn 手術等が行われます。
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総動脈幹症
(Truncus Arteriosus)
総動脈幹症とは、全先天性心疾患の 0.8%ぐらいと比較的めずらしい病気です。本来心室から大動
脈、肺動脈と二つの大きな血管がでるはずのところを動脈幹とよばれる一本の血管が心室から起始す
る病気です。この動脈幹は左と右の心室からの血流を受け、全身、肺に血流を送ります。動脈幹から
でる肺動脈の分かれ方によってⅠ~Ⅳ型に分類しています。最終的にはラステリー手術という、右心室
から肺動脈に人工血管等で新しい血管をつなぐ手術を行います。これにより普通の心臓の流れと同じ
ような血液の流れになることになります。
大動脈肺動脈中隔欠損症
(AP Window:Aorto-Pulmonary Window)
上行大動脈と肺動脈とが接する所に欠損があり、大動脈肺動脈中隔欠損(AP septal defect)と言わ
れています。欠損孔が、上行大動脈と主肺動脈との間にある近位欠損型と、右肺動脈との間にある遠
位欠損型、全体にわたる全欠損型があります。
多くは欠損孔が大きく短絡量が多いため、多呼吸・蒼白・体重増加不良などの心不全症状が見られ
ます。心エコーや心臓カテーテル検査で早期診断して、乳児期に人工心肺を使用した開心術を行いま
す。
左冠動脈肺動脈起始症(BWG 症候群)
(Anormalous Origin of the Left Coronary Artery from the Pulmonary
Artery(Bland-White-Gerland 症候群))
左冠状動脈が正常のように大動脈から起始せず、主肺動脈から起始するものです。比較的まれで、
わが国の先天性心疾患の 0.1%と言われています。
胎生期と出生直後は肺動脈圧が比較的高いため、症状を生じないことが多いですが、徐々に慢性の
狭心症症状、心不全症状を生じます。狭心症の症状として哺乳時に胸痛を生じ、泣くこともありますが、
主に心不全や僧帽弁閉鎖不全で発見されることが、比較的多いようです。
手術なしでは 65%が 3 ヶ月から 1 歳までに死亡し、それ以上生存すると僧帽弁閉鎖不全や心不全が
持続しますが、症状は軽快するようです。この時期の根治手術後は数ヶ月で心機能が回復することが
多いと言われています。
10 歳以上まで生存すると、心雑音などはあるものの、比較的症状も軽く、症状としては全くないことも
あります。しかし軽度の息切れ、易疲労性、胸痛などが起こったり、運動時に急激に状態が悪くなるこ
ともあります。
手術の成績は最近良好になったため、診断がつけば早期に手術をすることが望ましいようです。
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狭心症(AP:Angina Pectoris) 心筋梗塞(MI:Myocardial Infarction)
狭心症・心筋梗塞は、心臓に血液を供給する血管、冠状動脈の狭窄や閉塞で起こる病気です。先進
国の死因の常に上位を占める疾患です。血管が狭くなって心臓の筋肉を栄養する血が足らなくなって
いる状態が狭心症です。心臓の血液の必要量は運動時などに増えるので、典型的には運動時に胸が
締め付けられるような感じがしたり(労作時狭心症)、非常に重症になるとじっとしていても胸痛が生じ
るようになります(不安定狭心症)。
心筋梗塞は心臓の筋肉への血流が、冠状動脈の閉塞により完全に途絶してしまい、筋肉が壊死して
しまう状態をいいます。発症一ヶ月以内を急性心筋梗塞、それより古いものを陳急性心筋梗塞といい
ます。循環器病学は近年長足の進歩をとげましたが、それでも急性心筋梗塞は大変危険な状態です。
<自然経過、予後>
狭心症、心筋梗塞の予後はその重症度によって大きく異なります。重症度とは、虚血の度合い、冠状
動脈病変の解剖学的な範囲、そして心機能を主にいいます。
虚血の度合いとは、どの程度心臓の筋肉の血が足らないのか、つまり安静時でも足らないのか、日
常の軽い動作でも足らないのか、強い運動をしたときだけ足らないのか、などということです。ほとんど
の場合患者さんの症状の強さがこれを表す指標になります。
冠状動脈病変の範囲とは、大きく 3 本ある冠状動脈のうちの何本が、そして最も重要な血管である左
前下行枝のどの部位がどの程度狭窄しているか、さらに左側 2 本の大元である左主幹部に病変があ
るかどうか、ということによって予後は大きく違い、そして治療への反応も異なります。
心機能とは虚血性心疾患に対して言う場合、主に左心室の収縮する能力を差します。虚血によって、
壊死した部分や血が足らない部分は動かなくなって、全体の収縮も落ちてきます。心機能の悪い患者
さんほど予後は悪いのです。
狭心症、心筋梗塞の患者さんの予後は以上のような要素で大きく異なるので全部まとめて述べるの
は乱暴な議論になります。逆に患者さんの状況によりある程度きめこまかい予測ができます。例えば
ある研究では 50%以上の左主幹部病変のある患者さんの、内服治療のみでの予後は 4 年生存率約
60%です。
<治療が必要なのは?>
狭心症、心筋梗塞の治療の目的は二つあるといえます。ひとつは、心臓というのは生命に直結する
臓器で、生命予後の改善、つまり心臓死を予防して患者さんにより長生きして頂くということです。もう
ひとつは虚血による症状、胸痛を取り除いて、患者さんにより質の高い生活をして頂く、ということです。
前述したように狭心症、心筋梗塞の患者さんの予後、そして治療による予後の改善の程度は個々の
患者さんで大きく異なります。
治療には薬物療法、カテーテル治療(PCI)、そして外科治療があります。坑血小板剤などの薬物治
療はほとんどの患者さんに利益があります。カテーテル治療、外科治療は血の足りない部分への血流
を増す、ある程度根本的な治療ですが、治療手技には一定のリスクが伴います。私たちがある治療を
お勧めするのは治療の利益が危険を上回ると予想されるときです。
<治療法は?>
外科治療の冠状動脈バイパス術は血の足りない部分への血流を増して、虚血という問題をある程度
根本的に解決することが出来ます。外科手術には一定のリスクが伴いますが、いろいろな条件を満た
す患者さんで、冠状動脈バイパス術は患者さんにもたらす利益の方が危険より大きいことが知られて
います。
急性心筋梗塞に対する外科治療、冠状動脈バイパス術は危険が大きいので、冠状動脈バイパス術
の対象となる患者さんはほとんど、狭心症と陳急性心筋梗塞の患者さんです。
冠状動脈バイパス術は足や手などの他の血管を使って、冠状動脈の狭い部位や詰まってしまった部
分の先にバイパスを建てる手術です。この手術は 1960 年代の後半から始まり、すでに 40 年近い歴史
があります。この手術は薬物治療に比べて多くの患者さんで予後を改善します。特に冠状動脈バイパ
ス術は、一般により重症の患者さん、沢山の病変がある方や、心機能の悪い患者さんで大きく予後を
改善します。
1970 年代からカテーテル治療が始まり、狭心症の血行再建にはバイパスとカテーテル治療の二種類
が可能になりました。両者の選択はいろいろな要素があって難しい問題ですがやはり一般的に重症な
患者さんで冠状動脈バイパス術の方がPCIよりすぐれているという研究結果が出ています。冠状動脈
バイパス術は多枝病変の患者さんや左主幹部の患者さんで、PCIよりよい生命予後が期待でき、また
治療が一度だけですむ可能性が高いという結果を示している研究が多いです。
手術は全身麻酔下に行います。冠状動脈バイパス術には人工心肺を使う方法と使わない方法があ
り、それぞれ一長一短です。人工心肺を使う方法は、心臓を止めて、血のない静止した状態で血管吻
合が出来るのが大きな利点です。但し人工心肺を使わない場合に比べて、輸血の可能性が高い、術
後不整脈の発生が多いなどの欠点があります。人工心肺を使わない方法の場合、血管の露出できる
部位に限界があり、心臓が動いている状態で縫うため、技術的に難しいということがあります。人工心
肺を使わないバイパスの方が、人工心肺を使う場合より繰り返しの治療が必要になる確率が高いとい
う研究報告があります。
急性心筋梗塞でも機械的合併症というものが起こると、外科治療の対象となります。機械的合併症と
は心筋梗塞によって心臓の構造が破壊されてしまうもので、右心室と左心室の間に穴が開く心室中隔
穿孔、左心室の弁を支える乳頭筋という筋肉がちぎれてしまう乳頭筋断裂、左心室の壁の壊死で血液
がしみだす左室破裂があります。また心源性ショックという内科的には絶望的な状態で、バイパス以外
に血行再建の手段がない場合、危険を承知の上で冠状動脈バイパス術を行う場合があります。
大動脈弁狭窄症
(AS:Arterial Srenosis)
心臓の出口にある大動脈弁が動脈硬化やリウマチ熱などが原因で可動性を失い、結果的に出口が
狭くなってしまう病気です。弁が開かないだけでなく閉まりにくいこともあり狭窄とともに閉鎖不全という
状態になることが多いです。初期には軽度の症状も、胸痛や息切れ、進行すると意識を失うこともあり
ます。自然予後は、心臓虚血症状が出てから 2~5 年程度が余命と言われています。手術は、多くは人
工弁(生体弁、機械弁)で置換します。年齢や術前の全身状態により生体弁(ウシ心膜)か機械弁(カ
ーボン)を選択します。それぞれに長所短所があります。術後経過が良ければ 2 週間ほどで退院でき
ます。
大動脈弁閉鎖不全症
(AR:Arterial Regurgitation)
心臓の出口にある大動脈弁の閉まり具合が悪くなり、逆流が増えてしまう病気です。初期は心臓が
代償し症状はありませんが、徐々に心肥大が進行し症状(息切れ、胸痛、意識消失など)が出ると心臓
の筋肉が障害を受け、2 年以内に心不全となり、5 年以内に死亡することが多いと言われています。手
術は、多くは人工弁(生体弁、機械弁)で置換します。年齢や術前の全身状態により生体弁(ウシ心膜)
か機械弁(カーボン)を選択します。それぞれに長所短所があります。術後経過が良ければ 2 週間ほど
で退院できます。
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僧帽弁狭窄症
(MS:Mitral Stenosis)
僧帽弁狭窄症とは左心房と左心室の間の弁、僧帽弁が狭くなる病気です。リウマチ性の変化が主な
原因と言われています。また、まれに先天性、加齢などの変性が原因となります。
正常の僧帽弁口面積は約 4-6 ㎠ですが、1.0 ㎠以下になると重症と言われ、心房細動などの不整脈
やその他の心不全症状が出現するようになり、0.5 ㎠が生存許容限界だと言われています。本質的に
進行性で悪性な病気と考えられ、カテーテル・バルーンによる治療、手術は直視下交連切開術、人工
弁置換術が行われます。
僧帽弁閉鎖不全症
(MR:Mitral Regurgitation)
僧帽弁閉鎖不全症とは僧帽弁に逆流が起こる病気で、リウマチ性と変性性、その他の心臓病(虚血
性・感染性心内膜炎など)様々な原因があります。
逆流の程度によって心不全の症状が出現し、逆流が高度になると手術の対象となります。以前は人
工弁置換術が主な手術方法でしたが、特に非リウマチ性の病変に対しては、自己弁を残す僧帽弁形
成術が第一選択で行われるようになってきており、その比率は増加しています。
三尖弁閉鎖不全症
(TR:Tricuspid Regurgitation)
右心房と右心室の間の弁、三尖弁に逆流が起きる病気で、後天性の場合、大動脈弁・僧帽弁などが
原因の左心不全・肺高血圧が原因となる場合が殆どです。肝腫大・末梢性浮腫・腹水など右心不全の
症状が特徴的です。
三尖弁のみを対象とした手術はまれで、多くは大動脈弁・僧帽弁の手術と同時に弁輪を縫い縮める
三尖弁輪形成術が行われます。まれに高度の三尖弁閉鎖不全症に対して、弁置換術が行われます。
真性大動脈瘤
真性大動脈瘤は動脈硬化により大動脈の壁が拡張し、瘤状に大きくなってしまう病気です。高血圧や
喫煙、高コレステロール血症、糖尿病などがこの病気の危険因子となります。大動脈は徐々に拡大し、
放置すればいずれは破裂してしまいます。破裂してしまった場合の救命率が低いことから、一定の拡
大が見られた時には手術を考慮することになります。手術としては、瘤のある大動脈部分を人工血管
で置き換える手術を行います。
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解離性大動脈瘤
解離性大動脈瘤は大動脈の壁が裂けることで起こり、治療しなければ極めて予後の悪い病気です。
発症後、早期に治療が必要となりますが、上行大動脈が裂けて、それが固まっていない場合には、緊
急手術を行う必要があります。手術の方法としては、人工心肺を用いて大動脈の一部を人工血管で置
き換えることを行いますが、置換場所は避ける部位によって、上行大動脈置換・弓部大動脈置換と異
なります。また裂ける場所によっては、脳梗塞・心筋梗塞・腸管虚血・下肢虚血等の合併症をもたらす
こともある重篤な病気です。
心房細動・心房粗動に対する手術(メイズ手術)
心房細動、心房粗動という不整脈は、心臓の心房という部分が不規則に、正常より非常に速く脈をう
ってしまう不整脈です。通常治療としては、薬による治療、皮膚からカテーテルという管を心臓まで通し
て高周波というもので行う治療、ペースメーカー植え込みによる治療などがあります。それでも治療で
きなかったり、ほかに心臓の手術をする必要がある場合には、メイズ手術という手術的な治療方法が
考慮されます。メイズ手術というのは、手術的に心房に切開を加えたり、凍結凝固、高周波などを行う
ことにより、心房細動や心房粗動の不整な電気的な持続を遮断して不整脈を治療する方法です。当院
では弁膜症や先天性心疾患に伴う心房細動、心房粗動を合併している患者様に対してメイズ手術を行
っております。
ペースメーカー
ペースメーカーは、不整脈のために心臓の脈が、とくに遅くなりすぎた場合にごく微弱な電気的な
刺激を心臓に与えて正常な数の脈を維持させる、直径 5 cm 程度、厚さ 1 cm 程度の体内に埋め込
める器械です。原因は、先天性であったり、加齢であったり、他の病気や心臓手術によるものなど
があります。方法としては、ペースメーカー本体からの電線を直接心臓の表面に固定する方法、静
脈内を通して心臓内腔に固定する方法があります。本体は胸部や上腹部の皮下組織の下などに
植え込むことを行っています。電池の寿命に伴い、通常数年ごとにペースメーカーを交換していか
なければなりません。