SAWフィルタ - Keysight

Agilent
平衡測定の例:
SAWフィルタ
Application Note 1373-5
概要
SAWフィルタは、非常に急峻な応答特性、比較的に低
い挿入損失、低コストのため、無線通信機器に広く使
用されています。また、その物理的な構造についても
シングルエンドRFポート、差動RFポート、およびそれ
らの組み合わせとしてデザインできます。そのために
回路デザイナは、不平衡回路と差動回路のメリットを
フルに活かすことが可能です。
一般にSAWフィルタは、比較的に高いポート・インピ
ーダンスでデザインできます。そのため、電力消費を
最小限に抑える必要がある携帯電話には好都合です。
ポート1
ポート2
ポート3
ポート4
ご注意
2002 年 6 月 13 日より、製品のオプション構
成が変更されています。
カタログの記載と異なりますので、ご発注の
前にご確認をお願いします。
平衡RFポートと50Ω以外のインピーダンスとの組み合
わせは、SAWフィルタの特性評価やそのデザインへの
組み込みを、困難なものにすることが多くあります。
Agilentの平衡測定システムはその解決をサポートし、
またSAWフィルタのテストやデザインを、50Ωシング
ルエンド・コンポーネントの場合と同様の簡単なもの
にします。
ミックスドモードSパラメータ
回路がシングルエンド・スティミュラスを持つか差動
スティミュラスを持つかによって電気的に異なるため、
シングルエンドSパラメータでは平衡デバイスの性能を
十分に評価できません。したがって、差動回路のデザ
インに従来のシングルエンドSパラメータを用いると、
誤った結果が導かれることがあります。
350Ωのデータは、スミス・チャートの中心に近い反射
を示しています。インピーダンスに対する相当量の容
量性成分をはっきりと見ることができます。
挿入損失の多くが除去されたため、伝送パラメータは
フィルタ特性をより正確に表わしています。
マルチポート・シングルエンドSパラメータに加えて、 終端インピーダンスの変更は、通過帯域リップルと除
Agilentの平衡測定システムはミックスドモードSパラメ 去特性にも影響しています(図4)。
ータの測定が可能です。ミックスドモードSパラメータ
により、平衡デバイス内の2つのモード(差動およびコ
モン)の伝搬が可能となり、スティミュラスとレスポン
スを独立させて平衡デバイスを評価できます。実際の
ポート1
ポート2
デバイスの測定データにより、これを説明します。
シングルエンドSAWフィルタの
Sパラメータ
図1に示したポートを持ったシングルエンドSAWフィル
タを考えます。
ポート3
ポート4
図1.
シングルエンドSAWフィルタ
図2.
700Ωデバイスの50ΩシングルエンドSパラメータ
このような例として、Sawtek社の製品でポート・インピ
ーダンスが両方の平衡ポートで差動700Ωのデバイスが
あります。このデバイスの50ΩシングルエンドSパラメ
ータを、図2に示します。
反射パラメータは、各ポートの入力インピーダンスが
50Ωよりかなり高く、少し容量性があることを示して
います。また伝送パラメータは、フィルタの帯域幅と
スカートの形状が示しています。
このデータにおける第一の問題は、350Ω終端としてデ
ザインされたこのフィルタを50Ωのシステムで測定し
ていることです。このために、伝送パラメータには、
抵抗損失に加えて相当量の不整合損失を含んでいます。
図3は、同じデバイスを350Ωのシステムで測定したも
のです。
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ミックスドモードSAWフィルタの
Sパラメータ
この例のSAWフィルタは差動信号でドライブされてい
るため、シングルエンドSパラメータでは十分な評価が
行えません。したがって、このデバイスのミックスドモ
ードSパラメータを測定する必要があります。
図5のデータは、図3と同じSAWフィルタのミックスド
モードSパラメータです。ここでは、各終端は350Ωで
す。また、差動モード基準インピーダンスは700Ω、コ
モンモード基準インピーダンスは175Ωです。
図3.
700Ωデバイスの350ΩシングルエンドSパラメータ
左上の象限は、2ポート差動スティミュラス/差動レス
ポンス特性を示しています。通過帯域の中心周波数の
入力インピーダンスはスミス・チャートの中心にあり、
シングルエンド・データのようなインピーダンスの容
量性シフトはありません。出力インピーダンスも、同
じような特性を示しています。平衡ペアの2つのポート
は互いに分離されていないため、差動整合はシングル
エンド整合と異なっています。
伝送特性は、このデバイスを差動ドライブしたときの
損失を示しています。差動システムに挿入したときの、
このフィルタの挿入損失は約8.9dBです。これに対して、
シングルエンド伝送特性の挿入損失は14.5dBでした。
コモンモード・スティミュラスとコモンモード・レス
ポンスによるフィルタ特性は、右下の象限に示してい
ます。入力ポートと出力ポートの双方とも、非常に大
きな反射を示しています(−0.1dBに満たないリター
ン・ロス)。この結果、非常に大きな挿入損失となって
います(60dBを超える)。差動モード利得のコモンモー
ド利得に対する比は、このデバイスのコモンモード除
去比を示し、その値は通過帯域において50dBを超えて
います(図6)。
図4.
終端インピーダンスの変更による通過帯域リップルと除去特性への
影響
3
図5.
700ΩデバイスのミックスドモードSパラメータ
図6.
50dBを超えるコモンモード除去比(CMRR)
図7.
差動モード・スティミュラスでの、コモンモード出力に対する
差動モード出力の比。
図5の左下と右上の象限は、このデバイスのモード変換
性能を示しています。これらのパラメータはすべて非
常に小さく、このフィルタが極めて対称的であること
を示しています。
このフィルタの入力に差動信号を加えた場合、非常に
良好な対称性によって、大きな差動信号と非常に小さ
なコモンモード信号が出力されます。これら2成分の振
幅の比は、図7に示すように25dBを超えています。
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非理想的なSAWフィルタの性能
前出の例は、非常に優れた性能を持つSAWフィルタの
特性でした。ここでは、あまり理想的でないデバイスを
評価することにより、Agilent平衡測定システムの優れた
機能を説明します。このようなデバイスのシングルエン
ドSパラメータを、図8に示します。
このデバイスは入力ポートが差動100Ω、出力ポートが
差動500Ωとなるようにデザインされています。2つの
入力端子でのシングルエンド整合は非常に差があり、
また明らかにポート3に問題があります。2つの出力端
子は互いに似ていますが、500Ωデザインのためにトレ
ースはスミス・チャートの端にあります。さらにS23、
S32、S34、S43はすべて他の伝送パラメータに比較して
過大な挿入損失を示すため、伝送特性もポート3におけ
る問題を示しています。
前出の例と同様、適切なインピーダンスのシステムで
データを見ることによって、出力端子の整合がスミ
ス・チャートの中心に近づき、挿入損失も減少します
(図9)。
図8.
シングルエンドSパラメータ
図9.
挿入損失の減少
最後に、図10のミックスドモード・データも調べる必要
があります。ミックスドモードSパラメータの差動モー
ドの象限(左上)は、ポート3での問題のために入力が差
動100Ωに正しく整合せず、40Ω+j15Ωに近いことを示
しています。出力は差動500Ωに良く整合しており、伝
送特性をSDD21パラメータで見ることができます。
コモンモード性能(右下の象限)は、出力ポートにおけ
る大きな反射を示しています。また入力におけるコモ
ンモード反射により、入力ポートでの問題が表れてい
ます。
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モード変換の象限を調べると、フィルタがシステム性
能に与える影響がわかります。フィルタ入力での差動
スティミュラス(左下の象限)によって、SCD11パラメ
ータが示すように、フィルタはシステムに反射して戻
るかなりの量のコモンモード信号が発生します。順方
向伝送(SCD21)では大きなコモンモード成分は発生し
ていませんが、逆方向伝送では、差動モード成分にほ
ぼ匹敵するようなコモンモード成分が発生します。
フィルタ入力でのコモンモード・スティミュラス(右上
の象限)から、システムに反射して戻るかなりの量の差
動モード信号が発生します。順方向伝送では、コモン
モード入力はフィルタ出力において大きな差動モード
信号に変換されます。逆方向伝送では、コモンモード
から差動モードへの変換は非常に小さなものです。
したがって、順方向伝送での差動モードからコモンモー
ドへの変換はかなり低いものの、同方向でのコモンモー
ドから差動モードへの変換は非常に大きくなります。コ
モンモードから差動モードへの変換は、このデバイスの
ためにシステムがEMIに影響されやすいことを示してい
ます。
図10. ミックスドモード・データ
結論
これらの例は、Agilent平衡測定システムがいかに有効
かを示しています。SAWフィルタの性能評価をサポー
トする主要機能として、次のようなものがあります。
●
マルチポートによるデバイス測定
●
各ポートで任意の基準インピーダンスを定義可能
●
ミックスドモードSパラメータの表示
●
ユーザ定義パラメータの設定
これらの機能によって、SAWフィルタなどの平衡デバ
イスを簡単に、しかも総合的に特性評価して、高性能
差動システムに組み込むことができます。
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関連資料
『Agilentの平衡測定の実例:バラン Application Note 1373-6』
カタログ番号5988-2924JA
『平衡コンポーネント用測定ソリューション
Product Overview』
カタログ番号5988-2186JA
主なWebサイト
Agilent平衡測定システムの詳細については、以下のサ
イトを参照してください。
www.agilent.com/find/balanced
コンポーネント・メーカ向けのページ:
www.agilent.com/find/component_test
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Copyright 2001
アジレント・テクノロジー株式会社
October 10, 2001
5988-2922JA
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