SーDSにおける睡眠・呼吸循環言周節ず幾構の発達神経病理学的研如

厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)
分担研究報告書
SIDSにおける睡眠・呼吸循環調節機構の発達神経病理学的研究:
脳幹における抑制系イオンチャネルの発達
分担研究者:
高嶋 幸男(国際医療福祉大学大学院教授)
研究協力者:
金海 武志(福岡大学小児科)
小沢 愉理(東邦大学医学部新生児学教室)
【研究要旨】
SIDSは年齢依存性の症候群である。その病態として、SIDS児脳には慢性低酸素症や
発達未熟性があり、呼吸調節や心臓循環調節の異常、あるいは覚醒反応の低下の基盤と
なると考えられた。最近、乳児突然死の遺伝的素因に関する研究が活発であり、心臓で
はチャンネル関連の異常が注目される。今回、乳児期の年齢依存性のてんかん関連遺伝
子であるGABAトランスポーターGAT−1、カリウムチャンネルKCNQ2および3の発達
的発現を検討した。胎児期後半から乳児期には、チャネルの発達変動の激しい時期があ
り、この時期には、機能的に不安定であり、呼吸循環調節の機能異常が起こりやすいと
考えられた。
【研究目的】
されて、チャネル関連の異常が注目さ
最近、SIDSの成因として、遺伝的素
れる。SIDSは年齢依存性に発生するが、
因に関する研究が活発である。セロトニ
けいれん発作にも年齢依存性のものがあ
ン受容体遺伝子、セロトニン・トランス
り、新生児痙攣では電位依存性カリウ
ポーター遺伝子の関与が報告され/1/、
ムチャネルのKCNQ2、KCNQ3遺伝子
また、突然死遺伝子の異常として、QT
異常が分かり、乳児重症ミオクロニーて
延長症候群のSCN5AやKCNQ1が報告
んかんではクロライドイオンチャネル内
一41一
臓型であるGABAA受容体サブユニット
在胎20週から発現し、特に下オリー
の遺伝子異常が報告されているが、両者
ブ核では出生後でも強い発現が認め
は共に抑制系のイオンチャネルであり、
られた。
チャネル病として注目される。チャネ
2)GATでは、舌下神経核、迷走神経背
ル異常がSIDSの病態に関与している可
側核・弧束核、網様体、下オリーブ
能性があり、チャネル病としての観点か
核の各部位とも神経細胞胞体では、
ら検討を開始した。今回は、抑制系神経
在胎29週から発現していた。迷走神
伝達物質に関してはGABAの合成酵素
経背側核や弧束核では、在胎40週か
であるGADとトランスポーターである
ら学童期までに減弱していたが、そ
GAT4について、また、電位依存性カリ
れ以後発現は消失していた。それに
ウムチャネルに関してはKCNQ2サブユ
対し、下オリーブ核では在胎40週前
ニットとKCNQ3サブユニットについて
から発現が減弱し、出生後には消失
検討した。
していた。
3)KCNQ2では、舌下神経核、迷走神経
背側核・弧束核、網様体、下オリー
【研究方法】
対象は、胎児から成人までの病変のな
ブ核の各部位とも神経細胞胞体では、
い剖検脳20例である。方法は、延髄を
在胎29週から発現し、在胎40週以降
ホルマリンまたはパラホルムアルデヒド
には陰性であった。
に固定し、パラフィン包埋した切片を用
4)KCNQ3では、神経細胞胞体は、在胎
いて、抗GAT−1抗体、抗GAD抗体、抗
20週ですでに発現しており、40週以
KCNQ3抗体と抗KCNQ2抗体を用いた
降には減弱した。
免疫組織化学的染色を行った。延髄の各
部位、特に舌下神経核、迷走神経背側核・
【考察澱
弧束核、網様体、下オリ…ブ核における
SIDSは1歳以下、特に2∼4ヶ月の乳
GABAトランスポーター、カリウムチャ
児の睡眠中におこることが多いという特
ネルの発現を発達的に検討した。剖検・
徴をもっている。このことは睡眠中の呼
研究のインフォームドコンセントあり。
吸循環の調節にかかわる中枢の発達機構
に決定的な発生機序があることを示唆し
【研究結果】
ている1幻。
1)GADでは、舌下神経核、迷走神経背
1)延髄の神経細胞体のGAT4、KCNQ2、
側核・弧東核、網様体、下オリ…ブ
KCNQ3の発現は胎児期後半に認めら
核の各部位とも神経細胞胞体では、
れ、生後には、Q2は消失し、GAT−1、
一42一
Q3は減弱していた。胎児期後半から
【結論】
生後には、これらのチャネルの発現
延髄の神経細胞体のGAT−1、KCNQ2、
は変動していた。
KCNQ3の発現は胎児期後半から生後に
2)GAD、GAT4の発現では、下オリー
変動していた。GABAトランスポーター
ブ核とそれ以外の神経核において、
やカリウムチャネルの発達的変動が激し
発現の変化が異なっていた。小脳プ
い、この時期には、機能的に不安定で、
ルキンエ細胞と下オリーブ核神経細
呼吸循環調節などの機能異常が起こりゃ
胞の成熟と関連していると考えられ
すいと考えられる。
た。
3)GABA作動性神経細胞は胎児期後半
【参考文献】
の早期から、既に発現し、生後も持
1)Narita N,Narita M,Takashima S,
続していたが、GABAトランスポー
Nakayama M,Nagai T、Okado N:
ターやカリウムチャネルは胎児期後
Serotonin transporter gene variation ls
半から乳児期に、発達的変動が激し
a risk factor for sudden infant death
く、この時期には、機能的に不安定
syndrome in the Japanese population.
であり、呼吸循環調節などの機能異
Pediatr三cs107:690−692, 2001
常が起こりやすいことと関連すると
2)Ozawa Y,Okado N:Alternadon
考えられた。
of serotonergic receptors in the
4)従来検索したカテコラミン、セロト
brainstems of human patients with
ニンなどの神経伝達物質では、SIDS
respiratorydisorders。Neuropediatrics
群に低下し、未熟性ないし未発達が
33:142−149,2002.
考えられたが、SIDSが年齢依存性で
3)Nishida H,Takashima S=
あるという特徴を考えると、抑制系
Quantification of trace elements in the
のGABAのトランスポーターやカリ
brain of SIDS victims.Forensic Sci
ウムチャネルの発達変動は興味深い。
IIlt.2002;130Supp1:63.
今後、SIDSの発生要因追求として、
4)Ozawa Y,Takashima S:
SIDSと正常児の発現を対比したい。
Developmental neurotransmi疑er
更に、GABAA受容体魂)年齢依存性発
pathology in the brainstem of sudden
作の遺伝子の一つであり、脳幹にお
infant death syndrome:a review
けるGABAA受容体の発現の発達的変
and sleep Position.Forensic Sci Int.
化なども、検討したい。
2002;130Suppl:53.
5)Ozawa Y,Talkashi』ma S,Tada H:
一43一
Alpha2−adrenergic recepter subtype
新生児医療から見たSIDS,第50回未
alterations in the brainsteln in the
熟児新生児学会,名古屋,12.4,2005.
sudden infant death syndrome.Early
4)高嶋幸男,小沢愉理,小保内俊雅:
Hum Dev75:Supp1:S129−38,2003。
乳児突然死症候群の病理:神経伝達
6)OzawaヱTakashima S,Tada H:α2−
機構の発達異常を中心に,第50回未
adrenergic ceptor subtype alterations
熟児新生児学会,名古屋,12.4,2005.
in the brainstem in the sudden infant
death syndrome.Pathophysiology
10:229−234,2004.
【研究発表灘
1.論文発表
1)小沢愉理,高嶋幸男,多田 裕.:
SIDSの病因における脳病理からア
プローチ,日本SIDS学会誌5:38−44,
2005.
2)小沢愉理,高嶋幸男:乳幼児突然死
症候群,有田秀穂編:呼吸の事典,
朝倉書店,東京,pp.313−324,2005。
2.学会発表
1)金海武志,高嶋幸男,廣瀬伸一,岩
崎 宏,満留昭久,IKCNQ2のヒト脳
における年齢依存性発現,第47回日
本小児神経学会,熊本,5.20,2005
2)糸数直哉,高嶋幸男,長田陽一,柴
原哲太郎,松石豊次郎,橋本武夫,
花井敏男,曳野俊治:電子記録カー
ドを用いた療育システムと障害予防:
頭部画像,第31回重症心身障害学会,
東京,9.25,2005.
3)戸苅 創,高嶋幸男(シンポジウム):
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