150910AsjSuddenBirthV3

V118c
空気シャワーから放射されるマイクロ波の探索IV
-電子ビームからの広角放射の検出-
山本常夏, 大田 泉(甲南大), 池田大輔, 佐川宏行, 福島正己(東大宇宙線研), 荻尾
彰一(大阪市大), Romain Gaior, 間瀬圭一, 吉田滋, 石原安野, Matthew Relich, 桑原
孝夫, 上山俊佑(千葉大), Bokkyun Shin(Hanyang Univ), Gordon Thomson, John N.
Matthews(University of Utah), 柴田達伸(KEK)
携帯電話や衛星通信の普及に伴い高性能なマイクロ波検出器が比較的安価に利用できるようになった。このマイクロ波検出器を宇宙線観測に応用する研究を行っている。この研究のため
加速機により作られた電子ビームを空気中に放出することにより生成した疑似空気シャワーを使いマイクロ波検出実験を行っている。この実験により電子ビームの射出口からの広角度広帯
域放射を検出した。放射は電場の急激な変化により起こると考えられ sudden birthやsudden appearance と呼ばれている。この放射は3つの独立した実験により検出された。①大気中へ定常
的にマイクロ波を放射し、そこを空気シャワーが通った時にできるプラズマが反射するマイクロ波を検出する実験 ②空気シャワーが氷の中でAskryan効果により放出するマイクロ波を検出し、
高エネルギーニュートリノの検出方法を開発する実験 ③空気シャワーが大気制動輻射により等方的に放射するマイクロ波を検出する実験である。この検出結果について報告する。
Telescope Arrayと粒子加速器
最高エネルギー宇宙線の起源解明をめざし、
アメリカユタ州の砂漠地帯700 km3の領域に
宇宙線観測装置Telescope Arrayが建設され
ている。この装置は地上に粒子検出器を並
べた地上検出器 (Surface Detector : SD)と大
気蛍光望遠鏡 (Fluorescence Detector : FD)
からなる。このFDは空気シャワーが発する
大気蛍光を検出するが、そのキャリブレー
ションのために電子加速器 (Electron Light
Source : ELS)が設置されている。ELSにより生
成した電子ビームを大気中に放ち疑似空気
シャワーを作り出す装置で、世界的にみて
極めてユニークな装置である。
この加速器により40MeVの電子を最大10^9個放出できる。
電子はパルス状のビームとして放出され、パルス幅は可変で
ある。電子ビームは大気中に放出され、そこから放射される
大気蛍光はFDにより測定されている。この測定データとシ
ミュレーションを比較することにより、FDとシミュレーションの
性能評価・キャリブレーションを行っている。この装置は高エ
ネルギー宇宙線が作り出す空気シャワーを人工的に制御さ
れた状態で生成できるため、様々な検出器開発研究に使用
されている。
電子ビームが放出される前にまずELSからトリガーパルスが
出される。続いてコンデンサーに貯められていた20kVの電荷
がThyratronにより放出される。この時最も大きな電磁波ノイ
ズが出る。このThyratron放電の間に電子を加速するための
2GHz高周波がKlystronに送られる。トリガーパルスから電子
ビーム放出までの時間は正確に制御され、電子ビームの電
荷量も0.2 %の精度でモニターされている。
54.1MHz測定
230~430 MHz領域広帯域測定
空気シャワーの通った後には5ns程度の間プラズマが発生する。こ
のプラズマが反射するマイクロ波を検出できれば宇宙線の広域観
測に応用できるはずである。この方法は流星観測で実用化されて
おり、TA観測所で検証実験が行われている。
南極の氷に検出器を沈め高エネルギーニュートリノの観測を行っているIceCubeは拡張計画
として電波検出器を使うことを検討している。ニュートリノが引き起こす電磁カスケードがアス
カリアン効果により放出するマイクロ波を検出する計画でAskaryan Radio Array (ARA)と呼ば
れている。この計画のため、氷の中でのAskryan効果を調べるためにTAサイトにARAの検出
器を設置する実験がARAcalTAである。
ELSの上に氷を設置し、そこ
に電子ビームを照射する。
氷から放射されるマイクロ
波を測定している。
230~430MHzを測定する小
型アンテナをアンテナタ
ワーに固定していて、氷の
角度、アンテナの高さを変
えることにより放射角と放
射強度を測定できる。
ELSの近くで54.1MHzのマイクロ波を送
信する。それを200 m 離れたところに
あるアンテナでモニターしておく。ELSか
ら電子ビームが放たれた時にデータを
取得し電子ビームにより反射されたマ
イクロ波の強度を測定している。
この測定では電子ビームにより反射
されたマイクロ波は検出されなかった。
しかし、右図に示すように電子ビーム
を大気中に放出したときにはっきりとし
た信号をとらえている。この信号は
ビームを射出口でダンプさせると完全
に消え、54.1MHzのマイクロ波送信に
は影響を受けていない。さらにビーム
強度と信号強度が強く依存しているこ
とも分かった。
12GHz測定
空気シャワー中の電子(数10MeV)が空気分子を電離することにより生じ
る低エネルギー電子プラズマが分子制動輻射により放射するマイクロ
波を測定する実験を行っていた。
空気シャワーが等方的に
放射するマイクロ波を検
出できれば、大気蛍光望
遠鏡のように遠方リモート
観測が可能になる。天候
や明るさに左右されずに
観測できるため最高エネ
ルギー宇宙線の次世代観
測方法として注目された。
電子ビームから等方的に放射されるマイクロ波の
検出実験を行ったが、検出には至らなかった。こ
の実験の中で電子ビームの射出口の近くに
12.5GHzの受信機を置き電子ビームからの測定を
行った。この測定で、ESLからのサイラトロンノイズ
とともに射出口からの放射が検出された。
受信機で検出されたマイクロ
波はアンプを通り検波器によ
りDC変換され、オシロスコー
プで測定される。上の測定と
同様にトリガー信号はELSか
ら送られる。
左図受信機を電子ビーム
射出口に向けたときに検出さ
れたマイクロ波強度の時間
変化を示している。黒線は
ビーム方向、青線はビームと
垂直方向の偏波放射を示し
ている。両偏波方向ともELS
からでる電気ノイズがはっき
り見えている。電子ビームが
射出された時間の波形を拡
大すると電子ビームの射出
口から放出される信号が検
出されてることがわかる。波
形は電子ビームの形と一致
していて、縦方向に強く偏波
している。ビームを射出口で
ファラデーカップにダンプする
とこの信号は切れることが確
認されている。
左図は測定結果を示していて、赤、
緑、青の実線は氷の仰角を30, 45, 60
度にした時の放射強度を放射角の関
数で示している。点線はシミュレー
ションから期待されるAskryan効果に
よる放射強度で、測定値より一ケタ以
上低い値になっている。この結果から
測定されたマイクロ波は電子ビーム
が氷に入射するときに起こるトラン
ジット放射によるものと考えられる。
黒い実践は氷が無いときの測定値で、
これは電子ビームが大気に放出され
ることにより急激な電場の変化が起
こり放射されたマイクロ波であると考
えられる。
まとめ・考察
• 空気シャワーからの電磁波放射を使った新しい宇宙線観測方法を開発するため電子ビー
ム使った測定を行った。Telescope Array 観測所にある電子加速器ELSは大気中に40MeV
の電子ビームを放出し人工的に疑似空気シャワーを作り出すことができる。そのエネル
ギーは0.1 EeVの宇宙線に相当する。
• 空気シャワーは様々な過程を経てマイクロ波を放出するが、このマイクロ波を使った新しい
観測方法を開発するため、いくつかの実験が行われている。ここで取り上げているのは①
空気シャワーが作るプラズマが反射するマイクロ波を検出する、②空気シャワーがアスカ
リアン効果により氷のなかで放出するマイクロ波を検出する、③空気シャワー中の電子が
電離により生じる低エネルギー電子が分子制動輻射により等方的に発するマイクロ波を検
出する実験である。いずれも目的のマイクロ波の検出には至っていない。
• これらの実験の過程で電子ビーム射出口から広角度に放出されるマイクロ波が検出され
た。この放射は sudden birthとかsudden appearance と呼ばれ、急激な電場の変化により
起こると考えられる。
• 実験は54MHzから12.5GHzまで広帯域にわたっており、放射角もビームと垂直な方向にま
で及んでいることが確認された。
• このsudden birth放射は 原理的に Transit radiation (TR)と同じ放射である。TRは屈折率の
違う物質を荷電粒子が通貨するときに起こるが、Sudden birthは荷電粒子が急激に出現す
るときの放射である。空気シャワー中の電子のcharge excessによるTRはすでに確認さてい
るが、今回の測定によりSudden birthが確認された。
• 実際の空気シャワーではsudden birthと逆の減少が起こると考えられる。空気シャワーが
地面に到達して電荷が消失するときにおきり、今回測定された放射と同じことが起こると考
えられる。
• 現在この放射が空気シャワー観測に応用できるか検討している。放射がされていても、地
面からのマイクロ波放射を測定するのは技術的に検討を要する。
日本天文学会@甲南大学
2015.9.9-11