保険調剤薬局における電子薬歴へ の記録方法の検討 - 中部薬品

保険調剤薬局における電子薬歴へ
の記録方法の検討
中部薬品株式会社薬事部ファーマシー課1A地区
片田多恵・橋本麻帆・大森晶子・黒野真・河村知明・中村哲・安保竜也・赤堀一仁
会社名 中部薬品株式会社 V-drug
本社 岐阜県多治見市高根町4-29
設立 1984年2月
資本金 6億9152万円
代表者 代表取締役社長 山口 眞里
多治見本社
従業員数 2150名
序文
電子薬歴を導入しこれまでおよそ1年の実績を積んでき
た。当社のなかで、門前型薬局として1日200枚の処方せ
んをこなす規模としては初めての導入となり、現在もさま
ざまなことを検証中である。
実際の業務で採算性を考えた記録時間、そして患者情
報をいかに表現して実際の服薬指導時に反映させるの
がよいのか検討を重ねている、未だ模索中ではあるがこ
れまでのまとめを発表する。
経緯
いかに充実した服薬指導を行っても薬歴を記載していないこと
は、保険調剤を行っている上で服薬指導を行っていないことと判
断されることは周知の事実である。
迅速な作業が要求される医療現場では、薬歴として求められてい
る内容をいかに簡略化して記載できるか、また充実した服薬指導
の場合であってもいかに速やかに記録できるのか、これらの問題
に対して、電子薬歴を利用することでどのように効率化ができるの
か考察した。
また、表現に対して薬歴記載の基準となっているSOAPとフォーカ
スチャーティング形式について研究をした上で、電子薬歴の特徴
をふまえて、どのようなスタイルがよいのか検討した。
薬歴を利用する場面
監査と服薬指導
薬歴を実際に活用する場面は、監査時と服薬指導時
監査
処方監査や調剤時の確認そして最終的な調剤の監査時には重大
な情報を確認できうるインターフェイスが必要であり、かつ迅速な作
業のなかで、過去の調剤記録などにすみやかで正確に確認ができ
るようになっているかが必要。
服薬指導
服薬指導時には、前回から申し送られた継続的な対応や、インタ
ビュー時の患者の訴えに対して、これまで得られている患者固有情
報や過去の薬歴情報にすみやかにたどりつくことができ、確認と適
切な判断をした対応が必要。
情報の分類、整理、記載
患者情報
日常生活を送る上で、薬物療法との関わりから生じる様々な
情報が必要である。医薬品や医療関係に関する情報に加え
て生活スタイルや趣味・嗜好、家族構成なども開局薬局の服
薬指導の役に立つと考えられる。
情報の分類と 処方薬が変更していく場合、毎回の服薬指導と継続的に必
要な患者情報を分類し、記録するようにしていかなければな
更新
らない。
視認性
迅速な作業が要求される保険調剤薬局において、多くの情
報の中から重要な情報を確実に確認ができ、服薬指導時に
はこれまでの経緯に容易にアクセスできる事がポイントであ
る。
薬歴の記載方法
薬歴の記載方法について考えると、服薬指導を科学的に記録す
る方法としてSOAP形式が注目され、最近ではフォーカスチャーティ
ングという形式も考えられている。
POS・SOAPとは
現在、薬局の薬歴記入に最も多用されているのがPOS・SOAP
形式であり、 POS(Problem Oriented System)とは「問題志向シ
ステム」の総称にあたり、患者の持っている医療上の問題に視点
を置いて、その問題解決を目指していくシステムのこと、「患者の問
題」が中心に置かれる。
そして、POSを上手に機能させるための記録方式のひとつが、
SOAP形式であり、情報をS(Subjective)・O(Objective)・A
(Assessment)・P(Plan)という4つに分類して整理する方法。
POSの特徴
・患者中心の記録である。
・問題ごとの記録であり、経過が分かりやすい。
・記載内容が科学的であり、治療過程や成績評価
しやすい。
・情報の共有化が容易である。
POSの課題
・患者の問題にばかり関心がいく。
・SOAPには医療者の言動が記載しにくい。
・アセスメント(評価)が難しい。
・記録に時間がかかる。
フォーカス チャーティングとは
フォーカス チャーティングは叙述的な経過記録の一方法である。
患者に起こった介入が必要な出来事(Concerns:コンサーンス)に
焦点(Focus)をあて、その時の患者の状態/情報(Data)、それに
対する介入/行為(Action)、その結果/反応(Response)を系統
的に記載する経過記録といわれている。POSは問題に焦点をあて
るのに対しフォーカスチャーティングは出来事に焦点をあてるところ
に違いがあり、これらを上手く使い分けることによって非常に効率的
な記録となる。
フォーカスチャーティングの特徴
・フォーカス欄に挙げられている事実によって患者の経過・状態
そして結果が明瞭になる。
・問題となる事実が解決したか、どのような治療・処置・ケアが
有効かがわかりやすい。
・リストに挙げた問題だけでなく、良い変化にも関心をもつ。
フォーカスチャーティングの課題
・プロブレムリストや計画に挙げた患者の問題に対する分析・
評価や診断が不十分。
・フォーカス欄に何を書くか、情報・状況の概念化とどの範囲・
レベルまで書くかの臨床判断能力が必要。
・重症者や急変状況にある患者の場合で、刻々と変化する場合、
フォーカスが多く、記録が多くなる。
フォーカスチャーティングとPOSの比較
フォーカスチャーティング
POS
FDAR
SOAP
F(Focus)
フォーカスとは情報から明らかにされ
た患者の関心注目すべき行動、問題、
S(Subjective)
心配、重要な出来事、患者に起こった
あるいは起こり得る状態の結論である。
患者の主観的な訴えを記載する。問
題点に関連した患者の発言そのまま
か、それに準じた内容を記述する。
D(Data)
フォーカスを支持する、あるいは証明
する主観的および客観的情報を記載
する。ケア、介入が必要な状況を詳し
く記載することになる。
O(Objective)
検査結果やバイタルなどの数値、薬
剤師の客観的な観察・事実に基づく内
容を記載する。
A(Action)
状況に対して、医療従事者が実際に
行った行為、治療、処置を記載する。
A(Assessment)
S(Subjective)やO(Objective)に対す
る薬剤師の判断や思考過程が分かる
ように記述するP(Plan)を導く論理的な
記述が重要とされている。
R(Response)
行為/介入に対する患者の結果/反
応を記述する。
P(Plan)
A(Assessment)に基づく今後の予定
や計画を記述する。
POS? フォーカスチャーティング?
インタビュー情報を整理して客観的な表現にしたものがPOS、そし
て、それをイベントにしぼって表現したものがフォーカスチャーティン
グであると判断できる。
保険調剤薬局について考えてみると、内科や整形外科などの定時
薬が続く服薬指導と、耳鼻科や小児科などの刻々と変化する処方
に対する服薬指導が混在する状況では、これらの方式をそのまま
利用することには無理があるように感じられる。
そして、その記録は看護スタッフや医師に伝達されるためのもので
はなく、次の受付時に監査や服薬指導にあたる薬剤師に向けた服
薬指導であることを認識して考えることが重要である。
情報の分類
以下に挙げるような内容の情報を、決められたルールで所定の場所に統一された表現
方法で記録しておくことがポイントとなる。
恒常的な内容
アレルギー歴、医薬品副作用歴、他科受診(かかりつけ医などい
つもかかる医療機関)、現在治療中のその他の疾患とよくかかる疾
患、とくべつな生活習慣(仕事や勤務の内容など)、患者の家族情
報、趣味・嗜好等
頻繁に更新が必要な情報
体重、年齢、今回受診した内容、医師とのやり取りの内容、現在の他
科受診状況、これまでの医薬品の服薬状況
支援シート
入力テンプレートの解説
・処方に対して定型表現を行う場合
・インタビューによって得られた情報から行う内容
・病名などに対して定型表現を行う場合
・前回処方との比較から今回の服薬指導を行う場合
入力を想定した服薬指導
服薬指導前に今回の処方に対して入力テンプレートを意識し
て服薬指導を想定できるようになる。
→薬剤師の違いによる服薬指導の差が少なくなる
→入力の統一感が得られる
運用マニュアル
薬歴としての機能を備え、経時的な情報の更新、視認性につい
て、これらすべてを考慮に入れて実現しようとすると、運用マニュ
アルの整備と作業の徹底が必要であると考えられる。
運用マニュアルは、情報の分類、整理の仕方、処方内容や服薬
指導で得られた患者の情報から服薬指導を行うスタイルを統一し、
入力方法もある程度のルールに則って行うことに重点を置いて設
定されている。
詳しくは運用マニュアルを参照
実際の操作
茜部店の設定で、デモ機を利用できる
ように準備している。
まとめ
電子薬歴における患者情報の記載には、現在行われている
SOAP形式の入力やフォーカスチャーティング形式もふくめて考え
ていくことが重要である。
そして、POSの基本理念である患者様の薬物療法を客観的に評
価記録することはふまえつつ、これらの形式にとらわれてしまうこと
よりも、電子薬歴の特徴をふまえて機能を有効に活用していくこと
が必要である。
視認性を確保しつつ、情報のデータベースにアクセスできるよう、さ
らにその情報を活用させるために情報の分類方法、入力操作の統
一をマニュアルによって徹底しておくことが重要であるといえる。