5 私立幼稚園預かり保育事業 - 横浜市

1
特集
横 浜 の 子 育 て 支 援
時半までの保
待 機児童対策の主な取組
し て い る。 本 市 の 幼 稚 園 は 全
源となりうる可能性を持つも
と し て 手 を あ げ た。 そ の 後、
明 を い た だ き、 5 園 が モ デ ル
文部科学省の研究事業での検
証 等 に よ り、 横 浜 型 預 か り 保
ているという実証を経るとと
本市の預かり保育事業
のとなった。
児 教 育 」 の 基 礎 は、 私 立 幼 稚
園によって支えられている。
も に、 保 育 所 待 機 児 童 も 多 い
3
て 私 立 幼 稚 園 で、 本 市 の「 幼
⑤私立幼稚園預かり保育事業
はじめに
「幼稚園で、
育 で す か?」 国 の 視 察 担 当 官
本 市 で は、 全 国 に 先 駆 け、
と い う 実 情 を 踏 ま え、
育が保護者の育児支援になっ
平成9年に待機児童対策を明
幼 稚 園 は、 文 部 科 学 省 所 管
の学校教育法に位置づけられ、
確 に 打 ち 出 し、 幼 稚 園 を 地 域
が、 驚 き に 満 ち た 一 言 を 発 し
厚生労働省所管で児童福祉法
年9月のことであ
の 理 念 か ら「 保 育 に 欠 け る 」
た。 平 成
る。 そ れ も 無 理 は な い。 幼 稚
の 保 育 資 源 と 位 置 づ け、 認 可
年度
園 の 一 日 と 言 え ば、 9 時 に 登
児童を対象とする保育所とは、
年に学校
教育法が改正され、「預かり保
国 に お い て は、
から本格実施に至った。
園 し、 4 時 間 の 教 育 時 間 の あ
時間保育を提
保育所並みの
供するモデル事業を開始した。
事業は本格実施となったが、
その後の園数は伸び悩んだ。
年 ま で の 9 年 間 で、
園の実施にこぎつけたもの
平成
執筆
萩原 昌子
こども青少年局子育て支援課幼児教
育係長
預かり保育
そ の 目 的 を 異 に し、 義 務 教 育
幼稚園について
幼稚園
正規教育時間
時 に は 降 園、 と い う の が
へ つ な が る「 幼 稚 園 教 育 」 を
年 に は、 幼 稚 園
育」がようやく法律上位置づ
け ら れ た。
本市が幼稚園に求める預か
り 保 育 事 業( 以 下『 横 浜 型 預
実 践 す る、 満 3 歳 か ら を 対 象
とした「学校」である。
よ う、 具 体 的 な 留 意 事 項 が 示
2
年 度 か ら、 横 浜 型 預 か り
保育は改めて本市の待機児童
預かり保育
と
時間保育を行
一般的と考えられているから
本 市 に は、
だ。
された。
教 育 要 領 が 改 訂 さ れ、 預 か り
り 保 育 の 利 用 に、 保 育 所 入 所
か り 保 育 』) に は、「 幼 保 一 元
要件に準じた、「保護者の就労
幼稚園は4時間教育を原則
等」の要件を必須としたこと
う幼稚園がある。「横浜市私立
転 機 は、 女 性 の 社 会 進 出 が
である。
保育が教育課程修了後の教育
進 み、 保 育 所 待 機 児 童 が 社 会
そ れ ま で も、 各 園 で、 正 規
化の先駆け」として注目され
問題となった平成8年である。
の教育時間の前後に保護者の
と し、 長 ら く「 長 時 間 保 育 」
8年の中央教育審議会第一次
要請に応じて、理由を問わず、
幼稚園預かり保育事業」
(注1)
答申で、「女性の社会進出等が
一時的に短時間預かる例は見
の、 1 園 も 実 施 し て い な い 区
活動として適切な活動となる
進 む 状 況 に 対 応 し、 幼 稚 園 に
られた(注2)。就労等を要件
も あ り、 市 民 へ の 制 度 周 知 も
る 大 き な 特 色 が あ っ た。 預 か
は 保 育 所 入 所 要 件 を 満 た す。
お い て も、 保 育 所 と の 目 的・
とする長時間保育を幼稚園で
進 ま ず、 拡 充 の 道 の り は 険 し
という概念に結びついてこな
幼 稚 園 で、 保 育 所 待 機 児 童 と
機 能 の 差 異 に 留 意 し つ つ、 預
実 施 す る 事 業 に は そ の 当 時、
を 行 う 幼 稚 園 で、 長 時 間 保 育
なる可能性のあった子どもた
かり保育等運営の弾力化を
否 定 的 な 意 見 が 強 い 一 方 で、
かった。
ち を 受 け 入 れ て い る、 と い っ
図っていくことが必要となっ
を 利 用 し て い る 児 童 は、 月 平
ても過言ではないだろう。
ている」とされたことにより、
かった。
均 3 千 人 に の ぼ る。 そ の 8 割
本 市 は、 政 令 市 と し て 全 国
「時代の流れに沿うものであ
年度現在 2 8 5 園、 市
預かり保育拡充への取組
で最多の私立幼稚園数を誇る。
幼稚園における「預かり保育」
平成
4
内の3歳から5歳の児童9万
る」「幼稚園の将来を考えると
14:00~
18:30
12
やむを得ない」という先見の
9:00~
14:00
19
は、 保 育 所 待 機 児 童 を 抱 え る
21
7:30~
9:00
《6》
自治体にとって新たな保育資
(注1)
横浜市私立幼稚園預かり保育事業の開設時間 ①【月~金】7時30分から
18時30分(幼稚園の正規教育時間を含む。)
②【 土 】 7時30分から
15時30分(「平日型」は土曜休園。)
18
11
11
24
7千人のうち約6万人が在園
67
22
開設時間
20
14
24
調査季報 vol.172・2013.3 ■ 42
対策の一環として位置付けら
テ ッ プ と な る 簡 易 モ デ ル「 平
て い る。
年3月現在9組の
年4
月の横浜保育室卒園者108
認 定 園 が 存 在 す る が、
%にあたる
日 型 」 の 制 度 を 設 け た。 預 か
人のうち
り保育の実施は月曜から金曜
ま で、 夏 休 み は 5 日 ま で 休 園
人 が、
な ぐ 先 駆 的 な 取 組 と し て、 注
る。 0 〜 2 歳 と 3 〜 5 歳 を つ
連携幼稚園に入園見込みであ
通常型へのハードルは高い
目されている。
年度
園が
年 度、 幼 稚 園 協 会 か ら、
膝 を 突 き 合 わ せ て、 一 つ 一 つ
構築に不安を抱えていた。
業期間の運営等、新しい体制の
教育方針や職員の確保、長期休
預 か り 保 育 の 拡 充 に つ い て、
加 盟 す る 団 体 で あ る。 横 浜 型
協 会 は、 市 内 幼 稚 園 の 9 割 が
と 協 力 が 欠 か せ な い。 幼 稚 園
は、 横 浜 市 幼 稚 園 協 会 の 理 解
この飛躍的な認定数の増に
例 え ば、 幼 稚 園 で 開 催 す る お
通じて随時、交流事業を行う。
る。 連 携 し た 施 設 は、 年 間 を
教育環境を確保する事業であ
就 学 前 ま で の 一 貫 し た 保 育・
連 携 に つ い て も 提 案 さ れ た。
横浜型預かり保育実施園との
児 を 保 育 す る 横 浜 保 育 室 と、
新 た な 事 業 と し て、 3 歳 未 満
く な い。 ま た、
を利用している保護者も少な
り、 そ の 間 保 育 所 の 一 時 保 育
夏休み等の長期休業期間があ
られる。しかし、幼稚園には、
園に吸収されているとも考え
に つ い て い る 保 護 者 は、 幼 稚
て も、 パ ー ト 等 短 時 間 の 労 働
保育所入所要件に該当しなく
担当の職員は各園を訪問し、
分析した。多くは、それぞれの
の疑問の解消に努めた。また、
協議を重ねていた中で提案さ
可外保育所を利用する二重保
幼稚園の休園日である土曜日
こ れ ま で の「 通 常 型 」 は、
開放する。そして、幼稚園は、
い こ と か ら、 幼 稚 園 の 施 設 を
庭やプール等がない施設が多
る。 ま た、 横 浜 保 育 室 に は 園
い。就労しても、日数等によっ
短時間就労が可能とは限らな
ずしも幼稚園の教育時間内の
会 と 継 続 的 に 協 議 を 行 い、 次
も 開 園 し、 夏 休 み 等 の 長 期 休
ては保育所入所要件を満たさ
よ る 人 員 配 置 や、 急 激 な 環 境
年齢に応じた保育に専門性
うものである。
家庭も対象にしている(注3)。
所入所要件を満たさない就労
ないこともある。
働 き 方 の 多 様 化 に よ り、 必
設 し た。 そ の 他、 年 度 途 中 か
業期間も全日開園することを
連携する横浜保育室からの入
型である。
らでも新規実施を可能にする
条 件 と し て い た。 し か し、 休
節 で 述 べ る よ う に 新 た な「 平
な ど、 幼 稚 園 に と っ て 敷 居 が
園日に保育を実施することに
そ の 結 果、 飛 躍 的 に 認 定 園
の高い施設同士が連携を図っ
そ こ で、 協 会 の 提 案 を 受 け
か ら、 保 護 者 の 選 択 肢 を 広 げ
いての不安を解消できること
て お り、 3 歳 か ら の 行 先 に つ
幼稚園を選択するひとつのポ
り保育をやっていること」が
保護者にとって、「横浜型預か
横 浜 型 預 か り 保 育 は、 保 育
数 が 伸 び、 市 内 全 区 に 拡 充 し
の変化がハードルの高さと
て通常型実施への中間的なス
れない園が多かった。
なって横浜型の実施に踏み切
日型預かり保育」の制度を創
低くなるよう改善してきた。
園 希 望 者 を 受 け 入 れ る、 と い
時以降に認
公益社団法人横浜市幼稚園協
祭 り や、 移 動 動 物 園 等 に 横 浜
度のパート就労は可能であり、
通 常、 幼 稚 園 で も 4 時 間 程
保護者のニーズに応えて
が、 保 護 者 の ニ ー ズ に は 応 え
る。
6
た い、 と 考 え て い る 幼 稚 園 が
日を設定できる。
25
66
れ、 認 定 園 拡 充 は 喫 緊 の 課 題
25
61
と な っ た。 横 浜 型 預 か り 保 育
は、 フ ル タ イ ム か ら パ ー ト タ
イムまでさまざまな就業形態
に 対 応 で き、 認 可 保 育 所 へ の
申 し 込 み 抑 制 に も つ な が る。
ま た、 既 存 の 施 設 を 活 用 し、
園中
多 か っ た こ と が、 平 成
以降に認定した
54 22
平日型であることからもわか
56
新たな整備を必要としないと
いう利点もある。
認 定 園 拡 大 に あ た っ て、 ま
ず、未実施園へのアンケートを
表1 利用者数・園数の推移(平成25年3月現在)
(※H25認定園数は見込み)
れ た の が、 預 か り 保 育 の 簡 易
初めて実施し、横浜型預かり保
20
横浜市幼稚園協会の協力
40
500
育の実態もあると聞く。
5
1000
保育室の子どもたちを招待す
育の実施に向けた不安要素を
100
2500
年3
と、 市 内 幼 稚 園 の 約 半 数 に の
ぼっている(表1)。
(注2)預かり保育について
幼稚園が実施している「預かり保育」
は、本市においては3種類ある。
① 横 浜 型 預かり 保 育。 本 市 単 独 事
業。
朝7時半から夕方6時半まで利用で
きる。利用には就労等の要件が必要で、
証明書の提出を求めている。
なお、 保 護 者 負 担 は月9千 円 を 上
限としている。
②神奈川県補助対象の預かり保育。
理 由を限 定しない、いわゆる非 定 型 的
な利用やリフレッシュ的な利用を主とし
た短 時 間の一時 的な預かりを対 象 とし
たもの。
③②と同じく理由を限定しないが、
職員配置等の関係から園独自の制度で
実施しているもの。
② と③については、幼 稚 園 と保 護 者
の間の自由契約となり、保護者負担も
園が自由に設定できる。 そのため、利
用時間によっては月2万円を超えるとい
う実態がある。
(注3)
預かり保育利用要件
・一日4時間以上かつ月 日以上働
いていること。
保育所入所要件
・一日4時間以上かつ月 日以上働
いていること。
※就労要件のみ抜粋。 その他出産、介
護等の要件あり。
43 ■ 特集 横浜の子育て支援
14
12
16
23
80
67園
2000
60
56園
1500
120
利用者数(3月)
140
131園
認定園数(4月現在)
3000
0
H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25
0
(園)
(人)
3500
年度からの3年間
園 を 認 定 し、 平 成
た。 平 成
で
25
22
月 現 在、 認 定 園 数 は 1 3 1 園
56
る。
決断に至る幼稚園が増えてい
者 か ら の 切 実 な 声 を 受 け て、
在 園 児 の 保 護 者 や、 入 園 希 望
違 い な い。 事 実、 こ の 数 年、
イントになってきたことは間
う考え方を持っている園が多
どもの育ちに還元する」とい
が生き生きしていることが子
のびのび過ごす方がいい」「親
り も、 安 全 で 慣 れ た 環 境 で、
い家で一人ぼっちで過ごすよ
かり保育実施園は、「誰もいな
さ な い こ と で あ る。 横 浜 型 預
で あ る こ と を、 幼 稚 園 に 引 き
浜型預かり保育は有効な手段
も の 育 ち を 支 え る た め に、 横
保 護 者 を 支 え、 よ り 良 い 子 ど
柔軟な就業形態を選択する
ます増えていくと考えられる。
での預かり保育の需要はます
概要」)からも、今後、幼稚園
が、大きな課題となっている。
どのように移行していくのか
す る 幼 稚 園 が、 新 し い 制 度 に
在の横浜型預かり保育を実施
先 を 確 保 す る 必 要 が あ る。 現
い 場 合、 そ の 子 ど も た ち の 行
園が認定こども園へ移行しな
い る 現 状 を 踏 ま え る と、 幼 稚
長時間保育について
現 在、 幼 稚 園 の 運 営 指 導 及
7
続き伝え、さらなる拡充を図っ
本市における女性の労働力
「幼稚園と市は、どのように関
どない。冒頭の国の担当官は、
村が直接関わる場面はほとん
所 管 し て い る。 幼 稚 園 と 市 町
び 経 常 費 補 助 は、 神 奈 川 県 が
い。 保 護 者 か ら は「 安 心 し て
し か し、 私 た ち は、 幼 稚 園
率 が 上 昇 し て い る こ と、 非 正
子 ど も・ 子 育 て 関 連 3 法
係を築いてきたのか」と繰り
これからの幼稚園
ていきたい。
することを決断するまでの葛
ページ参照)においては「幼
8
一日を過ごすことができる」
藤にしばしば直面する。「家庭
規雇用の割合が高くなってい
という声がある(写真1)。
で保護者と子どもが向き合う
(
設と位置付け
対象とする施
児童」のみを
必要としない
は、 施 設 型 給 付( 注 4) を 通
た と こ ろ で あ る が、 新 制 度 で
と顔の見える関係を培ってき
事 業 の 推 進 を 通 じ て、 幼 稚 園
本 市 は、 横 浜 型 預 か り 保 育
返し尋ねていた。
ら れ た。 新 制
幼 稚 園 は、 地 域 に 根 差 し た
じ て、 よ り 密 接 な 関 係 を 作 っ
就業世帯の受
貴 重 な 幼 児 教 育・ 保 育 資 源 で
ていくことになる。
け入れを行う
あ り、 住 民 に 密 着 し た 施 策 の
度 で は、 幼 稚
に は、「 認 定 こ
小 学 校 と の 連 携 を 通 じ、 幼 稚
展 開 に は、 今 後 ま す ま す 手 を
園 と い う「 風 土 」 で 子 ど も た
取 り 合 っ て い く 必 要 が あ る。
短時間就業
ちが豊かに育っていくための
ども園」に移
等の保護者を
施 策 を、 引 き 続 き 推 進 し て い
行することを
持 つ「 保 育 を
園 庭 な ど の 恵 ま れ た 環 境 や、
必要とする子
きたい。
育を利用して
園で預かり保
ども」が幼稚
求めている。
園で引き続き
稚 園 」 は 原 則 と し て「 保 育 を
14
が長時間の預かり保育を実施
時間を大切にすべきである。」
年国勢調査産
る こ と( 平 成
22
業 等 基 本 集 計 結 果「 横 浜 市 の
写真1 幼稚園預かり保育時間の子どもたち
「園として、長時間親から離す
環境を提供するわけにはいか
ない。」このような考え方は根
強い。
長時間保育の子どもの育ち
へ の 影 響 に つ い て、 最 近 の 研
究 で は、 5 年 間 の 追 跡 調 査 を
実 施 し て い る「 保 育 が 子 ど も
年厚生科学研究
の発達に及ぼす影響に関する
研究」(平成
たちが過ごす時間の質を落と
に い る 環 境 を 通 じ て、 子 ど も
大 切 な の は、 長 時 間 幼 稚 園
である、と指摘されている。
もの育ちに影響を及ぼす要因
「社会的親」の関わり方が子ど
質、 そ し て 子 ど も を 取 り 巻 く
の養育の質と保育所の保育の
間 の 長 さ よ り、 保 護 者、 母 親
どもが保護者とともにいる時
報 告 ) が あ る。 こ こ で は、 子
15
(注4)施設型給付について
子ども・子 育て支 援 法において利 用
者が、市町村の確認を受けた認定こど
も園・認可保育所・幼稚園を利用した
際に支給される給付。
幼稚園の経常費にかかる公費補助は
これまで神奈川県が所管となって行って
おり、市町村が幼稚園の運営に関わる
場面はほとんどなかった。新制度では、
市 町 村が直 接、 幼 稚 園に給 付 を 行 う
仕組みに変わる。
調査季報 vol.172・2013.3 ■ 44