ウユニ塩原のトレミー塩をつくる メンバー: 小倉亮子 林由希子 早川未緒 立花宝百合 指導教諭:窪田正利 1.研究の動機 私 たち は 、化 学の 授業 で ビデ オ鑑 賞 をし たと き に『 ウユ ニ 塩原 』の 存 在を 知っ て 、 そ の もとになっているトレミー塩に興味を持った。 そ し て、 自 分た ち の手 で 是 非 つ く りあ げ たい と 思 った た め、 こ のテ ー マ で研 究 する こ と にした。 2.ウユニ塩原とトレミー塩について 2-1.ウユニ塩原とは ウユニ塩原は、南米ボリビアのアンデス高地の標高 3,650m(富士山とほぼ同じ位の高さ) にある広さ約 9,000 ㎢(四国の約半分の面積)の世界最大の 塩湖。アンデス山脈は比較的 短時間に隆起してできあがったため、山 間に海水が溜まったままになった。 そこに雨が降って、地表にたまった 様々な物質を運び、海水と雨が混ざって、 非常に濃度の高い溶液ができた。そして それが自然蒸発して、ウユニ塩原ができ あがった。 現在では、3 月までが雨季にあたり、 海水の約 8 倍の塩水に覆われるが、4 月 からの乾季にはすべての水分が蒸発して 広大な塩の平原になる。 2-2.トレミー塩とは トレミー塩は、ウユニ塩原を構成している塩で、中空のピラミット型をしている。 飽和食塩水より結晶化させ るとき、液中で成長させると通常の正六面体(図 1)の結晶 になり、溶液の表面上で成長させると中空の四角錘状のトレミー(図 2)になる。 ←(図 1) ←(図 2) ( 参 考 : http://www.osaka-c.ed.jp/kak/rika1/osaka-ch/chem9-1.htm) 8- 1 実際にトレミー塩は調味料として利用されている。 トレミー塩は、その形から表 面積が大きいため他の塩の結晶よりも溶解性が高い。 そのため、尐量でもしっかり 塩味を感じることができ 、使用量を控えるのに効果的 である。また、素材に馴染み やすいので料理に適している。 3.研究の内容 Ⅰ.トレミー塩を実際につくってみる。 以前偶然にトレミー結晶ができたとさ れる食塩(凝固点降下実験に使用した市販の あらじおに食塩を添加したものをアルミ鍋で加熱して結晶化させたもの )を使って、ト レミー塩ができるか実験する。 Ⅱ.Ⅰをもとに、トレミー塩の再現性の良い再結晶法を調べる。 ① 塩化ナトリウムの良い再結晶法 、加熱法を調べる。 ② 実験に使用する容器を選定する。 ⇒実験条件の決定 Ⅲ.Al 3+ の添加による結晶形の違いを調べる。 ① 文献による人工ウユニ塩を再現し、トレミー塩 をつくることができる か調べる。 ② 市販のあらじおでトレミー塩をつくることができるか調べる。 ③ 人工ウユニ塩とあらじおに Al 3+ を添加して調べる。 4,研究の方法 Ⅰ.以前偶然にできた時と条件を同じにして、トレミー塩をつくってみる。 条件:そのときと同じ食塩を使用し、アルミ鍋でゆっくりと煮る。 Ⅱ.①再結晶の条件、加熱の方法について ・自然蒸発乾燥法 溶液を放置し、自然に蒸発させることで再結晶 化させる方法。塩化ナトリウムは温度による溶解 度の変化がほとんど無いため、通常はこの方法で 結晶を析出させる。 ・強制蒸発乾燥法 シリカゲルを使って、強制的に蒸発をさせる。上記の 自然蒸発乾燥法と比べて時間 を短縮できる。 ・天日再現法↓ 上から白熱灯を当て蒸発、乾燥を促す。 8- 2 ・ウォーターバス加熱法 「恒温水槽」を図のように設置し、 ビーカーは揺れを抑えるために二重にして中に 入れる。一定の温度に保つことができ、じっくり加熱することができる。 ・ホットプレート(ストーブ)加熱法 ホットプレートまたはストーブを使って、加熱 する。揺れが尐なく、観察がしやすい。 また、容 器の下に金網を敷くと温度が調節でき る。 ② 使用する容器の選別について 以下の容器の中で、①の方法に適した容器を調べる。 ・ビーカー(通常の実験器具) ・平型蒸発皿 ・アルミ行平鍋(以前できた時と同型) ③ 原液とする飽和溶液について 水 1000ml に対して、表Aの物質(NaCl→358・CaSO4→4.37・MgCl2→1.99・MgSO4→ 0.47・KCl→0.68)と、表Bの中から特に値が高い物質(Li→15.4・Sr→10.4・Fe→1.86) を②で選定した容器に入れ、よく溶かす。 この溶液(以降[人工ウユニ塩]と呼ぶ)を原液として、他の物質を加えて 含まれて いる物質の量を変化させたりしてトレミー塩の製塩法に適している配合を調べていく。 また、市販のあらじお の飽和水溶液を原液として同様に調べる。 8- 3 5.研究の結果 Ⅰ.トレミー塩を実際につくってみる。 ・普通の塩化ナトリウム ・ウユニ塩原と同成分 ・あらじお ⇒トレミー塩にならない ⇒トレミー塩にならない ⇒トレミー塩にならない ↓ ・ 以 前 、 凝 固 点降 下 実 験に 使 用 し た 市販 の あ らじ お に 食 塩 を添 加 し たも の を 何 度 もア ルミ鍋で結晶化させたもの ⇒トレミー塩はできたが 5 ㎜ほどで、おおぶりのものではなかった。 ・そこに塩化アルミニウムを加えたもの ⇒おおぶりのトレミー塩の結晶ができた。 (1.5 ㎝角) その結晶の形状は再結晶の回数が増えるにつれて 、縦型から逆ピラミット、傘型、板 状に変化していった。 低 い 濃度(密度) 8- 4 高 Ⅱ.トレミー塩の再現性の良い製塩法を調べる。 ①再結晶の条件、加熱の方法について ・自然蒸発乾燥法 ・・・結晶は通常の正六面 体や、それが集ま った板状のものができ、トレミー型で はなかった。 また、結晶の成長や変化が遅い。 ⇒適さない ・強制蒸発乾燥法 ・・・きれいにできるがトレミー型ではなかった 。 ⇒適さない ・天日再現法 (5mm 角) ・・・表面が板状に固まり、周囲は白く粉状になりくっついてしまった。 ⇒適さない ・ウォーターバス加熱法 ・・・55℃で実験すると結晶ができやすく、粒状になるがトレミー型には ならなかった。機械による揺れが大きいので表面に浮いた結晶が沈 んでしまった。 ⇒適さない (1 ㎝角) 8- 5 ・ホットプレート(ストーブ)加熱法 ・・・金網を敷いてうまく温度を調節すると、揺れが尐なく結晶が沈みに くかった。 ⇒適している。 ②使用する容器について ・ビーカー・・・ほとんどの実験には適していて、ホットプレートの実験では金網を下 に敷くと使用できた。しかし、底が深く結晶を採取しにくいこともあ り、底が曲がっているために対流がおきやすく揺れが生じやすかった。 深い場合 →対流がおきる。 浅い場合(3cm)→対流は尐ない。 3cm以下 ・平型蒸発皿 →乾固してしまう。 ・・・ホットプレートの実験に適している。溶液が尐ないと 温度が高く なり過ぎてしまうため、金網を下に敷くと良い。 ・アルミ行平鍋・・・ストーブにかけていたことから、ストーブの実験に適している。 ◎実験条件の決定 上記の結果から実験条件を決定する。 ・ホットプレート加熱法 ・蒸発皿(必要に応じて金網を使用する。) Ⅲ.Al 3+ の添加による結晶形の違いを調べる。 8- 6 ① 文献による人工ウユニ塩を再現し、トレミー塩をつくることができるか調べる。 ・ 文 献 に よ る とウ ユ ニ 塩原 か ら 産 出 する 天 然 塩の 組 成 は 以 下の と お り。 こ れ を 元 に飽 和溶液を作った。 ・飽和食塩水 100mlをホットプレート加熱法で平型蒸発皿を用いて実験した。 市販の「ウユニ塩湖の天然塩」の組成[%] (上の列) 食塩の溶解度 35.8g(20℃)として 20℃で 1000gの溶液をつくると仮定した質量 [g] (下の列) 測定結果 加熱減量 不溶解分 Cl Ca Mg SO4 K Na 1.02 0.02 59.22 0.36 0.093 0.97 0.099 38.22 3.76 0.0737 結合計算結果 NaCl CaSO 4 CaCl 2 MgCl 2 MgSO 4 KCl Na 2 SO 4 pH 97.16 1.22 ― 0.26 0.13 0.19 ― 9.0 358 (369g 中) 4.37 1.99 0.47 0.68 輸入製品の微量成分分析結果 (上の列) 食塩の溶解度35.8g(20℃)として20℃で1000gの溶液を作ると仮定した質量 [mg/kg] (下の列) Br PO 4 B Cr Mn Fe Cu Zn Cd Li Al Sr As Hg Pb N.D 2.0 30 N.D 1.7 5.2 N.D 0.22 N.D 43 1.8 29 0.53 N.D N.D 0.716 10.7 0.609 1.86 15.4 0.645 10.4 0.190 0.0788 N.D:測 定下限 以下 ( 参 考 : http://www.shiojigyo.com/a080data/img/data06_02.pdf#search=' 市 販 食 塩 の 品 質 ') ⇒飽和溶液を使ってもトレミー塩はできなかった。 ② 市販のあらじおでトレミー塩をつくることができるか 調べる。 市販のあらじお「赤穂塩 しぶき」を飽和した食塩水 100m l をホ ッ トプ レー ト 加 熱法 で 平 型蒸 発皿 を 用 い て実験した。 ⇒飽和溶液を使ってもトレミー塩はできなかった。 ③ [人工ウユニ塩]とあらじおに Al 3+ を添加して調べる。 8- 7 純粋な塩化ナトリウム、[人工ウユニ塩]、あらじおだけではトレミー型にはなら なかったため、他の物質を加え て、その効果を調べてみた。 実際にトレミー塩ができている 実験ではアルミ鍋を使用しており、アルミ鍋が腐 食していたことから、Al 3+ を添加したらできるのではないかと考えた。 ・[人工ウユニ塩]に塩化アルミニウムを加えた場合 0.0001g(ウユニ塩原の結晶の組成から求めた Al の値) 0.1g(尐し多くした) 0.7g(さらに多くした) ⇒粒状になる。一見ト レミー型のように見え るが、しっかりしたト レミー型には ならない。 ・ 以前トレミー塩ができたとされる、市販のあらじおの飽和水溶液を原液として、 塩 化アルミニウムを加えた場合。 1) 2) 0g(あらじおの飽和水溶液)→通常のフレーク型の結晶ができる。 0.5g→かなり小さかったが、トレミー型の結晶ができていた。 量が尐なかった。 8- 8 3)1.0g→全体としては小ぶりだが 0.5gのときよりも大きめで、しっかりしたトレ ミー型だった。 4)1.5g→尐しはトレミー型もあ ったが、フレーク状に戻ってしまった。 6.考察 (1) 塩化ナトリウムを再結晶したあと、析出した結晶を取り除いた溶液をさらに再結晶 すると、塩化ナトリウムの溶解量の減尐に伴い、次第に尐ない蒸発量で結晶が析出す る。しかし、飽和水溶液中のその他の成分の量は変化しないため、蒸発にともない 飽 和水溶液中の水量は減尐していく。すると、結果的にその他の成分の濃度は高まる。 したがって、溶液の密度や粘度は大きくなる。 密度が大きい場合、結晶の浮力が大きくなり、表面上に滞留する時間が長くなりト レミー型の結晶になる。しかし、密度が大きす ぎると表面上で板状に結晶が成長し、 トレミー型にならない。 したがって、トレミー型結晶を再現性よく作る条件には、溶液の密度が関係してい ると思われる。 そして、アルミ製の鍋を使用することで溶液にアルミニウムが溶け出していること も考えられる。 8- 9 ( 2) ア ルミニウム を加え ると、明 らかにトレミ ー型に近 くなるが分量 を変える だけで は 有意の差がでない。他の物質との相乗効果があるのではないかと思われる。 しかしアルミニウムは、実際にトレミー塩ができている Ⅰの実験でも含まれている と考えると、尐なからずトレミー塩の組成に関係していると思われる。 また、アルミニウムを全く入れなかったものと、入れたものとでは形が大きく違っ たことから、アルミニウムは結晶の形状に影響があるのではないかと考える。 加えるアルミニウムの量は 、1.0g前後だとわかったので、これからより突き詰めて いく必要がある。 (3) 今回、実験で使用した市販のあらじおの組成は、マグネシウムが多く含まれていた。 そのあらじおでトレミー塩ができあがっていることから、マグネシウムの密度によっ て浮力が高まり、トレミー塩ができやすくなったと思われる。 7.まとめ・今後の課題 上記の研究からわかるトレミー塩の再現性のある製 塩法は、 ・ 市販のあらじお「赤穂塩 しぶき」の飽和食塩水 100ml に 塩化アルミニウム 1.5g を溶かした溶液を平型蒸発皿に入れる。 ・ホットプレートの上に金網を敷いた上に乗せて加熱する。 今回の研究では、溶液を一から作ることができず、また、添加する Al 3+ の分量を細かく 調べることができなかったので、今後の課題としたい。 ま た 、文 献に よる とトレ ミ ー型 に結 晶さ せるた め に媒 晶剤 とよ ばれる イ オン ( Bi 3+ ) の 効果が考えられる。Al 3+ と同じ3価であることが 関係あるかどうかも課題となる。 8.反省・感想 小倉 難しい研究だったが、先生やメンバーと一緒に研究を進めるうちに、色々な事を発 見できた。楽しい研究になって良 かった。まだ課題が残っているのでもっと研究で きたらいいと思った。 林 化学の分野はとても苦手だったが、今回の研究のおかげで化学を身近に感じること ができた。溶質の分量を変えたり、実験方法を工夫したりして、自分たちでトレ ミー塩をつくることはとても面白かった。これからも身近な化学を楽しんでいき たい。 早川 ウユニの仕組みを理解するのが難しかったが、トレミー塩をつくることができて、 とても嬉しかった。先生方にはお世話になりました。 立花 みんなで協力して研究を進められてよかった。いろんな工夫をしていく中で新しい 発 見 が あ っ た の が よ かっ た と 思 っ た 。 結 晶 を作 る の が と て も 難 し いこ と だ と わ か った。 8- 10 9. 参考 URL、参考文献、 ・旭化成株式会社ホームページ http://www.asahi-kasei.co.jp/asahi/jp/news/2000/ot000418.html ・塩分の気になる方に『リソルト』公式サイト 自然派のサラヤ http://www.resalt.jp/ ・大阪府教育センター「大阪と科学教育(平成9年度)」 1996 №11 食塩結晶の析出における鉛イオンの効果とその利用(利安義雄・山本勝博) http://www.osaka-c.ed.jp/kak/rika1/osaka-ch/chem9-1.htm ・(財)塩事業センター海水総合研究所 http://www.shiojigyo.com/newslaboratory/ ・市販食塩の品質 ・市販食塩の品質(Ⅱ) http://www.shiojigyo.com/a080data/img/data06_02.pdf#search=' 市販食塩の品質' ・食塩の結晶を透明な立方体に近づける ・たばこ塩産業 塩事業版 塩なんでも Q&A、 塩百科 塩・話・解・題 ・平成 9 年度、「大阪と科学教育」 食塩結晶の析出における鉛イオンの効果とその利用 ・平成 21 年度 理数科課題研究報告書 ・平成 18 年度 科学技術教育重点推進校事業 研究発表会 ・ミョウバン飽和水溶液からの結晶製作と教育実践 -二槽式結晶育成装置による巨大結晶の成長観察― 山本 ・MSN Japan bing 画像 http://jp.msn.com/?ocid=iehp 8- 11 勝博
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