岩手大学教育学部研究年報第37巻(1977) 和服縫製における衿肩まわりの研究 池田揚子* Ⅰ緒言 戦後において和服・洋服の二重生活が衣料の大量消費をもたらすことで批判を受け,機能的 な衣服として洋服化傾向が助長された。然し衣服は耐久消費財的性格をもつもので,和服は年 配者や愛用していた人々によって温存され,こんにちも多くの人々に着用され,衣生活にはな くてはならないものとなっている。この和服は平面構成であり,直線縫いの部分が殆んどであ るが,衿肩まわりだけが,出来上りの状態ではカーブのあるものに仕上げられている。つまり 身頃の衿肩あきをやや直角に開いた形にし,その部分に平面的な衿をつけて立体感をもたせる もので,えりぐりにつかず離れずの和服特有の衣紋を形作るのである。和服の縫製ではこの衿 肩まわりの部分が最もむずかしいところで,1年のための被服構成実習に和裁を入れている が,世俗に「この頃の人は縫いものが出来ない」と言われるよゲこ,あんにたがわずすっきり と縫える人は少ない。和服の寸法では衿肩あきや,くりこしを何センチメードレにすることが よいのか常に疑問なので,衿肩まわりの縫製のよくできるための方策を見え出すことと合せ て,今までの多くの研究1)をもとに,検討することを目的として実験的に追跡した結果を報告 する。 Ⅱ研究方法 1大鼓女物袷長着の衿肩あきとくりこし寸法の関係について 実際の着装状態(肌橘梓,長橋禅,袷長着を重ねて着装)において衿肩あき寸法が同じ場合で も,くりこしの分量,衿肩あきのあけ方によってどのように衣紋の形が異なるのか。またくり こしの分量,衿肩あきのあけ方が同じ場合でも,衿肩あき寸法が異なると,どのよダこなるの かということについて,試料布を用いて,合計10通りの寸法設定にもとづき,和服上衣部分の みを製作し,着装方法を2通りとして7項目について計測を行ない,その結果と写真2)によっ て,結果の分析を行なうこととした。 ①衣紋に関係する計測項目3)と計測値 検討内容量の関係から対象者1人とし,必要な計測項目をヤルチンの計測器を使用して測定 した。 計測値は第1表の通りである。 *岩手大学教育学部 1)高月登志子,東京家政大学研究紀要第15巻.市川一丸星野ハル枝,衣服学会誌VOl,20.No.1(1976). 神田和子,本田雪子,木下陸肥路,家政学雑誌Vol・26・N0−7(1975). 2)写真については身頃の前面部,背面瓢両側面を撮ったが,掲載するものについては側面のみとする. 3)計測項目のうち,側面頸長については,高尾澄江,家政学雑誌Vo],20,No.4(1969)による. 池 田 揚 子 84 第1表 計測項目と計測値 身長は153.5e花 *肩の厚みは肩甲骨の位置 第2表 試料布の明細 *剛軟度の測定はハートループ法による。(測定値は5回の平均値) 第3表 寸法の設定と着装方法の組合せ ②試料布 和服は現状では晴着としての性格が強いので試料布は絹物とした。但し礪祥地ほ市販のポリ エステル100%地を用いた。組成の明細は第2表の通りである。 ③寸法の設定と着装方法との組合せ 第3表に示すとおりである。なお衿肩あき寸法の8.5∽ほ頸囲の‰ 9.3e耽は胸囲の}るの割り 出しによった。着装方法の2通りとはアの方法として,一定の着方4)をするものとした。頭椎 4)高月智志子「衣紋」衣生活Vol.9.No.4(1975)を参考とした. 和服縫製における衿肩まわりの研究 (235) 第1図 計測の実際 ① 点より左右にそれぞj・l′衿肩あき寸法と同じ長さをとり,その点に肩山を合わせ,前は頸寓点よ り4c都下の位置で合わせる。剣先の位置の衿幅は7.8c況とする。イの方法としては特に制限を つけず,肩山の位置を極端にずらさないように自然に整え,剣先の位置の衿幅ほアの方法と同 様7.8e彿とする。 ④測定項目 着装方法アについては第1図に示す1∼6までの6箇所,着装方法イについては1項目を加 えて7箇所,第1図の1∼7までの測定を行なった。測定方法の第1図の1は背中心の位置で 頭と衿上端の離れ寸法をおもりをつけた定規を用いて測定する。第1図の2は,背中心の位置 で角度が自由に変えられるスケール5)で,衿付け線にあてて開角度を測定する。第1図の3 は,肩山の位置で上記のスケールを用い,衿の開角度を測定する。第1図の4は,頸の側面 (耳の下の延長上)におもりをつけた定規をあて,肩山の位置で頚と衿の上端の離れ寸法を測定 する。第1図の5は,頚椎点と衿つけ点との離れ寸法を,衿つけ点に表から針をさして測定す る。第1図の6は,背面で左右衿山の曲線距離を測定する。第1図の7は,前の衿の打合わせ の頸窟点からの距離を測定する。(衿とは表着の衿をさす) ⑤試験衣の製作方法 ・裁ち合わせ方,1度袷長着を作ったものであり再利用である。用布は並幅1反分であり, 衿肩あき直線あけ用1枚分(初捌こ少ない方の衿肩あき分を作り,測定を行った後に多い方の衿肩あ きの分を作る)と,曲線あけの衿肩あきの分を作るもの2枚分(くりこし2e課,くりこし3c郡のも の)で合計3枚分を裁ち合わせた。裁ち方は第2図に示した。長橋祥ほ表着の寸法に合わせて 製作し,半衿をつけた。肌席祥は既製品を使用した。 5)コンパスの軸を利用. 85 池 田 揚 子 86 (236) 第4表 試験衣の仕立上げ寸法 ・仕立てあげ寸法は第4表に 第2図 試験衣の裁ち合せ図 ……… は試験衣の裁断の位置 示す通りである 単位:e澗 ︵もとの身頃︶ 2 衿肩まわりの縫い方について 和服の衿肩あきのあけ方ほ, 従来までほ,一般に直線あけの 方法をとったので,衿肩まわり ︵もとの袖︶ の部分で衿側のゆるみが不足す ると,身頃が縮む状態なので,曲 線あけ6)の方法によると衿肩ま わりの部分が曲線となり無理な く衿く0りのゆるみほ自然に入れ られる。但し曲線あけはくりこ しをつける場合に用いられる。 その他に内揚げをしてくりこし(もとの衿) をすることもある。この両者を (もとの社) 標つけで比較すると第3図の① のようになる。曲線あけと直線あけの場合の衿肩まわりの違いを第3図の②に示す。1年次対 象の被服構成実習の初めに肌福祥の製作にとりくみ,曲線あけの衿肩あきとして縫製を試みた。 第3図−−く参 曲線あけと直線あけのちがい 単位:c珊 ___眉._ 山 + 標つけにニニ冨慧霊;‡ 6)土井幸代著「和裁」同文書院(1969). 衿肩あきのあけ方t 仙…・ 直線あけ 曲線あけ (237) 和服縫製における衿扁まわりの研究 87 Ⅲ 結果および考察 1大裁女物袷長者の衿肩あきとくりこし寸法の関係についての結果 測定値を第5表に示す。 測定結果をもとに,着装方法2通りについて,それぞれ次の項目の差の検定を,一元配置の 分散分析によって行った。 1,くりこしが同じで,衿扁あきの直線あけと曲線あけの比較をする。 ①A方法(衿扁あき8.5c彿)におけるくりこしが同寸法であるものについて(Aの2とAの4, Aの3とAの5) ②B方法(衿肩あき9.3c胡)におけるくりこしが同寸法であるものについて(Bの2とBの4, Bの3とBの5) 2,衿肩あきの直線あけと曲線あ桝こよるくりこしの比較をする。 ①直線あけにおけるくりこし寸法が異なるものについて(Aの1とAの2とAの3,Bの1とB の2とBの3) 第5表 測 定 値 * の数値の負の値は頚椎点から腰匿向って出た値で下の方にさがった場合である。 (単位:c郡) 池 田 揚 子 88 (238) ②曲線あ桝こおけるくりこし寸法が異なるものについて(Aの4とAの5,Bの4とBの5) 3,くりこしが同じ寸法のものについて,衿肩あきの差をみる。(Aの1とBの1,Aの2とB の2,Aの3とBの3,Aの4とBの4,Aの5とBの5) 以上の結果を着装方法アについては第6表∼第10表に示し,項目ごとに考察を試みる。第6 表によって直線あけと曲線あけの有意差検定した結果をみると,くりこしが2c耽の場合は殆ん ど有意差が認められず④の肩山の位置で頸と衿の離れ寸法のみ5%水準で有意差が認められ た。くりこしが3c帯の場合は,測定箇所6項目中,①②③⑤の4項目が1%水準で有意差が認 められた。着装した写真によっても顕著な差がみられる。全体的にみてAの5の方がAの3に 比べて,前正面から見て衿が肩に沿って倒れ,衣紋が後ろに抜けた形となっていて頭が長く見 える。つまり,衿肩あき8.5c耽でくりこしが3β彿のときは,直線あけよりも曲線あけの方が抜 衣紋となる。 第7表は衿肩あきを9.3c鵡とした場合の直線あけと曲線あけの有意差検定の結果であるが, くりこしが2c従の暗も3c耽の時も,測定項目の②と③では1%水準で有意差が認められた。殊 に曲線あけの差が頗著であった。着装した感じからは,衿肩まわりが多きすぎるようであった。 第8表は直線あけで,くりこしの異なるものの差の検定結果であるが,8・5c彿でも9・3c潤でも 測定項目の殆んどの箇所で1%水準で有意差が認められた。9.3e郡よりも8・5c糀の差が掛こ顕著 第6表 衿肩あき8.5c郡,くりこし同寸法であ るものの分散比(着装方法ア) 測定箇所l比較項目i分散比 **1%水準で有意 一 * 5%水準で有意 分析不可能(差がないため)。 第7表∼第15表匿おいても同じ。 第7表 衿肩あき9.3c沸くりこし同寸法であ るものの分散比(着装方法ア) 測定箇所l比較項目l分散比 和服縫製における衿扁まわりの研究 (239) 第8表 直線あ桝こおけるくりこしの異なるもの 第9表 曲線あけにおけるくりこしの異なる の分散比(着装方法ア) もの分散比(着装方法ア) 第10表 A方法とB方法のくりこし同寸法の比較(着装方法ア) 、、、 比較項目 \\ 篭詣賢宗触覧蒜触表芸触宗摘幣羞衿陸墨宗法孟 曲線距離 \\」の離れ寸法一角度 度 l離れ寸法 であった。第9表は曲線あけのものに関しての結果であるが直線あけと同様にAの4とAの5 でほ全ての項目で,またBの4とBの5では①,②,③の項目で1タ‘水準で有意差が認められ た。第10表は衿肩あきの違いを比較した検定結果であるが,くりこしのないものでは測定項目 ①で顕著に有意差があり③,④,⑤でも1%水準で差が認められた。直線あけくりこし2e課で は①の項目で有意水準1%で,③の項目では5%水準で差が認められ,他の②,④,⑤,⑥で は差が認められなかった。直線あけで3c沈のくりこしのものは,①,②,③,④,⑤の項目で 1%水準で有意差が認められ,最も差が多い結果が得られた。曲線あけの場合は3c沈のくりこ 89 90 池 田 揚 子 (240) しよりも2c況の方が項目的には1%水準や5%水準で差が認められた。これは衿肩あき8.5c都 の方が頑の側面に衿山が密着し,肩に沿って倒れたかたちで,後ろに衣紋が抜けるということ である。 着装方法イについての有意差検定結果を,第11表∼第15表に示し,表に従って考察を進め る。第11表ではくりこしが2c郡で衿肩あき8.5c珊の場合は⑥の測定項目,衿山の曲線距離に顕 著な差が認められ,ついで⑤,⑦,②の順に差が少なくなっているが,これらの項目では何れ も1%水準で差が認められた。衿肩あき8.5c駕でくりこし3c珊の場合も同様に⑥の測定項目の 差は顔著であり,④,③の項目,肩山での頭と衿の離れ寸法や,衿の開角度にも1%水準で差 が認められた。着装方法アに比較して,イの着装方法においては,各項目で差がみられ,特に ⑥,⑦の測定箇所で差がみられた。着方からすれば,衣紋が抜けたかたちとなり前打合わせが つまった感じである。曲線あけの方が,頸もとになじみ,着つけやすく,衿付け線のカーブも 美しく見えた。 第12表は衿肩あきを9.3e胱とした場合であるが,8.3e珊の衿肩あきの時と同様に各測定項目で 有意差が認められた。くりこし2c駕のものでは,①の背中心の衿と頭の離れ寸法に差が認めら れたが,②の衿の背中心での差,③の肩山の閲角度の差,④の肩山での頸と衿の離れ寸法には 第11表 衿肩あき8.5c珊でくりこし同寸法の ものの分散比(着装方法イ) 測定箇所】比較項目l分散比 第12表 衿肩あき9.5e耽でくりこし同寸法の ものの分散比(着装方法イ) 測定箇所l比較項目l分散比 和服縫製における衿扁まわりの研究 (241) 第13表 直線あけでくりこしの異なるものの分散 比(着装方法イ) 91 第14表 曲線あけでくりこしの異なるものの 分散比(着装方法イ) 測定箇所l 比 較 項 目 第15表 A方法とB方法でくりこしが同寸法のものの分散比(着装方法イ) 差が認められなかった。曲線あけでは,くりこし2c彿の方が,前打合わせが短くつまり,後ろ に衣紋が抜けたかたちとなることがわかる。 第13表は直線あけでくりこしの異なるものについての検定結果であるが,8.5c彿の衿肩あき でほ⑥の衿山の曲線距離に有意な差が認められ,⑤の衿付け点と頚椎点の差,⑦の前打合せ等 池 田 揚 子 92 に同様差が認められた。①,②,③,④の測定項目では差は認められなかった。この着装方法 では,くりこしが,0,2,3c刑と変化しても,背面における衿の倒れ具合には,殆んど差は 見られない。くりこしOe胱のものでは衿もとがつまった感じであった。 曲線あけのものに関しては,第14表から,8.5c彿の衿肩あきのもので,測定項目①,②,③, ⑤,⑥,⑦については1%水準で,④,についてほ5%水準で有意差で認められた。この場合 では,くりこしの多い3c郡の方が衣紋が抜ける感じであった。着装方法アと比較してみると, 顕著な差ではなかった。また衿肩あきが9.3c舵の場合では,②,③,⑥,⑦,の測定項目で有 意水準1%で,①では5%で差が認められた。くりこし3c統の方が衣紋が多くなることがわか る。 第15表の検定結果は,衿肩あきの差を直線あけの場合くりこし,0,2,3c彿とし,曲線あ けの場合くりこしを2,3c郡としたものの差をみるのであるが,くりこしがない時は④と⑦の 測定項目に有意差が認められないが,くりこしのある場合はこの測定項目で,1%水準で有意 差が認められた。 直線あけでくりこしのある場合,2c珊では③と⑤の測冠項目で,3e珊の場合③の測定項目で 差がなくその他では全て1%水準で有意差が認められた。 曲線あけでくりこしのある場合,2e況では①の測定項目で差が認められず,③,④,⑤,⑥, ⑦,では1%水準で,②でほ5%水準で差が認められ,3c況の場合でほ,①と⑤の測定項目を 除いて1%水準で有意差が認められた。 着装からみると,くりこしのない場合は,8.5c彿の衿肩あきで,衿山が頸に密着し,9.3e課の 方では,衿がゆったりと立ったかたちとなる。直線あけでくりこし2c珊の場合は,衿肩あき 9.3c珊の方が,衿が下がり,後ろに衣紋が抜けたかたちとなる。くりこし3c郡の場合は8.5c珊の 衿肩あきの方が衿つけ点より下がり,同じような衣紋のかたちとなる。 曲線あけでくりこし2e潤の場合でも3c潤の場合でも衿扁あきが多いと衣紋が抜けたかたちと なり,衿が下がり頚が長く見える感じとなる。 以上の結果を着装方法別に比較すると次のようになる。 1.衿肩あきのあけ方の違いでみると,着装方法アでは,曲線あけの方が衣紋に抜けたかた ちとなる。着装方法イでも同様な傾向が見られたが,衿肩あき9.3c珊の方が衣紋が後ろに抜け るかたちとなった。 2.衿付け縫いこみの違いでみると,着装方法別にみて衿肩あきの大きさによって衣紋の抜 け方に差はない。着装方法アでほくりこしが増すと衣紋に抜け,また曲線あけでくりこしが増 すと衣紋が多くなる傾向を示す。着装方法イでは衣紋がほぼ一定で前打合わせが変化する。 3.衿肩あき寸法のちがいでみると,着装方法別に大差はないが,着装方法のイでは,曲線 あけで9.3c鵡の方が頚椎点の位置で,衿付が下り首がその分だけ長く見える感じである。 今までの考察は計測値による差の検定と計測時の着装写真をもととしてすすめたので,以下 に写真を貼布する。 以上をまとめて体格にあった寸法としての衿肩明きの長さ,くりこし寸法,そして衿肩あき を直線あけとするか曲線あけとするかを判断すると以下の通りである。 体格の特徴は,なで肩,長頭で頑付根囲は標準であるが頸付根横径が広いけれども,衿扇あ き寸法を胸囲からの割り出しによる9.3∽如こすると,くりこし,衿扁あきのあけ方にかかわら ず衿もとがゆったりしすぎる。くりこしが2c刑のものは,3e潤よりも頭から肩にかけて衿がな (242) ︵N畠︶ 写 真 着装方法アについて(側面) (1)衿扁あき8.5c況で直線あけほくりこし0,2,3c潤としてアーA−1∼3 曲線あけはくりこし2,3ぐ郡としてアーA−4∼5 (2)衿肩あき9,5c潤で直線あけはくりこし0,2,3ぐ椚としてアーB ̄1∼3 曲線あけはくりこし2,3c況としてアーB−4∼5 蛍宗温磨芦語草か事凱抽計ふ8望濾 り︺ 写 真 着装方法イについて(側面) (3)衿肩あき8.5c仇で直線あけはくりこし0,2,3c催としてイーA−1∼3, 曲線あけはくりこし2,3c糀としてイーA−4∼5 (4)衿肩あき9.3c珊で直線あけはくケこし0,2,3〇糀としてイーB−1∼3, 曲線あけはくりこし2,3c彷としてイーB−4∼5 N ( Jゝ 和服縫製における衿肩まわりの研究 (245) 95 第16表 衿肩あきのあけ方の相違と縫い方についての評価 衿肩まわりの縫い方の状態 直線あけ1曲線あけ よ い 備 考 52 妄 衿肩まわり部分衿がゆるすぎる 〝 が不足する かたまわり部分のカーブが曲っ てきれいにできない。 噂位は% じみ,衣紋もほどよく抜ける。 衿扇あきが曲線の方が,直線よりも,縫製面では縫いやすく,縫いあがりの衿肩まわりがき れいなカープとなり,着装した場合もよく体になじむようである。 2 衿肩まわりの縫い方についての結果 衿肩まわりの縫い方の検討をすすめてきた結果にもとづいて,和裁の縫製が初めてという未 経験の学生に肌禰件の作成を通して衿肩まわりの出来具合を評価した結果は第16表の通りであ る。 衿肩あきを直線あけにした場合と曲線にした時の対象学生は同一ではなく何れも1年次であ り経験の状態も一様で直線あけの方の実施は51年4月であり,曲線の方は52年4月である。 結果を見ると,身頃と衿のつりあいでは,曲線あけの方がよくつりあっており,86%の対象 者がよくできた。直線の方では30%以下の対象者となり,むずかしいことが伺える。 衿肩まわりの縫い方の状態では,割合は曲線あけで約70%がよく,直線あけの割合は少なく なって30%程度である。 このことから,直線あけの衿肩まわりは,身頃と衿のつりあいも取りにくく,衿扁まわりの 縫い方も曲りやすくてきれいにできにくいことが伺えた。 Ⅳ ま と め 和服における衿肩あきの寸法,くりこしの寸法の検討を縫製の面から着方を通して検討した 結果は次の通りである。 1)くりこしが同寸法の場合は,衿肩あきの寸法の大きさ,着装の方法乾かかわらず・衿肩 あきのあけ方が直線のものより曲線のものの方が抜衣紋となり,背面における衿付け線のカー プが美しい。 2)着装方法が一定㈹の場合は,衿肩あきの寸法の大きさ,衿肩あきのあけ方にかかわら 96 池 田 揚 子 ず,くりこしが増すにつれて抜衣紋となる。衿肩あきのあけ方が曲線の場合は,その差が顕著 である。 3)着装方法を自然なものとした材)場合ほ,衿肩あき寸法の大きさにかかわらず,くりこし が増しても衣紋にはさほどの差がみられない。このことは衣紋の状態が一定に近い着方であっ たと言える。そのためかくりこしのないものは,衿もとに無理がかかり窮屈である。 4)2)と3)から寸法が同じ着物でも着装の方法により衣紋の形を変化させることができ, 着装のT,P,0,に合わせてある程度衣紋の形を変化させることができる。 5)衿肩あきのあけ方とくりこし寸法が同じ場合は,衿肩あき寸法の大きい方が,衿付け位 置が肩に沿って下がり,頸を長く見せる効果があり,衿もとがゆったりしている。しかし衣紋 が後ろに抜けるという効果はなく,落ちつきが悪くて着くずれに影響するようである。 6)前打合せの位置については,着装方法のけ)でほ,抜衣紋がほぼ一様であったため,頸寓 点からの寸法はくりこしのあるものについては4e彿より短かくなり,前打ちあわせがつまった かたちとなる傾向がみられた。 7)和服縫製の上でむずかしいと思われる衿肩まわりの縫い方では,初歩の人でも衿肩あき を曲線あけにすると衿と身頃のつりあいがよくとれ,カーブの出来具合もよくできることが判 明した。 今回は追跡試験の方法の検討もあったので対象者を限定したが今後は対象を増し,類型にし たがって一般化できる方向で検討をすすめる所存である。また衿肩まわりでほ,縫製の面で今 後に尚検討が必要であると思われる。 終りにのぞみ追跡試験に終始ご協力を賜った本学学生,小島三幸氏ならびに本学職員,鈴木 由美子氏に深く謝意を表する。またご助言を賜りました本学清水 房教授に対し深く感謝いた します。 (246)
© Copyright 2024 ExpyDoc