20150723石田東生氏資料 - 国際大学グローバル・コミュニケーション

国際大学GLOCOM 公開コロキウム
超高齢社会における
都市とモビリティの形
2015.7.23
筑波大学 社会工学域 教授
(一財) 日本みち研究所 理事長
石 田
東 生
最初に、結論
主張したいこと
都市交通モデルの改革を
新しい公共交通
超小型モビリティ
議論したいこと
実現性を高める工夫
(社会のイノベーション)
話の概要
• わが国のまちと交通
これまでとこれから
– 都市の移り変わりと自動車
• 公共交通のあり方
– 公共交通への期待と現実
– 富山市の挑戦
• 超小型モビリティへの注目
– 超小型モビリティとは?
– 参考になるモデル UKの超小型モビリティ
• 提案し議論したいこと
– 新しい交通システムの可能性(クルマ・公共交通)
– 新しいインフラと社会受容の追求(社会イノベーション)
わが国のまちと交通
都市の移り変わりと自動車
まちと交通
近代都市
東京
世界一の大都市圏
人口
3,400万人
都心への通勤通学者数
600万人
社会経済活動を支えるインフラ
鉄道・道路
上下水道
電力・情報
民鉄による沿線開発と都市構造
土地性の喪失
開発技術の進展と立地必然性の喪失
地形の意味 国会議事堂、靖国神社
インフラへの過信
巨大外力の想定
都市構造 Palm & Fingers
地形よりはインフラ(鉄道)により影響された
都市構造
自動車の魅力 モビリティ向上と選択肢の増加
圧倒的に安くなったクルマ
万人に同じ時間制約
モビリティの向上による選択範囲と
自由度の向上が実現したサービス
レベルと生活水準の向上
だから、クルマ
徒歩(5km)
自転車(15km)
自動車:一般道(30km)
自動車:高速道(80km)
距離の比
面積の比
1
1
3
9
6
36
16
256
住宅の郊外化・低密度化
密集市街地
災害危険性
省エネ
郊外住宅地
低密度化
エネルギー使用
よりよい住環境
豊かな生活
都市の外延化・低密度化 金沢市の変化
1960年
1980年
2000年
人口 279,000人
人口 414,000人
人口 456,000人
豊かなくらしの実現
都市は成長(人口増加)
CO2排出の急激な増加
都市的魅力の喪失
都市経営への負担
(単位:人/km2)
20,000 15,000 - 20,000
10,000 - 15,000
8,000 - 10,000
6,000 - 8,000
4,000 - 6,000
2,000 - 4,000
0 - 2,000
ロードサイド店の立地
バイパス
国道50号線 結城市
旧道
必要性と機能の主張
(トリップ/人・日)
自動車の有無が
2.5
2.29
2.51
2.53
2.51
1.84
2.0
1.42
1.5
1.11
1.0
0.5
5~64歳
2.20
2.46
2.64
2.0
自分専用
家族共用
なし
自分専用
65~74歳
75歳~
2.41
2.08
2.01
1.55
1.43
1.5
0.99
1.0
0.5
5~64歳
65~74歳
地方圏
自分専用
家族共用
なし
自分専用
家族共用
なし
自分専用
0.0
家族共用
(公共交通のサービスの差)
2.5
なし
地方圏の方が差が大きい
(トリップ/人・日)
若年層では差は小さいが、高
齢者、特に後期高齢者で差が
拡大
3.0
家族共用
なし
自分専用
なし
0.0
交通行動に与える影響
(トリップの変化)
自分専用の自動車がある方が
活発
2.40
2.16
家族共用
超高齢社会の
モビリティ
三大都市圏
3.0
75歳~
データ:H17全国都市交通特性調査
生活/都市構造の変化
中心にクルマ
消費者行動
の変化
車の増加
↑↓
モビリティの向上
↑↓
保有率の増加
自動車
土地利用の変化
交通
公共交通の
質の低下
乗客数の低下
↑↓
サービスの低下
自動車への
過度の依存
渋滞
環境・CO2
事故
まちの衰退
中心市街地
都市経営
厳しくなる制約
公平性
財政
モビリティ・
環境
ディバイド
空間
社会参画
都市近郊・周辺地域
における
住宅,業務,商業施設の
低密度開発
拡散型から集約型都市構造への再編の必要性
各都市における市街化は公共交通沿線に発展、高度成長期以降、モータリゼーションの進展とともに
市街地が外延化し低密度の市街地として拡張
今後、少子・超高齢社会に対応した「歩いて暮らせるコンパクトな集約型都市構造」への再編が不可欠
都市局の政策
物理的ンパクトシティ
方向性はその通り
三つの懸念
物理的再編の方策
財源は十分か
自治体に力があるか
時間管理
間に合うか
何処にでも適用できるか
機能的コンパクトシティ
経過的措置
都市構造(土地利用)転換
は前提しない
交通・エネルギー負荷の削減
国土交通省HPに加筆
これからの、まちと交通
ICTと超高齢化に注目すると
非中心化
閉鎖化
ICTによる脱中心性
サイバー空間と非中心化
都市の縮退(コンパクト化)
と取り残され
積極的閉じこもり(オタク)
閉じこもり独居老人
低密・外延化の進捗
ウェルネスの低下
モビリティ・ディバイド
社会参画低下
心と身体の健康
都市経営の困難性
土地性の
喪失
避難、歴史・文化・伝統
維持・管理
サービス提供
安心・安全の低下
解決するためのスマート/コンパクト・シティ!!
しかし、スマートシティの提言だけで解決できるか??
ありたい「まちと交通」の姿
活力と魅力にあふれるまち
環境負荷がほとんどないまち
モビリティ・ディバイドのない社会
世界のリーディングモデルに
地域産業にも貢献
自由に、自立して、安全・快適に、
環境・他人・街に優しく、 みんなが移動できる
色々考えると超小型モビリティと新しい公共交通の出番
公共交通のあり方
• 高まる期待と厳しい現実
• 富山LRTと富山市の挑戦
公共交通
高まる期待と厳しい現実
高まる期待
環境
安全性
公平性
高い空間効率性
地域の活性化と開発
厳しい現実
減少する需要
苦しい経営
増大する自動車使用
頑張っている例 富山市
しかし、現実には成立が難しいこともあり
超小型モビリティにも期待
富山LRT のもたらしたもの
• 買い物行動への効果
• 土地利用への効果
都心環状線
セントラム
JCOMM富山大会における
森市長の講演から
(2012.7)
ポートラムによる変化
乗客増
特に大きいのが、
日中 買物・私用
高齢者
環状線(セントラム)の効果
環状線の利用者は
滞在時間
来街頻度
消費額
とも自動車利用者より
大きい
まちの賑わいへの
効果と期待
人口動態
都心地区と公共交通沿線地区
富山LRTのもたらしたもの
• 富山LRTは単独では初期投資を賄いきれないが、・・・
• 都市経営から見ると大きな成果
– 高齢者の元気化 → 社会福祉
– 中心部の活性化 → 税収増(固定資産税、法人税、消費税)
– 都市のコンパクト化
• 富山LRTからのレッスン
– 市民の交通行動は確かに変わる
• MM,インセンティブ、・・・
– 都市経営と総合性
• 中心部の活性化、都市のコンパクト化にも効果
• 総合的施策が必要
• 効果と費用の見える化
超小型モビリティへの注目
• 混乱するイメージ
• ないない尽くしの環境
• 参考になるモデル
– UKの実践
• 期待できる効果
超小型モビリティには共通イメージなし
認証され社会実験等で利用されているのは、日産のNMC・トヨタ車体のコムス
しかし、これらは
最高速度に対して安全面が不十分では(私見)
ないない尽くしの超小型モビリティ
車両認証がない 走行空間がない 免許・ルールがない
(自動車局)
(道路局・都市局) (警察)
Blacknell City Center
Old new town
1949年に計画策定
現在人口 5万人
月曜日の昼にも関わらずたくさんの人出
完全バリアフリー
シニアカーの活躍
Blacknell City Center のシニアカー・ショップ
純民間で商売が成立している
品揃え多数
完全バリアフリー インフラ整備(ニュータウン)
市民からの受容
ビジネスとして成立
more than Mobility社
(2011年6月現在)
製品名
製品価格(円)
最高速度(km/h)
航続距離(km)
運転者重量(kg)
Sovereign 4
101,473
6.4
32
114.3
製品名
TGA SuperSport
製品価格(円)
405,765
最高速度(km/h)
12.8
航続距離(km)
32
運転者重量(kg)
158.75
全部無免許で乗れる
Neo 4
101,473
6.4
32
114.3
Maxima
317,500
6.4
32
226.7
TGA Mystere
278,765
12.8
32
117.8
Royale 4
443,865
12.8
51.2
203.2
TGA Breeze 4
456,565
12.8
48
193.75
Traveso
622,173
12.8
32
222.25
1£=127円,1mile=1.6km,1stone=6.35kgで計算
英国のシニアカーの製造会社
各地域に分散
地域産業化?
Google Map
http://g.co/maps/2q6h4
Southampton のShopmobility
イングランド南部の港湾都市
最近では観光都市として脚光
人口 23万人 (都市圏 100万人)
高齢者・障害者など移動に支障のある人に、
車椅子や電動スクーターを貸し出し、
街中
それらの人々のまちなかにおける移動を助けるサービス
ショッピングセンター
買い物の他、病院・役所・図書館の訪問などにも利用
利用料は無料が多く、会員制
商店街に隣接する駐車場付近に立地
<施設数>
<施設運営形態>
地域
施設数
イングランド
253
北アイルランド
9
スコットランド
28
ウェールズ
14
チャンネル諸島
3
アイルランド共和国
1
合計
308
商店街
5%
地方自治体
25%
独立した慈善団体
70%
全体で約88%が地方自治体から
何らかの財政的な支援を受けている
40年の歴史と社会受容の達成
モビリティと幸福感
筑波大学都市交通研究室調査結果
研究目的: 高齢者を活動能力や交通環境の違いにより
分類し 交通行動・幸福度の違いを明らかにする
仮説
つくば市の高齢者を対象としたアンケート
– 対象: つくば市在中の高齢者(61歳以上)
– 期間: 平成24年12月24日~平成25年1月31日
– 回収: 347部(34%)
調査票の内容
活動能力
個人表 幸福度(5段階評価)
日々の活動について
個人属性
世帯構成
世帯表 利用可能交通手段
(運転免許・利用できる車)
公共交通について
(利用状況・不便に感じる点)
日数
トリップ番号
交通日記表 出発時刻
(3日間の 到着時刻
交通行動の 目的地の場所
記録)
移動目的(13種類)
移動手段(10種類)
交通行動と幸福度の関係性
n=275
ト
リ
ッ
プ
数
/
日
幸福度
カイ2乗検定
有意差なし
図: 1日あたりの平均トリップ回数と幸福度
交通行動 ↔ 幸福度 関係性はみられる
• 主観的幸福度の問題点
– 客観的な視点での評価が必要
• 主観的生活満足度と個人のモビリティレベルとは
有意な関係 神谷・西山ら(2011)6
更なる検討が必要
活動能力と交通行動の関係性
カイ2乗検定
1%水準で有意
図: 活動能力と目的の種類数の関係
カイ2乗検定
5%水準で有意
豊かになる
図: 活動能力と移動時間帯数の関係
活動能力が高い ↔ 交通行動が活発
交通環境と交通行動の関係性
カイ2乗検定
1%水準で有意
平均トリップ数/日
カイ2乗検定
1%水準で有意
豊かになる
平均移動距離/日
車が利用できる ↔ 交通行動が活発
活動能力と交通環境の関係性
高
低
図:活動能力と交通環境の関係性
カイ2乗検定
5%水準で有意
関係あり
活動能力が高い ↔ 車が利用できる
免許・自動車の有無と活動(目的種類数・目的地数)
目的の種類数
カイ2乗検定
1%水準で有意
関係がみられる
豊かでなくなる
目的地の箇所数
車が利用できない → 交通行動が活発でなくなる
36
交通環境・活動能力と豊かさの関連性に関する分析
豊かさの指標
利用できる車のない人
免許がないために車が使えない人
幸福度
(心の豊かさ)
自由に使える自動車
=超小型モビリティを活用
交通行動が活発
交通行動
(生活の豊かさ)
活動
能力
交通
環境
有意差なし
有意差あり
豊かになる
高齢者の生活改善
導入に向けて…
4章 走行空間
5章 制度・ルール
走行空間の検討
つくば市の道路網
-幹線道路(5.5m以上)
-細街路(5.5m未満)
細街路だけで十分なネットワーク
ちなみに、幅員別の道路構成比(全国)
幅5.5m以上…28%
幅5.5m未満…72%
細街路の使い方 シェアドスペース
歩道の無い道路・幅員の狭い道路
シェアドスペース
写真:つくば市天王台付近
写真:イギリス ニューカッスル・アポン・タイン
歩行者・自転車・乳母車
超小型モビリティを主役に
提案し、議論したいこと
• 交通システムについて
• 社会イノベーションの重要性と必要性
提案し、議論したいこと
1
• ありたいまちと交通の姿とスマートネス
– 新しいクルマ
– 新しいインフラ:道路・まち・情報・社会的受容性
• 新しい概念の「クルマ」・超小型モビリティ
–
–
–
–
–
クルマという言葉が適切でないくらいのもの
新しいデザイン、使い方
新しいライフスタイル
新しい公共交通としてのシェアリング
しかし現実には、ないないづくし
– 空間、車両基準、免許・ルール
最初の自動車広告 1888 ベンツ
ダイムラーは素晴らしい動物です。
まるで牡牛のように走る様子はご覧になったことでしょう。
厩舎で休んでいるときには餌を与える必要はありません。
ダイムラーがガソリンを飲み込むのは仕事をしている
ときだけです。
口や脚に伝染病が出たり、愚かなまねをしてあなたを
困らせることもありません。
突然怒りだしてあなたを角に掛けたり、
大事な穀物を踏みつぶしてしまうこともありません。
ですからぜひこの動物をお買い求めください。
そうすればあなたはいつでもその恩恵にあずかるでしょう。
W.ザックス「自動車への愛」藤原書店より
提案し、議論したいこと
2
• 都市内公共交通のあり方
– 日本の苦しい現状と欧米の政策
• 現在の整備・運営補助スキームでは本当に難しい
– 富山の挑戦と成果から学ぶべきこと
• まちづくりとの一体化(コンパクト+ネットワーク)
• 都市経営との一体化
• そのための効果と経営の見える化
蛇足ですが、人口減少社会では新規投資は不要というけれど、
本当か?
• 地域社会の文化・歴史・元気の安全保障から今
こそ必要 コンパクト+ネットワーク
– 人口減少・超高齢社会だからこその効率性の追求
– 超高齢社会におけるモビリティと社会参画の確保
• 地域産業の育成
– 地域産業
• 成長産業としての1次産業とその6次化
• 観光との連携
• 道の駅の成長・進化
– そのためにも安定的な交通サービスが不可欠
• BCP, 観光誘致圏、物流サービス、
提案し、議論したいこと
• 新しいインフラ
3
まちと道路・情報・受容性
– 新しい道路とまち
•
•
•
•
日本的(東洋的)街路状況に合う交通空間の再編
欧米型の大幅員道路空間内の再配分の限界
道路ネットワークとしての総合性・一体性
駐車場、まちとの連携
– そのために「道路法」の見直し
• 目的の拡充 活用・地域
• 管理の考え方 ネットワークとしての活用・管理
• 議論のオープン化 活用に向けたプラットフォーム
提案し、議論したいこと 4
• 社会的受容性
–
–
–
–
–
社会システムのあり方
市民の参画感・貢献感・成長感
交通法規 免許・通行区分、・・・
都市計画制度
産業政策
• 新しいモビリティの社会的実装
•
産官学民の連携と協働
–
–
–
–
•
官 国と自治体
– 国 国土交通省(道路・都市・自動車)、経済産業省、警察、
– 自治体 社会システム化の舞台
産 自動車(超小型モビリティビジネス)、情報(移動情報ビジネス)、
学
民 コミュニティ
大規模社会実験を岡山から是非
• 成長戦略へのパッケージ化
最後に、真のパラダイム・シフト
• パラダイム・シフトの初出(概念の提案)
– 出所 T.Kuhn “The Structure of Scientific Revolutions”,
1962 Chicago Univ. Press
• この本の中で言及されているパラダイム・シフトの例
– コペルニクス
– ニュートン
– アインシュタイン
このクラスのものを目指すべき!!
ご静聴、ありがとうございました。