41 地絡無停電切替システムの開発 Development of Non Interruption System on Ground•Fault for Power Distribution Line This paper describes the development of Non Interruption System that isolates faulty section without any break of service on other healthy sections in the case of ground fault on power distribution lines. The most remarkable feature of the system is completion of isolation of a faulty section before operation of a feeder protection relay in distribution substation in spite of the use of low transmission speed (1200bps) existing twisted pair cable as communication media. The system operation was confirmed by the artificial ground fault in the NGK power distribution test laboratory. 1. まえがき 技術の革新、情報化社会の進展に伴い、電力供給の信 故区間のみを切り離すものである。この方式の大きな特 徴は、既設のメタルペアケーブルを有効に活用し、その 頼度に対する社会的要請は一段と強くなっている。特 伝送速度が 1,200bps(bit per second)と比較的低速に に、企業のOA化の発展および一般家庭へのパソコンの もかかわらず、健全区間の無停電切替から事故区間の切 普及に伴い、停電により計算機内のデータが消失する等 り離しまでが可能なことである。 の問題が発生する可能性が増えてきている。 以下に、本システムの概要を説明する。 現在の配電自動化システムは、DG(方向性地絡)リ レー等の動作により配電線 CB(遮断器)をトリップさ 2. システム構成 せ、CB再閉路機能と柱上開閉器の時限順送機能により 一般的な配電自動化システムは、操作卓、通信親局、伝 事故区間を検出している。従って、配電線事故時は、健 送路および子局から構成される。 全区間を含んだ全区間の1回以上の停電を余儀なくされ 操 作 卓:営業所に設置され、配電線の状態および子 ている。 この停電を回避する手段として、配電線事故の多くを 占める地絡事故を対象に、健全区間を停電させることな く事故区間のみを切り離すシステムを北陸電力 ㈱殿と共 同開発した (1)。 このシステムは、地絡事故が発生した場合、変電所の DG リレーが動作するまでの 1.8 秒間に、事故区間の負 荷側健全区間を無停電で他配電線に切り替え、その後事 局の状態表示、子局への制御および配電線 機器データのメンテナンスを行う。 通信親局:営業所に設置され、子局に対する監視およ び制御指令を行う。 子 局:柱上に設置され、開閉器と連結し、通信親 局からの指令等により開閉器の監視・制御 を行う。 伝 送 路:通信親局と子局との通信を行うための通信 ケーブル。 配電自動化システムで無停電切替の制御を行う方式と しては、光ファイバ等を用いた高速伝送路を利用して通 信親局が子局の地絡事故情報を収集し、通信親局が子局 に対して切替のための入・切指示を与える親局主導型 NGKレビュー 第 58 号 平成 11 年 12 月 42 と、子局間で相互に情報連係して子局自身の判断により 開閉器の入・切操作を行う子局主導型とがある。当社で は、既設の配電自動化用メタル伝送路の適用が可能とな る子局主導型の方式を採用した。 2.1 機器構成 第 1 図に示すように、計算機システム(操作卓) 、TC 親局 (通信親局) 、子局、高速開閉器および2対の通信回 線(伝送路)から構成される。 ①計算機システム(監視制御・演算用計算機) 子局からの情報等により、配電線系統の状態を把握 し、第 2 図に示すように CRT およびプリンタに出力す 第 2 図 計算機システム る。また、操作員によりあらかじめ登録された地絡事故 時の切替手順から、各子局毎の操作手順を作成し、これ を子局に登録する。 ② TC 親局(通信・制御用計算機) 通信回線を経由して子局との伝送を行い、子局の監 視・制御を行う。また、地絡事故時の子局間相互通信の ための伝送路間中継を行う。 ③子局 高速開閉器 開閉器状態変化等の監視、TC親局からの要求に基づ く開閉器の制御を行う。また、地絡事故検出時には事故 情報を他の子局に送信し、事故情報受信時にはあらかじ め登録されている操作手順に基づいて開閉器の入・切操 作を行う(第 3 図参照) 。 ④高速開閉器 配電線路の入・切を高速に行う。また、事故検出のた 子局 めのセンサ(ZCT:零相電流検出器、ZPD:零相電圧検 出器および CT:変流器)を内蔵している(第 3 図) 。 ⑤通信回線 2 対のメタルのペアケーブル。1 対は通常監視用の子 局ポーリング用通信回線、もう1対は地絡事故時の子局 間の相互通信のための子局間用通信回線である。 変電所 第 3 図 子局、高速開閉器 高速開閉器 センサ 子局 営業所 LAN 計算機 システム TC 親局 モデム1 モデム2 子局ポーリング 用通信回線 子局間用通信回線 第 1 図 機器構成図 電源 トランス 地絡無停電切替システムの開発 43 第3表 子局への設定・登録内容 2.2 伝送仕様 既設のペアケーブルの有効活用を考慮し、伝送仕様は 以下の通りとした。 ・伝 送 路… 1.2mm φメタル通信ケーブル(2 対) 項 目 内 容 事故検出 時 限 地絡事故を検出してから他の子局に事故検出 を通知するまでの待ち時間。 系統の末端ほど短くなるように設定する。 操作手順 事故検出した子局毎に、何ミリ秒(操作時限) 後に、何をするか(入か切の操作)という手順。 複数の手順を登録できる。 事 故 点 切離時限 事故情報を送信した子局が、事故点を切り離 すために開閉器を開放するまでの待ち時間。 区分逆送する区間数が多いほど長くなる。 潮流方向 子局の DG リレーは、負荷側の地絡事故時の み動作する必要がある。そのために必要にな る潮流方向は配電線系統状態から計算機シス テムが判定し、子局に登録する。 ・通信方式… 子局ポーリング用:半 2 重時分割ポーリン グ方式 子局間用: 半 2 重時分割方式 ・伝送速度… 1,200bps(FSK 方式) 2.3 子局事故検出機能 子局には、OCリレー (過電流継電器) 、DGリレー (方 向性地絡継電器)および断線リレーを実装し、各種事故 の検出を可能にした。また、OC・DG・断線リレーの整 定値は、操作卓から変更が可能である。各整定値を第1 表に示す。 第 1 表 リレーの設定可能な整定値 リレー種別 ② 整定値項目 整 定 値 地絡事故が発生。事故点より電源側の子局が地絡事 故を検出する。 零相電流 0.20/0.30/0.40/0.45/0.50/ 0.55/0.60/0.65 [A] 零相電圧 190/380 [V] 信する。但し、事故検出情報を送信する前に他の子 OC リレー 電 流 200 ~ 900[A]、100[A]刻み 局からの事故検出情報を受信した場合は、送信処理 断線リレー 電圧 / 健全値 60/70/80 [ %] DG リレー ③ 地絡事故を検出した子局は、検出してから事故検出 時限経過後に事故検出情報を子局間用通信回線に送 を中止する。事故検出時限は末端ほど短くなるよう に設定されているので、事故点に最も近い電源側の 子局が事故検出情報を送信し、事故区間の標定が行 2.4 設備規模 える。 平成11年6月現在の稼働中の設備規模を第2表に示す。 ④ 事故検出情報を受信した各子局は、事前に登録され ている操作時限後に操作手順 (入か切) を実行する。 第 2 表 稼働中の設備規模 これにより、事故点の負荷側の健全区間への逆送 設 備 名 規 模 変 電 所数 1 配 電 線数 6 子 局 数 39 台 通信回線数 2 チャネル (ループ切替) が順次実施される。このとき、健全区 間を最大で3区間に区分し、区分逆送時に多重ルー プとならないようにしている。 ⑤ 事故検出情報を送信した子局は、地絡事故が継続し ていると判断した場合、事故点切離時限経過後に開 閉器を開放する。この時点で事故区間が切り離され 3. 地絡無停電切替の処理 たことになる。 3.1 処理概要 以上②~⑤までの処理が、変電所のDGリレーが動作 地絡無停電切替は、事前に計算機システムから子局に する前に行われる。 対して登録した切替手順を、地絡事故発生時に、子局が これらの処理例を第 4 図に示す。 実施するものである。 以下により詳細な処理の説明を示す。 ① 計算機システムは、操作員によりあらかじめ登録さ れた地絡事故時の切替手順および配電線系統状態か ら、第 3 表に示す項目を各子局に設定・登録する。 NGKレビュー 第 58 号 平成 11 年 12 月 44 系 統 の 状 態 ■ : 入 □: 切 処 理 事前設定 ①計算機システムが各子局に ・登 録 事故検出時限、操作手順等 を設定・登録する。 潮流方向 700ms 650ms 600ms C B T C 親局 子局間用 通信回線 子局 A 子局 B 各種設定・登録要求 発 生 子局 C 子局 D 子局 B:2 番目「切」 子局 B:最初「入」 事故検出情報を 送信した子局 地絡事故 事故検出時限 操作時限 操作 ②地絡事故点の電源側である 子局 A と子局 B が地絡事 故を検出する。 700ms 650ms C B 子局 A T C 600ms 地絡事故 子局 B 地絡事故 検 出 子局 C 地絡事故 検 出 子局 D 親局 事故検出 ③ 650ms 経過後、子局Bが 情報送信 事故検出情報を子局間用通 信回線に送信する。子局 A は事故検出情報を送信する 前に、子局 B の事故検出情 報を受信したので、送信を 中止する。この時点で地絡 700ms 650ms C B 子局 A T C 600ms 地絡事故 子局 B 子局 C 子局 D 送信中止 親局 事故検出情報 事故区間が子局 B の負荷側 であることが確定する。 逆送操作 ④子局 D は子局 B の事故検 最初に入 出情報を受信したので、登 録されている「子局 B が事 C B 故検出したら最初に入」と いう手順に従い開閉器を投 入し、ループ状態にする。 地絡事故 T C 子局 A 子局 B 子局 C 子局 D 親局 ⑤子局Cは子局 B の事故検出 2 番目に切 情報を受信したので、登録 されている「子局 B が事故 地絡事故 C B 検出したら 2 番目に切」と いう手順に従い開閉器を開 T C 放し、健全区間の逆送が完 親局 子局 A 子局 B 子局 C 子局 D 子局 C 子局 D 了する。 事故区間 ⑥子局 B は事故点切離時限経 切り離し 過後に開閉器を開放し、事 故区間を切り離す。 事故区間を切離し 地絡事故 C B T C 子局 A 親局 第 4 図 地絡無停電切替処理例 子局 B 45 地絡無停電切替システムの開発 DG リレー 動作時間 DG リレー動作時間 事故検出時限 #3 事故検出時限 事故検出情報 送信 処理継続判定 # 7「入」 (区分逆送 1) 事故検出 情報送信 #7 C B #1 #2 #4 #6 # 7 操作時限 # 7 「入」 # 6「切」 (区分逆送 1) # 6 操作時限 # 6 「切」 # 5「入」 (区分逆送 2) # 5 操作時限 # 5 「入」 # 4「切」 (区分逆送 2) # 4 操作時限 # 3「入」 (区分逆送 3) # 4 「切」 # 3 操作時限 # 2「切」 (区分逆送 3) # 3 「入」 # 2 操作時限 # 1「切」 (事故点切離) 0.0 #5 # 1 事故点切離し時限 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 # 2 「切」 # 1 「切」 1.6 1.7 1.8 [秒] 第 5 図 処理時間が最長となる場合のタイムチャート 3.2 高圧需要家との協調 高圧需要家での構内地絡事故の場合、需要家に設置さ れている保護装置により事故点の切り離しが行われるた 4. その他の機能 本システムのその他の機能を第 4 表に示す。 め、地絡無停電切替処理は動作してはならない。 このため、子局は地絡事故発生から 700ms 経過後に 第 4 表 その他の機能 地絡事故が継続しているかを判断し、継続していなかっ た場合は事故検出情報の送信を行わない。 機能項目 内 容 監 視 ・開閉器の入/切状態 ・子局状態 ・FCB の入/切、バンク UV 状態等の変電所機 器状態 この条件を考慮した処理時間が最長となる場合のタイ ムチャートを第 5 図に示す。 3.3 過電流(短絡)事故時の動作 過電流事故時に開閉器の入/切を行うと開閉器が損傷 するため、子局は地絡事故検出時にOCリレーの動作有 無を確認し、動作時は各子局の地絡無停電切替処理を停 止するための地絡・短絡事故検出情報を送信する。 また、事故検出情報送信後に、地絡事故が異相間地絡 ・開閉器の入/切操作 個別 ・子局のリレー(DG、 OC、 OCG、断線)の各 制 操作 種設定 ・FCB の入/切等の変電所機器操作(将来) 御 自動 ・逆送手順の自動実行 操作 ・ループ切替の自動実行 計 測 等による過電流事故に移行した場合は、事故検出情報を 送信した子局が過電流事故に移行したことを子局間用通 信回線に送出する。これを受信した他の子局は、区分逆 送操作を中止することにより、過電流での開閉器の入/ 切を防止している。 ・配電線の電圧・電流 ・FCB の電流(将来) ・バンクの電圧・電流(将来) ・地絡無停電切替処理 事故処理 ・子局による時限順送と親局による自動逆送処理 ・断線区間の自動切り離し 表 示 ・配電線単位のスケルトン表示 メンテナンス ・画面での系統図、設備データのメンテナンス NGKレビュー 第 58 号 平成 11 年 12 月 46 5. 実証試験 5.2 試験条件 当社の実規模配電線を模擬した配電総合試験場におい 試験条件を第 5 表に示す。 て、人工地絡試験を実施し動作確認ならびに各種データ 第 5 表 試験条件 を収集した。 項 目 条 件 5.1 試験系統 試験系統図を第6図に示す。実規模配電線を模擬する ために、対地静電容量のコンデンサ、最大200kVAの負 事故条件 事故区間 区間 3 地絡抵抗 3800 Ω 荷装置を接続した。 事故継続時間 6.6kV3φ 3W 60Hz F1 ~ F3、F4 の区間 1 子局 DG リレー 零相電圧(V0) 190 [V] 整定値 零相電流(I0) 0.65[A ] 動作時間 1.8[秒] 配電線 DG リレー 750kVA 6.6kV/6.6kV 永久 整定値 の対地静電容量模擬 0.7μ F #7「入」 EVT (GPT) F3 F4 F2 67G ZCT 区分逆送 1 F1 #4「切」 地絡無停電 #6「入」 切替手順 区間 1 #1 #3「切」 0.1μF 事故区間切離し 区間 2 #2 0.1μF 区間 3 #3 区間 4 #4 0.1μF 区間 5 #2「切」 #5 0.1μF 対地静電 容量模擬 区分逆送 2 事故発生装置 5.3 試験結果 3800 Ω 区間3に地絡事故を発生させ、区分逆送および事故区 #6 模擬負荷 間の切り離しが正常に実施され、配電線CBのトリップ がなかったことを確認した。 max 200kVA また、試験時の各波形を第7図に示す。これより、事 #7 故情報送信、手順実行および事故区間切り離しの処理が 設計値通りに実施されていることが確認できた。 :配電線 CB F1 ~ F4 EVT (GPT):接地型計器用変圧器 # 1 ~# 7 :高速開閉器・子局(■:入 □:切) :地絡方向継電器 67G 第 6 図 試験系統 47 地絡無停電切替システムの開発 区間 1 電圧 区間 2 電圧 区間 3 電圧 (事故区間) 区間 4 電圧 区間 5 電圧 地絡電流 零相電圧 子局間用 通信回線 地絡事故 発 生 872ms 1490ms 事故検出 情報送信 事故区間 切り離し 第 7 図 試験時の各波形 6. あとがき 現在、本システムは北陸電力 ㈱神岡営業所殿で稼働中 参考文献 (1)中村,木下,塚田,国枝, “地絡無停電切替・切離シ である。 ステムの開発” ,電気学会研究会資料 PE-97-39 最後に、本システムの開発を進めるに当たり御援助と PSE-97-39,1997. 御指導を頂いた北陸電力 ㈱配電部殿および神岡営業所殿 の関係各位に深く感謝の意を表します。
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