労働供給 - 北海道大学大学院経済学研究科

労働経済学 第2週
パートの「103万円の壁」
安部由起子
© Yukiko Abe 2015 All rights reserved
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労働供給
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•
大森『労働経済学』日本評論社2008年、19-37ページ
労働供給の最適な決定: 消費者の効用最大化
労働供給の基礎は、「消費-余暇」の決定
無差別曲線を用いた分析
2財モデルにおける消費者の最適化について予算制約・
選好・無差別曲線・限界代替率・最適点の性質などが解
説される(授業でも扱う)。
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パートの労働供給への応用
• 配偶者控除
• 配偶者特別控除(平成16年に大幅改正)
• 最近では、配偶者控除の廃止が話題になってい
る。
• 最適な労働供給はどのように影響を受けるか?
とりわけ、予算制約はどうなるか?
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所得控除
• 課税所得=収入ー控除
– 控除の例
基礎控除
老年者控除
給与所得控除
配偶者控除、配偶者特別控除
その他
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控除の役割
• 稼いだ所得のうち、控除される分には、課
税されないと考えることができる。
• たとえば、給与所得控除の最低額は65万
円であり、基礎控除が38万円であるとする
と、65+38=103万円までの収入に対して
は、他の控除が何もないとしても、所得税
はかからない(ただし、住民税はかかる場
合もある)。
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配偶者控除・配偶者特別控除
• 一方の配偶者(典型的には妻)の所得が低い場
合、もう片方の配偶者は、収入から、所定の金額
を控除できる。
• 以前は、専業主婦である妻について、夫は76万
円を控除できた。しかし、2004年(平成16年)から、
この額は38万円に縮小。
• 当時の状況は、今後の制度変更の方向(配偶者
控除の廃止)と類似する可能性が高い。
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税制についての情報は?
• 国税庁タックスアンサー
– この点については、
– http://www.taxanser.nta.go.jp/
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パートで働く妻の収入分布(Abe
2009, Figure 2) データは全国消費実態調査2004年
Age: 40-49
0
0
1
2
3
.1
.2
Age: 50-59
類似の収入の
集中は、2010
年の国民生活
基礎調査でも
確認されてい
る(男女共同
参画白書)
0
Fraction
.1
.2
Age: 30-39
0
1
2
3
wives' earnings (in million yen)
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国民生活基礎調査(2010年)から集計さ
れた収入分布(出所:平成24年版男女共同参画白書)
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103万円の壁
• 有名な問題:20年以上問題になっている。
• しかし内実・制度の詳細は結構複雑(税・社会保
険・配偶者手当)
• 103万円に“合わせる”人が多数いる。
• しかし、合わせることは合理的か(所得税・社会
保険、配偶者手当)?・・・これを考えるのが経済
学
• 合理的でないなら、なぜそれに気づいて行動を
変える人が(多数)出てこないのか?
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配偶者控除・配偶者特別控除の改正(2004年)と予
算制約
妻のパート就業と家計の予算制約線(平成16年配偶者控除・配偶者特別控除の改正)
760
740
720
消費(10000円)
700
改正前
改正後
680
660
640
620
600
1500
2000
2500
3000
3500
4000
余暇時間
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制度変更と労働供給
• 制度変更の影響を考えるためには、控除
額の変更が家計の(税引後)可処分所得
をどのように変えるかを把握する必要があ
る。
• 控除額をDとし、税引き前の夫の収入をYと
して、夫の税額がどのように変化するのか
を考える。
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税額の計算と近似
• 税額は、課税所得に応じて決まり、日本では累
進課税がとられている。
• 以下の記号を用いる。
–
–
–
–
課税所得:TB
税引き前の夫の収入:Y
夫の控除額合計:D
税額:T
• 課税所得に関して、以下の関係が成り立つ
TB=Y-D
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税金の関数と限界税率
• 税額は以下の税金の関数によって決まる
T=T(TB)
• 累進課税であれば、TはTBに比例的にはならな
い(非線形の関数になる)ことに注意。
• 限界税率とは、収入が1単位増えたときに税金が
どれだけかかるかを指す。多くの場合には、これ
はT(.)関数の傾きになる。
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控除額の変化と税額の変化
• 税制の変更により、控除額が変化したとしよう。
変化前の控除額をD0、変化後の控除額をD1とす
る。いま、配偶者控除・配偶者特別控除の額が
縮小したことを念頭に置いて、
D0 >D1とする。このとき、課税所得TBは
Y-D0からY-D1へと変化するが、
Y-D0<Y-D1
が成り立つ。
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制度変更と労働供給
• 配偶者特別控除の縮小は、女性の(もしく
は、男性の)労働供給にどのような影響を
与えるか?
• 所得効果はどのように作用するのか?
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その他の部分での“調整”
(Abe, 2009)
• パートの労働供給は、長期間続くのではないか
?とりわけ、退職年齢は高く、いったん入職した
後の就業継続も長いのではないか?
• 1年間で収入を103万円以下に抑えるとしても、退
職(および入職)のタイミングが内生的であること
を考慮すると、退職が遅くなる可能性がある
• より多くの年数を働くことで、1年間に103万円に
抑える行動から生ずる「ロス」の埋め合わせをす
る。
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資料の出所
• Abe, Yukiko. “The Effects of the 1.03
million yen Ceiling in a Dynamic Labor
Supply Model,” Contemporary Economic
Policy 27:2, pp.147–163 (2009).
• 男女共同参画白書
– http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepap
er/h24/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-02-13.html
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