SHIMADZU APPLICATION NEWS

SHIMADZU APPLICATION NEWS
島津アプリケーションニュース
●LC-MS
LIQUID CHROMATOGRAPHY MASS SPECTROMETRY
LAAN-A-LM039A
C67A
No.
インピュリティディレイ法を用いた
有機フッ素系化合物(PFCs)のLC/MS分析
LC/MS Analysis of Perfluorochemicals
(PFCs) Using Impurity Delay Method
能です。ここではPFOA
残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs
と炭素鎖の長さと分岐が異なる
条約)では2009年5月に第4回締約国会議(COP4)が開催
PFOS類縁物質6成分のLC/MSによる一斉分析をご紹介しま
され,新たに9種の化学物質が残留性有機汚染物質(POPs)
す。Fig. 1にPFOAおよびPFOS類縁物質の塩類6成分の構造
としてリストアップされました。ペルフルオロオクタンス
式を示します。これらの化合物はエレクトロスプレーイオ
ン化法で,脱プロトン分子 [M-H]- が検出されます。
ルホン酸(PFOS),その塩類,およびペルフルオロオク
タンスルホン酸フルオリド(PFOSF)は付属書Bに追加と
PFOAは,分析条件によっては,溶離液中のPFOA,オ
なりました。日本も含め現時点で代替の見通しの立たない
ンライン脱気装置や流路由来のPFOAが分析カラムで濃縮
用途があることから,エッセンシャルユースとして写真感
された後,分析試料として注入したPFOAと同じ時間に溶
光材料,半導体用途,フォトマスク,医療機器,金属メッ
出し検出されることで分析上問題となることがあります。
キ,泡消火剤,カラープリンター用電気電子部品,医療用
PFOAの汚染要因が複数あること,環境大気中からの溶離
CCDカラーフィルターなどの目的・用途を除外する規定が
液汚染が常時起こる可能性があることより,これらの原
あります。今後は代替技術の開発を進めながら,将来的な
因を完全に取り除くことが非常に困難です。今回はミキサー
廃絶に取り組んでいくこととなりました。また,日本では
と試料注入装置の間にFig. 2のようにディレイカラムを取
PFOSとペルフルオロオクタン酸(PFOA)は化審法の第二種
り付けることにより,試料中の目的成分であるPFOAピー
監視化学物質に指定されており,製造者は前年度の製造量,
クと溶離液やHPLCシステム由来のPFOAピークを分離し,
販売量を経済産業省に報告する義務があります。これらの
PFOAの高感度検出を可能にしました。このように不純物
化合物の定性定量的分析はますます必要とされます。
成分を分析目的成分より遅延して溶出させる方法をインピュ
リティディレイ法と呼ぶこととしました。
PFOAとPFOSとその類縁物質はLC/MSで高感度検出が可
M.Kobayashi
Fig. 1 有機フッ素系化合物の構造式
Structures of Perfluorochemicals
コントローラー
カラムオーブン
リザーバトレイ
送液ポンプ
オートサンプラ
デガッサー
(脱気装置)
ディレイカラム
溶離液
分析カラム
ミキサー
溶離液
オートサンプラー洗浄液
Fig. 2 LC/MSシステム流路図
Flow Diagram of LC/MS System
質量分析計
No.C67A
ディレイカラムを設置しない場合と設置した場合のSIM
たPFOAの後に溶出します。Fig. 3dにブランク試料を注
クロマトグラムをFig. 3に示します。PFOAはm/z 412.90で
入した場合,Fig. 3eにPFOA 標準試料を注入した場合の
モニターしました。ディレイカラムを設置しない場合,
SIMクロマトグラムを示します。試料として注入した
試料非注入(Fig. 3a),ブランク試料注入(Fig. 3b)で,
PFOAが保持時間13.5 minに検出されます。
PFOAの保持時間11.5 minに不純物であるPFOAのピーク
今回,溶離液として使用した水は弊社で製造した超純水,
が検出されました。次に,PFOA 標準試料を注入すると,
アセトニトリルはHPLCグレード,標準試料を希釈した
不純物とPFOA 標準試料が重なって1本のピークとして検
50 %メタノールのメタノールもHPLCグレードを使用しま
出されました(Fig.3c)。一方,ディレイカラムを設置する
した。HPLCの配管等もProminenceシリーズ標準仕様と
と,溶離液や流路由来の不純物であるPFOAはディレイ
しました。また,オートサンプラのニードル洗浄液は検
カラムに保持されるため溶出が遅れ,試料として注入し
討した結果,50 %メタノールを推奨します。
試料として注入したPFOA
不純物PFOA
(e) PFOA標準試料注入(0.5 μg/L, 5 μL inj.)
ディレイカラム設置
(d) 50 % メタノールブランク試料注入
ディレイカラム未設置
(c) PFOA標準試料注入(0.5 μg/L, 5 μL inj.)
(b) 50 % メタノールブランク試料注入
(a) 試料非注入
0.0
2.5
5.0
7.5
10.0
12.5
15.0
17.5
20.0
22.5
25.0
27.5
30.0
min
Fig. 3 PFOAのSIMクロマトグラム(m/z 412.90)
SIM Chromatograms of PFOA (m/z 412.90)
Fig. 4には,PFOAとPFOS類縁物質のSIMクロマトグラム
てはアニオン濃度,その他の成分はカリウム塩(L-PFBS)
を示しました。炭素鎖の一番短いL-PFBSを保持させるた
ないし,ナトリウム塩の濃度で表示しています。Fig. 4a
めに溶離液のアセトニトリル初期濃度を25 %に設定しま
のSIMクロマトグラムは 各成分濃度2.5 μg/L,Fig. 4bは
した。また,濃度表記については,PFOAとPFOSについ
濃度0.5 μg/L(いずれも5 μL注入)でした。
(x10,000)
1.50
1.25
298.80
412.90
398.90
448.90
498.90
548.80
598.80
(1.00)
(1.00)
(1.00)
(1.00)
(1.00)
(1.00)
(1.00)
L-PFHxS L-PFHpS
ipPFNS
(a)
L-PFDS
PFOS
L-PFBS
1.00
PFOA
0.75
0.50
0.25
0.00
2.5
0.0
5.0
7.5
10.0
12.5
15.0
17.5
20.0
22.5
25.0
27.5
30.0 min
5.0
7.5
10.0
12.5
15.0
17.5
20.0
22.5
25.0
27.5
30.0 min
(x1,000)
3.0
2.5
298.80
412.90
398.90
448.90
498.90
548.80
598.80
(1.00)
(1.00)
(1.00)
(1.00)
(1.00)
(1.00)
(1.00)
(b)
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
2.5
Fig. 4 標準品混合試料のSIMクロマトグラム(各2.5 μg/L(a), 0.5 μg/L(b), 5 μL注入)
※1
SIM Chromatograms of a Standard Mixture .(2.5 μg/L (a) and 0.5 μg/L (b) each, 5 μL Inj)
※1 PFOA標準試料:和光純薬工業株式会社163-09542化学用,PFOS標準試料:Fluka製77282,PFOS類縁物質:Wellington社製
No.C67A
Fig. 5には,各成分の検量線(0.25∼5 μg/L, n=5)を示し
2.05∼最大6.18でした。このように有機フッ素系化合物に
ます。各成分について良好な直線性が得られました。また,
ついては,LC/MSで0.5 μg/L濃度レベルでの高感度な定
Fig. 6には各成分0.5μg/L濃度における5回繰り返しのSIM
量分析が可能です。
クロマトグラムを示します。面積値再現性%RSDは最小
面積 (x10,000)
面積 (x10,000)
面積 (x100,000)
PFOA
L-PFBS
7.5
L-PFHxS
5.0
1.0
2.5
0.5
5.0
2.5
r2= 0.9996497
r= 0.9998248
0.0
0.0
面積 (x100,000)
0.0
濃度
2.5
r2= 0.9973698
r= 0.9986805
0.0
0.0
1.00
1.0
濃度
2.5
面積 (x100,000)
L-PFHpS
r2= 0.9996436
r= 0.9998218
0.0
PFOS
濃度
2.5
面積 (x100,000)
面積 (x100,000)
ip-PFNS
L-PFDS
1.0
1.0
0.5
0.5
0.75
0.50
0.5
r2= 0.9989545
r= 0.9994771
0.0
0.0
2.5
0.25
r2= 0.9990812
r= 0.9995405
0.00
濃度
0.0
濃度
2.5
0.0
r2= 0.9986925
r= 0.9993460
0.0
0.0
濃度
2.5
r2= 0.9981766
r= 0.9990879
0.0
2.5
濃度
Fig. 5 標準品の検量線(0.25∼5 μg/L)
Calibration Curves of Standard Solutions (0.25∼5 μg/L)
(x1,000)
(x1,000)
L-PFBS
PFOA
2.25
%RSD
4.64
2.00
1.25
(x1,000)
L-PFHxS
L-PFHpS
3.5
1.50
%RSD
6.18
(x1,000)
4.0
3.5
3.0
%RSD
4.38
1.75
2.5
%RSD
5.19
3.0
1.50
2.5
2.0
1.00
1.25
2.0
1.5
1.00
1.5
0.75
0.50
7.5
0.75
1.0
1.0
0.50
0.5
0.5
10.0 min
12.5
15.0 min
(x1,000)
12.5
15.0 min
(x1,000)
PFOS
13.0
15.0
(x1,000)
3.5
ip-PFNS
L-PFDS
3.5
3.0
3.0
3.0
2.5
%RSD
5.12
%RSD
2.05
2.5
2.0
1.5
1.5
1.0
1.0
1.0
0.5
0.5
0.5
15.0
17.5 min
%RSD
5.35
2.0
2.0
1.5
2.5
15.2
17.5
19.2 min
17.5
Fig. 6 ピーク面積値再現性(各0.5 μg/L,n=5)
Repeatability of Peak Area (0.5 μg/L each, n=5)
20.0 min
17.0 min
No.C67A
次に,実試料におけるスクリーニング分析の一例として,
布抽出液からは,PFOAとPFOSが検出されましたが,その他
布抽出液の分析をご紹介します。撥水性のあるPFOA,PFOS
のPFOS類縁化合物は検出されませんでした。概算すると
を塗布した可能性のある布を2 cm × 2 cmの四角に切り取り,
PFOAは布表面に約5 ng/cm ,PFOSは約0.1 ng/cm レベル存
5 mLのメタノールを入れたポリプロピレン製の遠心管に入れ,
在したと推定されます。このように,分析対象物の表面上に
30分間振とう,遠心後,上澄み5 μLをそのままLC/MSへ注入
塗布されているPFOA,PFOSは簡易的なメタノール抽出でス
しました。Fig. 7に布抽出液のSIMクロマトグラムを示します。
クリーニング的に分析することができます。
2
2
(x10,000)
298.80 (1.00)
1.75 412.90 (1.00)
398.90 (1.00)
1.50 448.90 (1.00)
498.90 (10.00)
1.25 548.80 (1.00)
598.80 (1.00)
1.00
0.75
0.50
0.25
0.00
0.0
2.5
5.0
7.5
10.0
12.5
15.0
17.5
20.0
22.5
25.0
27.5
30.0 min
Fig. 7 布抽出液中のPFOAとPFOSのSIMクロマトグラム
SIM Chromatograms of PFOA and PFOS in The Extraction from Fablic
UFLC+LCMS-2020システムを使用した
(x10,000)
PFOA標準試料の分析例です。1分析10 minで高速高分離分析を行
Fig. 8はProminence
m/z 413
面積(x10,000,000)
PFOA
8.0
いました。高速分析でもインピュリティディレイ法は適用可能で
7.0 ディレイカラム設置
した。ディレイカラム設置,未設置のPFOAのSIMクロマトグラ
不純物
ムを示します。試料であるPFOAピーク(0.5 μg/L, 10 μL inj.)と
6.0
(f) PFOA標準試料
不純物のPFOAピークが分離できていることがわかります(Fig. 8f)。
5.0
(e) メタノール
Fig. 9にPFOAとPFOSの0.1∼50 μg/L範囲での検量線を示し
4.0
(d) 非注入
ます。いずれも寄与率0.9999以上の良好な直線性でした。また,
3.0
LCMS-2020では0.1 μg/L濃度での面積値再現性(n=6)が
(a) 非注入
1.0
の再現性の良い分析が可能です。
このように新たに開発したQoQイオン光学系を採用し,卓越
0.0
した感度と再現性,幅広い直線性を実現するLCMS-2020とイン
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
再現性の良い微量定量分析が可能です。
1.1
1.0
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
20
30
40 濃度
Y = (213084)X + (20571.9)
r2=0.9999823 r=0.9999912
0
min
Fig. 8 PFOAのSIMクロマトグラム
SIM Chromatograms of PFOA
ピュリティディレイ法により0.1 μg/L レベルのPFOA・PFOSの
10
面積(x10,000,000)
(b) メタノール
2.0
PFOAは%RSD 1.59,PFOSは1.26と良好であり,低農度領域で
Y = (122334)X + (12730.1)
r2=0.9999817 r=0.9999909
0
(c) PFOA標準試料
ディレイカラム未設置
6.0
5.5
5.0
4.5
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
10
20
30
40 濃度
Fig. 9 PFOAとPFOSの検量線
Calibration Curves of
PFOA and PFOS
Table 1 分析条件
Analytical Conditions
Delay Column
Analysis Column
Mobile Phase A
Mobile Phase B
Time Program
Flow Rate
Injection Volume
Column Temperature
: Develosil Packed Column C30-UG-5 (35 mmL. ×4.0 mmI.D.)
: Shim-pack FC-ODS (150 mmL. × 2.0 mmI.D., 3 μm)
: 5 mmol/L Ammonium acetate-water
: Acetonitrile
: 25 %B (0 min)→85 %B (20 min)→ 25 %B (20.01 – 30 min)
: 0.2 mL/min
: 5 μL
: 40 °C
, Shim-pack XR-ODS(30 mmL. ×3.0 mmI.D., 2.2 µm)
, Shim-pack XR-ODS (75 mmL. × 2.0 mmI.D., 2.2 μm)
,←
,←
, 25 %B (0 min)→85 %B (4 – 5 min)→25 %B (5.01 – 10 min)
, 0.4 mL/min
, 10 μL
,←
MS
Probe Voltage
CDL Temperature
Block Heater Temperature
Nebulizing Gas Flow
CDL Voltage
Q-array DC & RF Voltages
Drying Gas Flow
SIM Monitoring Ion
: LCMS-2010EV
: -3.5 kV (ESI-Negative mode)
: 200 °C
: 200 °C
: 1.5 L/min
: Default values
: Default values
: 10 L/min (0.1 MPa)
: m/z 298.80(L-PFBS), 412.90(PFOA), 398.90(L-PFHxS), 448.90(L-PFHpS),
498.90(PFOS), 548.80(ipPFNS), 598.80(L-PFDS)
, LCMS-2020
,←
, 250 °C
, 450 °C
,←
,←
,←
, 10 L/min
, m/z 412.90(PFOA), 498.90(PFOS)
A 改訂版発行:2010 年 10 月
初 版 発 行:2009年10月
分析計測事業部
応用技術部
※本資料は発行時の情報に基づいて作成されており,
予告なく改
訂 す る こ と が ありま す 。改 訂 版 は 下 記 の 会 員 制 W e b
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3100-10901-590-IK
2009.10