支配権維持目的の新株発行 結論 ① 「支配権維持目的の発行は不公正発行」という 言葉にだまされない。正しい意味は、「支配権 維持目的の発行は株主総会の決定が必要」 (公開会社においても、総会決議を欠く支配権 維持目的の発行には差止事由がある)である。 ② 古典的な主要目的ルールは一種の方便である と理解すべき。ライブドア事件以降、支配権維 持目的が主要かどうか、という点にしか意義は ないと考えてよい 支配権維持目的発行 I. 意義 1. 支配権維持目的発行 経営陣が、自らの地位の維持・確保を目的として新株を 発行すること 2. 問題点 ① 株主による経営陣のコントロール(選任・解任権限を通 じた監督)が失われる ② 無能な経営者を交代させる機会が失われる ③ 有利発行と組み合わせた場合には、会社の損失のもと で、自らの地位を確保するという利益相反状況が生じる ④ 公開会社においては、取締役会が株主構成を決定・操 作できる(構成員は構成員が選ぶという原則に抵触) II. 支配権維持目的と資金調達目的 1. 公開会社における新株発行規制 「資金調達の機動性」の確保の目的で、第三者割当に よる新株発行についても決定権限を取締役会に委譲 =株主構成の維持という利益よりも資金調達の利便性を重視 ⇒ 支配権維持目的での発行は、会201の立法趣旨から外 れるのではないか 2. 非公開会社における新株発行規制 非公開会社においては、第三者割当発行は常に総会 特別決議によることから、仮に支配権維持目的の新株 発行が行われたとしても、つねに株主の意向が反映さ れる III. 支配権維持目的発行規制の理論 1. 問題意識 公開会社の第三者割当発行(法令上は取締役会決議 で足りる)について、支配権維持目的の発行の場合に は(明文の規定はないが)総会決議を要求すると介す べきなのではないか ※ただし、紛争の実態としては、取締役会決議による支配権維持目 的での第三者割当発行について、「著しく不公正」な発行として差 止請求がなされ、あるいは新株発行無効の訴えが提起される →支配権維持目的発行は「不公正発行」と呼ばれることもある 2. 支配権維持目的規制の理論 ① 主要目的ルール ② 権限分配論(権限分配法理) ⇒両者の関係を理解することが必要 主要目的ルール I. 内容 1. 典型的な規範 支配権維持を主要な目的とする新株発行は、著しく不公 正な発行である(忠実屋いなげや事件) 2. 基本的な考え方 新株発行については「正当な目的」と「不当な目的」があり、 「不当な目的」を主とする新株発行は不公正発行 a. 「不当な目的」 = 支配権維持(支配権争奪への経営陣の介入) b. 「正当な目的」 = 状況によってバリエーションあり ※「正当目的」を「資金調達の目的」とする記述や裁判例が あるが、資金調達目的は正当目的の一例にすぎない(授 権資本制度から導かれる理由付け) 6 3. 「主要」な目的である意味 新株発行の目的は単一ではないし、仮に支配権維持目的 がわずかでもあれば総会決議が必要であるということにな ると、常に総会決議が必要になってしまう(経営陣はどうせ なら自らに有利な申込人に割り当てようとするから) 4. 主要目的ルールの認定 i. 「目的」は主観的要素だから、客観的事実(持株比率の 変動幅、資金需要等)から総合判断 ii. 裁判例には、特定の株主の持株比率が著しく低下するこ とを認識しながら発行したとの認定があれば、支配権維 持目的があるとするものがある(前掲・忠実屋いなげや) iii. 支配権維持目的は、新株発行の効力を争う側に証明責 任があるが、支配権争奪の場面では、支配権維持目的 が事実上推定されるとする見解もある 7 II. 主要目的ルールの問題点 1. 規範定立の根拠の不明確さ 主要目的ルールは裁判例の集積によって構築された規 範だが、各裁判例は、なぜ支配権維持目的の新株発行 が不公正である(=取締役会での発行決定がゆるされ ない)と解するべきなのか、その根拠を一貫して示してい ない) 2. 主要目的認定の不透明さ 裁判例には、かなり無理に資金調達目的を肯定したもの がある一方で、資金調達目的を厳格に認定した裁判例も あって、態度が一貫していない ⇒ 裁判所が実際には経営陣の言い分と原告株主の言い分につい て実態的に利益衡量しているためだといわれている。特に株主側 が乗っ取りを企図しているような場合に、これに対する企業防衛 としてなされた新株発行に同情的な裁判は多い 8 権限分配論 I. 新株発行の二面性 a. 取引法的側面(資金調達、対価の交換) b. 迅速の要請、経営事項 社団法的側面(構成員の募集) 非経営事項、株主に重要な利害関係 ⇒ 会社法はa.の要素を重視して原則取締役会の決定事項 との立法を採用(=授権資本制度) II. 権限分配論 株主構成を経営陣が決定することは原則として許されない 〔理由〕① 構成員の決定は構成員の専決事項だから ② 構成員に選ばれる経営陣が構成員を選ぶことは 許されないから 9 III. 権限分配論からの帰結 i. 原則論 経営陣は、支配の維持強化を目的とした新株発行を行 うことは原則としてできない(主要目的ルールの裏返し) ※支配権が争奪されている場面で経営陣が新株発行を決定するこ とは原則として許されない(支配目的の推定)、と発展の余地あり ii. 例外場面 ① 支配の維持・強化目的での発行が許される場合もある ⇒支配の移動が企業価値・株主共同の利益を著しく損ね る場合 ② 株主の決定による支配権の維持・変動 ・・・本当に例外なのかどうかは従来よくわかっていなかったが、権 限分配論からすれば基本的に許される 10 IV. ライブドア事件 判旨の示した規範 ① 被選任者たる取締役に,選任者たる株主構成の変更 を主要な目的とする新株等の発行をすることを一般的 に許容することは,商法が機関権限の分配を定めた法 意に明らかに反する ←権限分配論を根拠とする主要 目的ルール ② 株主全体の利益の保護という観点から新株予約権の 発行を正当化する特段の事情がある場合には,例外 的に,経営支配権の維持・確保を主要な目的とする発 行も不公正発行に該当しない ⇒「特段の事情」=①グリーンメーラー、②事業等の買収者 への移転(焦土化経営)、③買収者の債務の弁済原資と しての会社財産流用、④会社財産の切売りによる増配・ 株価上昇目的(ライブドア4要件) 11 ライブドア事件以前と以後 I. 従来型主要目的ルールの問題点 • 「支配権維持目的」と「資金調達目的」は二律背反ではな いのではないか(両方が併存しうるのではないか) • もっぱら持株比率を操作する目的(支配権維持目的)で 新株発行をする場合には常に不公正発行となってしまう がそれでよいのか(濫用的買収への対処は?) • 「資金調達の目的」は裁判所の方便ではないのか II. ライブドア事件高裁決定の考え方 ① 支配権維持目的の新株(予約権)発行は原則(他の目 的が併存していても、正当な目的があっても)不公正 ② ただし、一定の場合(4要件該当)には違法性が阻却 12 裁判例の位置づけ ライブドア事件以前の裁判例の考え方 忠実屋いなげや ライブドア ブルドックソース 支 配 権 争 奪 の 場 面 新株の第三者 割当発行 新株予約権の 第三者割当発行 取締役会決定 他の目的優越 新株予約権の 無償割当 株主総会決定 支配権維持目的優越 不公正発行にあたらない 不公正発行 正当な 権限行使 不公正発行 にあたらない 13 ライブドア事件を踏まえた裁判例の整理 忠実屋いなげや ライブドア ブルドックソース 支 配 権 争 奪 の 場 面 新株の第三者 割当発行 新株予約権の 第三者割当発行 取締役会決定 他の 主要目的 新株予約権の 無償割当 株主総会決定 支配権維持目的(権限分配法理) 正当化理由有 不公正発行にあたらない 正当な 権限行使 正当化理由なし 不公正発行 不公正発行 にあたらない 14 株主割当発行と支配権維持 I. 総論 株主割当てによる新株発行を支配権維持目的で行うこ とができるか ※法的な可否以前に、株主割当発行によっては株主構成を操作す ることはできないのではないか II. 株主割当発行の利用可能性 i. 端数を利用したスキーム 考えられるが迂遠(株式分割等と同じ) ii. 発行価額の恣意的な設定(H25司法試験) 経営陣寄り株主には払込可能だが、反対派は払込不可能な発行価 額を設定 → 株主全員が引き受けられる発行価額を設定する義務はないし、 反対派のみを排除する価額設定は通常は不可能。 ※司法試験は、特定派閥の取締役だけ報酬を増額して払込み にあてたという事案 新株発行の瑕疵 16 新株発行の効力を争う手段 新株発行差止請求 (会210) 効力発生前 違法行為差止請求 (会360) (決議取消・決議無 効確認の訴え) (新株発行仮差止) (新株発行仮差止) 新株発行仮差止 (民保23Ⅱ) 新株発行無効の訴 え(会828) 効力発生後 新株発行不存在確 認の訴え(会829) (損害賠償請求) 17 基本的な考え方 • 新株発行差止事由、新株発行無効事由とい う覚え方はあまりよくない(私見) 新株発行の瑕疵と捉えて、まず「手続的瑕 疵」と「内容的瑕疵」に整理した上で、それぞ れの瑕疵が差止事由になるか、無効事由に なるかを考える方が理解しやすい 18 新株発行の瑕疵 内容的瑕疵 ・・・比較的重い 新株発行の瑕疵 手続的瑕疵 ・・・比較的軽微 19 内容的瑕疵 1. 法令違反の発行 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ 法令違反の種類株式の発行 信用・労務等の出資による発行 払込の仮装(改正で「瑕疵ある新株発行」からは除外か) 発行条件の不均等 善管注意義務違反となる発行(★) 発行価額が1円未満の発行 2. 定款違反の発行 ① 発行可能株式総数超過の発行 ② 定款に定めのない種類株式の発行 ③ 株主の新株引受権の定款規定を無視した第三者割当 3. 不公正な発行 ※主要目的ルール違反は権限の所在に還元 →手続的瑕疵 20 手続的瑕疵 1. 手続の法令違反 ① 権限ある機関の決定の欠缺 • • • 取締役会決議・総会決議の無効(・取消) ・欠缺 種類株式発行における種類株主総会決議の欠缺等 有利発行の場合の株主総会決議の無効・取消・欠缺 • 支配権争奪場面での取締役会決議による発行(=主要目的 ルール違反) ② 代表権を欠く者による発行 ③ 新株予約権発行に瑕疵がある場合の当該予約権の行 使 (←New! 東京高決H20.5.12) ④ 割当決定機関の不適法(204ⅠⅡ) ⑤ 通知・公告義務違反 ⑥ 差止め・仮差止め違反 2. 手続の定款違反 21 新株発行の事前の差止 22 新株発行差止請求 I. 要件 ① 新株発行が法令・定款違反(210①)、あるいは著しく 不公正であること(同②) ② 新株発行によって株主が不利益を受けるおそれがあ ること ③ 株主要件を充足すること(6か月要件はない) II. 差止方法 ① 裁判外の請求も可能(法的な拘束力を持たせるには 差止判決が必要) ※規定が会社訴訟の編にないこと、および210条の文言から ② 新株発行差止の訴えを本案とする差止めの仮処分申 立ても可能であり当然に考慮すべき 23 III. 差止事由 ・・・新株発行無効とは異なり流通の安全を考慮しなくて良い ことから、基本的には差止事由は広く解される。ただし、 取締役の善管注意義務違反の発行は(民644は会社を 名宛人とする法令ではないので)差止事由にならない 1. 法令違反による差止めの事例 ① 新株の有利発行で株主総会決議を欠く場合 ② 発行可能株式総数超過の発行 2. 著しい不公正による差止めの事例 ① 経営陣の支配権の維持・強化を主要な目的とする発行 (権限分配法理は明文規定ではないので違反しても「法 令違反」ではない) ② 瑕疵ある新株予約権発行に基づく新株予約権の行使 (法令違反と構成する余地あり) 24 3. 効果 会社に不作為義務発生 新株発行差止判決を無視した発行は、本来絶対無 効(民119)のはずだが、新株発行無効事由として 扱われるにとどまり、直ちに無効にはならない 25 違法行為差止請求(会360) 1. 要件 ① 取締役が法令・定款に違反する行為を行う(おそ れがある)こと ② 取締役の①の行為によって会社に回復すること ができない損害(監査役非設置会社では「著しい 損害」)が生じるおそれがあること ③ 株主要件を充足すること(6か月要件あり) 2. 差止方法 ① 裁判外での差止請求も可能(ただし法的な拘束 力を持たせるには差止判決が必要) ② 違法行為差止の訴えを本案とする差止めの仮処 分申立ても考慮すべき 26 3. 差止事由 ① 違法性は会社ではなく取締役について見るので、 善管注意義務違反の発行も対象となり得る ② しかし、一般的に、新株発行によって損害要件が 充足されることはない(有利発行を直接損害と捉え れば損害はないし、間接損害と考えても、「回復す ることができない」損害(差し止めなければ会社が 立ち直れないような損害)が生じるとは考え難い) ※瑕疵ある組織再編(合併等)の場合には、組織再編無効 判決による巻き戻しに要する費用を「回復することができ ない損害」と解して360条の差止めを認める見解がある (弥永)が、新株発行無効の巻戻しにかかる費用は組織 再編無効に比べてかなり少額なのでやはり厳しい。 27 差止の仮処分(民保23Ⅱ) 1. 要件 ① 被保全権利が存在すること =新株発行の効力を争 いうる瑕疵が存在すること(差止事由や総会決議取消 事由) ② 保全の必要性があること =差し止めなければ新株が 発行されてしまうこと(①があれば原則認められる) ③ 本案の原告適格を有すること 2. 申立方法 本店所在地を管轄する地方裁判所に申立て 3. 効果 差止仮処分違反の新株発行は無効事由にとどまる ※仮差止違反の行為も私法上は有効(仮処分だから) 28 新株発行の無効 29 新株発行無効 I. 総論 1. 既発行の新株を無効とする方法 ⇒常に新株発行無効の訴え(会828Ⅰ②)によらなければな らない(会828Ⅰ本文) 2. 新株発行無効の訴えの意義 瑕疵ある新株発行行為は強行法規違反であり、本来 は絶対無効(民119)とすべきだが、無効による巻き戻し の弊害を考えて、無効主張を制限しつつ無効の効果を 限定 ⇒ 新株発行無効の「無効」は「遡及効のない取消し」と理解 する(会839) 30 II. 新株発行無効の訴えの概要 ① 訴えの性質 ・・・形成訴訟 ※「遡及効のない取消し」だから。無効確認の訴えと厳に区別 ② 原告適格 ・・・株主、取締役、監査役(清算人、執行役) ③ 提訴期間 ・・・効力発生日から公開会社は6か月、非公開会社は1年 ※非公開会社には新株発行の通知・公告義務がないが、次の 定時総会には新株発行の事実は明らかになるから ④ 判決の効果 認容判決には対世効有り。棄却判決にはなし(838) 認容判決に遡及効はなし(839。精算方法につき840) 31 新株発行無効事由 I. 概要 以下の理由から、新株発行無効事由は限定的に解され、公 開会社では無効にならないケースが多い(判例・多数説) i. 制限の理由Ⅰ(共通) ① 株式の流通の安全 ② 画一的処理の要請(悪意の所持人についても有効とする理由 付け) 差止めの機会の存在(通知・公告違反の場合を除く) ③ ii. 制限の理由Ⅱ(特定の場面) ① ② 有利発行・・・損害賠償による補填が可能 支配権維持目的・・・持株比率は法的保護の対象外 32 II. 具体的無効事由 1. 内容の法令・定款違反で無効 ① ② ③ ④ 発行可能株式数違反 法令・定款に違反する種類株式の発行 代表権のない者による発行(場合によっては不存在) 非公開会社における株主の引受権規定の無視 ⑤ 新株予約権発行・無償割当等の瑕疵、新株予約権行使条件 違反の発行(差止めが不可能だから) 2. 内容の法令・定款違反だが有効 ① ② 発行条件の不均等(損害賠償で解決可能) 発行価額未満での発行(会212や損害賠償で解決可能) 33 3. 手続の法令・定款違反で無効 ① ② ③ 差止事由があるときの通知公告違反(差止の機会を与えてい ない) 差止判決、差止仮処分違反の発行 非公開会社における株主総会決議の欠缺 4. 手続の法令・定款違反だが有効 ① 公開会社における発行の機関決定の取消・無効・欠缺 ② 公開会社における有利発行についての株主総会決議の取消・ 無効・欠缺(持株比率は保護されず、損害賠償で解決) 5. 著しく不公正な発行で無効 ① 非公開会社における支配権維持目的での発行 6. 著しく不公正な発行だが有効 ① 公開会社における支配権維持目的での発行 34 譲渡制限と無効事由 非公開会社 公開会社 株式の流通の安全確保 重要ではない 重要 持株比率の維持 強く保護される 保護されない 損害賠償による回復 ①直接の回復は困難 ②新たな買付けも困難 容易 差止めによる事前予防 可能だが潜行的な発行 による潜脱の可能性 可能 巻き戻しの必要性 高い 低い 新株発行無効事由 制限的に解すべきでない 制限的に解すべき 35 新株発行の瑕疵と差止・無効事由 公開会社 非公開会社 差止事由 無効事由 差止事由 無効事由 発行可能株式数超過 ○ ○ ○ ○ 法令・定款の種類株式発行制限違反 ○ ○ ○ ○ 無権限者による発行 ○ ◎ ○ ◎ 新株引受権無視の発行 ○ × ○ ○ 発行条件の不均等 ○ × ○ ? 取締役会の決定の無効・欠缺 ○ × ― ― 新株予約権発行・無償割当の瑕疵 ○ × ○ ? 新株予約権の行使条件違反 ○ ○? ○ ○? 株主総会決議の欠缺 ○ × ○ ○ 支配権維持目的の発行 ○ × ― ― 通知・公告義務違反の発行 ― ○ ― ― 差止、仮差止違反の発行 ― ○ ― ○ 善管注意義務違反の発行 △360条 × △360条 × ◎・・・不存在の場合あり △・・・基本的に無理 36 結論 1. 公開会社では、手続違反は、差止めによる救済を 阻害しない限り無効事由にはならない 2. 公開会社では、不当に持株比率が操作されても無 効事由にはならない 3. 公開会社では、内容の法令・定款違反であっても 金銭的な補償で解決できれば無効事由にはならな い 4. 非公開会社では、手続違反も株主の多数決によら ない持株比率の変動と評価される限り無効事由に なる 37 〔補論〕決議取消訴訟と新株発行無効 一般論として、新株発行の効力発生後は、新株発行を決 定した決議の効力を争う訴え(取締役会決議無効確認、 株主総会決議取消、同無効・不存在確認)は訴えの利益 を失い不適法却下 ・・・遡及的に新株発行の効力が失われると828条の趣旨が没却さ れるので、決議の効力が失われても新株発行自体が遡及的に 無効・不存在になることはないと解されるから 株主としては、新株発行無効の訴えのなかで、決議の効 力についての瑕疵を新株発行無効事由として主張(吸収 説) この場合、決議取消事由についても別訴である新株発 行無効の訴えで主張可(明文規定はないがそう解されて いる) 38 新株発行不存在確認の訴え 新株発行不存在 I. 総論 1. 新株発行の不存在とは 新株発行の外形はあるが実体がないもの 2. 新株発行不存在確認の訴えの意義 株式の発行があったと評価できないような場合にまで、 828条による処理を行う(一定期間以降は瑕疵を争えな くなるとともに遡及効否定)のは不合理。改正前商法下 では明文規定はなかったが、解釈上当然に不存在確 認の訴えは認められると考えられていた ※新株発行無効確認の訴え(新株発行が民119でいう無効 であることの確認を求める訴え)も認められるとの見解が 有力 40 II. 新株発行不存在確認の訴えの概要 ① 訴えの性質 ・・・確認訴訟 ※存在しないことの確認を求める ② 原告適格 ・・・限定なし(確認の利益で絞りをかける) ③ 訴えの利益 ・・・形成訴訟とは異なり原則として確認の利益が必要 ④ 提訴期間 ・・・制限なし ⑤ 判決の効果 認容判決には対世効有り。棄却判決にはなし(838) 認容判決には遡及効あり(839反対解釈。確認訴訟だから当然) 41 III. 新株発行不存在事由 新株発行不存在事由は法定されておらず解釈 ※裁判例も少なく、理論的には必ずしも固まっていない i. 不存在事由の類型 ① ② 物理的不存在(登記のみが存在するような場合) 評価的不存在(著しい手続の瑕疵のような場合) ※①のみが不存在事由とする立場と①②のどちらもが不存在事由 となるとする見解がある(判例は前者と言われている) ii. 不存在事由を構成する事情 ① ② ③ 無権限者による発行(特に会社と無関係な人物の場合) 機関決定の欠如 払込みの欠缺 ④ 既存株主に対する通知・公告の欠如(法定の通知・公告はもち ろんだが、それ以外であっても既存株主が新株発行を認識でき たかどうか) 42
© Copyright 2024 ExpyDoc