工学系12大学大学院単位互換 e-Learning科目 2005年度 磁気光学入門第5回 -電磁気学に基づく磁気光学の理論(3):反射の磁気光学効果- 佐藤勝昭 東京農工大学副学長 (大学院工学府兼務) 復習コーナー 第4回に学んだこと 光の伝搬をマクスウェルの方程式で記述すると,磁化さ れた等方性物質の複素屈折率Nはεxx±i εxyで与えられ る2つの固有値をとり,それぞれが右円偏光および左円 偏光に対応しました.もし,εxyが0であれば,円偏光は 固有関数ではなく,磁気光学効果は生じないことを学び ました。 長さの磁性体におけるファラデー回転角Fおよびファラ デー楕円率Fは,左右円偏光に対する屈折率の差Δnお よび消光係数の差Δκを用いて 表すことができます。 さらに、ファラデー回転角と楕円率は誘電率テンソルの 非対角成分の実数部と虚数部の線形結合で表されるこ とがわかりました。 第5回に学ぶこと:光と磁気第3章3.5、3.6 光と磁気第3章3.5、3.6に沿って光が物質の表面で 反射されたとき、光の強度、位相がどのような変化を 受けるかを学びます。 はじめに斜め入射の場合の反射の法則を導きます。 電界に対する反射率を複素振幅反射率(Fresnel係数)と 呼びますが、これがp偏光(振動面が入射面内にある偏 光)とs偏光(振動面が入射面と垂直であるような偏光)に 対してどのように異なるかを導きます。 ついで、偏光が磁化をもつ物質で反射されたときの 磁気光学効果(磁気カー効果MOKE)について、誘 電率テンソルを使って記述します。 光の反射 図3.7のように媒質1から媒質2 に向かって,平面波の光が入射 するときの反射と屈折を考える。 両媒質は均質であり、媒質1の 屈折率はn0で、消光係数は0、媒 質2の屈折率はnで,消光係数 はであるとする。また,それぞ れの媒質の誘電率を1,2とす る.従って,媒質1においては 1 n02 が、媒質2においては 2 n i 2 が成立します。 0 0 媒質1 n0 n+i 1 媒質2 図3.7 境界面から媒質2の中に向かう法線 方向をz軸にとります。光の入射面は xz面内にあるとします.入射光と法線 のなす角(入射角)を0、反射光の 法線となす角を1、媒質2へと屈折 する光の法線となす角を2とします。 スネルの法則-波動ベクトルの連続性- 入射光、反射光、屈折光の 波数ベクトルをそれぞれK0、 K1、K2とすると,各媒質にお けるマクスウェルの方程式 を解いて,波数ベクトルの絶 対値に成り立つ次の関係式 を得ます. K 0 Nˆ 1 1 c K1 c c ˆ K2 N2 2 c 1 K0 2 c K1 K2 c ˆ N1 1 1 0 2 (3.59) マクスウェル方程式の固有解 1 N12 2 N 22 スネルの法則 境界面内での波数ベクトルの各成分の連続性から、x成分につ いては 1 0 K0x=K1x=K2x (3.60) K0 が成り立ちます.従って K1 1 K 0 sin 0 K1 sin 1 K 2 sin 2 これより 0 1 sin 2 K 0 1 Nˆ 1 sin 0 K 2 2 Nˆ 2 K0x K1x K2x 2 スネルの法則 K2 (3.61) 2 z成分については K1z K 0 z K 0 cos 0 1 cos 0 •この第2式はいわゆるスネルの法則です。 ただし、複素数に拡張されています。 K 2 z K 22 K 22x K 22 K 02x K 22 K 02 sin 2 0 (3.62) c 2 1 sin 2 0 c 斜め入射のフレネル係数をもとめる 媒体どうしの界面で反射が起きます。 境界条件のもとにマクスウェルの方程式を解い て入射光の電界と反射光の電界を求めます。 p偏光、s偏光の反射の際の振幅・位相変化は 入射角に依存します。複素振幅反射率をフレネ ル係数といいます。 p偏光、s偏光の振幅反射率の比と位相差を使 うと、光学定数が導かれます。 斜め入射の場合の反射 図3.8において、入射面(入射光と法線 を含む面)をxzとしたとき、この面に垂直 な電界ベクトルの成分(y成分)をESのよ うに垂直を意味するドイツ語senkrechtの 頭文字のSをつけて表し、入射面内の 成分をEPのようにP(parallel)をつけて 表します。入射側には下付の添え字0を つけ、反射光には1、屈折光には2をつ ける。x成分、y成分をP成分、S成分を 使って表しますと E 2 x E 2P cos 2 , E 2 y E 2S E1p K0 E0p 0 1 境界面 Y 2 n i E2p 2 (3.63) K1 入射面 X 2 E 0 x E 0P cos 0 , E 0 y E 0S E1x E1P cos 0 , E1 y E1S 法線 1 n02 Z 図3.8 K2 電界・磁界の界面における連続性(1) 界面における電界p成分の連続性により E0p 法線 E1p E0p 0 1 X 0 1 E0px 2 2 Z E2 p E0px- E1px 0 1 E1p E2px E2px E1px E2p 2 Y E P 0 E1P cos 0 E2P cos 2 (3.64)第1式 電界・磁界の界面における連続性(2) 界面における電界s成分の連続性は次式で表されます。 E0S E1S E0 s 法線 E2S (3.64)第2式 E0s E1s 0 1 E1s X Y E2s Y 2 Z E2s 電界・磁界の界面における連続性(3) 界面における磁界p成分の連続性 H0p 法線 H1p H0p X 0 1 2 0 1 H0px 2 H2p Y H P 0 0 1 H1p p H2 H0px- H1px H1px x H2px H2p 2 H1P cos 0 H 2P cos 2 (3.65第1式) HP=-(K/0)ESによって電界についての式に書き直す Z K 0 E0S E1S cos 0 K 2 E2S cos 2 (3.66第1式) 電界・磁界の界面における連続性(4) 界面における磁界s成分の連続性 法線 H0 s 0 1 H1s X H0s H 0S H1S H 2S s H1 Y s H2 Y 2 H2s Z (3.65第2式) HS=(K/0)EPによって 電界についての式に書 き直します。 K 0 E0P E1P K 2 E2P (3.66第2式) 電界と磁界の界面における連続性(5) E P P E 0 1 cos 0 E0S E1S E2S K E E2P cos 2 K E (3.64) 連立方程式を解く K 0 E0S E1S cos 0 K 2 E2S cos 2 0 P 0 E1P 2 P 2 (3.66) E2Pを消去 K 2 cos 0 K0 cos 2 E0P K 2 cos 0 K0 cos 2 E1P 0 E2Sを消去 K 2 cos 2 K0 cos 0 E0s K2 cos 2 K0 cos 0 E1P 0 複素振幅反射率(Fresnel係数) Fresnel係数 P偏光の反射 E1P K 2 cos 0 K 0 cos 2 rp P K 2 cos 0 K 0 cos 2 E0 S偏光の反射 K 22 cos 0 K 02 K 22 K 02 sin2 0 K 22 cos 0 K 02 K 22 K 02 sin2 0 tan 0 2 tan 0 2 E1S K 0 cos 0 K 2 cos 2 rs S K 0 cos 0 K 2 cos 2 E0 sin 0 2 2 2 2 sin 0 2 K 0 cos 0 K 2 K 0 sin 0 K 0 cos 0 K 22 K 02 sin2 0 ここに、rp=|rp|ei p、rs=|rs|eisです。 (3.67) エリプソメトリ(偏光解析) rs cos( 0 2 ) rs exp(i ) tan exp(i ) rp cos( 0 2 ) rp (3.68) azimuth (方位角) phase (位相差) 反射は方位角と位相差=p-sによって記述できます。 反射光は一般には楕円偏光になっていますが、 そのp成分とs成分の逆正接角と位相差を測定すればrが求 められます。(測定には1/4波長板と回転検光子を用います。) この方法を偏光解析またはエリプソメトリという。 P偏光反射率とS偏光反射率 光強度についての反射率Rは|r|2で与えられます。第1 の媒体が真空、第2の媒体の複素屈折率がNの場合、 Rp Rs Nˆ 2 cos 0 Nˆ 2 sin 2 0 Nˆ 2 cos 0 Nˆ 2 sin 2 0 cos 0 Nˆ 2 sin 2 0 cos 0 Nˆ sin 0 2 2 2 屈折率1 (3.70) 2 屈折率N 入射角に依存する反射率 • 式(3.69)にもとづいてN=3+i0の場合につ いて、Rp、Rsをプロットすると図3.9のように なります。 • Rpは入射角70゚付近で0となっていることが わかります。この入射角をブリュースター 角と呼びます。 図3.9 法線 1 1 E0 E0 s E1s X p B B 2 9 E2p Z /2-B ブリュースター角のとき、s偏光のみが 強く反射されます。 課題1 式(3.70)にもとづき、N=2.5+i1.0の場合の Rp, Rsの入射角依存性を計算して図3.9のよう なグラフに書け。Rp, Rsはそれぞれp偏光、s偏 光に対する光強度の反射率である。 Nˆ cos 0 Nˆ sin 0 2 Rp 2 Nˆ 2 cos 0 Nˆ 2 sin 2 0 cos 0 Nˆ sin 0 2 Rs 2 2 2 cos 0 Nˆ 2 sin 2 0 2 (3.70) 反射と偏光:Brewster角 もし、ψ0+ψ2=π/2であれば、 tanが発散するため、Rpは0と なります。 このとき、反射光はS偏光の みとなります。 このときの入射角をBrewster angleといいます。 tan 0 2 Rp tan 0 2 sin 0 2 Rs sin 0 2 2 2 (3.69) 垂直入射のFresnel係数 垂直入射の場合、0=0、従って1=0。このとき電界に対する Fresnel係数rとして、 2 1 K2 K0 N2 N0 rˆ rˆp K2 K0 N2 N0 2 1 を得ます。これより、媒質1が真空のとき N 1 n i 1 r R exp(i ) N 1 n i 1 を得ます。 (3.70) 垂直入射の光強度反射率と位相 R=r*r=|r|2は光強度の反射率、は反射の際の 位相のずれを表します。 R (1 n)2 2 (1 n) 2 1 tan n 2 2 12 2 2 n 1 R 1 R 2 R cos 2 R sin 1 R 2 R cos 反射率と位相 位相のずれは、反射スペクトルからKramersKronig(クラマースクローニヒ)の関係を使って 求めることが出来ます。 ln R() ( ) P 2 d 2 0 Kramers-Kronig の関係 応答を表す物理量の実数部と虚数部の間に成 立 (Pは積分の主値を表す。) ij ( ) 1 2 () ij P 0 2 d 2 2 ij ( ) ij ( ) P 0 2 d 2 f ( ) f ( ) f ( ) P 2 d lim d lim d 2 2 2 2 2 0 0 0 0 0 KK変換の微分性 第2式を部分積分すると 1 d ij ( x) ij ( ) ln ij () P ln dx 0 dx 0 1 右辺の第1項は0であるから、結局第2項のみとなる。はx~ 付近で大きい値をとるので、“は‘の微分形に近いスペクトル 形状を示すことになる。 ‘がピークを持つでは“は急激に変化し、 ’が急激に変化する付近で”は極大 (または極小)を示す. KK変換の微分性(磁気光学) a-GdCo PtMnSb Pd/Co Pt/Fe 図の出典は、すべて、 佐藤研の研究成果の データを使っています。 Kerr Rotation & Ellipticity [degree] NdFeB 0.2 Kerr Ellipticity 0.0 Kerr Rotation -0.2 鏡のデータを引いたもの 鏡のデータを引いてないもの -0.5 1 2 3 4 Photon Energy [eV] 5 6 K-K関係の数学的説明 線形応答関数f ()が、図に示すωの複素平面の上半面内で正則、かつ上半平 面で | |→∞において|f()|→0、さらに実数に対しf‘(- )=f’()、f“(- )=-f”() であるような性質を持っておればよい。このような条件が成り立つとき、コーシー の積分公式によってπif()=∮d ‘f( ’)/( ‘- ) が成立します。 f d 0 -if() f lim d lim / 2/ 2 i f rei d r 0 r 0 f lim r d lim / 2/ 2 if Rei d 0 r 0 R f 0 P d if 0 r つづき f(ω)=f'(ω)+if"(ω)を代入し、両辺の実数部、虚数部がそれぞれ等し いとおくことによって導くことができる。 ωの複素平面の上半面内で正則、かつ、上半平面で|ω|→∞におい て|f(ω)|→0という条件は、t=0において外場が加えられたときの応答 はt>0におきるという因果律に対応している。 P f d if P f if d i f if f if f f f f f d P 0 d P 0 d P 0 d P 0 d f f f P 0 d P 0 d 2P 0 2 d 2 f P f 2 P0 f d 2 2 磁気光学Kerr効果 反射の磁気光学効果を磁気光学カー効果 (MOKE)といいます。 右回り円偏光に対するFresnel係数と左回 り円偏光に対するFresnel係数の差を考え ます。 位相の差からKerr回転角が導かれます。 振幅の差からKerr 楕円率が導かれます。 垂直入射の場合の極カー効果 問題を複雑にしないために,極カー効果の場合を扱い, しかも入射光は界面に垂直に入射するものとします。 極カー効果は直線偏光が入射したとき,反射光が楕 円偏光となり,その楕円の長軸の向きが入射光の偏 光方向に対して回転する現象です. この回転をカー回転角 Kで表し,楕円の長軸と短軸 の比を楕円率 Kで表します. カー回転角は右円偏光と左円偏光に対する移相量の 差に対応し,楕円率は左右円偏光に対する反射率の 違いから生じることを示すことができます. Kerr効果 右回り円偏光および左回り円偏光に対する振幅反射率は N n0 rˆ N n0 (3.78) によって表すことができます.右円偏光に対する複素振幅反射率 (フレネル係数)をr+exp(i+)、左円偏光に対するそれをr-exp(i -)と すると、カー回転角 Kは K 2 2 (3.79) で与えられます.また、カー楕円率ηKは次式で与えられます。 r r 1 r 1 R (3.80) K r r 2 r 4 R 複素カー回転 磁気カー回転角Kと磁気カー楕円率Kをひと まとめにした複素カー回転K を考えます。 K K i K Δ Δr 1 Δr i i iΔ 2 2r 2 r rˆ re iθ Δrˆ Δr e iθ ire iθ Δ Δrˆ Δr e iθ ire iθ Δ Δr iΔ iθ rˆ r re Δrˆ 1 Δrˆ 1 1 Δrˆ / 2rˆ 1 rˆ K i i ln1 i ln i ln 2rˆ 2 rˆ 2 1 Δrˆ / 2rˆ 2 rˆ (3.81) 複素カー回転を誘電率で表す(1) 式(3.81)と式(3.77)とから,次式を得ます. K n 2 0 xy xx xx (3.82) 次のスライドで詳しい導き方を説明します。 式(3.82)の誘導 (3.78) rをNを使って表し、 N にxx±ixyを代入すると、 xx i xy n0 xx 1 i xy / xx n0 xx 1 i xy / 2 xx n0 N n0 rˆ N n0 xx i xy n0 xx 1 i xy / xx n0 xx 1 i xy / 2 xx n0 xx n0 i xy / 2 xx xx n0 i xy / 2 xx (ここに、 rˆ xx n0 in0 xy xx n0 1 i xy / 2 xx xx n0 rˆ1 2 xx n0 1 i xy / 2 xx xx n0 n xx 0 xx xx n0 は、偏光を考えないときのフレネル係数です) が得られますから、式(3.81)に代入すると式(3.82)となります。 in0 xy rˆ1 xx n02 xx 1 rˆ 1 K i ln i ln 2 rˆ 2 in0 xy ˆ r 1 2 n xx 0 xx 1 i 2n0 xy i ln1 2 xx n02 xx n0 xy 2 n xx xx 0 (3.82) 複素カー回転を誘電率で表す(2) 式(3.82)から,カー効果が誘電率の非対角成分xyに 依存するばかりでなく,分母に来る対角成分xxにも依 存することがわかります. この式の対角成分xxを光学定数n, によって表すと, x x x x i xx n2 2 i 2n と書けるので,(3.81)に代入して整理することによって,次式を得る。 K n0 K n0 n n02 n 2 3 2 x y n02 3n 2 2 xy n 2 2 n n 2 0 2 4 2 2 2 n02 3n 2 2 x y n n02 n 2 3 2 xy n 2 2 n 2 0 n 2 4 2 2 2 (3.83) カー回転角・楕円率は’xy と”xyの1次結合で表される。 課題2 式(3.81)から式(3.82)を導いてください。 K xy n 2 0 xx (3.82) xx 式(3.82)から式(3.83)を導いてください。 K n0 K n0 n n02 n 2 3 2 x y n02 3n 2 2 xy n 2 2 n02 n 2 2 4 2 2 n02 3n 2 2 x y n n02 n 2 3 2 xy n 2 2 n02 n 2 2 4 2 2 (3.83) 複素カー回転を誘電率で表す(3) n0=1とすると、下の式で書けます。 K n 1 n 4 1 3n n1 n 3 n 1 n 4 n 1 n 2 3 2 x y 1 3n 2 2 xy 2 2 2 K 2 2 2 2 2 2 2 xy 2 2 xy 2 2 2 2 (3.83’) プラズマ・エンハンスメント K xy 1 xx xx いままで述べたように、複素カー回転角は誘電率の非対角成 分だけでなく、対角成分にも関係します。 プラズマ振動数においてエンハンス(増大)が起きます。 例:PtMnSbのカー回転のピーク カー回転と楕円率 誘電率対角成分 誘電率非対角成分 誘電率(対角成分)の実数部がゼロを横切る 第5回のまとめ 斜め反射の場合の反射率を屈折率、消光係数 および入射角を用いて表しました。 反射率からクラマースクローニヒの式によって 屈折率や消光係数が求められることを示しまし た。 反射の磁気光学効果である磁気カー効果が誘 電率テンソルの対角・非対角成分で表されるこ とを学びました。 次回の予告 次回は、電子論に基づいて磁気光学効果を考 えます。
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