小・中学校理科における地層の野外観察の実態 三次徳

小・中学校理科における地層の野外観察の実態
出典:地質学雑誌 第114巻 第4号 149-156ページ
三次徳二
紹介者 : 教育学部 総合科学専攻
小山研究室 2年
30916013 瀬戸賀代
地層の野外観察の問題と対策
小・中学校の学習指導要領
●理科の内容には、生物・地学
分野の野外観察が含まれている。
●野外観察は、小学校6年と中
学校1年で必ず実施することに
なっている。
問題点
●日本の地質が多岐に富んでおり、
学習指導要領に示されるような地層
が学校周辺にあると限らない。
●市街化された地域では露頭は限
られている。
現
実
●この分野において、すぐれた教材開発や教育実践に関する文献が公表され
てきたが、それにもかかわらず地層の野外観察の実施率は年々低下している。
さ
ら
に
●中学校の現職教員の一部からは、必ずしも地層の野外観察を行う必要はな
いという意見がでている。
地層の野外観察の問題と対策
地質学・地球科学に関
連する専門の学会やそ
こに所属する研究者
小・中学校の教育現場に対する支援の方
法を検討している。
このような学会や研究者らのアウトリーチ活動と、
小・中学校の教育現場における取り組み意識が異
なっているため、これらを結びつけることが重要。
これまで
堆積岩の分布する好条件の地域や、都市域などに関する調査はあったが、日本
国内の広い範囲を対象とした調査結果は公表されていなかった。
小・中学校における地層の野外観察の実態と研究者への要望につ
いて調査を行った。
調査内容
調査内容の設定
小学校6年理科の「土地のつくりと変
化」中学校1年理科第2分野の「大地
の変化」の単元において、
*地層の野外観察の実施の有無。
対象・方法
本研究では地質の違いに基づいて実施
状況がどのように変化するかに注目して
調査をするため、変成岩分布地域や埋立
地などで一定の標本数が必要である。
*実施の場合は実施場所や対象
とする素材。
*実施していない場合はその理
由や代替措置、研究者に求める
支援。
などについて質問紙による調査を行っ
た。
また、教員養成の問題点との関連を調
べるために授業者の一部経歴について
も質問紙により調査を行った。
地質図などの資料をもとに、似通った地
質環境を持つ行政単位を抽出し、地質ごと
の分布割合を考慮して、東北日本より7地
域、西南日本より8地域を選び、それらの
地域の全ての公立小・中学校に対して質問
紙を送付し、調査対象の理科教員に質問紙
への記入を依頼した。
調査結果
1.全体的な状況
(1) 野外観察の実施状況
地層の野外観察の実施率は、小
学校では地域により差が見られる
が、中学校では小学校に比べて地
域ごとの差は顕著ではない。
実施率を地質学的な違いに基づい
て分類すると、基盤岩として堆積岩
が分布する地域の小学校で実施率が
高く、火成岩、変成岩の分布地域の
小学校という順で低くなっていく。
調査結果
(2) 野外観察の実施経験と認識
教員の地層の野外観察実施経験
教員の地層の野外観察
に対する必要性の認識
調査結果
2.野外観察を実施している学校の状況
(1) 野外観察の実施時期
野外観察を実施している学校では、通常の授業時間中に実施することが多く、
遠足や移動教室などの際に実施している学校の割合は小・中学校ともに少ない。
また野外観察の実施時期は小学校では9月と10月が多いが、中学校では1年
を通じて実施されている。
しかし、積雪の影響を受ける地域では8月~11月の間に実施時期が集中して
いる。
地層の野外観察の実施時期
調査結果
(2) 野外観察の実施場所
小学校では、学校の敷地内や学
区内で野外観察を行っている割合
を合わせると約60%であり、野
外観察場所が学区外であっても出
かけていく傾向がある。一方、中
学校では約80%が学校の敷地内
や学区内で野外観察を行っている。
野外観察場所までの交通手段は
多くの場合徒歩であった。
野外観察の対象となる地層や岩
石は、砂や泥などの堆積物、堆積
岩、火山灰(ローム層)などが中心で
あった。
野外観察の対象となる地層・岩石
調査結果
3.野外観察を実施していない学校の状況
(1) 授業以外での実施について
地層の野外観察については、授業
以外では一切行われていない学校
が多い。
小学校では地層についてイン
ターネットを用いて調べ学習を行
うことが多いが中学校ではほとん
ど行われていない。
地質ボーリング資料の観察につ
いても、小学校では比較的扱われ
ているが中学校ではほとんど実施
されていない。
野外観察に代わる学習としては、
小・中学校ともにビデオやスライ
ドなどの映像教材の視聴や学校に
保管されている岩石標本の観察を
行うことが多い。
学習指導要領の解説では、博物
館等の利用を促しているが、小・
中学校ともに、博物館等の見学を
している学校はほとんどなかった。
調査結果
(2) 野外観察の実施できない理由
小・中学校ともに「適当な素材や場所がない」ことが最も多く挙げられている。
2番目に多い「授業時間が確保できない」では、小・中学校ともに大規模校が多
い地域で理由に挙げており、特に中学校で学級数が5を超える場合に多くみられる。
積雪の影響を受ける地域の中学校においては「天候が悪いこと」を理由として挙
げる傾向がある。
野外観察の実施できない理由
調査結果
4.研究者に対する野外観察支援の要望
(1) 野外観察を含む単元の指導に対する意識
小学校においては指導しにくい
と感じている教員が40%程度お
り、指導しやすいと感じている教
員は少ない。
中学校においては、指導しにく
いと感じている教員は、小学校に
比べて少なく20%以下であった。
地層の野外観察実験校における教員の意識
小学校においては、野外観察非
実施校の方が単元の指導のしにく
さをかんじているが、中学校にお
いては野外観察実施校の方が単元
の指導のしにくさを感じていると
いえる。
地層の野外観察非実験校における教員の意識
調査結果
(2) 研究者に対する要望
野外観察の実施校、非実施校いずれも野外観察のできる場所を紹介して
ほしいという要望が多かった。
指導方法に関する支援の要望が強く、ゲストティーチャーとして、授業
に参加してほしいという要望が続いている。
研究者に望む支援
調査結果
5.自由記述欄に見られる意見
*自由記述欄については、大きく分けて3種類に分類できた
学校周辺の地域に露頭がないなどの制約のため、実施したくても
できないという意見。
授業をしたくても教材開発をする時間がないことや、日常の業務
のため、手が回らないという意見。
必ずしも地層の野外観察は、実施する必要がないという意見。
考察
1.学習指導要領による制約について
地域に分布する地層・岩
石の違いが大きいことが原
因で、地層の野外観察の実
施率に大きな違いが表れた。
埋立地に立地する小・中
学校で移動教室の機会を利
用して野外観察を実施して
いたが、移動教室の実施地
域では、主に火成岩が分布
しており学習指導要領で観
察対象とされる堆積岩は見
られない。
学習指導要領で厳密な制約を
するのではなく、地域によっ
ては発展的な教材として取り
扱えるような措置をとるべき。
考察
2.指導する小・中学校教員について
中学校までの知
識をもとに授業
を行っている。
小学校
*大学時代に理科を
*理科以外の教員養
専攻していた教員は、
地層の野外観察を経
験していたと考えら
れるので、野外観察
の実施率が高い。
成については、理科の
実験を履修する必要は
ないので、地層の野外
観察を実施することは
難しいと考えられる。
中学校
*中学校では、理科の教
員免許を取得するために
地学実験を必ず履修しな
ければならず、野外観察
を経験したはずであるが、
実施率は小学校よりも低
かった。
地層の野外
観察に対す
る必要性の
認識が低い
指導する教員
の大学時代の
専攻が影響
●中学校では高等
学校の入試を意識
して、小学校のよ
うに観察・実験を
中心において実感
を伴った理解を目
指す指導とは違う
と考えていること
が多い。
考察
3.研究者に期待される学校現場への支援について
研究者
に望む
支援
①観察場所の紹介
②ゲストティーチャーとして授業への参加
①
一部の学会や研究会では露頭集出版やホームページ作成などの
形で、情報提供を行っている。
②
実際に2007年度より、小学校については理科支援員制度が
導入されており、3校に1校程度の小学校に配属されている。
大学等の研究者も特別講師として小学校の授業に派遣されてお
り、地層の野外観察の支援はその活動対象の1つとなっている。
各種の教員研修などにおいて研究者から指導法等について学び、教師自身が
アレンジして児童・生徒に伝える方策も検討する必要がある。
まとめ
●小学校については基盤となる地質の違いにより実施率に違いがあったが、
中学校においては基盤となる地質の違いと実施率にはあまり関係はなかった。
●小学校では、教員の大学時代の専攻と野外観察の実施状況との間に関係は
見られるが、中学校では見られない。
し
か
し
●地層の野外観察はした方が良いという意見を述べた教員の割合は、
小学校では約90%、中学校では約80%であった。
●これまで地層の野外観察を実施したことが一度もない教員は、小
学校では約30%、中学校では約50%を占める。
●観察する地層としては、砂や泥などの堆積物、堆積岩、火山灰などが中心
であったが、変成岩や火成岩の露出地域では、これらの学習指導要領から外れ
た岩石を観察対象としている学校もあった。
実施状況の良い地域もいくつか存在することが明らかになり、そのような
地域の実情の詳細な分析も必要となる。
小・中学校理科における地層の野外観察の実態
出典:地質学雑誌 第114巻 第4号 149-156ページ
三次徳二
紹介者 : 教育学部 総合科学専攻
小山研究室 2年
30916013 瀬戸賀代