発達心理学への招待

教育心理学
第12回
不適応問題への対処
(1):発達障害と適応
今日の流れ
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発達障害とは
代表的な発達障害
特別支援教育
発達障害とは
発達障害とは
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通常、青年期までに表面化する発達上の障害
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(多くの場合、先天的な)生物学的要因(脳の器質的
障害)によって生じると考えられている
以前考えられていたよりも、はるかに多くの子どもが
何らかの発達障害を有している可能性が指摘されて
いる
発達障害者支援法など、法的な支援体制の整備も進
められている
発達障害の病因論
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遺伝的要因
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環境要因
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多数の遺伝子が関与
親の高齢
妊娠初期の喫煙
妊娠週数
出産時の状況
その他、胎生期・周産期の要因が多数
親の養育の仕方によって発症することはない
スペクトラムとしての発達障害
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発達障害の症状は、「ある」か「ない」かのどちら
かに明確に分けられるものではない
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医学的な診断としては発達障害か否かのどちらかし
かないが、実際の症状は「非常に軽い」から「非常に
重い」までの連続体(スペクトラム)を成している
診断の有無に関わらず、障害特性の程度や表れ方
には大きな個人差がある
代表的な発達障害
知的障害(精神遅滞)
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知能が平均よりも明らかに低く、それに伴い日
常生活に適応するために必要な能力の障害が
あるもの
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IQ(知能指数)が70未満(偏差値にして30未満)
原因は、遺伝子・染色体の異常、周産期の問題、感
染症や外傷など様々
出現率は1~2%程度
学習に他の子どもよりも時間がかかるため、個別的
な対応が必要になる
自閉症スペクトラム障害(ASD)
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2つの特徴によって診断される
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社会的コミュニケーションの障害
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行動・興味の限局
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アイコンタクト、話し言葉の発達、共同注意、心の理解など
に問題があり、対人関係を築くことが難しい
常同行動、興味の限局やこだわり、感覚の過敏性や鈍麻性
有病率の報告は年々増加しており、最近では1
~2%程度
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ASD自体が増加しているのか、概念の拡大と測定法
の洗練により増加しているのかは不明
自閉症スペクトラム障害(ASD)
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種類(かつての下位診断)
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自閉性障害(自閉症):知的障害をともなっている
高機能自閉症:知的障害を持っていない
アスペルガー障害:言語の障害がない
注意欠陥多動性障害(ADHD)
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不注意、多動性・衝動性が、その年齢の平均よ
りも著しい頻度で見られる障害
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不注意:話しかけられても聞いていない、外部からの
刺激ですぐ注意がそれる、注意が持続できない、など
多動性・衝動性:座っていなければならない場面で席
を離れてしまう、いつも走り回っている、ずっとしゃべ
り続けている、など
知的な障害はない
薬物療法によって効果的に症状を緩和できる
学習障害(LD)
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全般的な知的能力には問題がないのに、読む、
書く、計算するなどの特定の能力に極端な困難
さを示す障害
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学校に入る前は気づかれにくいことが多いが、通常、
乳幼児期から症状が始まっている
中枢神経の機能不全による障害であるが、単なる怠
けや学習不足として扱われることが多く、本人にとっ
ては大きなストレスとなる
発達障害の合併
二次的な問題
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環境適応
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友人関係
親子関係
教師との関係
学業
メンタルヘルスの悪化と問題行動
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抑うつ・不登校・自傷行為
反社会的行動・非行
二次的な問題
【発達特性】
【環境適応】
自閉傾向
友人関係
親子関係
ADHD傾向
教師関係
IQ
学業
二次的な問題
【ASD特性】
【被いじめ・からかい】
15%
要配慮水準
一般的水準
1%
約15倍のリスク
あり
なし・多少あり
特別支援教育
特別支援教育
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障害があることにより、通常の学級における指
導だけではその能力を十分に伸ばすことが困難
な子どもたちに対する特別な配慮に基づく教育
特別支援教育の種類
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特別支援学校:かつての盲学校・聾学校・養護学校(
全体の0.6%)
特別支援学級:かつての特殊学級(全体の1.5%)
通級による指導:障害の軽い子どもが、大部分の授
業を通常学級で受けながら、障害の程度に応じた特
別の指導を通級指導教室で受ける(全体の0.6%)
特別支援教育をめぐる変化
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知的障害以外の発達障害をもつ子どもへの援
助教育の重視
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障害類だけにとらわれない支援教育
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通常学級に在籍する児童生徒の約7%が発達障害を
有している可能性
通級指導の対象にLD・ADHDが加えられた
障害類だけではなく、個々の子どもの教育的ニーズ
に合わせた教育的サービスを実施する
インクルージョン(包括教育)
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多様な教育的ニーズを持つ子どもを包含した教育
特別支援教育の基本原則
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発達障害は基本的に先天的な中枢神経の障害
であり、根本的な「治療」は不可能であることを
理解する
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障害が疑われる場合は速やかに親に連絡し、児童精
神科医との連携を進める
障害類・ケースに応じて個別的な対応を行う
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両親、スクールカウンセラー、児童精神科医などと相
談しながら、学校での対応のあり方を考える
学級の中で孤立したり、集団生活にストレスを感じる
ことが多いため、十分な配慮を心がける
障害類に応じた教育
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知的障害
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生活習慣・技能、言語、算数など、実生活に役立つ内
容を、実際の体験を重視しながら指導する
知的能力や運動技能の個人差に配慮し、個別指導
や少人数指導を行う
自閉症
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基本的には通常学級と同じ内容を学習しながら、対
人関係の形成や生活に必要なルールなどを指導
言葉の裏を読むことが苦手なため、具体的な言葉や
視覚的な教材を使って指導を進める
障害類に応じた教育
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学習障害
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通常学級で十分な配慮に基づく指導を行った上で、
必要があれば通級による指導を行う
困難さ(読み、書き、計算)が一人一人異なるため、
個々に対応した指導を行う
ADHD
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LDと同様、通常学級での配慮に加え、必要があれば
通級指導を行う
順番を待ったり最後まで話を聞く指導や、余分な刺激
を取り除いた状況で課題に取り組む指導などを行う
ミニレポート
テーマ(1つ選択)
1.
2.
発達障害の病因論について説明せよ
発達障害によって生じる二次的な問題につい
て説明せよ