解析 II (Analysis II) 授業資料( 4/10,17 日分) • • • 本資料では、教科書の内容に沿って、意味 や背景説明、補足事項、関連・発展事項な どについて記す。 練習問題や立ち入った説明などは、別途 テキスト資料を web に掲載する。 数式などはすべてを再掲はしないので、 教科書記述と併用して読むこと。 第4章:級数(概要) • 級数とは何か(定義・実例) • 級数の収束・発散 一般的な収束条件、具体的・特殊な例 • 整級数(ベキ級数) 多項式(整式)の項数を∞にしたもの • 関数列・関数項級数 (可能な範囲で取り上げる) 2 コーシー列(pp.139-141) • 数列 a0 , a1, a2 , がコーシー列: (十分先のほうでは)数列の要素同士が互 いにいくらでも近くにある、ということ。 – 参考: 収束列の場合には、数列の要素があ る特定の点(極限値)にいくらでも近い。 • 目的: 数列がコーシー列であることと、 それが収束するかしないかとの関係 3 コーシー列(2) • 比較する要素同士は、添字がどんなに離 れていてもよい。 例: L 100 なら | an am | は : | a100 a1000 |, | a100 a100000 |, | a1000 a2000 |, • よくある間違い – 隣どうしの項だけしか見ない:×| an 1 an | – 問題: lim | an 1 an | 0 であっても、数列自 体は発散する例を示せ。 4 コーシー列(3) • 「収束列はコーシー列である」 (4.1.2) これは当たり前。問題はこの逆: • 「コーシー列は収束列である」(4.1.3) – つまりコーシー列なら極限が存在するということ – これは実数の基本的な性質(実数の完備性)の反 映である。 – また実数の完備性を表現する1つの方法でもある。 – 与えられた数列が収束するか否かの判定方法を与 えてもいる(ただし極限値がわかるとは限らない)。 5 参考: 実数の完備性 • 実数全体の集合には「隙間(穴)がない」、 ということ。 – 本によっては「実数の連続性」と書いてあるもの もあるが、「完備性」のほうが適切。 – 参考:「稠密(ちゅうみつ)」:どんな狭い間隔をと っても、その間に必ず集合の要素が存在。 – 稠密性と完備性とは一見似ているが、別物。 例えば有理数全体の集合は稠密だが完備では ない(いくらでも隙間がある:無理数のところ) 6 参考: 実数の完備性(2) • (互いに同等な)表し方は多数ある。 – – – – 有界数列には収束部分列が存在 (2.2.3) 有界な単調数列は収束する (2.2.4) 有界な集合には上限が存在する (3.1.9) コーシー列は収束列である (4.1.3) (Cauchy, Cantor) – a0 a1 a2 b2 b1 b0 で lim(bn an ) 0 なら an , bn の共通極限が存在する (Weierstrass) – 「デーデキントの切断」 (Dedekind) 実数の分割は上端・下端の一方のみ存在する 7 参考: 実数の完備性(3) • 数学としては、前スライドに掲げた完備性の 諸性質を論じるのが本筋だが、この授業で は立ち入らない。 • しかしこれらの性質は、具体的な応用にお いても重要! – 特に数列・級数の収束の判定 例: • 正項級数が一定値を超えないなら収束 (2.2.4) • 交項級数の収束 (4.1.19) 8 参考:三角不等式について • (4.1.2)~(4.1.4) の証明でも使われている 三角不等式は、極限を扱う場合の基本的 な証明手段の1つ。 • 原型: | a b | | a | | b | 2次元以上のベクトルのノルム(長さ)でも 成り立つ。 • 実際の使用は次の形が多い。 |a c||a b| |bc| 9 級数とは (series) • 数列 a0 , a1 , a2 , の要素の形式的な和: a0 a1 a2 an an n 0 – 定義については様々な問題や議論があるが、ここでは 立ち入らない。 k • 部分和: S k an n0 級数の和(定義): lim Sk s のとき k a n 0 n s • 級数を部分和数列とは別個に考えるのは、各項を 独立して扱うのが重要かつ簡単なことが多いから。 10 級数とは(2) • 和の定義 (4.1.6) の意味 – 収束しない(発散する)場合には無限和は存在 しない! コーシー以前の大問題:1 1 1 1 ? (これは (4.1.6) に基づけば発散する。) – (一般には)和をとる順序は変えられない! (有限和の場合には自由に変えられた) • 順序を変えると和が変わってしまう場合がある。 • それどころか、順序を変えて任意の値に収束させる こともできる!(参考: p.148 コメント) – 順序を自由に変えられる場合もある。(4.1.23) 11 級数とは(3): (4§2 以降の内容) • 級数の項 an が変数 x を含むとき、形式的 には x を変数とする関数と見なせる。 (関数(項)級数) – 例: 整級数、三角級数(フーリエ級数) – 一般に関数級数は、変数の値に応じて収束・ 発散が分かれる。 • 関数級数は、多様な関数を統一的に表し、 分析したり、関数値の具体的な計算など、 多様で重要な用途を持つ。 12 数学として扱うには • • • • 数列・級数はちゃんと収束するか? どういう場合に収束するか? どれぐらい速く収束するか? 収束する値は何か? などについての厳密な考察(定義・証明)が 必要になる。 13 なぜ級数か • 様々な数値、関数の値を計算する最も基 本的な手段。 – 計算機における関数ライブラリ等 • 関数を表すもっとも基本的な、また多くの 場合唯一の手段。 – 超幾何級数等 • 特定の関数の性質を調べる、一群の関数 の性質を一般的に調べる手段。 ⇒ (複素)関数論 14 級数の収束 • 数列の場合もそうだが、特に級数の場合、 – 収束するかどうかの判定と、 – 実際の極限値(級数の和)を求めること とは別問題。 • 収束自体は比較的簡単に示せても、実際の 極限値を求めるのが難しい場合が多い。 (場合によっては未解決問題) 1 2 (s) s (2) 6 n 1 n 例: ゼータ関数: • したがって収束判定の方法が重要となる。 15 級数の収束(2) • 基本は部分和数列 {Sn} が収束すること。 ⇒Sn に数列の収束の判定方法を用いればよい。 しかし! (次スライド参照) • 特殊な場合については個別に判定条件が考えられる。 – 正項級数 – 交項級数(交代級数) – 絶対(値)収束級数 ⇔ 条件収束級数 • 級数の和(収束値)を具体的に求めるのは困難。 実際に解けるのは、いくつかの既知な場合に帰される 場合のみ(等比級数など)。 16 級数の収束:一般の場合 • 部分和数列 {Sn} の収束を調べればよい。 – しかしそれができるのは、 Sn が簡単な式で表 される(つまり一般項がわかる)ような場合に 限られる。 n n 1 1 1 1 例: Sn 1 k 1 k (k 1) k 1 k k 1 n 1 • 収束の必要条件: 数列の項が0に収束 (4.1.7) (十分条件ではない。) • コーシー列であることの言い換え (4.1.9) 17 正項級数(1) • 正項級数の部分和は単調増加 • したがって上に有界なら収束 (2.2.4) n – どのような n でも Sn ak A が成り立つA を k 1 見つければよい – (4.1.12) :上から収束数列(優級数)で押さえる • また収束するなら絶対値収束 (4.1.21~3) – 収束判定や極限値の計算で、項の順番を自由 に入れ替えてよい。 18 正項級数(2) • 項別情報による収束判定 (4.1.13) (ダランベール、コーシー) – 「急速に」収束する級数には有効: 必ずしも使い道が広くはない • 積分近似による収束判定 (4.1.15) – うまく積分式で近似でき、その積分計算が簡単 にできれば有効な方法 – 多くの場面で使われる(n! の漸近展開等) 19 正項級数(3): 極限値の評価 • 単調増加なので、部分和 Sn は極限値の下 からの評価(過小評価)を与える • 上からの評価は直接には得られない (個別に工夫する必要がある) – したがって部分和による過小評価も、どれぐらい 真値に近いかは直接にはわからない 20 交項級数(交代級数) (4.1.18) • an (の絶対値)が単調減少して 0 に収束す るなら、和が存在する (4.1.19) a0≧0(したがって a1≦0, a2≧0, ...)なら、 S1 S3 S5 S2n 1 S2n S4 S2 S0 のように奇数項は単調増加、偶数項は単調減 少して共通極限に収束する。 – したがって、収束判定だけでなく、極限値の評 価も上下から評価できる 21 参考:ゼータ関数 (4.1.16) 1 1 1 1 ( s) • ゼータ関数: n 1 2 3 n 1 s s s s • s が実数のとき、s>1 なら収束、s≤1 なら発散 • s が偶数の場合には具体的な表現式は知られ ているが、奇数の場合はほとんどわかっていな い。ζ(3) は無理数であることは知られているが、 具体的な表現式は未解決問題。 • s を複素数に拡張した複素ゼータ関数は、数学 最大の未解決問題である「リーマン予想」と 直接関係している。 22 収束の速さ(半分復習) • (教科書 2.3.5 (p.60), 2.5.5 (p.79), 「無限大・ 無限小の比較」 2.5.11 (p.83)) – 以下の話は関数の場合だけでなく、数列・級数に 対しても当てはまる。 • 一般に lim f ( x) lim g ( x) c や lim f ( x) lim g ( x) d xa xa x x であっても、両関数が同じように収束していく とは限らない。 • 収束の「速さ」の違いをどう表すか。 23 収束の速さ(2) • 一般に lim f (x), lim g(x) が存在するとき (±∞ も含む:極限値は必ずしも同じでなく てよい): (1) f ( x) lim A (2) ( Aは定数) g ( x) 0 (3) – (1): f (x) は g(x) より収束が遅い: f (x)≫g(x) – (3): f (x) は g(x) より収束が速い: f (x)≪g(x) – (2): f (x) と g(x) は同程度の速さ: f (x)~g(x) 24 収束の速さ(3) • f (x)~g(x) のとき、 f (x)=o(g(x)), g(x)=o(f (x)) などとも書く。(記法は本により異なる) • o(...) の中は、よく知られた関数を書くのが 普通。これにより収束速度が比較できる 例: x→0 のとき、 1 1 x x 2 x 3 1 x o( x 2 ) 1 x これは x が十分小さいとき、左辺が右辺で 近似できることも表す。 25 整級数 (pp.150~163) • 変数 x の多項式の無限級数版。 a0 a1 x a2 x 2 an x n n 0 • ベキ(冪・巾)級数とも言う。 • テイラー展開は典型的な整級数の例。 • 整級数の真価は、x を複素変数として扱った複 素関数の世界に行かないとわからない。 – 整級数で表せる複素関数を「正則関数」という。 正則関数は複素解析の中心的存在。 26 整級数(2) • 整級数のもっとも基本的な性質: 収束域・収束半径の存在。(4.2.3)~(4.2.7) n a x • 整級数 n に対し、ある r (0 r ) n 0 が存在して、 |x|<r なら収束、|x|>r なら発散 (r=∞ の場合はすべての x で収束) |x|=r のときは場合による。(4.2.21) 27 収束半径の求め方 • 一般には (4.2.7) による。 – これらは級数の収束についてのダランベール、コ ーシーの判定法 (4.1.13) の応用 – ダランベールの判定法の場合、an=0 となる場合が 無数にあるとそのままでは使えない。 – しかし例えば n が偶数のとき an=0 なら、奇数項に ついてだけ考えればよい。 – コーシーの判定法にはそういう問題はないが、計 算はこちらの方が面倒。 • テイラー級数などで、あらかじめ収束半径がわ かっている関数から導くほうが実用的。 28 参考: 収束半径について • 整級数は、複素数の範囲で考えないと真 価がわからない。複素整級数は、複素関 数論の中核を占める極めて重要な存在 • 複素数の世界で考えると、次の定理が成 り立つ。 n a z – 整級数 n 0 n の収束半径が r なら、 |z|=r の円上で、級数が発散する点(特異点) が必ず存在する。 29 テイラー展開 • 与えられた関数 f (x) に対し、整級数: f ( n ) (0) n x が収束するなら、これをf (x) の n! n 0 (x=0 での)テイラー展開という。 ( n) f • 一般に x=a でのテイラー展開は: (a) ( x a)n n 0 n! • x=0 でのテイラー展開を「マクローリン展開」 と呼ぶこともある。 • 基本関数のテイラー展開 (4.2.14) は覚えて おくとよい 30 テイラー展開(2) • テイラー展開は関数を整級数として表す。 したがって有限項の部分和は多項式で 表され、関数の近似値を与える • 多項式なので、加減乗除だけで計算できる • したがって関数値を具体的に計算する方法とし て、実用的にも理論的にも極めて重要! • ただし、収束速度については関数によりかなり の違いがある。 – 遅い場合には加速法などの工夫が必要 – 実際のインプリメントでは、あらかじめ計算した表を 用意するなど、様々な工夫がなされる。 31 例 • sin 1 (=0.8414...) を求める。 x3 x5 x7 sin x x 3! 5! 7! 第3項、4項までを求 めることで: 1 1 1 1 1 1 0.8414... sin 1 0.8416... 1 3! 5! 7! 3! 5! • e (=2.71828...) を求める。 x 2 x3 x 4 x5 e 1 x 2! 3! 4! 5! x 1として、 n 5から順に x 2.71666..., 2.71805..., 2.71825..., e (下からの評価) 32 テイラー展開(3) • 関数の和・差のテイラー展開は、 テイラー展開の和・差 f ( x) n 0 f ( n ) (0) n g ( n ) (0) n x , g ( x) x のとき n! n! n 0 f ( x) g ( x) n 0 f ( n ) (0) g ( n ) (0) n x n! – 収束半径は、2つの収束半径の小さい方 • 積についても同様だが、整級数の形に整 理するのは面倒 33 テイラー展開(4): 関数の合成 • g(x) が x の整式なら f ( x) f ( g ( x)) n 0 が成り立つ。 f ( n) n 0 f ( n ) (0) n x n! に対し (0) {g ( x)}n (☆) n! n a x n – ただし、整級数 n 0 の形に直すには、項を 適当に整理する必要がある。 – もとの級数の収束半径が r なら 0 | x | r で収束 するのだから、(☆) は 0 | g ( x) | r で収束する 34 前スライドの例 • • x g ( x) なら 2 (n) x f (0) n f n x , 収束半径 2r 2 n 0 2 n! 1 2 (1) n x n 1 x x 2 x3 で x→x とすると 1 x n 0 1 n 2n 2 4 6 ( 1 ) x 1 x x x 2 1 x n 0 項別積分して: (1)n 2n 1 x3 x5 x 7 arctanx x x 3 5 7 n 0 2n 1 • これは円周率計算などで用いられる – x=1 でも収束し、 4 arctan 1 1 1 1 1 3 5 7 (ライプニッツ・グレゴリーの公式:収束は遅い) 35 テイラー展開(5) • 一般のテイラー展開: • 例: f ( x) 1 x 1 x x f ( x) n 0 n 1 x f (n) 2 f ( n ) (a) ( x a) n n! x 3 (| x | 1) n 0 n! ( x) (1 x) n 1 だから f ( n ) (1) 1 n 1 n! 2 ( x 1) n 1 ( x 1) ( x 1) 2 ( x 1)3 f ( x ) n 1 2 2 4 8 16 n 0 したがって • この収束半径は 2 (3 x 1) • これにより、 f (x) がテイラー展開で表せる 範囲を広げていける(=解析接続) 36 多項式(整式)、2項定理 • f (x) が多項式(整式)なら、展開式がその ままテイラー展開 – 2項定理はその具体例 (収束半径は∞) n f ( x) ( x a ) n k 0 n f ( k ) (0) k x n Ck a n k x k k! k 0 – f (x) で x=y+a と置いて y で整理すれば、 y=aでのテイラー展開になる n n n f ( x) ak x ak ( y a) k k 0 k k 0 k 0 f ( k ) (a) k y k! 37 一般の2項定理 (4.2.19) • 2項定理の n を自然数でなく、任意の実数 としたもの f ( x) (1 x) Cn x n , k 0 Cn ( 1)( n 1) n! – αが自然数でなければ収束半径は 1 – これを用いて様々な関数が表せる 1 x ( 1/ 2), 1 ( 1), 1 x 1 x2 , 1 1 x 2 等々 – ニュートンの微積分研究は、この一般の2項 定理が中心的役割を果たしている 38 項別微分・積分 • 収束半径内では(一定の条件のもとで) 項別に微分・積分できる。 (4.2.17) – 普通の関数については可能 – 一般の関数列の項別積分については (4.3.9), (4.3.10), (4.3.15) 参照 – 項別微分についてはもっと条件が面倒になる • 収束円上での収束 (4.2.21): 省略 39 数列・級数の計算: Excel • 図のように B列に n, D列に部分和を計算 する式を入れる • nは関数 row()を使って 作ると扱いやすい • D 列では上のセルと左のセルの和をとる • C 列に数列の項 an を計算する式を入れる • あとは 5行の内容を必要なだけコピーする 40 数列・級数の計算: Matlab (1) • 部分和を作る • n の値のベクトル nvec を作る – n = 10; nvec = (1:n)’; % 縦ベクトル • 数列 a(n) を作る。 例: a(n) = 1/n^2 – an = 1./nvec.^2; • 和を計算する – sum(an) 41 数列・級数の計算: Matlab (2) • 部分和列も作る(前スライドの続き) – Sn = zeros(n, 1); Sn(1) = an(1); – for k=2:n; Sn(k) = Sn(k-1) + an(k); end; – [nvec Sn] • symbolic モードで記号計算 – syms n; – symsum(1/n^2, n, 1, inf); % inf は ∞ の意味 42
© Copyright 2024 ExpyDoc