10・ヤノマミと異文化理解

10・ヤノマミと異文化理解
2012.06.29. 青山・文化人類学/文化人類学A
10・ヤノマミと異文化理解
2012/06/29 - [2]
ヤノマミとはどんなひとびとか?
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ここまでみてきたように、有史への突入=四大文明の登
場(7000~8000年前)以前に、ほとんど全世界にヒト
は進出した。
なかでもモンゴロイドは、環境適応を行ないながら、寒
冷地・海洋部へ進出していった。南米にすむヤノマミは
いわば「ヒトの進化の(現時点での)最終形態」ともい
える。
少なくとも、人間的能力において、ヤノマミとわたした
ちとの間に明白な集団的差異(個人的差異ではない)は
存在しない……異文化理解の出発点
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ヤノマミは理解しがたいのか?
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確かに、おぎゃあと生まれているのに葉っぱに包んで見
殺しにし、白蟻に食べさせて、最後は巣ごと焼き払う、
という表面だけを見ると「理解しがたい」
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それはなんだか、「自分たちの文化」からは遠くかけはなれたよ
うなイメージである
しかし「ねこ=漢方に基づく精力剤」という知識を入れ
たのと同様、「人工妊娠中絶の問題」という知識を背景
に考えてみると、どうだろうか?
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日本の人工妊娠中絶(1)
2012/06/29 - [4]
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日本の人工妊娠中絶(2)
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2012/06/29 - [6]
日本の人工妊娠中絶(3)
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ヤノマミビデオでは「年間20人前後生まれる赤ん坊のう
ち、半数以上が精霊として森に還される」とされていた
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日本の1950年代は、実はそれと大差ない
1975年は「年寄りの恥かきっ子」、2005年は「若者の過ち」と
しての人工妊娠中絶割合が目立つ(件数としては主ではない)
日本における人工妊娠中絶の変化
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1948年以前:そもそも禁止(1940年国民優生法と優生思想)
1948-1976年……28週未満は可(優生保護法による)
1949年:経済的理由による中絶を認める
1976-1990年……24週未満は可
1990年以降……22週未満は可
1996年:優生保護法を母体保護法に改正
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「ヤノマミ」と「わたしたち」
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「人工妊娠中絶の問題」という知識を背景に考えてみる
と、どうだろうか?
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人工妊娠中絶が「殺人」にならないのはなぜか? ……「法律」
でそう決まっているのだとすれば、ヤノマミは?
22週未満の胎児が「ひとではない」のなら、母親が抱き
上げていないまだ精霊のままの赤ん坊が「ひとではな
い」のと、なにがどう違うというのだろうか?
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そもそも、どの時点から「ひと」になるのだろうか? それは文
化によるのだろうか?
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ヤノマミはわれわれを「ナプ」と呼んだ
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「ナプ」=人間ではないもの・人間以下のものに位置づ
けられることは、違和感・不快感を伴うだろう
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それこそが「自文化中心主義的」スタンスだと言うこともできる
では、わたしたちがヤノマミを「原始人=原始そのまま
の暮らしをしているひと」「人間の本質・もともとの暮
らし方をするひと」と位置づけることは、それと違うだ
ろうか?
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どうひいき目に見ても「原始人」は誉め言葉ではなく、「いまだ
わたしたち〈文明人〉になりきっていない生き物」としか受け取
れないのではないか? cf. 進化主義的人間観
→わたしたちの視線も、オブラートに包まれてはいるが
やはり不快な「自文化中心主義」なのではないか?
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自文化中心主義/文化相対主義
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自文化中心主義とは、自分の文化の基準で周囲をはかり、
自分と異なる点について、ヘンだ・おかしい・間違って
いる・劣っている・遅れている、などと判断する立場
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それだけ聞くと、ずいぶんよくないスタンスのようだが、ひとは
誰でも成長過程で「自分の文化」を形づくっている以上、完全に
この見方を排除することは極めて難しい
文化相対主義とは、相手の文化も自文化同様しっかりと
した「体系」を持っており、そのひとびとの間で共有・
学習され、継承・ブラッシュアップされてきたものであ
るから、互いに尊重されあうべきものだ、と考える立場
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それだけ聞くと、とてもすばらしいスタンスだが、これを実現す
るためには、i. 相手の文化を(コミュニケーションを重ねた上
で)きちんと認める、ii. 自文化を相対化・客観視する、iii. 全体
の中での位置を(自他ともに)把握することが必要であり、なか
なか簡単に成し遂げられるものでもない