政策としての法をみる視点 ~法と経済学入門~

社会の認識
「社会科学的発想・法」
第02回
2009年10月14日
今日の資料=A4・7頁4枚
2. 日本における訴訟利用

川島テーゼ
 川島武宜『日本人の法意識
』(岩波書店/岩波新書、
1967年)
 日本人は(民事)訴訟をあまり利用しない
 これは、日本人の法意識において権利意識が希薄で、訴
訟を嫌うからである
 法意識の変化により、日本でも訴訟が利用されるようにな
るであろう

Is it satisfactory?
2
2.1 制度からの説明①Haley説

日本で(民事)訴訟の利用が低調なのは、訴
訟制度(広義)が利用しにくいからだ
 訴訟費用、担保提供
 裁判所へのアクセス

特に、弁護士(の数)
3
2.2 制度からの説明②Ramseyer説

日本で(民事)訴訟の利用が低調なのは、裁
判外で紛争が解決されているからだ
 ∵日本では裁判をした場合の結果を予想すること
が容易だから
ルールの適用類型の定型化
 損害賠償額の定額化
 同質的な裁判官、陪審の不在

 交通事故紛争について

保険会社の役割
4
「歩行者と車の事故」
信号機のある横断歩道上での事故・歩行者と直進車
歩行者の信 車の信号の 歩行者の基 車の基本過
号の表示
表示
本過失割合
失割合
青
赤
0%
100%
黄
赤
10%
90%
青
70%
30%
赤
50%
50%
黄
20%
80%
赤

交通事故の慰謝料に相場はあるのか? 交通事故情報通 トップ
ページ 交通事故の慰謝料等の計算方法 http://www.jiko2.com/より
5
2.3 Which is better explanation?

Haley説
 日本で訴訟利用が少ないのは、訴訟が非効率的
だからだ

Ramseyer説
 日本で訴訟利用が少ないのは、訴訟以外の紛争
解決回路が効率的だからだ
排他的な説明か?
 どちらのほうが現実にフィットするか?

6
 六本佳平『日本の法と社会
』(有斐閣、2004年)より
7
 日本弁護士連合会ホー
ムページより
<http://www.nichibenren
.or.jp/ja/jfba_info/membe
rship/suii.html>
8
2.31 株主代表訴訟の例

会社法847条
 「会社Aの株主が」違法行為等を行った「Aの役員
(取締役等)に対し」会社に与えた損害を会社Aに
対して支払うことを命じることを求める訴訟

※訴えた株主個人が利益を得るわけではない
9

1950(S.25)商法改正で導入
 初めての訴訟は6年後
 1990年までの40年間で20件未満

→
 1993年:約80件
 以後、毎年100~200件で推移
10

なぜ?
 バブル経済の崩壊、企業不祥事、etc.
 訴訟手数料の変更
93年高裁判決→94年法改正
 (旧)「財産上の請求」→手数料は訴額に応じて高額に
 (新)「財産上の請求でない請求」

訴額を一定額とみなす→手数料も一定額で固定
 →8200円(93年当時)(現在では13000円)

11
2.4 政策的含意

訴訟を、利用しやすくすべきか?
 訴訟は目的か、手段か
〈誰〉が、そのような制度を構築したのか?
 Haley説によれば


Ramseyer説によれば
12
2.5 小括

「合理人」の目で制度を見る
 「文化」による説明に依拠する前に

複数の説明の可能性
 どんな範囲のものを
 どのような視角から

実証的検証の必要性
 複数の説明が可能だとすれば、いずれが最も有
力か

政策的対応へのインプリケーション
13
3. 不法行為法の経済分析

モデル型思考の例
 モデルでどこまで切れるか?

「不法行為」とは?
 民法709条
(不法行為による損害賠償)
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護さ
れる利益を侵害した者は、これによって生じた損害を
賠償する責任を負う。

14
3. 事故法の経済分析

民法709条
 過失責任主義
過失あり→賠償責任を負う
 過失なし→賠償責任を負わない


〈別ルール①〉常に、加害者は責任を負う
 厳格責任

〈別ルール②〉常に、責任を負わない
 生じた損害は、被害者がかぶって、そのまま
15
3.1 モデル:事故の社会的費用

登場アクター
 Xの行為により、Yは損害を被(り得)る

考慮要素
 Yに生じた損害(生じ得る、潜在的損害)
 事故の抑止のために、Xが費やすコスト

事故防止をしたいだけならXは…
 (紛争解決にかかるコスト)
 →社会全体の観点から
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(事故が発生すると100の損害が発生するとする)
注意のコスト
事故発生
確率
損害の
期待値
社会的費用
の合計
なし
0
15%
15
15
中
3
10%
10
13
高
6
8%
8
14
注意レベル
17
費用①予防費用:1単位あたり w の費用がか
かる予防措置を x 単位行う → wx
 費用②期待損害:確率 p(x) で L だけの損害
が発生する → Lp(x)
 → この合計が社会的費用

18
19
20
21
3.2 〈②責任なしルール〉の帰結
22
3.3 〈①厳格責任ルール〉の帰結
23
3.4 過失責任ルールの特徴
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