Document

社会の認識
「社会科学的発想・法」
第04回 2009年10月28日
今日の資料=A4・6枚
http://www.juris.hokudai.ac.jp/~aizawa/
3. 事故法の経済分析
 事故の社会的費用のモデルの観点から
 事故により生じる損害(生じ得る、潜在的損害)
 事故の抑止のために、潜在的加害者が費やすコ
スト
 (紛争解決にかかるコスト)

法ルールを比較・評価
 責任なしルール
 過失責任ルール
 厳格責任ルール
2
費用①予防費用:1単位あたり w の費用がか
かる予防措置を x 単位行う → w・x
 費用②期待損害:確率 p(x) で L だけの損害
が発生する → L・p(x)
 → この合計が社会的費用

 SC(x)
= w・x + L・p(x)
3
4
5
3.34 (暫定的)結論

過失の判断基準=要求される注意のレベル
(x)として、社会的費用を最小化するような予
防の水準が設定されるならば、 過失責任
ルールと厳格責任ルールとに違いはない
6
(補)

ハンドの公式
B
< L * P → 過失あり
 アメリカの有名な判例より

←→ SC’(x) = w + L・p’(x*) = 0 なる x*
7

紛争解決コストを考慮に入れてみると?
 裁判所は、どのような情報を入手しなければなら
ないか?入手しやすいか

厳格責任ルール
 損害Lの大きささえ分かればOK
8

過失責任ルール
 必要な情報、多い

xの設定

←w、L、p(x)
xの水準
 Lについて

 他のソースから、x=x*の水準が分かる場合


e.g., 慣行
→厳格責任ルールのほうが、運用が楽(?)
 裁判規範として
 行為規範として
9
3.4 モデルの拡張

3.41 予防費用の変化
 (状況①)予防費用低い;w1
<w
 (状況②)予防費用高い;w < w2
10
11
事故予防費用↑ ⇒ 社会的最適予防水準↓
 事故予防費用↓ ⇒ 社会的最適予防水準↑
 要求される注意水準x=社会的最適予防水
準 x*

⇒
⇒ x ↓=過失認められにくく
 事故予防費用↓ ⇒ x ↑=過失認められやすく
 事故予防費用↑
12
3.42 損害・事故の発生確率の変化

(状況①)損害小or事故発生確率小
 L1

< L; or p1(x) < p(x)
(状況②)損害大or事故発生確率大
L <
L2; or p(x) < p2(x)
13
14
15



損害↓or事故発生確率↓ ⇒社会的最適予防水準↓
損害↑or事故発生確率↑ ⇒社会的最適予防水準↑
要求される注意水準x=社会的最適予防水準 x*
⇒
⇒ x ↓=過失認められにくく
 損害↑or事故発生確率↑ ⇒ x ↑=過失認められやすく
 損害↓or事故発生確率↓
16
3.43 裁判所の過誤①損害の認定

3.431 厳格責任ルール下の、損害のランダム
な過誤
 影響なし
 ∵過大に見積もる場合と過小に見積もる場合が打
ち消しあう

IPC(x) = w・x + (1/3・1.5L・p(x) + 1/3・L・p(x) + 1/3・
0.5L・p(x)) = w・x + L・p(x)
17

3.432 厳格責任ルール下の、損害のシステマ
チックな過誤
 システマチックに、過小に評価する
 システマチックに、過大に評価する
18
19

システマチックに、過小に評価する
 ⇒Xの執る予防水準は過小に

システマチックに、過大に評価する
 ⇒Xの執る予防水準は過剰に

厳格責任ルール下では、潜在的加害者の行
動は裁判所による損害の認定の過誤の影響
を受けやすい
20
3.433 過失責任ルール下の、損害の過誤
21
22

過失責任ルールの下では、潜在的加害者の
行動は裁判所による損害の認定の過誤の影
響を受けにくい
 いずれにしても過失の判断基準の水準の予防措
置を講じる

但し、損害の過小認定が甚だしいと過小な予
防措置しか執られないことがある
23
3.44 裁判所の過誤②過失の判断

3.441 過失の判断基準=要求される注意水
準xの設定の過誤
24
25

潜在的加害者の行動は、裁判所の設定する
過失の判断基準に従う
 但し、高すぎる判断基準には従わない

(解釈①)過失責任ルール下では、潜在的加
害者の行動は裁判所による過失の判断基準
の設定の過誤の影響を受けやすい
 但し、過誤が高すぎる方向で甚だしい場合は影
響を受けない
26

(解釈②)(何らかの理由で)社会的費用最小化
の水準とは異なる予防の水準を潜在的加害
者に執らせたい場合は、過失責任ルールを
採用した上で、執らせたい予防水準を過失の
判断基準として採用すればよい
 但し、高すぎる基準を設定した場合には従われな
い可能性がある
27
3.442 過失の判断のランダムな過誤
過失判断基準 x が(抽象的には)正確に x* に
設定されていたりしても
 判断基準のブレ
 認定の過誤

28
29

裁判所による過失判断のランダムな過誤が発
生する場合、潜在的加害者は過剰な予防措
置を講じる
30
3.5 “双方向”事故の場合

これまでの前提:Xのみが事故の予防措置(x)
を講じることができる
 e.g.,

手術ミス、飛行機事故
だが、(潜在的)被害者Yが事故の予防措置(y)
を講じることができる場合も多い
 e.g., (多くの)交通事故
 SC(x,y)
= w1・x + w2・y + L・p(x,y)
31
3.51 責任なしルールの“裏”
32
3.52 厳格責任ルールの“裏”
33
3.53 “双方向”事故と過失責任ルール

過失判断基準 x での、事故費用の負担の分
割
< x =過失あり=加害者が負担
 x < x =過失なし=被害者が負担
x
34
Xの予防費用:低0; 中4; 高8
Yの予防費用:低0; 中3; 高6
Yの注意水準
事故発生確率
Xの注意
水準
低
中
高
低
20%
15%
13%
中
15%
10%
8%
高
13%
8%
6%
35