政策としての法をみる視点 ~法と経済学入門~

社会の認識
「社会科学的発想・法」
第03回 2009年10月21日
今日の資料=A4・9頁5枚
http://www.juris.hokudai.ac.jp/~aizawa/
3. 不法行為法の経済分析

モデル型思考の例
 演繹型思考 (←→帰納的思考)
 シンプルな(=多くの仮定を置いた≒非現実的な)モデ
ル
 →より複雑な(=いくつかの仮定を緩めた≒より現実に
近い)モデルへ
 モデルでどこまで分析できるか?
 事前の(ex postな)考慮
2
3.1 「不法行為」とは?

民法709条
(不法行為による損害賠償)
 ①故意又は過失によって②他人の権利又は法律上保
護される利益を侵害した者は、③これによって生じた④
損害を賠償する責任を負う。


刑法犯との区別
3
3. 事故法の経済分析

民法709条
 過失責任主義
過失あり→賠償責任を負う
 過失なし→賠償責任を負わない

4

〈別ルール①〉常に、加害者は責任を負う
 厳格責任;無過失責任
 民法717条1項
(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによっ
て他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、
被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただ
し、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意を
したときは、所有者がその損害を賠償しなければならな
い。

5
 製造物責任法3条
(製造物責任)
 製造業者等は、その製造、加工…等の表示をした製
造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の
生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生
じた損害を賠償する責めに任ずる。…

 大気汚染防止法25条1項
(無過失責任)
 工場又は事業場における事業活動に伴う健康被害物
質…の大気中への排出…により、人の生命又は身体
を害したときは、 当該排出に係る事業者は、これによ
つて生じた損害を賠償する責めに任ずる。

6

〈別ルール②〉常に、加害者は責任を負わな
い
 生じた損害は、被害者がかぶって、そのまま
 失火責任法

民法第七百九条 ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セ
ス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ
在ラス
7
3.2 基本モデル:事故の社会的費用

登場アクター
 Xの行為により、Yは損害を被(り得)る

考慮要素
 Yに生じた損害(生じ得る、潜在的損害)
 事故の抑止のために、Xが費やすコスト

事故防止をしたいだけならXは…
 (紛争解決にかかるコスト)
 →社会全体の観点から
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(事故が発生すると100の損害が発生するとする)
Xの
注意レベル
Xの
注意のコスト
事故発生
確率
損害の
期待値
社会的費用
の合計
なし
0
15%
15
15
中
3
10%
10
13
高
6
8%
8
14
9
費用①予防費用:1単位あたり w の費用がか
かる予防措置を x 単位行う → w・x
 費用②期待損害:確率 p(x) で L だけの損害
が発生する → L・p(x)
 → この合計が社会的費用

 SC(x)
= w・x + L・p(x)
10
11
12

より高いレベルの予防をすればするほど、事故の発
生確率は下がっていくだろう
 p(x)はxの減少関数
 p’(x) < 0

どんなに高度の予防措置を講じても、事故の発生確
率は0にはならないだろう
 p”(x)は原点に対し凸
 p”(x) > 0

※予防のレベルに応じて損害の大きさLが変化する
としても同様
13
14
3.3 各ルールの比較
予防のレベルxを選択するのはX
 ←各ルールの下で、Xの私的(private)に直面
する費用関数は?

 Xは、自らの費用関数を最小化するように
x を選
択する

→このようにして x が選択されると、その結果
は社会的に見て望ましいか
15
3.31 〈②責任なしルール〉の帰結

事故により生じるであろ
う費用(L・p(x))につい
て、Xは負担しない
 =w・xについてのみ、X
は負担する

Xは、これを最小化しよ
うとする
16
3.32 〈①厳格責任ルール〉の帰結

Xは、事故により生じた
損害を賠償する(ことに
なる)
 どんなに注意を払ってい
ても!
 =L・p(x)はXが負担する
 予防の費用w・xも(もち
ろん)Xが負担する

→この合計がXの私的
費用関数
17


Xの私的費用関数は社
会的費用関数に一致
する!
→厳格責任ルールの
下では、Xは社会的に
最適な x の水準(x*)を
選択する
18
3.33 過失責任ルールの特徴

過失とは?過失の判定基準は?
 「注意義務duty
of care」と「注意義務違反」
 一定レベルの予防
以上の予防 x が講じられている → 過失なし
 を下回る予防 x しか講じられていない → 過失あり

19

どこで線を引くか?
 どこでもいいけど…
 例えば、x*で引いてみる

SC’(x) = w + p’(x*) = 0 なる x*
→
x ≧ x* → 過失なし → 賠償責任なし
 → x < x* → 過失あり → 賠償責任あり
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x が x* より大きいか小さいかにより、Xの私的
費用関数が断絶
 Xは x = x* なるレベルの予防を選択する

23
3.34 (暫定的)結論

過失の判断基準として、社会的費用を最小化
するような予防の水準が設定されるならば、
過失責任ルールと厳格責任ルールとに違い
はない
 「無過失責任の導入により、製品の安全性が増
す」?
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
紛争解決コストを考慮に入れてみると?
 裁判所は、どのような情報を入手しなければなら
ないか?入手しやすいか

厳格責任ルール
 損害Lの大きささえ分かればOK
25

過失責任ルール
 必要な情報、多い

x*の設定

←w、L、p(x)
xの水準
 Lについて

 他のソースから、x*の水準が分かる場合

e.g., 慣行
26
3.4 モデルの拡張
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