政策としての法をみる視点 ~法と経済学入門~

社会の認識
「社会科学的発想・法」
第06回 2009年11月11日
今日の資料=A4・4枚
http://www.juris.hokudai.ac.jp/~aizawa/
3. 事故法の経済分析

(補)(参考)製造物責任法6条
 (民法
の適用)
 製造物の欠陥による製造業者等の損害賠償の責
任については、この法律の規定によるほか、民法
…の規定による。
 =民法722条2項も準用
 =過失相殺の抗弁つき厳格責任ルール
2
3.6 行為の「量」 (level of activity)
これまでの前提:Xの行う行為の量は一定
 だが、同じだけの注意を払いながら行為する
のだとすれば、より多く同じ行為をするX1のほ
うがより高い確率で事故に遭遇するだろう
 以下

 行為からの“効用”を計算に入れる
 個々の行為においては最適な予防措置を執る
3
3.61 厳格責任ルールと行為の“量”
0
効用の
合計
0
1
40
3
10
27
2
60
6
20
34
3
69
9
30
30
4
71
12
40
19
5
70
15
50
5
行為の
“量”
予防費用 事故の
合計
期待費用
0
0
0
4
3.62 過失責任ルールと行為の“量”
0
効用の
合計
0
1
40
3
(10)
37
2
60
6
(20)
54
3
69
9
(30)
60
4
71
12
(40)
59
5
70
15
(50)
55
行為の
“量”
予防費用 事故の期
私的効用
待費用
合計
0
(0)
0
5
厳格責任ルールの下では行為の“量”も最適
化される
 過失責任ルールの下では行為の“量”が過剰
になり得る

 ∵要求される予防水準の設定に際しては行為の
“量”は(原則)計算に入っていない
 ∵行為の“量”を計算に入れるのは困難
6
3.63 “双方型”事故の場合

過失責任ルール
 (潜在的)加害者側(X):過剰な“量”の行為をしが
ち
 (潜在的)被害者側(Y):厳格責任ルール的に行
動→行為の“量”も最適化

厳格責任ルール+寄与過失の抗弁つき
 (潜在的)加害者側(X):行為の“量”も最適化
 (潜在的)被害者側(Y):過失責任ルール的に行
動→過剰な“量”の行為をしがち
7
3.7 小括

モデル型思考
 幾つかの仮定を置いて、社会関係をモデル化し
てみる
 →モデルの挙動を確認する

シンプルなモデルから、複雑なモデルへ
 →これにより説明できる部分、説明できない部分

説明と規範/政策論
8
4. 財産権の経済学的基礎
「財産権property (right)」
 「物権」

 民法175条以下
 ←民法85条

この法律において「物」とは、有体物をいう。
 「所有権」
9

「知的財産権」
 特許、著作権、商標…

Whatever else
海;電波の周波数帯;衛星軌道;月面の土
地;労働力…
 e.g.,
10
4.1 なぜ財産権が必要か

民法206条
 (所有権の内容)
 所有者は、法令の制限内において、自由にその
所有物の使用、収益及び処分をする権利を有す
る。
11

→物権的請求権
 返還請求権
 妨害排除請求権
 妨害予防請求権
 cf.
民法198条
(占有保持の訴え)
 占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴
えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求する
ことができる。

12

著作権法112条1項
 (差止請求権)
 …著作権者…は、その…著作権…を侵害する者
…に対し、その侵害の停止又は予防を請求する
ことができる。

「ある財/資源について、他者の利用を排除
できる権利」
13
4.11 排他的に利用できなければ
X
14
X
Y
15
稚魚(価値3)×2匹;
成魚になれば価値5
X、Yの
利得
稚魚を
放流
Xの
行動
稚魚も
(戦略)
食べる
Yの行動
(戦略)
稚魚を放流
稚魚も食べる
5
5
0
7
(3+4)
7
(3+4)
0
3
3
16

共有地(commons)の悲劇
 共有=誰でもアクセスできる牧草地
 各アクターは、自分の利得を最大化しようと、放牧
する家畜の数を決定する

1頭追加することによる利得は自分が確保する一方で、
既存の家畜に対する悪影響は全体に分散する
 →牧草地は荒れ果て、結局皆困る
17
XとYの2人社会
 それぞれ家畜の頭数gxとgyを決定する

G
= gx + gy
 一頭あたりの価値 v(G);費用はc

G<Gmaxならばv(G)>0; v’(G)<0; v”(G)<0
 Xはgx・v(gx+gy*) –

c・gxを最大化
その条件 v(gx+gy*) + gx・v’(gx+gy*) – c = 0
18

Yについても同様に言えて、両者の条件式を
足し、G*=gx*+gy*とおいて
 2v(G*)

+ G*・v’(G*) –2c = 0
社会全体としては G・v(G) – G・c を最大化す
べき
 その条件はv(G**)

+ G**・v’(G**) –c = 0
∴G* > G**
19

外部性(externality)
 あるアクターの行為が他のアクターに影響を及ぼ
すこと

ある資源の利用につき、正の外部性が発生
 →その資源について、過少利用が起きる

ある資源の利用につき、負の外部性が発生
 →その資源について、過剰利用が起きる
20

→対応策①
 問題が発生するのはXとYが睨み合っているから
 →ならばXならばXのみに使わせればよい

他の対応策
 XとYで取り決めて、稚魚は放流することにする
21
4.12 社会契約説の経済学的解釈
排他的利用をやめる利得 > 排他的利用を
やめる費用 ⇒ 排他的利用
 以下、

 X・Yの2人社会
 それぞれ、農業を営む
 と同時に、相手から生産物を奪おうとする
 それから防御しようとする
22
自然状態
収穫
奪取
損失
合計
X
50
40
-10
80
Y
150
10
-40
120
合計
200
50
-50
200
23
文明社会:収穫合計+100=300
威嚇値
余剰の分配
合計
X
80
+0~100
80~180
Y
120
+100~0
220~120
合計
200
+100
300
24

「Xが(Yが)ある資源を排他的に使う」
 自然に使う範囲が分かれる
 自分で守る
 互いに使っている範囲を尊重する
 それぞれが使っている範囲を尊重することを保障
するような仕組みを作る
=政府/国家の設立
 …社会契約説の経済学的解釈

25