行動障害心理学 第1回:行動分析の枠組み 2005年度 前期 望月昭 [email protected] 共通ミッション:「正の強化で維持される行動の選 択肢の拡大」(覚えてね) 1 暫定的な定義として・・・・・ 「本人もしくは周囲の人間がそれがなく なることを望んでいる慢性的な行動」 1)ある行動の過多が典型的 2)ある行動の過少 3)慢性的ということは、現状環境の 何かがそれを維持している =行動の問題である.=行動障害 2 行動分析(Behavior Analysis) 人間を含めた動物全体を対象として行動の原理 が実際にどう働くかを研究する学問 (1)研究の対象は行動それ自体である。行動 を通して心ないし意識や認知あるいは脳の働き などを研究するのではない (2)行動に関するすべての出来事を、同一の 理論的枠組みとできるだけ少ない共通の原理で 分析する (3)行動の原因を、個体の内部にではなく、 個体をとりまく過去および現在の外的環境の なかにもとめる 3 行動分析的方法の第一の利点: ・職制としての専門性としてではなく、 日常的な(直接の)援助者、一般的、日常 的な状況設定の中で「行動問題」に対処す る。 ・問題となっている事、その事自体(「問 題にする」のはなぜ)の背景を辿ることで 抜本的理解をすることができる. →(狭い意味での)「行動療法」とは異な る。 参考:「精神疾患はつくられる:DSM診断の罠」 カチンス/カーク(日本評論社) 4 行動分析の枠組み 行動障害を考える上での基本フレーム 1)行動分析学の思想・志向 2)分析の枠組み 5 1)思想・志向 「罰なき社会」 B.F.Skinner(1990) 行動分析学研究、5, 87-96 1979年の日本における講演 日本心理学会で来日、慶応義塾大学での 名誉学位授与式におけるスピーチ 6 不快で罰的なもの 0.ヒトを含めた動物は不快で罰的なものから 逃避する、という特性を持つ 1.自然的・物理的な随伴性の中にあるもの →克服されつつある 2.社会的な随伴性の中にあるもの →いまだに多い 罰と負の強化による行動の統制の最終的な 結果は? →逃亡(例題:シートベルト) →反撃(counter control)罰による対抗 7 8 罰を他者に与える行動はなぜ維持されるか 本能ではなく「学習」による ●罰を用いた社会的行動:直後に強化を受 けやすい(かつコストがかからない) 例: ・「罰」による相手の行動停止が、罰の執 行者の即時的な「負の強化」になる ・嫌悪的(不快)刺激を前提とした(そむ けば罰)行動統制は、即効性がある場合が あるので、執行者の当該行動は強化を受け やすい 9 罰ではなく「正の強化」を用いる 行動修正法 1)(罰ほど)即効性はない 2)コストはかかる (短期的に言えばの話) 3)長期的には効果あり 10 即時的な負の強化に対抗するには即時的な正の強 化を配置する必要がある ●トークンなどの使用 →「買収」「即物的」といった批判 あり(古典的には「餌付け」) ●本来、「行動の達成」がなによりの 正の強化となりえる →トークンはそれに至る手段 「正の強化」というのは手段ではな く、目的としなくてはならない。 11 あるいはトークンなどは、 「強化随伴性への感受性」を回復するための 「補充的」環境と考える トークン・エコノミー(精神病院で最初に使用) 批判:本来あるべき「権利」を剥奪され(食べ物、 活動)、それを強化刺激として用いるのはいかん 「権利の剥奪」:「強化随伴性」(自らが行 動する、強化を得る)を剥奪され、一方的に 「与えられている」(given)状態ではないか →Prison Blues 12 「人が人をコントロールすること」自体が良くな い、という批判あり 現実には、われわれの日常は絶えず相互に コントロールする(される)という状況 罰や負の強化でコントロールされている場合 に、われわれはネガティブな意味で「コント ロールされている」と感じる 「正の強化」での生活できる随伴性を創る 「しなければならない」(罰・負の強化)から 「・・したい」(正の強化)→ 幸福感 13 2)行動分析の基本的枠組みとターム ★行動随伴性という枠組みで行動をとらえる ★行動を維持する2つの行動随伴性 「正の強化」「負の強化」 (行動を減じる操作:「罰」と「消去」) ★特定の刺激(事態)が持つ行動への強化の 効果を変化させる操作あり(確立操作) ★即時的行動随伴性と社会的相互作用(問題 行動が絡むと「社会的悪循環」) 14 2)分析の枠組み 行動とは? ★「行動随伴性」という枠組みで行動を捉える 行動 先行状況 先行状況 行動 行動 結果状況 3点セットで「行動」をとらえる 行動することで、環境変化が生じ行動に影響 15 「正の強化」と「負の強化」の特徴 ●正の強化:「好ましい結果」(一般的には)に よって行動が維持される → その行動や関連する事物が好ましい刺激と なっていく。 → さらに多くの当該行動が出現していきやすい ●負の強化:「(一般的には)嫌悪的な状況から の逃避や回避」によって行動が維持される →その行動や関連する事物も嫌悪的になる可能性 →嫌悪事態を避けるための最低限の行動が維持 16 行動の増大(維持)/減少をひきおこす二つの随伴 性の手続き(強化/罰) 行動への効果で区別:「好ましい」はずなのに・・ 反応増大(維持) 反応減少 刺激の出現 正の強化 正の罰* 刺激の除去 負の強化* 負の罰 *罰の効果:「天罰」しか効かない(?) **負の強化:逃避(escape)/回避(avoidance) それまで行動を維持していた強化を中止することで 行動が減少していくこと・・・ 消去 17 喫煙する行動 1)正の強化? 2)負の強化? 3)ある別の行動が正の強化を受けるための 「強化事態」を作るための行動? 18 ★ 即時的行動随伴性と社会的相互作用 「抱き癖」行動随伴性 赤ん坊の「泣く」行動 先行状況 抱かれていな い 行動 泣く 後続状況 抱かれる 母親は、子どもの「泣く」行動を維持している 随伴性に気づいているかも知れない。 しかし維持している自分の行動を止めることが 19 できない 母親の「抱く」行動 先行状況 泣声あり 行動 後続状況 抱く 泣き声なし 一時的だが即時的環境変化 行動は、遅延する環境変化よりも、即時的な環境変 化に影響を受けやすい 20 ★社会的悪循環 「やめさせたい」と思っているのに、かえってやま らなくなってしまう相互的行動随伴性の状況 抱く 即時性が絡む 泣きやむ 泣く ベッドに寝かせる 21 「問題行動」 いやしくも「慢性的」になっているので問題視さ れている。 慢性的とは、当該行動が周囲との行動随伴性関係 において「社会的悪循環」になっている場合が多 い。 →つまり、「やめさせたい」という思いが強いが ゆえに「やめさせられない」場合がある。 →あるいは、(実際には効果のない)「やめさせ る行動」自体が他から強化されて、維持している 場合もあるかも知れない。 22 Question: ●赤ん坊の「抱き癖」を停止するには? 1)赤ん坊の行動への操作(母親の対応): 2)母親の行動への操作(母親への対応): 23 24
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