行動分析実習(3) • 罰なき社会 対人援助の文脈からみた行動分析の思想2 もっとも大切な行動分析の思想: 正の強化 1 この単元の内容 • 人が人に対するとき(とくに対人援助の場面 で)、嫌悪的な刺激を使って、いやいややら せたり、叱ったりしてはならない。 • 「今を認める」とは? • 「×から○」ではなく、「○から×」 2 対人援助全般の作業における 行動分析的表現による一般的な目標設定 「正の強化」で維持される行動の機会を持ち、 その機会が拡大していくように援助すること [正の強化]:本人にとって、好ましい 結果事象を随伴させることによって、行 動が成立・維持させる操作 [負の強化]:嫌悪的な刺激事象がなく なるという随伴性によって行動を成立・ 維持させる操作(いやいや行わせる) 3 行動の増大(維持)/減少をひきおこす二つの随伴 性の手続き(強化/罰) 行動への効果で区別:「好ましい」はずなのに・・ 反応増大(維持) 反応減少 刺激の出現 正の強化 正の罰* 刺激の除去 負の強化* 負の罰 *罰の効果:「天罰」しか効かない(?) **負の強化:逃避(escape)/回避(avoidance) それまで行動を維持していた強化を中止することで 行動が減少していくこと・・・ 消去 4 一見、ややこしい分類をする意味 「意図」と「事実(効果)」の違い ・「ごほうび」を与える 与える側が「正の強化」と意図していても 効果は逆のことがある ・「体罰」を与える 「正の罰」と意図していても強化になる 場合もある 5 ところで、どんな後続事象が正の強化になる? ・プリマックの原理 より自発頻度が高い反応はより自発頻度 の低い反応を強化する (「えさを食べる」vs.「レバーを押す) ・反応制限説 より制限された反応はより制限されない 反応を強化する 結局、それぞれの個体で何が強化になるかは、その個体 の現状の状況をみるしかない。その個体(個人)から離 れて、一律に強化(刺激)を同定することは難しい。 6 罰や負の強化で行動が 維持されると? • 多くの社会的課題や問題行動の原因の 殆どはこのネガティブな行動の統制によ るものと考えられる 7 負の強化:嫌悪的な事態からの 逃避・回避によって維持された 行動の結果 8 日本の生徒の勉強は? 『世界各国の 中学2年生を対象に 数学と理科の 国際テストが 行われました。世界38の国や地 域の中学2年生、およそ18万人を 対象に行っ たテストの結果から、日本の生徒は「数学」では、 シンガポール、韓国 台湾、香港に次いで5番目、 「理科」も台湾、シンガポール、 ハンガリーに 次いで 4番目に高い成績でした。一方で、「数 学」を「好き」と 回答した日本の生徒の割合は 48%で、回答した37の国と地域の中で 36 番目、「理科」についても回答した23の国と地 域の中で 22番目と、 世界最低レベルであるこ とがわかりました』 9 (毎日新聞、2000、11月) なぜヒトは「罰」を使ってしまうのか 「正の強化」でも「負の強化」であっても、 ヒトは即時的な強化に弱い 10 ★ 即時的行動随伴性と社会的相互作用 「抱き癖」行動随伴性 赤ん坊の「泣く」行動 先行状況 抱かれていな い A 行動 泣く B 後続状況 抱かれる C 母親は、子どもの「泣く」行動を維持している 随伴性に気づいているかも知れない。 しかし維持している自分の行動を止めることが 11 できない 母親の「抱く」行動 先行状況 行動 後続状況 泣声あり 抱く 泣き声なし A B C 一時的だが即時的環境変化 行動は、遅延する環境変化よりも、即時的な環境変 化に影響を受けやすい 12 ★社会的悪循環 「やめさせたい」と思っているのに、かえってやま らなくなってしまう相互的行動随伴性の状況 抱く 即時性が絡む 泣きやむ 泣く ベッドに寝かせる 13 「問題行動」 いやしくも「慢性的」になっているので問題視さ れている。 慢性的とは、当該行動が周囲との行動随伴性関係 において「社会的悪循環」になっている場合が多 い。問題行動=行動問題 →つまり、「やめさせたい」という思いが強いが ゆえに「やめさせられない」場合がある。 →あるいは、(実際には効果のない)「やめさせ る行動」自体が他から強化されて、維持している 場合もあるかも知れない。 14 Question: ●赤ん坊の「抱き癖」を停止するには? 1)赤ん坊の行動への操作(母親の対応): 2)母親の行動への操作(母親への対応): ●問題行動への対処はどうしたらよいか? 1)ボーダラインのヒトへの対処の失敗 2)自傷行動に対応するにはどうしたら? 15 事例2 「自傷」のケース ●対象者: 19歳男性、自閉性障害、重度の知的障害、発話なし。 自宅居住、入退院を繰り返す、 問題行動:側頭部を拳で叩く、首筋をつまむ、 両側頭部に腫れあり、首筋には傷あり。 ●これまでの対処 投薬/入院(入院時しばらくして自傷は低くなるが、 時間経過の中で増大、「拘束」(ひもで身体を縛る) あるいは手袋で緩解し退院)/ 退院時にも同じ(暫くは良いが時間経過の中で増大) これを繰り返している状態。 16 側頭部を拳で叩く 先行状況 刺激なし 行動 叩く 後続状況 刺激あり 看護師の対応 ・身体的制止 ・ことばによる制止 +「約束」 17 病棟の看護師の対応 先行状況 行動 後続状況 自傷あり 制止・拘束 瞬間やまる 先行状況 拘束で自傷 なし 行動 「もう叩かない と約束して」 後続状況 うなずく 18 対応中の本人の行動 先行状況 行動 後続状況 約束+拘束 うなずく 解放される 先行状況 行動 後続状況 解放状態 自傷 強い制止 「約束した のに!」 19 自傷行動と痛み(刺激)刺激の関係の解除(消去) →「手袋着用」 社会的強化の随伴性の解除 →自傷行動への消去? →対処行動に対する確立操作 ? 正の強化の使用 → ? 20 紹介した事例に(異物ながし/自傷)に 共通する点 →行動をやめさせる操作が強化になっている。 →一時的・即時的な強化が周囲の行動を維持して しまっている 21 効果という点だけで「罰」の操作を考えるなら(中 島、2000「学習の心理」参照) 1.効果のある罰を使わなくてはならない。 (自傷:「やめなさい」は効果のある時のみ) 2.遅延の罰は効果がない 3.罰がくるかを知らせる信号を与えてはいけない (罰がこない場面では一層その行動が増大する) 猫への「天罰」の例を想起 4.嫌悪刺激と正の強化子が混在していると、嫌悪 刺激だけでも反応が増加する場合がある 22 行動分析的な対処の基本は、行動をな くすことではなく、行動を増やすこと (成立させること)である。 →歴史的にもそのような対処の方法がまず考えら れた。(トイレットトレイニングの例など) →自傷に関しても、基本的には(別の)行動を増 やすという方法が中心であった。 →「罰」(嫌悪的刺激)の使用は、深刻な自傷へ の対処に使用された。 23 正の強化で行動を維持する そのためには? • 「今できる」課題から次第に目標へ。 行動形成(shaping ) • 複雑な課題は、最初は「援助つき」で 行い、次第にその援助を抜いていく いずれも、周囲の「援助」が必要である。 絶えず、「達成感あり」の状況をつくる 24 行動形成 反応キー(オペラ ントの対象) 4)キーをペック(反応) したら強化 3)さらに上で強化 2)少し上で強化 1)餌呈示装置の近くで類似 の反応を強化(えさ呈示) えさ呈示機から食べる えさ呈示装置 今,できる行動を認める(○) 25 「今」を認めるということ ×→○ ○→× ○→○ 26 正の強化って? • 「ほめれば良いのか」 どうでせう? 27
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