日本流体力学会年会2006 2006.09.16 回転系において潮流が形成する 海底境界層の不安定 ○坂本圭、秋友和典 京都大学大学院・理学研究科 海洋物理学研究室 1 はじめに 背景 潮流海底境界層:海洋において潮流が形成する海底粘性境界層 (Fang and Ichiye 1983, Davies 1985, Craig 1989) シアー不安定に伴う乱流は海水混合に寄与 特に慣性周期と潮流周期が近い場合に、混合は広範囲に及ぶ (観測:Nost 1994, Furevik and Foldvik 1996) しかし、境界層に対する地球の回転と潮流の振動の影響が同程度となる、上 記の場合を含めて、両者が働く状況での境界層の安定性に関する研究はほと んどない 一方、これまでの粘性境界層に関する研究から、 エクマン層:回転系での定常流 ストークス層:非回転系での振動流 における不安定はよく調べられている 1 エクマン層不安定 擾乱 Faller and Kaylor (1966) 2次元構造擾乱が発達 不安定に伴う擾乱場(流線関数) エクマン層 流速鉛直構造 z x成分 x 長さはエクマン層鉛直スケール(2ν/f)1/2で無次元化 ここで、f,νはコリオリ・パラメータ、粘性係数 主に流速シアーが存在する境界層内(z<3)で発達、 波長は10~25 y成分 1 エクマン層不安定 2つのタイプ 不安定に伴う擾乱運動 (u’,v’,w’) 擾乱が構造を持つ平面を(x,z)平面とする Kaylor and Faller (1972) エクマン層 流速鉛直構造 x成分 y成分 海底 タイプI不安定 タイプII不安定 基本流x成分の変曲点から直 基本流y成分のシアーからv’へエネ 接u’へ擾乱エネルギー ルギーが供給され、その後コリオリ力 によってu’へ移転し、擾乱が発達 レイノルズ数が ~100 : 安定 100~150 : タイプII不安定 150~ : タイプI不安定が卓越 1 ストークス層不安定 擾乱場(鉛直流速) Blennerhassett and Bassom (2002) 赤:上昇流 青:下降流 流速鉛直構造 z ▼ x u 流速鉛直構造に変曲点 →振動流振幅がある値を超えれば、変曲点不安定 変曲点の上方移動に伴い、擾乱は境界層より上(z>3)で主に発達 1 目的 潮流海底境界層: エクマン層タイプI不安定、タイプII不安定、ストークス層不安定の影響を受け ると考えられる 本研究では、回転と振動の効果の比を示す時間ロスビー数Rot Rot = 慣性周期 / 潮流周期 にいくつかの値を用いて数値実験を行い、回転と振動の両方が働く潮流海底 境界層でどのような不安定が引き起こされるかを調べる 2 領域、支配方程式系 モデル領域 Lx×Ly×Hの矩形海領域。 支配方程式系 回転系、密度一様、非圧縮、非静水圧、リジッド・リッド条件。 変数を基本潮流場(vtide、後述)と擾乱場(v)に分ける。 運動方程式 連続の式 渦粘性係数 ν =1cm2/s (等方) 、標準密度 ρ0=1.027g/cm3 2 境界条件、初期条件、差分 境界条件 海面:リジッド・リッド、非粘着 海底:粘着条件 水平:周期条件 初期場:微小擾乱 積分期間:10潮流周期 境界層の鉛直スケールHtideと潮流振幅を用いて方程式を無次元化して、実 験を行う。結果も無次元で示す。 σ:潮流振動数 実験領域とグリッド間隔: (Htideで無次元化した値) Lx=Ly=128, H=64 ⊿x=⊿y=1.0 ⊿z=0.1-10 (100グリッド) 2 実験ケース、基本潮流場(層流解析解) 時間ロスビー数Rot(慣性周期/潮流周期)に対する依存性に注目 潮流振幅は全て一定(8.53cm/s) エクマン層 Ek ケース: Rot 0 A 0.5 B 0.95 Htide (m) 1.2 1.2 5.1 レイノルズ数 1000 1000 4350 ストークス層 St ∞ ケース: Rot C 1.05 D 2.0 Htide (m) 5.4 1.7 1.2 レイノルズ数 4580 1410 1000 ケース間の違い1.Rot~1で鉛直スケールHtideが大きい 違い2.潮流の反転がRot < 1では上から、Rot > 1では下から 3 結果: 渦運動エネルギーEKEの時間発展 ▼ ▼ ケース: Ek, A, B, C, D, St(点線) 指数関数的に増大する期間(線形段階)を解析に用いる 3 擾乱場(w) ケースA Rot=0.5 水平分布 どのケースでも2次元擾乱、波長は約15 D Rot=2.0 赤:上昇流 青:下降流 y 方向:持たない方向 方向:擾乱が構造を持つ方向 z=3.0 z 鉛直分布 境界層内(z<3)で発達 エクマン層不安定の特徴 と一致 (ケースBも同様) x z=5.2 境界層より上(3<z)で発達 ストークス層不安定と一致 (ケースCも同様) y 3 鉛直2次元EKE方程式 Kaylor and Faller (1972)の以下の手法を用いて、エクマン層タイプI不安定とス トークス層不安定(変曲点不安定)から、タイプII不安定を区別する 平面上の渦運動エネルギー についての方程式 非線形項 →変曲点不安定 コリオリ項 →タイプII不安定 散逸項 拡散項 :基本潮流 成分 3 EKE方程式 ケースA (Rot=0.5) t=0.5 非線形項が卓越 +擾乱の特徴 →エクマン層タイ プI不安定 1.0 平均 非線形項 最大値で規格化 コリオリ項 散逸項 拡散項 非線形項による エネルギー供給: utide の変曲点に 対応 基本潮流 utide vtide 成分 成分 ◇:変曲点 ケースBでも同様な結果 3 EKE方程式 ケースC (Rot=1.05) t=7.5 コリオリ項が卓越 →エクマン層タイ プII不安定 最大値 8.0 平均 非線形項 コリオリ項 散逸項 拡散項 コリオリ項: 上へと動く utide vtide vtide のシアー ◇:変曲点 層に対応 タイプII不安定 の特徴と一致 3 EKE方程式 ケースD (Rot=2.0) t=0.5 非線形項が卓越 +擾乱の特徴 →ストークス層 不安定 最大値 1.0 平均 非線形項 コリオリ項 散逸項 拡散項 非線形項: utide の変曲点 に対応 utide vtide ◇:変曲点 3 補足実験 2次元モデルを用いて、Rotと潮流振幅を変えたケーススタディ A BC D ×安定 □エクマン層タイプI不安定 △タイプII不安定 ◇非線形項とコリオリ項が同程度 ※ストークス層不安定 A,B,C,D:三次元実験 回転が卓越 振動が卓越 ○0.9 < Rot < 1.1では小さい潮流振幅でも不安定 海洋観測と定性的に一致 Rot~1では鉛直スケールHtideが増大(基本潮流の各ケースの違い1) →レイノルズ数の上昇 3 不安定タイプのRotに対する依存性 ×安定 □エクマン層タイプI不安定 △タイプII不安定 ◇非線形項とコリオリ項が同程度 ※ストークス層不安定 回転が卓越 振動が卓越 ○1.0 < Rot < 1.1 :タイプII不安定 K方程式のスケール解析から、コリオリ項 / 非線形項~ Htideの増大(違い1) → コリオリ項が相対的に増大 → タイプII不安定 しかし、この効果は1.0 < Rotに限られる ←潮流反転が上向きに進行する1.0<Rotでのみ(基本潮流の違い2) タイプII不安定に適した厚いシアー層が維持される ○Rot < 1.0 :タイプI不安定 潮流反転が下へ進むため(違い2)シアー層はすぐに薄くなり、タイプIIが抑制 ○1.1 < Rot :ストークス層不安定 振動の効果が卓越 流れが不安定となる潮流振幅も、ストークス層実験結果と同じ 4 まとめと課題 数値モデル実験によって、回転系において潮流が形成する海底境界層の不安 定を調べた。 時間ロスビー数Rot(慣性周期/潮流周期)に依存して、3つのタイプの不安定が 出現 Rot < 1.0 回転が卓越し、エクマン層タイプI不安定 1.0 < Rot < 1.1 厚いシアー層の形成に伴い、タイプII不安定 1.1 < Rot 振動が卓越し、ストークス層不安定 今後は、海水混合に対する不安定の寄与を調べるために、潮流海底境界層で 引き起こされる乱流についての研究を進める Sakamoto and Akitomo, Dynamics of Atmospheres and Oceans, 41 (2006), 191-211 1 タイプII不安定による擾乱発達メカニズム エクマン層 U V 海底 1.擾乱上下運動 2.vに擾乱運動 3.コリオリ力 4.収束発散→さらに上下運動 Lilly 1966 1 粘性係数を一定とした場合の潮流海底境界層の解析解 振動数ωの潮流楕円 V(z,t)を反時計回り成分(振幅R+、初期位相φ+)と時計回り成 分 (R-、φ-)に分解する。 それぞれの回転成分に対する境界層の厚さδ+,δ- ν,fは鉛直渦粘性係数、コリオリ・パラメータを示す。 f > 0の場合、潮流楕円は時計回り → R_が支配的 Prandle (1982) f > 0の場合 → 潮流楕円は時計回り f-ω < 0の場合 (振動が卓越:Rot>1.0) 南半球の海底エクマン層と同様、 境界層内では内部流に対して右に流れる →境界層内で潮流位相は先行 f-ω > 0の場合 (回転が卓越:Rot<1.0) 北半球の海底エクマン層と同様、 境界層内では内部流に対して左に流れる →境界層内で潮流位相は遅い Craig (1989) v u 1 バレンツ海での成層観測 CTD Furevik and Foldvik 1996 浮力振動数N(×10-3s-1) (m) 海底 南 北 M2潮臨界緯度 北緯73°-76°で特に弱い成層(海底から150mまで0.002s-1以下) M2潮の流速シアーが海底から高くまで伸びている →潮流混合の強化が原因か?
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