銀河団の多波長観測を用いた宇宙論

大規模構造の起源
北山 哲
東邦大学 理学部物理学科
宇宙の階層構造
(pc = 3.3光年=3.1×1018 cm)
太陽系 1015cm
銀河
10 kpc
大構造
100 Mpc
銀河団
Mpc
強い力
自然界の階層構造
tdyn=(Gρ)-1/2
重力
電磁気力
‐ 1 hr
‐ 102 yr
‐ 105 yr
‐ 1089 yr
‐ 1010 yr
‐ 10 yr
(池内 1997)
宇宙の年表
宇
宙
の
誕
生
<10-32秒
3分
イ
ン
フ
レ
ー
シ
ョ
ン
軽
元
素
合
成
38万年 2億年
晴宇
れ宙
上の
中
が性
り化
宇
宙
の
再
電
離
z=1100 z~20
ぎ量
の子
生ゆ
成ら
ウ重
ム水
等素
の、
合ヘ
成リ
最観
古測
ので
宇き
宙る
天第
体一
の世
誕代
生
137億年
現
在
の
宇
宙
z=0
大
規
模
構
造
宇宙の構造形成
38万年
z=1100
(宇宙マイクロ波背景放射)
(物質分布のシミュレーション)
δρ/ρ<<1
1. 観測できる最古の宇宙
密度ゆらぎの初期分布
137億年
z=0
δρ/ρ>> 1
2. 重力による
ゆらぎの成長
3. 今日の宇宙
銀河、銀河団
宇宙マイクロ波背景放射(CMB)
発見時
等方的な熱放射
T=3.5 ±1.0 K
(Penzias, Wilson 1965;
Roll, Wilkinson 1966)
COBE
温度ゆらぎの検出
(δT/T)7deg~10-5
(Smoot et al. 1992)
WMAP
温度ゆらぎの
空間パターン
(COBEの30倍の
空間分解能)
温度ゆらぎパワースペクトル
ClTT
23~94GHz の5バンド合成マップ
(Bennett et al. 2003)
大スケール
Cl : 温度ゆらぎパワースペクトル
l~π/Θのスケールでの
温度ゆらぎの2乗平均
小スケール
ClTE
(天球面上の2点相関関数のLegendre変
換)
※ I, Q, U (ストークスパラメータ)
or T, E, B 各々の相関 → 計6通り
Spergel et al. 2003
温度ゆらぎパターンを決めるもの
1. ゆらぎの生成時での分布
2. 重力ポテンシャル(ダークマタ-)
3. 光子・バリオン流体の振舞い
4. 宇宙の幾何
5. 晴れ上がり以降の2次的効果
- 銀河間空間の電離状態
- 天体中での散乱、重力赤方偏移
etc.
ゆらぎ~10-5 →線形摂動理論
で精密に記述
1348点の独立データが、
~6個のパラメータで再現
WMAP が(構造形成について)明らかにしたこと
1. 背景放射のゆらぎは、ガウス分布に従う (Komatsu et al. 2003)
→ パワースペクトル(or 2点相関関数)だけで記述される
2. 主な宇宙論パラメータが数%の精度で決定 (Spergel et al. 2003)
→ 宇宙全体の時間発展、幾何が決定
3. 物質密度ゆらぎのパワースペクトルは、CDMによるものと一致
→ 構造形成の初期条件が決定
4. z~1000 に中性化した宇宙は、z~20に再イオン化 (Kogut et al. 2003)
→ 構造形成のモデルが満たすべき制限
※ 1, 3 は Θ> 10’(>数10Mpc ~銀河団) のスケールにて
Θ<数分では、宇宙初期の物質ゆらぎを観測するのは困難。
宇宙の構造形成
38万年
z=1100
(物質分布のシミュレーション)
137億年
z=0
(宇宙マイクロ波背景放射)
δρ/ρ<<1
1. 観測できる最古の宇宙
密度ゆらぎの初期分布
δρ/ρ>> 1
2. 重力による
ゆらぎの成長
3. 今日の宇宙
銀河、銀河団
重力による密度ゆらぎの成長(1)
一様宇宙からの“ずれ”を解く
一様等方宇宙の方程式
平坦
宇宙項なし
ρ→ρ+Δρ, Δρ/ρ<<1
a → a + Δa,
Δa/a <<1
自己重力のみ、微小量の1次まで(線形)で
密度のずれは、時間と共に
増大 (重力不安定性)
δ(t)=Δρ/ρ
∝ a2(t) ∝ t 輻射優勢期
∝ a(t) ∝ t2/3 物質優勢期
宇宙論パラメータ → ゆらぎの成長率
重力による密度ゆらぎの成長(2)
ゆらぎの成長は、スケールごとに自己重力+αで決まる
z~3000
z~20
z~1000
t
輻射→物質優勢
中性化
再イオン化
光子に引きずられて
成長できない(l < ct)
CDM
ゆらぎ
バリオン
ゆらぎ
全スケールで成長
(重力)
>106 Msunで成長
(重力>圧力、
ジーンズ質量)
>109 Msunで成長
急速にDM
に追いつく
温度、圧力
の上昇
(トムソン散乱)
密度ゆらぎのパワースペクトル(1)
スケールごとのゆらぎの大きさ = 構造形成の初期条件
密度ゆらぎパワースペクトル
WMAP
~k
大スケール(k小)
フーリエ成分
k=2π/R
ゆらぎ生成時での形のまま
等密度時
でのR=ct
~k-3
小スケール(k大)
光子の運動でなまされる
(HDM: +DM自身の運動)
大スケール
小スケール
DMの種類→P(k) の形
密度ゆらぎのパワースペクトル(2)
パワースペクトル&成長率 → 構造形成の大枠がわかる
CDMゆらぎ
z<3000では 、全スケールで成長
線形の範囲では、各k-mode独立
銀河、銀河団
ゆらぎの2乗平均値の進化
WMAP
線形成長率
D∝(1+z)-1
COBE
小スケール
大スケール
パワー
スペクトル
小→大スケールへ
ボトムアップ的構造形成
ゆらぎの非線型成長
δ>1 の進化は、一般に厳密には解けない
(方程式の非線型化、異なる波数モードの相関、重力の非局所性…)
1. 高次の摂動理論
Eulerian, Lagrangian (1次=Zel’dovich近似)
2. 理想化された状況
e.g. 球対称孤立系 → 解析解
3. N体数値シミュレーション (Nmax ~109)
球対称非線型モデル
球対称孤立系の進化
ゆらぎ大
ゆらぎ小
宇宙平均
(ゆらぎゼロ)
δ~200
宇宙と共に膨張
↓
反転(turn-around)、収縮
↓
ビリアル平衡(collapse)
ダークマタ-粒子の塊(halo)
δ線形~1.7
(外挿値)
線形成長率
D∝(1+z)-1
非線型進化
がδ線型と
1対1対応
δの初期値と線形成長率
から、collapse(δ線形~1.7)
の時刻が予測できる
Press-Schechter 理論
与えられたスケールR(or M)での
δの初期分布:パワースペクトル
成長率 :宇宙論パラメータ
球対称モデル
時刻zに質量Mの領域が
collapse(δ線形~1.7)する確率
宇宙の一様性
collapse した halo の
質量関数 n(M,z)
halo の質量関数
(どのスケールの天体に宇宙の
物質が取り込まれているか)
宇宙の構造形成
137億年
z=0
38万年
z=1100
δρ/ρ<<1
1. 観測できる最古の宇宙
密度ゆらぎの初期分布
δρ/ρ>> 1
2. 重力による
ゆらぎの成長
3. 今日の宇宙
銀河、銀河団
近傍での観測(1) 銀河団の個数分布
Kitayama & Suto
(1997)
現在の密度ゆらぎ振幅
銀河団 ~ ダークマタ-の塊中で、高温ガスが熱放射(X線)
⇒ halo の質量関数が適用できる
WMAP
の予想
銀河団
密度パラメータ
1. 個数分布が再現 → ~10MpcでのP(k)がWMAPと一致
2. 銀河団ガスのモデルに不定性
近傍での観測(2) 広域銀河サーベイ
1986
z=0.05
(150h-1Mpc)
CfA redshift survey:
de Lapparent et al.(1986)
1996
z=0.2
(600h1Mpc)
1998~
z=0.2
complete
1100 galaxies
Las Campanas redshift Sloan Digital Sky Survey:
survey:
http://www.sdss.org
Schectman et al. (1996)
~106 galaxies
26,000 galaxies
銀河分布のパワースペクトル
バイアスの光度依存性のみ補正
CDM P(k)
(WMAPの外挿)
SDSS 205,000 galaxies (Tegmark et al. 2004)
CDM のP(k)と同形
(k=0.02~0.3 h/Mpc)
絶対値はバイアスと縮退
※バイアス
銀河分布 ⇔ DM分布
δg= bδm
Pgg(k)= b2 Pmm(k)
光度、時間、形態… の関数
b ~1 for L* 銀河(Mr=-20.8)
銀河のバイアス
early-type
average
late-type
早期型銀河はバイアス大
明るい銀河ほどバイアス大
(Tegmark et al. 2004)
(Kayo et al. 2004)
銀河形成の理解が不可欠
パワースペクトル測定の現状
CMB
z~1000
空間スケール4桁
質量スケール12桁
でCDMと一致
SDSS
z~0
cluster
z~0
Lyα
forest
z~3
※小スケール
天体の個性と密度ゆらぎ
の関係の不定性
(e.g. バイアス)
※大スケール
Cosmic Variance
(観測できる宇宙は一つ)
(Tegmark et al. 2004)
1010 Msun
大スケール
小スケール
課題(1) 更に小スケールのゆらぎ
例:宇宙の再イオン化の必要条件
WMAP
イオン化源が生まれるには、
MJeans ~4×104 Msun @ z~20
以上のスケールにゆらぎが必要
→ P(k) に敏感
イオン化源の詳細によらず
P(kJ) > 0.5 PCDM, n=1(kJ)
が必要
M>MJ(z) の天体中の全水素が
核融合でUV光子を出す場合
(光子生成の最大極限)
課題(2) ゆらぎの非線型成長の理解
例:非ガウス分布への進化
初期ゆらぎ
ガウス分布
?
数値計算はできても、
物理的理由は不明
観測される銀河分布
非ガウス分布
(近似的に log-normal)
N体計算でのδの進化
(Kayo et al. 2001)
課題(3) バリオン成分の物理
例: 銀河団のクーリングフロー問題
銀河団の構成
銀河 全質量の~5%
ガス
~20%
ダークマタ-
~75%
1. バリオンの大半が高温ガス
n~10-3 cm-3, T ~108K
2. 系全体では、冷却時間 > 宇宙年齢
(銀河との本質的違い)
3. 中心部では、 冷却時間< 宇宙年齢
→ クーリングフローの発生?
中心銀河の巨大化?
RXJ1347-1145 at z=0.45
X-ray & R-band
(Schindler et al. 1997)
課題(3) バリオン成分の物理
例: 銀河団のクーリングフロー問題
観測
- 低温成分(< 1 keV)の不在
- なだらかな温度勾配
Tc ~Th/3
RXJ1347
(Allen et al. 2002)
A2199
(Johnstone et al.
2002)
冷却阻害の原因:
- 中心銀河による加熱?
- 熱伝導?
- 磁場?
- 乱流?
異なる温度(冷却率)の銀河団
を統一的に説明できない
→ 銀河の上限質量が未理解
まとめ
宇宙初期の
密度ゆらぎ
今日の
大規模構造
重力+α
1. 進化の理解 → 起源の解明
2. 「重力」は、大枠がほぼ決定
ΛCDM宇宙での重力不安定性
ただし、非線型進化の理解は未解決
3. 「+α」は、未解決の問題が山積み
各階層の天体形成と進化
それらの相互関係