観測的宇宙論 第6回: 宇宙の階層構造 今井 裕 (鹿児島大学大学院理工学研究科物理・宇宙専攻) 今日の内容 • 宇宙の階層構造 – 「階層構造」とは – 力学的時間尺度、 スケール長を決める因子 • 遠方銀河赤方偏移の計測 – 赤方偏移計測の方法と実情(測光・分光) – Slone Digital Sky Survey (SDSS) その他計測法 • 階層構造パターンの定量的認識法 – 銀河個数の面密度、 質量ゆらぎ、 2点相関関数 – そこから解ること 参考文献: シリーズ現代の天文学 2巻: 宇宙論I ―宇宙のはじまり― 3巻:宇宙論II ―宇宙の進化― 4巻: 銀河と宇宙の階層構造 6巻:星間物質と星形成 階層構造 (hierarchy) • 似たような大きさを持ったものが1つの集団を作り、 異なる大きさのものから成り立つそのような複数の 集団が上下関係を持った層を成している構造 – 人間社会の場合: 家族(社会の最小単位)ー集落ー市町村ー都道府県ー 国家集団(国際連合、等) – 宇宙の場合: 恒星or恒星系ー星団ー銀河ー銀河群ー銀河団ー超銀河団 (+ボイ ド) • 所属要素数と空間スケールが異なる階層間では 桁に大きな開きがある 宇宙の階層構造 シリーズ「現代の天文学」第3巻、p.18、表1.4、改変 半径[cm] 全質量[Msun] (暗黒物質含む) 平均密度 [g cm-3] 力学時間 [年] 構成要素数 恒星 or 恒星系 (主系列星) 1010―1013 (~0.01 AU) 0.1―100 星団 1018―1020 (~10 pc) 102―104 ~10-23 104―106 恒星 10―105個 1021―1023 (~10 kpc) 107―1012 ~10-25 ~108 恒星 107―1011個 銀河群 ~1024 (~1 Mpc) 1012―1014 ~10-27 ~109 銀河 10―102個 銀河団 ~1025 (~10 Mpc) 1014―1015 ~10-27 ~109 銀河 103―104個 超銀河団 >1025 (~100 Mpc) >1015 ~10-29 ~1010 銀河 >104個 ※孤立した星もある 銀河 10-4―102 10-5―10-2 宇宙の大規模構造 1 力学時間(力学的時間尺度, dynamical time scale) =天体が形状を変化させる時間尺度 • 天体が自己重力でつぶれる時間 tdyn 自由落下時間 (free-fall time) 1 G • 天体が成長する時間尺度 〜天体サイズ÷膨張速度 • 天体が力学的緩和に達する時間尺度 – 銀河回転の周期、など ※以降、力学時間のほかに様々な時間尺度が出て来る 問題 自由落下時間の式を大雑把に導く • その1: 非常に大雑把 – – – – 半径R、平均密度ρの一様な球を考える その球の表面から中心まで落下するまでの時間を求める 近似: 加速度はいつも一定(〜初期加速度) とりあえず係数は気にしない 例: M ~ ρ0R3 • その2: いろいろな教科書に載っているやり方 – 運動方程式 d 2r GM 2 , 2 dt r 4 3 M R 0 3 – 両辺に dr/dtを掛けて積分する 3 1/ 2 – r/R=cosβ と置き、再度積分 t ff t=tff を求める 32G0 – β=0 となる 何故、宇宙の階層構造ができる? • 空間・時間スケールで異なる 支配的な物理素過程・物理的要因 – 宇宙: 放射優勢 ⇒ 物質優勢 ⇒ 暗黒エネルギー優勢 (熱力学・量子力学) (重力) (宇宙項) – 銀河・銀河団: 宇宙の再加熱、 暗黒物質の自己重力 – 恒星: 星間ガス自己重力、原子核物理学、星間化学、 … など • 力学的不安定性/不確定性による空間構造の分裂 – 自己重力/熱力学的不安定性、磁気不安定性 ⇒恒星 – 量子ゆらぎ: 不確定性原理 ⇒超銀河団 スケール長を決める各種不安定性 • 重力不安定性(ジーンズ不安定性) – 宇宙初期: 宇宙膨張も考慮に入れること (現代の天文学3巻、 p.115―120) ※ジーンズ不安定性の安直な説明 重力エネルギー > 熱エネルギーならば収縮 GM kT , R 4 3 kT M R r 3 G 半径が1/2 ⇒ 引力4倍 v.s. 圧力2倍(表面積/体積) ⇒2つに分裂しても収縮続く ⇒どこまでも分裂していく? 実際: 温度上昇/放射冷却/光学的厚みなどの要素が絡んで、 あるサイズの範囲に落ち着く 「冷たい」 v.s. 「熱い」暗黒物質 詳細は1/14講義参照 • バリオン: 暗黒物質〜1:10 – 自己重力の起源はほぼ暗黒物質(DM)による • Cold DM (CDM): 速度はほぼゼロ – 小さな構造から先に成長 – 集合・合体によってより大きな構造の形成 • Hot DM (HDM): ほぼ光速でDMが飛び交う – 大きな構造から分裂してより小さな構造を形成 • 宇宙の比較的初期に銀河(小さい構造)が 形成された ⇒ CDMで占めていたらしい 地球サイズの 暗黒物質塊 Diemand, Moore & Stadel (2005) 遠方銀河赤方偏移の計測 ー方法と実情ー • 赤方偏移量と距離 aÝ H , a D H0V – 距離そのものは遠方ほど不確定性大きい(第11回) • 赤方偏移量 Z ※宇宙論的赤方偏移 とは異なる obs s s 1 V c cos 1 V c 2 obs s s s V c (V << c, cos 1) • 2段方式による赤方偏移計測 – 測光赤方偏移: 広視野画像中での簡易測定 – 分光赤方偏移: 分光による精密測定(少数対象) 測光赤方偏移 (photometric red shift) • 銀河のSED (spectral energy distribution)を予測 – 銀河は基本的には星の集団 – 大きな赤方偏移 – 初期宇宙の銀河の SEDは異なる(後述) • 複数波長フィルター測光 SDSS, COSMOS プロジェクト • 狭帯域フィルター測光 電離水素からのライマンα線 http://cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/Cosmos/PressRelease/ 分光赤方偏移 (spectroscopic red shift) • 分光赤方偏移を経て的を絞った銀河などを対象 選択条件に合致した天体から、 一定の割合だけ 無作為に抽出 • 複数輝線を同定 精密に計測 – 「すばる」などの 大口径望遠鏡 – SDSSなどの分光 専用中口径望遠鏡 して Slone Digital Sky Survey (SDSS) http://www.sdss.org • 2億個の銀河の同定 • 100万個の銀河の 赤方偏移計測 2dF-SDSS luminous red galaxies and quasars (Cannon et al. 2006) 宇宙論的距離にある天体の赤方偏移計測 • 超新星(第7・9・11回講義参照) – 大質量星の重力崩壊 (II型): 光度はまちまち – 白色矮星の核反応の暴発 (Ia型): 光度ほぼ一定 極大期(銀河1個分の光度)から数日以内が勝負 • γ線バースト(第10回講義参照) – 超巨大質量星の重力崩壊 – 銀河の最遠赤方偏移よりも遠くのものが発見される • 銀河団: X線(電離)鉄輝線 宇宙赤外線背景放射=宇宙最初の「天体」 • 暗黒物質「雲」の分裂・集積 • バリオン雲の集積 • 最初の「星」(大質量)と「銀河」の形成 (詳細は第7回・8回講義にて) • 大質量星(T>50,000 K) ⇒宇宙の再電離・紫外線放射(<1000Å) • 赤方偏移(z>10) ⇒赤外線放射へ(<10,000Å) 次世代大型赤外線望遠鏡で検出? • それ以降: 大質量星によって加熱された星間ガス/塵 ⇒赤方偏移(z<7 ): ミリ波・サブミリ波銀河 12/1-4 河野氏 集中講義 重力レンズ効果を用いた暗黒物質探査 暗黒物質の大規模構造 バリオン(銀河)の大規模 構造とやや異なる! http://cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/̃tani/Cosmos /PressRelease/ 階層構造パターンの定量的認識法 • ランダム分布との違いを判定 • パターンの特徴を数値化: 数値を通して色々な比較が可能になる • 似たような赤方偏移量を持つサンプルを集める – 天体(銀河、QSO)個数の面密度: (任意の)単位投影円面積あたりの天体個数 M M M 2 (M) – 質量(個数)ゆらぎ: 投影円(共動座標上半径R)以内にある where M M (r R) 天体総質量(天体総数)の標準偏差 2 ( ) 1 Pij 2d i, ji – 2点相関関数 天体間離角が任意の角度範囲 1 if < d j i where Pij にある頻度の確率密度 ot her 0 階層構造パターン認識から解ること • 階層構造形成の歴史 – 赤方偏移量 z=2―6の範囲で既に大規模構造が 形成されていた (Ouchi et al. 2005) 大規模構造が予想以上に早く形成された 暗黒物質の分布とはかけ離れたもの? • 階層構造形成の要因 – 「冷たい暗黒物質」の分布ゆらぎ 小さな構造から先に形成されてきた 小さな構造における収縮・冷却機構の解明が課題
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