次世代育成地域行動計画の策定について ~母子保健福祉の推進の観点から~ (社)地域医療振興協会 ヘルスプロモーション研究センター 藤 内 修 二 (平成15年7月9日成立) 次世代育成支援対策推進法について 我が国における急速な少子化の進行等を踏まえ, 次代の社会を担う子どもが健やかに生まれ,かつ, 育成される環境の整備を図るため,次世代育成支 援対策について,基本理念を定めるとともに,国に よる行動計画策定指針並びに地方公共団体及び 事業主による行動計画の策定等の次世代育成支 援対策を迅速かつ重点的に推進するために必要な 措置を講ずる。 概 要(1) 目的,国・地方公共団体・事業主・国民の責務 等 基本理念 次世代育成支援対策は保護者が子育てについ ての第一義的な責任を有するという基本的認識の 下に,家庭その他の場において,子育ての意義に ついての理解が深められ,かつ,子育てに伴う喜び が実感されるように配慮して行われなければならな いこととする。 行動計画 について 行動計画策定指針 主務大臣は,基本理念にのっとり,地方公共団体 市町村母子保健計画やエ 及び事業主が行動計画を策定するに当たって拠る べき指針を策定すること。 ンゼルプランを置き換える 保健福祉計画!? 地方公共団体の行動計画 市町村及び都道府県は,行動計画策定指針に即 して,①地域における子育て支援,②親子の健康 の確保,③教育環境の整備,④子育て家庭に適し た居住環境の確保,⑤仕事と家庭の両立等につい て,目標,目標達成のために講ずる措置の内容等 を記載した行動計画を策定すること。 事業主の行動計画 一般事業主行動計画 従業員が300人以上の事業主は,従業員の仕事 と家庭の両立等に関し,行動計画策定指針に即し て,目標,目標達成のために事業主が講じる措置 の内容等を記載した行動計画を策定すること。 特定事業主行動計画 国及び地方公共団体の機関は,職員の仕事と家 庭の両立等に関し,行動計画策定指針に即して, 目標,目標達成のために講じる措置の内容等を記 載した行動計画を策定・公表すること。 概 要(2) 次世代育成支援対策推進センター 事業主の団体を「次世代育成支援対策推進センター」とし て指定し,行動計画の策定・実施を支援する。一般事業主そ の他の関係者に対し,雇用環境の整備に関する相談その他 の援助の業務を行う。 次世代育成支援対策地域協議会 地方公共団体,事業主,住民その他の次世代育成支援対 策の推進を図るための活動を行う者は,次世代育成支援対 策地域協議会を組織することができること。 施行期日等 • 行動計画策定指針の策定は,公布日から 6月以内 実際は8月22日に告示された • 地方公共団体の行動計画および事業主の 行動計画の策定は平成17年4月1日から • 本法は,平成27年3月までの時限立法 計画の位置づけは? • 母子保健計画やエンゼルプランの法定計画 母子保健計画(平成8年5月 母子保健課長通知) エンゼルプラン(平成7年6月 児童家庭局長通知) • 平成15年9月1日付母子保健課事務連絡 地域行動計画は母子保健計画を包括する! 平成16年度末で,平成8年5月の母子保健 課長通知を廃止する予定! 計画の位置づけ(2) • 第二次母子保健計画を推進中の自治体にとって どう位置づけるのか? 母子保健計画を推進するのは自由だが, 行政計画としては何ら根拠がない? • そもそも保健福祉計画には策定に法律や通知が 必要なのか?? 自分の自治体の住民が必要だと考えて策定 されることが大切!! • 住民と一緒に策定し,推進している計画を反故 にする権限が国にあるか? 計画の位置づけについて財政サイドを含む 自治体内での判断が優先されるべき! 健康増進法との関連 • 健康日本21の地方計画の一部として,母子保健 計画を推進している場合 健康増進法に基づく「健康増進計画」の一部 として,法的にも根拠あり これを推進することには何ら問題がない 「地域行動計画策定にあたっての 留意事項」における記載 • 既にエンゼルプランや母子保健計画を策定して いる市町村にあっては,現行のエンゼルプランや 母子保健計画の推進状況や推進に係る課題の 分析を行い,その結果を活用していくことが必要 である 地域行動計画についての考え方 • 現行の母子保健計画や エンゼルプランの統合・ 見直し • 合併予定の自治体に あっては,複数の母子 保健計画やエンゼルプ ランの統合と見直し 地域行動計画 母子保健計画やエンゼルプランの 統合・見直しをどう進めるのか? 基本的な視点(行動計画策定指針) ①子どもの視点 ②次世代の親を育むという視点 ③サービス利用者の視点 ④,社会全体による支援の視点 ⑤全ての子どもと家族への支援の視点 ⑥地域における社会資源の効果的な活用の視点 ⑦サービスの質の視点 ⑧地域特性の視点 ① 子どもの視点 • 子どもにとっての幸せとは何か? 病気の時に保育所に預けられるのは幸せか? • 保育サービスの充実に伴い,親と子が一緒に過ごす 時間が減ることをどう考えるか? 保育サービスの充実により,子どもからみて親と の時間を質の高いものにしよう • 計画策定プロセスに可能な限り子ども自身の参画を 高校生を作業部会員にすることも可能 • 中高校生へのグループインタビュー 「今の生活の中で困っていることは?」 ② 次世代の親を育むという視点 • 思春期保健は「次世代の親」を育むという点では, きわめて重要ということになる 「食育」を切り口に学校保健との連携を推進 • 教科における保健学習との整合性に配慮 • 教育現場の努力を評価すること ヘルスプロモーションも既に導入済み! ③ サービス利用者の視点 • 多様な個別のニーズに柔軟に対応できるよう, 利用者の視点を大切にという趣旨だが・・ • 住民をサービスの利用者と決めつけてしまない ことが大切 • 地域づくりを進めるパートナーという視点も重要 ④ 社会全体による支援の視点 • 子育てについては,親が「第一義的責任」 を有するが・・・ • 「子どもの育ち」を地域社会全体で支援する という視点が重要 ⑤ 全ての子どもと家族への支援の視点 • 「保育に欠ける」子どもと家族への支援ではなく, 全員を支援の対象にする • サービスを希望しない家族等へのアプローチも 視野に入れることが必要 母子保健に限らず,保健活動に共通の視点 「お節介」と言われても・・・ ⑥ 地域における社会資源の 効果的な活用の視点 • NPOや子育てサークル,PTA,子ども会 など,地域の住民組織・団体を活用 ⑦ サービスの質の視点 • 保育サービス量のような供給量だけでなく, サービスの質を評価すること サービスの「質」は,利用者の満足度で評価 すればいいのだろうか? • 「質」の議論を深めていくと,サービスの目的, すなわち「めざす子どもと親の暮らし」を当事者 や関係者と共有することになる! めざす子どもと親の姿 • 是非,計画策定の中で,以下のような問いかけ で,皆に考えてもらおう 「どんな子どもが育ったらいい?」 「どんな子育てができたらいいか?」 • 「ゆったりとした気持ちで子どもと接する時間を持 つことができる母親が増える」 この「健やか親子21」の指標はサービスの質 の評価にも使えよう! ⑧ 地域特性の視点 • 計画に盛り込まれる内容も地域によって,当然 異なるものになるはず・・ • 策定指針には具体的な取り組みや各種の保育 サービスなどの事業メニューが詳細に提示され ているが,これらを並べるようでは,地域特性は 発揮されまい 市町村行動計画の内容 (策定指針から) ①地域における子育ての支援 ②母性ならびに乳児および幼児などの健康の確保および増進 ③子どもの心身の健やかな成長に資する教育環境の整備 ④子育てを支援する生活環境の整備 ⑤職業生活と家庭生活との両立の推進 ⑥子ども等の安全の確保 ⑦要保護児童への対応などきめ細かな取り組みの推進 児童虐待防止対策の充実 母子家庭等の自立支援の推進 障害児施策の充実 次世代育成地域行動計画 健やか親子21 1.地域における子育ての支援 7-1.虐待防止対策 4.子どもの心の安らかな発達の 促進と育児不安の軽減 7-3.障害児施策の充実 6.子ども等の安全の確保 2.母性並びに乳児および幼児などの 健康の確保及び増進 3.子どもの心身の健やかな成長に 資する教育環境の整備 3.小児保健医療水準を維持・向上 させるための環境整備 2.妊娠・出産に関する安全性と 快適さの確保と不妊への支援 1.思春期保健対策の強化と 健康教育の推進 4.子育てを支援する生活環境の整備 5.職業生活と家庭生活との両立の推進 7-2.母子家庭等の自立支援の推進 図1 次世代育成支援地域行動計画と「健やか親子21」 策定にあたっての留意事項 • 「必要に応じてテーマ別にワーキングチームを設置 することが望ましい」とあるが・・ • 安易に課題ごとに各部局に割り振ってしまわない ことが重要。 • 今回の計画策定を関係部局との連携の推進の絶好 の機会と位置づけることが重要。 地域行動計画策定に必要な手続き 1)現状の分析とニーズの把握 ニーズについての考え方について • 各種の保育サービスの利用希望を尋ねることでニーズを 把握できるだろうか? こうしたサービスを希望(利用)しない集団から 虐待などの問題が発生している! • ニーズのとらえ方を少し違った視点から考えることが必 要ではないだろうか!? ニーズを「めざす姿」と現状とのギャップとして 捉えてみよう 仕事と育児を両立させたい ニーズとは,「めざす姿」と現状とのギャップ 健やかで心豊かな子どもに育ってほし い めざす姿 めざす姿 ギャップ ギャップ 現 状 現 状 各種の保健事業や保育サービスは このギャップを縮めるためにある! 休日保育や夜間保育等の 保育サービスの希望調査 • サービス必要量の推計は予算化のために不可欠 • サービスの希望調査だけではニーズの把握は困難 • こうした調査だけでは,取り組みの評価は困難 • めざす姿がどれくらい達成されたかを調べることで 取り組みの評価ができる 子どもと親の「めざす姿」を描こう • 地域の子育てに関わる関係者や当事者である子どもや 親と一緒に考えよう ニーズ調査の前に,地域協議会(策定委員会)や 作業部会を立ち上げて,こうした議論をしよう 子育て中の母親らにグループインタビューを行い, めざす姿を聞いてみよう 「どんな子どもに育ったらいい?」 「どんな子育てができたらいい?」 • 現在の困りごとを尋ねるのもよいが,どうなったらいいか を確認しよう めざす地域の姿の構築 • 地域づくり型保健活動,PCM手法等の活用 めざす姿を実現するための条件を整理する 大目標 子どもと親のめざす姿 これらのめざす姿とその条件がどうなっているかを めざす姿1 めざす姿2 調べるのが「ニーズ調査」である そのため そのため そのため そのため 中目標 めざす姿3 そのため そのため そのため めざす姿や条件が達成されていない部分が課題 の条件2 の条件3 の条件4 の条件5 の条件6 の条件7 の条件1 条 件 であり,ニーズということになる 条 条 条 条 条 条 条 条 条 件 件 件 件 件 件 件 件 件 条 条 条 条 条 条 件 件 件 件 件 件 小 目 標 めざす姿と事業の整理(表参照) • 個別の小目標ごとにそれぞれの条件の達成状況 を分析して,現状の課題を記載する • そのために現在,どんな取り組みが行われている のかを整理して記載する • 今後,どんな取り組みが必要なのか話し合われた 結果を記載する 保育サービス等についてのニーズ把握 • モデル調査票に回答から各種サービスの推計ニーズ量 を算出する そのためのワークシートを厚労省が提供する予定 • これにより対象年齢別に事業区分別の推計ニーズ量 (○○人)を算出 • 推計ニーズ量を踏まえて,供給基盤などを考慮して, 供給サービス量を設定する 例:延長保育(30分)延長保育150人 夜間保育5人 トワイライト0人 • 供給サービス量を指定された単位に変換し,目標事業量 を設定する 例:延長保育150人(4か所),夜間保育5人(1か所) トワイライト0人(0か所) 地域行動計画策定に必要な手続き 2)住民参画をどう進めるのか 様々な段階での住民参加が可能! 1.ニー調査票づくり ← めざす姿を描く • 上述したような作業でめざす姿を実現するための 条件からニーズ調査の設問を作成 • オリジナルな設問も良いが,研究班が提供した 設問リスト(健やか親子の指標や第一次市町村 母子保健計画の指標から作成)の活用で,全国 比較が可能 2.ニーズ調査に答える • 各年齢別・地区別に100人程度のサンプルが得 られることを目標に実態調査を行う 地区別の集計を行うかは自治体の判断で その場合は, 2段階(地域別)抽出に • サンプリングは無作為抽出によるが,同一世帯 に複数の調査が当たらないように • 人口規模が小さな自治体では,悉皆調査(全数 調査)とする 郵送調査で回収率を上げる工夫 • 大きい封筒を用いる • 首長名の鏡文を入れる 計画策定の意義を説明する (めざす子どもと親の暮らしなどを紹介) • プライバシーの保護,目的外使用をしない旨 • 色つきの紙を用いる 大きめの文字で • 設問と選択肢のフォントを変える • 途中で,記入を継続させる言葉かけを 「もう少しです」「裏もあります」 3.課題を共有する 実態調査の結果を一緒に読みとる 地域の子どもと親をめぐる課題を明確にする この際に,国や県のデータと比較できると,地域の課題を より鮮明にできる 問題の構造を明確にする(できれば) 各評価指標間の関連を整理する(因果関係など) 調査結果は策定委員や作業部会のメンバーだけでなく,広く 住民に周知しよう 子育てをめぐる課題を計画ができるまでに多くの住民 に知ってもらおう 4.目標値の設定 目標値そのものを決めることには大きな意義は? 「増加させる」,「減少させる」でもOK 設定するからには,皆が納得のいく設定の仕方で 目標値の設定のその性格について QOLや健康指標:達成すべき究極の目標(アウトカム指標) 何をめざしているのかを確認するためにも重要 生活習慣の指標:上記の目標を達成するために必要な目標 ノルマ的な目標として,住民に押しつけるものではない! 取り組みの成果をモニタリングするために重要 それに必要な条件の指標:行政や関係機関の取組の目標 ノルマ的な性格を有し,予算の根拠として重要なので, 可能な限り数値目標の設定が望ましい 5.どんな取り組みが必要かを考える(1) 目標値を決めても,具体的な取り組みが変わらなければ,目標 の達成は困難 特に,事業の目的が確認され,既存の事業が見直されること 予算の制約がある中で,「目玉」となる新規事業も難しいはず 目標値を達成するために関わりのある事業をきちんと整理しよう 担当課以外の取り組みもたくさんあるはず (表参照) 住民組織や団体の活動もしっかり把握しよう! 今後取り組もうと思っていることなども掘り起こそう 5.どんな取り組みが必要かを考える (2) 他部局や住民組織・団体,関係機関との連携で効率的な 事業をめざそう 計画策定の話し合いの中で,こうした連携のきっかけが 生まれるはず・・ そのためには,策定段階から関係者の巻き込みが必要 計画策定に加わってもらう意義について,きちんと理解 してもらおう 6.住民に周知する 計画の策定途中から,計画を策定していることをPRしよう 少しでも多くの市民に関心を持ってもらおう めざす子どもと親の暮らしの紹介,実態調査結果の紹介 できれば,意見を言ってもらう機会を作ろう 公開シンポジウムなどのイベントも望ましい ダイジェスト版の全戸配布も望ましいが,どれくらい読まれて いるだろうか? 一人一人の住民にとって,「○○%をめざそう」は意味が あるのだろうか? わが家の目標,私の目標を考えてもらうような工夫も 折りあるごとに計画を紹介し,自分たちの取り組みの目標を 考えてもらおう 地域行動計画書のイメージ • 前回,母子保健計画とエンゼルプランを一体の ものとして策定した計画書が良い参考に • 策定指針などから不足すると思われる部分を加 えればOK • 大分県津久見市の平成10年度策定のエンゼル プラン(母子保健計画)の目次(資料) 今回の策定指針などで求められているものが 概ね含まれており,参考になろう
© Copyright 2024 ExpyDoc