保健計画の策定とエンパワメント (社)地域医療振興協会 ヘルスプロモーション研究センター 藤内 修二 策定における留意点 立派な計画書を作ろうと思わないこと とりあえずの計画でも,一領域の計画でもOK 少しずつ拡張やバージョンアップをして行こう 計画と評価は繰り返して良くなるもの! 計画づくりは「家を建てるのと同じ」 計画を毎年,評価して少しずつ修正するつもりで 製本の必要があるのか? 立派に製本された保健計画書のたどる運命は? ファイル形式がおすすめ? いつでも差し替えや追加ができる方が実用的 良い計画とは常に見直される「生きた計画である」 策定における留意点 スタッフと住民のエンパワーを大切に (内なる力の回復) 計画策定で,「まちづくり」や政策形成の醍醐味を 目的がはっきりして,自分達の役割も明確になるこ とは,住民にとっても,スタッフにとっても,大切 計画に沿って,取り組んだことで,目標達成! → 自信が出た! もっと頑張ろう! 計画づくりは「人づくり」である エンパワメントのために 傾 聴 ↓ 対 話 ↓ 実 践 この流れが個人や組織のエンパワメントの基本 自分や組織が地域で直面している 課題について「傾聴」 する 自分の周りで健康のことで気になること,困ったことを尋ねる フォーカス・グループ・インタビューの手法が有効 でてきた困りごとや気になることが,どうなったらいいかを 確認することが大切 これが達成すべき「めざす姿」(事業の目的)である 「めざす姿」を実現するために,必要な条件を整理する 例:「糖尿病があっても,食事を楽しめる」ためには,どんな 条件が必要か? 自分や組織が地域で直面している 課題について「傾聴」 する 専門家と住民が協働でこうした条件を整理しよう こうした作業を進める手法として, PRECEDE-PROCEED Model 地域づくり型保健活動,PCM手法などがある こうした「めざす姿」やその条件が地域でどうなっているかを 確認することも大切 → いわゆる「アンケート調査」をする それを裏付ける既存のデータを探す ← アンケート調査ばかりが実態調査ではない こうした条件を満たすために 何ができるかを「対話」する 条件を満たすために自分にできること,地域の資源 について話し合う 悪者探しよりも,こうした「お宝」探しの方がエン パワーにつながる! 自分たちができること,行政がすべきことについて, 住民と「対話」していく こうして,「めざす姿」やその条件を実現するため の保健計画ができあがる 話し合われたこと(保健計画)を まず「実践」してみる できることから,まずやってみる 計画書のできあがりを待つ必要はない!? その効果を確認(評価)できると,更に頑張れる! しかし,必ずしも,そうはならないのも現実 思ったように実践できない 実践できたのに,成果が上がらない 目標を達成するための条件を満たすことが重要 目標達成するためにどんな条件が必要なのか を明らかにしておくことが大切 策定の各段階における住民の参画 1)計画の策定についての学習 2)領域を設定する 3)改善すべき生活習慣や保健行動を決める 4)生活習慣の改善のために必要な条件を抽出する 5)実態調査票づくり 6)生活習慣の実態やその条件の実態を調査する 7)課題を共有する 8)目標値を設定する 9)どんな取り組みが必要かを考える 10)住民に周知する 計画の策定についての学習 計画策定に必要なキーコンセプトを一緒に学ぼう 対象:策定委員,作業部会員,職員,住民 地域の現状について既存のデータを知ろう 人口動態統計,健診結果,医療費 生活習慣の実態(あれば) 領域の設定段階 住民から健康づくりの課題を抽出する (グループインタビュー,デルファイ法) 「地域の健康やそれに関する生活上の課題を5つ 程度挙げてください」 デルファイ法 「地域の健康づくりで,困っていることや気になる ことは?」 グループインタビュー 「健康で幸せだと思うのはどんな時?」 グループインタビュー ライフステージごとの領域の整理 乳幼児期 学童・思春期 青壮年期 高齢期 栄養・食生活 運 動 休養・心の健康 喫 煙 飲 酒 歯科保健 保健・医療 事 故 育児不安や虐待 網羅する必要はない! 対策を含む 独自の領域設定もOK 専門職と必要と思う領域 健康診査や予防 慢性疾患児へ 糖尿病・循環器疾患・がん を提案して「対話」を の支援を含む 接種を含む SID S 対 策 を 含 む 転倒防止を含む リプロダ ク H IV や ST D ティブヘ ルス 対策を含む 改善すべき生活習慣や行動を決める 領域ごとに,問題となる生活習慣を抽出 (グループインタビュー) 「○○について,頑張っていること,あるいは, なかなか実践できずにいることは?」 保健師や栄養士として気になっている生活習慣に ついても指摘をして「対話」を 生活習慣を改善する条件を抽出する 生活習慣ごとにその実践や継続のために必要な 条件を尋ねる (グループインタビュー) 「△△を実践したり,継続するのが難しいのは何故で しょう?どんな条件が整ったらできるのでしょうか」 準備・実現・強化因子,環境因子などを検討して追加 することも必要 実態調査票づくり 国や県の実態調査の設問も活用するのも良い・ 生活習慣の地域比較が可能なのが利点だが・・ 条件についての調査項目は少ないのが難点 ヒアリング内容から抽出(QOLの指標や生活習慣の条件) 特に,生活習慣の改善のために必要な条件を尋ねよう 例:喫煙率が高いことがわかっても,それだけでは対策は見え ません!喫煙率を下げるための条件が整っているかを実態 調査で明らかにすることが必要です。 こうした条件の充足状況がわかれば,どんな対策が必要か が見えてきます 実態調査の設問に求められる条件 設問の意味が明確である 用語が具体的でわかりやすい 設問の意義が明確である 「はい」と答える人が多い方が良いか,悪いかが明確 信頼性の高い回答が得られる こちらの意図を汲んで,「良い子」の回答をしないか? 回答する時の気分で,回答が変わらないか? 1つの設問に2つの内容を含まない 複数回答の設問は避ける → 集計や評価が困難 生活習慣の実態やその条件の実態を調査する 各世代性別に100人程度のサンプルが得られることを目標に 無作為抽出によるサンプリングが原則だが・・ 回収率を上げるための工夫が重要 バイアスがかかっても,健診など日常業務で情報が得られる 対象は大きな意義がある 健診の問診を活用するのも有効な方法 アンケート調査だけが実態調査ではない 障害者などの当事者,関係機関からのヒアリングも必要 策定委員や作業部会メンバーと一緒に住民や関係者等 からヒアリングを実施することも有効 調査票の配布と回収 郵送調査において,回収率を上げる工夫 大きい封筒を用いる 首長名の鏡文を入れる 計画策定の意義を説明する プライバシーの保護,目的外使用をしない旨の説明 調査票の工夫 色つきの紙を用いる 大きめの文字で 設問と選択肢のフォントを変える 途中で,記入を継続させる言葉かけを 「もう少しです」「裏もあります」 郵送調査によらない場合 保健推進員や町内会の役員に配布と回収をお願いする 場合は,プライバシーへの配慮を 課題を共有する 実態調査の結果を一緒に読みとる どんな生活習慣やその条件が問題なのか? この際に,国や県のデータと比較できると,地域の課題を より鮮明にできる 問題の構造を明確にする(できれば) 各評価指標間の関連を整理する(因果関係など) 調査結果は策定委員や作業部会のメンバーだけでなく,広く 住民に周知しよう 地域の健康づくりの課題を計画ができるまでに多くの住民 に知ってもらおう 目標値の設定 目標値そのものを決めることには大きな意義は? 「増加させる」,「減少させる」でもOK 設定するからには,皆が納得のいく設定の仕方で エビデンスのある目標値の設定は少ない (予防接種率95%以上など) 喫煙率は禁煙を希望する人の割合から,算出できる 住民の熱意の表れとして,ある数値を設定することも 目標値の設定のその性格について QOLや健康指標:達成すべき究極の目標(アウトカム指標) 何をめざしているのかを確認するためにも重要 生活習慣の指標:上記の目標を達成するために必要な目標 ノルマ的な目標として,住民に押しつけるものではない! 取り組みの成果をモニタリングするために重要 それに必要な条件の指標:行政や関係機関の取組の目標 ノルマ的な性格を有し,予算の根拠として重要になので, 可能な限り具体的な設定が望ましい どんな取り組みが必要かを考える(1) 目標値を決めても,具体的な取り組みが変わらなければ,目標 の達成は困難 特に,事業の目的が確認され,既存の事業が見直されること 予算の制約がある中で,「目玉」となる新規事業も難しいはず 目標値を達成するために関わりのある事業をきちんと整理しよう 保健担当課以外の取り組みもたくさんあるはず (表1) 住民組織や団体の活動もしっかり把握しよう! 今後取り組もうと思っていることなども掘り起こそう どんな取り組みが必要かを考える (2) 他部局や住民組織・団体,関係機関との連携で効率的な 事業をめざそう 計画策定の話し合いの中で,こうした連携のきっかけが 生まれるはず・・ そのためには,策定段階から関係者の巻き込みが必要 計画策定に加わってもらう意義について,きちんと理解 してもらおう 住民に周知する 計画の策定途中から,計画を策定していることをPRしよう 少しでも多くの市民に関心を持ってもらおう めざす健康な暮らしの紹介,実態調査結果の紹介 できれば,意見を言ってもらう機会を作ろう 公開シンポジウムなどのイベントも望ましい ダイジェスト版の全戸配布も望ましいが,どれくらい読まれて いるだろうか? 一人一人の住民にとって,「○○%をめざそう」は意味が あるのだろうか? わが家の目標,私の目標を考えてもらうような工夫も 折りあるごとに計画を紹介し,自分たちの取り組みの目標を 考えてもらおう 住民の意見を計画書の内容に盛り込むには 実態調査票の項目に住民の意見を盛り込む 今回の計画策定では,調査項目がそのまま目標になる ので,意義は大きい 住民の声 ウオーキングをしようと思ったが,膝が痛くなってやめた! 実態調査 無理なく運動ができるよう専門家による指導を受けたこと がありますか? 目 標 専門家による運動の指導を受ける人を増やす 今後,必要な取り組みの内容 行政に対する要望を尋ねるだけでなく,自分達の取り組み を考えてもらうこと!
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