「健康日本21」の策定とその推進 (社)地域医療振興協会 ヘルスプロモーション研究センター 藤内 修二 健康日本21中間評価 20項目/53項目が悪化 ベース ライン値 直近実績値 目標値 (2010年) 20代女性のやせすぎ 23.3% 26.9% 15.0% 20~60代男性の肥満 24.3% 29.4% 15.0% 40~60代女性の肥満 25.2% 26.4% 20.0% 朝食を欠食する30代男性 20.5% 24.7% 15.0% 日常生活の歩数(男性) 8,202歩 7,676歩 9,200歩 日常生活の歩数(女性) 7,282歩 7,084歩 8,300歩 多量飲酒者の割合 4.1% 7.1% 3.2% 高脂血症の割合(男性) 10.5% 11.5% 5.2% 高脂血症の割合(女性) 17.4% 18.2% 8.7% 乳癌検診受診者 1064万人 766万人 1600万人 乳製品の摂取量 107g 146.2g 130g 指 標 地方計画ができて何が変わった? • 健康日本21地方計画が策定されて,保健事業はど う変わっただろうか? 事業の内容,関係機関,組織・団体との連携 職員の意識や行動,住民の意識や行動・・・ • これから策定するところは,地方計画の策定に何を 期待するのだろうか? 計画策定による日常業務の変化 全国保健センター連合会主催研修会の グループ討議より (平成16年9月10日) 事業の方向性の明確化 • トップダウンの首長だが,計画策定により,事業の 進む方向を示せるようになった • 単年度の事業計画だったのが,長期の計画が立て られた • 地区診断で地域の特性が見えてきた • 住民のバックグランド見えてきて,進むべき方向が 明確に • 地区の問題点がはっきりしてきた(医療費分析など) • 健康教育の対象者が変わり,企業に健康教育に出 向くようになった スタッフ間の問題意識や目的の共有 • 業務が何のためなのかが明確になり,スタッフの 意思統一につながった • データを整理することができ,業務の目標を明確に できた • 業務量は増えたが,やろうという気持ちが強くなった • 日常の業務が無意識のうちに変化している! 事業の目的を考える習慣が身についた 住民の声からニーズ把握やアセスメントをする 説明責任(アカウンタビリティ)の向上 • 市民向けの説明なども,計画書を使って説明しやす くなった • 「自分たちの言葉」で事業の意味づけができた! 通知の実施要綱では上滑りの説明になりがち 事業のスクラップ&ビルド • 日常業務を見直して,スクラップする事業が出た 健康相談をやめることにした 続けたい地区には 手を挙げてもらった! • 年度の計画も優先順位を考えられた • これはできないだろうと思っていた事業できるように なった • 取り組みの評価ができて,次のステップに進める ようになった 連携の促進 • 関係機関を巻き込んだので,連絡会を持ったりして, 協力しやすくなった • 学校や幼稚園との連携ができるようになった(それ なりに) 予算やマンパワーの確保 • 栄養士が採用になった • 予算化の際に,根拠として,予算の確保がしやすい 住民との「関係性」の回復 • 組織を巻き込んだので,地域に出やすくなった 住民に後押しされながら展開できている 「関係性」の再構築ができつつある • 市民への伝え方も計画策定で整理してできるように なった 住民組織活動の活性化 • 住民自身が自分たちの活動の意義を再認識できた • 組織・団体もめざすものが見えたら,すごいパワー になる • 住民組織により,少ない保健師のパワーを有効に 生かせる • 健康づくり推進員の役割が変わった! 計画のどの部分をやってもらうか,協力体制が できた 計画策定は何のため? 市町村合併前に策定する意義(1) • 合併後,旧自治体の特性に沿った事業ができるか? • 旧自治体ごとの特性が明らかになっていることが必要 各領域の健康課題の実態は? 優先すべき健康課題は何か? それに影響を及ぼしている要因は? その解決のために有効なアプローチは? • 小さな自治体ほど,明確な主張ができることが必要! • 合併後,保健師が他の地区担当になったら,新しい 担当はどう事業を展開する? 担当が変わっても事業の継続性を担保するのが 保健計画である! 保健計画は次の担当者への「引継書」である 市町村合併前に策定する意義(2) • 合併後の新自治体の保健計画策定において,旧自 治体の計画のすりあわせをするが・・ その際に,地方計画のない自治体の健康づくり への取り組みは反映されないことに • 合併後は,旧自治体の計画はどうなるのか? 新自治体の計画ができれば,行政計画としての 役割は,終えることになるが・・ • 住民にとっての地域の保健計画であるということに 変わりはない! • 合併後は住民の行動計画として推進してもらおう 1)目標の共有 保健計画策定の目的 地域の健康課題の解決は保健担当者だけの取り 組みでできるものではない 多くの人々との協働ではじめて可能になる! 担当課内の職員(技術職および事務職) 行政の他部局の職員 関係機関の職員,住民組織・団体 そして,一人一人の住民 そのためには,多くの人々と取り組みの目標を 共有することが不可欠である 計画書の策定はそのプロセスを通して,目標を共 有することができる 計画書として目標を明記することにより,担当者が 変わっても目標を確認できる! めざすものを 具体的に確認 しておかない と,手段の目 的化が起こる し,連携も進ま ない 目的 次代の社会を 担う子どもが健や かに生まれ,かつ, 育成される社会の形成 基本理念 子育てに伴う喜びが実感される 子育てにおける保護者の第一義的責任 ① 地 域 に お け る 子 育 て の 支 援 ② な母 ど性 の並 健び 康に の乳 確児 保お 及よ びび 増幼 進児 ③ 長子 にど 資も すの る心 教身 育の 環健 境や のか 整な 備成 ④ の子 整育 備て を 支 援 す る 生 活 環 境 ⑤ 両職 立業 の生 推活 進と 家 庭 生 活 と の ⑥ 子 ど も 等 の 安 全 の 確 保 ⑦ 細要 か保 な護 取児 り童 組へ みの の対 推応 進等 き め 図1 次世代育成支援における目的と基本理念 手段ごと の柱? 目標「値」は重要か? • 目標は「目標値」が大切なのではない! めざす姿(取り組みのゴール)を住民や関係者と 確認することこそ重要 この「めざす姿」と現状とのギャップがニーズ! • 評価指標は,このめざす姿にどれくらい近づいてい るかをはかる「ものさし」 めざす姿に近づいていることが確認できればOK 子育てに伴う喜びを実感したい 健やかで心豊かな子どもに育ってほし い 仕事と育児を両立させたい めざす姿 めざす姿 ギャップ ギャップ 現 状 現 状 各種の保健事業や保育サービスは このギャップを縮めるためにある! 「めざす姿」に近づいていることが確認できれば,OK! 保健計画策定の目的 2)優先順位の明確化 予算の制約が厳しくなり,新規事業を次から次へと 始められる状況ではなくなってきた 何をスクラップし,何を新たに始めるべきか, その優先順位を明確にすることが必要 たくさんの目標を総花的に並べるのではダメ! たくさんある目標に優先順位をつけること 設定された目標を達成するためにはどの取り組み に最優先で取り組むべきなのか? 科学的な根拠と住民の声に基づいて,優先順位の 決定が必要 保健計画策定の目的 3)役割の明確化 → 連携の推進 関係者や住民と協働して取り組むためには,それ ぞれの具体的な役割が明確であること! 単に,役割分担というのではない! それぞれの部局や機関,組織・団体がどう連携して 取り組むのか 情報や資源の共有,専門職やノウハウの相互活用 などについても明確になっていること 保健計画策定の目的 4)既存の事業の見直 し 計画策定は,新規事業を考えることが目的ではない! 最近の財政状況では新規事業を容易に開始できない 既存の事業の見直しこそ,計画策定の意義である 既存の保健事業の目的を再確認することにより,事業 のあり方を再検討しよう 既存の事業の見直しにつながるためには,事業の実施 要領まで検討することが望ましい 関係機関や住民組織・団体と協働で取り組むことは, 最も効果的な事業の「見直し」である 保健計画策定の目的 5)住民の主体性を高める 策定作業を通じて,住民が政策づくりの 醍醐味を味わう 策定作業を通じて,自分たちの役割が 住民の 主体性 明確になる 健康づくりも地域の福祉の向上も,住民の主体的な 参画が不可欠である! 保健計画策定の目的 6)住民や関係者,担当者のエンパワー 計画策定により,住民や住民組織・団体の役割が 明確になり,主体的な参画が増える → 住民のエンパワー,住民組織のエンパワー 関係者との連携が促進されて,効果的な事業が実 施できる → 関係者のエンパワー こうした計画策定の効果が発揮される → 担当者のエンパワー 計画策定や推進でパワーレスになる要因 • 策定しても,具体的にどう取り組めばいいかがわからない 目標達成のための条件やその条件を満たすそれぞれの 役割が具体的に明記されていない → 実施主体ごとの役割を検討して,そのつど,書き込もう 計画の策定は,計画の完成ではなく「誕生」にすぎない 誕生した計画を「育てる」ことが必要 • 日常の業務に追われて,計画の推進どころではない (予算やマンパワーの制約) 日常教務の中で,計画の推進ができるはずだが・・ → 日常の業務が計画のどの目標を達成するための条件を満 たすのかを明確にしよう 計画策定や推進でパワーレスになる要因 • 関係機関・団体との連携が進まない 関係機関・団体が計画を踏まえた活動を展開しない → 各関係機関・団体が計画に書かれた目標とそのための 自分達の取り組みについて検討する機会を提供する 総会や研修会の機会を活用 → それぞれの取り組みについて,情報交換の機会を 「推進大会」など • 組織として計画を推進することに熱心ではない 計画を推進しようとする努力に対して組織が評価をしない → 保健計画が行政にとって重要なものであることをアピール 職員から上司への事業説明,予算編成の際などに活用 「三位一体」の改革に伴う補助金の廃止で,計画の意義↑ → 住民や住民の代表である議員から,進捗状況を尋ねてもらう 保健計画策定の目的 7)保健事業の評価のため 計画書の中で,評価指標が明確になっていれば,事 業の効果をきちんと評価ができる 今までは,計画策定と評価が別物になっていた!? 計画策定の段階から評価の視点を明確にしておこう 計画を策定したことで,既存の事業の中で評価指標 のための情報収集ができること 例:乳幼児健康診査や基本健康診査の問診内容 の見直しやその活用の見直し 保健計画策定の目的 8)基盤の整備のため 目標達成のために,事業費やマンパワーの確保, 施設などのハード面の整備が必要になる これを明記して,予算を確保することも保健計画の 意義である 保健計画に必要な要素 1)地域の健康に関する現状 既存データからわかる地域の健康課題,実態調査 によって明らかになった健康課題 → QOLの指標,健康指標,生活習慣の指標,その ための条件の充足状況 保健計画に求められる要素(1) 栄養・食生活 条件を満たす ために必要な 施策や連携 生活習慣の 改善のため に必要な条 件等の目標 生活習慣 保健行動 の目標 運動・身体活動 条件を満たす ために必要な 施策や連携 生活習慣の 生活習慣は 改善のため 3つだけでは に必要な条 ありませんが 件等の目標 生活習慣 保健行動 の目標 心の健康・休養 条件を満たす ために必要な 施策や連携 生活習慣の 改善のため に必要な条 件等の目標 生活習慣 保健行動 の目標 健康の 目 標 肥満 高血圧 糖尿病 ・・・ ・・・ 究極の 目 標 QOL 2)具体的な目標 保健事業をはじめ,関係者や住民の取り組みがめ ざしているもの具体的に表現する QOLの目標 対象者にとってのQOLの内容を明確にすること! 健康状態の目標 寿命,死亡率,要介護率,受療率,有所見率 主観的健康度も大切 生活習慣や行動の目標 3)目標を達成するための条件 具体的な目標を掲げても,具体的にどう取り組めば いいかを明らかにすることは困難 当該の目標が達成できるための条件が具体的に記 載されていることが必要 4)実施計画(行動計画) こうした条件を満たすために,どんな取り組みが 新たに必要なのか? 既存の事業をどう見直していくのか 他部局や関係機関,住民組織・団体とどう連携 していくのか それぞれの主体ごとに,どのような取り組みをする のかを記載したものが行動計画である 取り組みの主体(主語)が明確になっていること 「主語」が明確でない保健計画では,「誰かがやる だろう」と他人事の保健計画に 4)実施計画(行動計画) 取り組みの事業量についても可能なかぎり記載す ることが望ましい マンパワーや予算獲得の際の根拠として重要 また,実施計画の中には実施主体間の協働につい ても記載されていることが望まれる 例:教育委員会と母子保健担当課とで家庭教育 学級を共同開催する 5)基盤整備計画 行動計画を実効性のあるものにするために,基盤 整備についての記載が必要である 取り組みに必要な予算やマンパワーの確保,条例 の制定などの法整備 スタッフの資質の向上に向けての取り組み,住民組 織の育成 6)評価計画 評価の3段階 「結果評価」 最終的な目標が達成できたかどうかを評価する 「影響評価」 その目標の達成の条件がどの程度満たされて きているのかを評価する 「経過評価」 取り組みが狙い通り実施されているかその経過 を評価する こうした評価指標をいつ,どのような方法で集める のかを明記すること 既存の事業,特に,日常業務の中で集めること 計画推進のポイント 他部局,関係機関や住民組織・団体へのPR 行政他部局の事業に計画の内容が組み込まれるには, 予算編成時期のアプローチが効果的 庁内の課長級(係長級)で構成される推進会議など ができれば,理想的 住民組織・団体の事業計画に組み込まれるには,年度 替わりの総会等で働きかけを 策定プロセスや内容などを,当該の組織・団体から 計画策定に加わった人に紹介してもらおう ここでも「対話」が大切です! 地区ごとの目標を考えてもらおう 町内会や自治会,校区ごとに取り組みを検討しても らえると効果的です こうした地区単位の取り組みは市町村合併があっ ても継続できるのが強みです 計画の推進に向けて,住民との「対話」が大切です。 埼玉県川本町:7区健康づくり推進協議会 人口12,000人 20行政区 • 子ども会,福寿会,ドリーム7,婦人会で組織 「ドリーム7」 30~50歳の親睦会 夏のいかだ流しなども実施 • 毎月15日を「健康づくりの日」に 公民館に集合、ウォーキング,組織から報告等 参加者の固定化 →「よさこいソウラン」を開始 • 子どもから大人まで参加するグランドゴルフ大会 それぞれ役割分担 減塩食(うどん)の炊き出し • 公民館での会議中「禁煙」を開始 手づくりのポスターを掲示 香川県綾上町:室田自治会 • 5年前からどじょう汁を皆で食べる会を始めた。 • 材料を持ち寄って、老若男女わいわいがやがや それぞれに役割を分担 買出し,うどん打ち 子どもも楽しみにしている • 常会もその間に行っている 年間,7~8回 土曜日に開催 青森県東通村 人口8,000人の村 • 基本健診の事前説明会で,村内,17地区を回り, 計画のPRを行った • 村内,17地区でウォーキングコース作成 • それぞれの地区持ち回りでウォーキング大会を 開催中 • 事業所が「当番」の大会もあり,従業員と村民と の交流の機会になっている。 奈良市:富雄地区 (地区人口 14,000人) • 「敬老会」から「高齢者と子供達のふれあいの 場」へ転換(3つのサロン運営) ①高齢者サロン『お茶しませんか』 年3回は園児も参加 ②育児サロン『ゆうゆう』 最初は3組の親子だったが,今は20組が参加 ③世代間交流サロン『こんにちは』 島根県益田市:高津地区 (市の人口5万人 行政区15区の1つ) • 健康ますだ21の中から「たばこと酒」を選定して この3年間取り組んでいる • 高津小学校で、4~6年生を対象にアンケート 調査票は保健所の支援で、住民が作成した 行政ではなく,地区が調査を依頼したので, 学校も受け入れてくれた。 • 他の小学校にも広がって調査をすることになった • 高津小学校では学校保健会で取り組んでくれて, 子どもとタバコの害について実験をした 貝割れ菜にタバコの汁を添加 → 発芽しない まず,何から手を着けるのかを明確にする 優先順位を検討することが重要です ← 一度に多くのことはできません それぞれの組織や団体,家庭や個人毎に取り組み の目標を決めてもらいましょう 計画の周知の際に,それぞれの取り組みの目標を 考えてもらうと効果的です! 取り組みやすさだけでなく,取り組みの効果も考え て,優先順位をつけよう 地域や組織での優先順位の検討の手順 候補 公民館 の禁煙 野菜を 毎 食 ウォー キング 効果大 野菜を 毎 食 公民館 の禁煙 オアシ ス運動 ラジオ 体 操 ラジオ 体 操 ウォー キング 体重の 測 定 オアシ ス運動 体重の 測 定 効果少 ウォー キング 野菜を 毎 食 公民館 の禁煙 ラジオ 体 操 オアシ ス運動 体重の 測 定 効果少 効果大 実現可能性大 最優先 ウォー キング オアシ ス運動 野菜を 毎 食 次に優先 実現可能性小 公民館 の禁煙 ラジオ 体 操 体重の 測 定 日常業務を見直そう 目標達成のために,既存の業務がどのような位置 づけになるのか,整理をしましょう 基本健康診査(事後指導を含む)によって, 達成可能な目標は? その目標を達成するには,既存の事業をどう見直し たら良いでしょうか? 目標を達成するための条件を,皆で検討しておくこ とが必要です 評価の仕組みづくり 計画づくり→評価を繰り返すことがポイント 健診等,日常業務で評価指標について情報収集を 住民と一緒に評価方法を考えることも重要 住民はどのような情報を集めて評価するのか? 推進協議会などの進行管理組織の運営 健康づくり推進協議会があれば,それを活用する → 活性化の機会にする それぞれ取り組みについて情報を共有する場と位置づける 数値目標などの推移を毎年示すことが望ましい! 評価指標のついての情報が集まる仕組みが重要 領域ごとに専門部会をおいて進行管理を行わせるのも有効 当該領域の重点的な取り組みを毎年,専門部会で決定 その取り組みの成果を健康づくり推進協議会で発表 市町村合併が予定されている場合には・・ 旧自治体ごとに推進組織を残すことが重要
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