電磁気学C

電磁気学C
Electromagnetics C
7/6講義分
遅延ポテンシャルと先進ポテンシャル
山田 博仁
ローレンツ・ゲージにおけるMaxwell方程式
AL ( x, t )
 gradL ( x, t )
t
B ( x, t )  rot AL ( x, t )
E ( x, t )  

   


   

 (12)
 (13)
2 
 A ( x , t )    ie ( x , t )
2  L
t 
 (24)
2 
1


(
x
,
t
)


 e ( x, t )
2  L
t 

 (25)
div AL ( x , t )  
L ( x , t )
0
t
 (23)
上の(24), (25)式を、ダランベール(d’Alembert)の方程式とも言う。
(23)式の条件をローレンツ(Lorentz)条件と言い、この条件を満足する電磁ポテン
シャルAL(x, t), L(x, t)を、ローレンツ・ゲージにおける電磁ポテンシャルと言う。
ローレンツ・ゲージにおけるMaxwell方程式
ところで、このローレンツ・ゲージにおける電磁ポテンシャルAL(x, t), L(x, t) も、
一義的な値を持たない。何故なら、

2 
    2   0 ( x, t )  0
t 

 (26)
を満たすような 0 を用いて、ゲージ変換
AL' ( x, t )  AL ( x, t )  grad 0 ( x, t )
L' ( x, t )  L ( x , t ) 
 0 ( x, t )
t
 (27)
 (28)
を行うと、この新しいローレンツ・ゲージの電磁ポテンシャルAL’(x, t), L’(x, t) も
また、(12), (13), (23), (24), (25)と全く同形の方程式系を満たす。
即ち、 (12), (13), (23), (24), (25)の方程式系は、(27), (28)式の条件に基づいて規
定されたゲージ変換のもとで不変である。
静電場、静磁場の式
さて、 (12), (13), (23), (24), (25)の方程式系において、全ての物理量が時間 t に
依存しないとき、
静電場の基本法則
E ( x )  gradL ( x )
 (29)
1
L ( x )    e ( x )
 (30)

静磁場の基本法則
B( x)  rotAL ( x )
 (31)
AL ( x )   ie ( x)
 (32)
div AL ( x )  0
 (33)
が得られる。
相対論における扱い
以下のローレンツ・ゲージにおけるMaxwell方程式は、

1
   2
v


1
   2
v

2 
 A   i
2 
t 
 (24)
2 
1





2 
t 

 (25)
相対論においては、4次元ベクトルとしての電磁ポテンシャル A   v , Ax , Ay , Az 
および4次元電流密度 i   v, ix , i y , iz  を用いて

1 2 
   2 2  A    i
v t 

 vは、電流密度の次元を持つ
 (34)
と表される。
さらに、ダランベルシアン□を用いて(34)式は、
□A   i
 (35)

1 2 
 □     2 2 
v t 

と表される。
ローレンツ・ゲージにおけるMaxwell方程式
今回からは、自由空間への電磁波の放射の問題を取り扱う。
まず、ローレンツ・ゲージにおける自由空間でのMaxwell方程式は、
A( x, t )
 grad ( x, t )
t
B ( x, t )  rotA( x, t )
E ( x, t )  

1
   2
c


1
   2
c

2 
1


(
x
,
t
)


 e ( x, t )
t 2 
0
2 
 A( x, t )    0 ie ( x, t )
2 
t 
div A( x, t ) 
1  ( x, t )
0
c2
t
 (1)
 (2)
 (3)
真空中を仮定して、
 (4)
   0 0  c2
 (5)
としている。
電荷分布 e(x, t)と電流分布 ie(x, t) とが与えられているとき、それらの時間的変
化に伴って発生する電磁波を求める。
そのためには、非斉次項をもつ波動方程式(3)式および(4)式を解いて、その特解
を求めなければならない。
時間に依存した静電ポテンシャル
(3)式において、左辺第2項が無いときは、静電場におけるポアソンの方程式
 ( x )  
1
0
e ( x)
 (6)
になり、その特解は、
 ( x) 
1
4 0

V
d 3 x'
e ( x' )
x  x'
 (7)
で与えられていた。(7)式では、電荷分布 e(x’)は時間的に変化していないから、
それによって作られる場所 x における静電ポテンシャル(x)も時間に依存しない。
しかし、電荷分布が時間的に変化する時でも、|x|→∞の遠方におけるポテンシャル
の様子は、大体(7)式と同じであろうと考えられる。ただし、(3)の波動方程式で伝わ
る電磁波は、有限の速度 c で空間内を伝搬していくので、x’点の電荷分布の変動
の影響は、時間 |x - x’|/c だけ遅れて x 点に到達するはずである。従って、x 点で
のポテンシャル(x, t)は次式のように表される。
 ( x, t ) 
1
4 0

V
d 3 x'
x  x'
)
c
x  x'
 e ( x', t 
 (8)
遅延ポテンシャル
このような物理的考察から、(3)式の特解は(8)式のように表される。ここで積分領域
V は、観測点 x および電荷分布の存在する全領域を含む空間領域を表している。
(8)式が(3)式の解であることの証明は、 → 出席レポート問題
(4)式に対しても同様に考えることができるので、(4)式の解として次式が得られる。
A( x, t ) 
0
4
x  x'
)
c
d 3 x'
x  x'
ie ( x', t 

V
 (9)
(8)式或いは(9)式で表される電磁ポテンシャルは、影響が光速で伝わることによる
時間的な遅れを考慮して導かれるというので、遅延ポテンシャルという。
それに対して、
 ( x, t ) 
A( x, t ) 
1

4 0
0
4
V

V
d 3 x'
x  x'
)
c
x  x'
e ( x', t 
x  x'
)
c
d 3 x'
x  x'
ie ( x', t 
 (10)
 (11)
先進ポテンシャル
 ( x, t ) 
A( x, t ) 
1

4 0
0
4
V

V
d 3 x'
x  x'
)
c
x  x'
e ( x', t 
x  x'
)
c
d 3 x'
x  x'
ie ( x', t 
 (10)
 (11)
(10)式或いは(11)式で表される電磁ポテンシャルも(3)式および(4)式の解であり、こ
れらは電荷や電流が動くよりも前に何故かその動きを知っていたかのように存在
していて、それが周囲から電荷に向かって集まってくる電磁波であり、言わば映画
を逆回ししたようなイメージである。そのため、先進ポテンシャルと呼ばれている。
先進ポテンシャルの物理的意味については色々と議論があるが、これはMaxwell
方程式やそれらから導かれる波動方程式が時間反転に対して共変的(即ち、
Maxwell方程式において、t’= -t とおいて変換してやっても、全く同じ方程式系が
得られる)であることに由来するものである。
ところで、(8)~(10)式は、(5)式のローレンツ条件を満足しているか、各自で確かめ
てみて下さい。
波動の時間反転性と位相共役波
今、ほぼ +z 方向に伝搬している周波数 、波数成分 kz の波を、空間座標 r と時
間 t の関数として表すと、



E(r , t )  Re E(r )e j ( t kz z )  Re A(r )e j t

と書かれる。
この式の複素共役(complex conjugate)をとり、t = -t とした波は、



Ecc (r , t )  Re E* (r )e j ( t kz z )  Re A* (r )e j t

となる。
このように、波の複素振幅が元の波の複素共役で表される波を位相共役波(phase
conjugate wave)と言い、これもまた電磁波の波動方程式の解となっている。
これは、波面の形が同じであり、伝搬方向がちょうど反対の波であり、あたかも時間
を逆向するかのように振舞う波である。 Maxwell方程式の時間反転性に由来
A*(r) jejtt
A(r)e
*(r)
A(r)
A
波源
障
害
物
四光波混合と位相共役波
非線形光学(nonlinear optics)の技術を用いれば、位相共役波を作り出すことが可能
・ 四光波混合
ポンプ波
kpump pump
プローブ波
非線形光学媒質
kp p
3次非線形感受率 (3)
ks s
-kpump pump
ポンプ波
シグナル波
 p  s  2 pump
エネルギー保存則
k p  ks  k pump  k pump  0
波数(運動量)保存則
 p  s   pump
k p  k s
の時、
縮退四光波混合
このとき、プローブ波と信号波は位相共役の関係にある。
この技術は、フォトニック・ネットワークの波長変換などにも応用されている。
位相共役鏡
普通の鏡と位相共役鏡との比較
入射光
k(i)
入射光
z=0
鏡面
k(i)
反射光
z=0
鏡面
k(r)
z
z
k(r)
つまり、k(r) = -k(i)
反射光
k(i)x = k(r)x
k(i)y = k(r)y
k(i)z =- k(r)z
k(i)x = -k(r)x k(i)y = -k(r)y k(i)z =- k(r)z
普通の鏡
位相共役鏡
Q. 位相共役鏡に自分の顔を映せば、どのように見えるか ?
1. 普通の鏡と同じ
2. 左右反対に映る 3. 上下反対に映る
4. 何も映らない
位相共役波と防御シールド?
防御シールド、防御スクリーン、エネルギーシールド、バリヤー、航宙デフレクター
非線形光学媒質のガス
ポンプ光
位相共役光
USSエンタープライズ (スタートレック)
ポンプ光の強度を高めれば、位相共役光の発生に
光学利得を持たせることも可能で、攻撃を受けた光
よりもはるかに強い位相共役光を返すことも可能
クリンゴンの戦艦
擬似的な位相共役波の作り方
平面波
平面鏡
球面波
凹面鏡