電磁気学C Electromagnetics C 6/19講義分 電磁ポテンシャルとゲージ変換 山田 博仁 再びMaxwell方程式 Maxwellの方程式 B ( x, t ) rot E ( x, t ) 0 t div B ( x, t ) 0 D( x, t ) rot H ( x, t ) ie ( x , t ) t div D( x, t ) e ( x, t ) (2) 構成方程式(物質中) D( x , t ) E ( x , t ) 真空中では、 0 B( x, t ) H ( x, t ) (5) (6) (1) (3) (4) 0 (7) (8) 磁場(磁束密度)B(x, t)を B( x, t ) rotA( x, t ) (9) と表すと、(2)式は恒等的に満たされる。 これを(1)式に代入すると、 A( x, t ) rot E ( x, t ) 0 t ( ベクトル恒等より、 ( A) 0 ) (10) 電磁ポテンシャル さらに(10)式は、 A( x, t ) E ( x, t ) grad ( x, t ) t (11) とおくことにより、恒等的に満たされる。 ( ベクトル恒等式より、 rot(grad ) 0 ) つまり、Maxwellの方程式の(1)式と(2)式は、 A( x, t ) grad ( x, t ) t B( x, t ) rot A( x, t ) E ( x, t ) (12) (13) とおくことにより、自動的に満たされる。 この A と を、電磁ポテンシャルという。 以下では、残りのMaxwell方程式(3)と(4)を、E, B, H, Dではなく、電磁ポテンシャル A と を用いた式として書き直してみる。 まず、(5)式, (6)式の関係を用いると、(3)式は、 rot B( x, t ) E ( x, t ) ie ( x , t ) t (14) となる。 電磁ポテンシャル これに(12)式, (13)式を代入し、 rot (rotA) grad (divA) A のベクトル恒等式を 用いると、 2 ( x, t ) 2 A( x, t ) grad divA( x, t ) ie ( x, t ) (15) となる。 t t また、(4)式に(12)式を代入すれば、 1 A( x, t ) divE ( x, t ) div ( x, t ) e ( x, t ) t (16) 従ってMaxwellの方程式(1)~(4)は、以下の方程式系で置き換えられる。 A( x , t ) grad ( x , t ) t B ( x , t ) rot A( x , t ) E ( x, t ) 2 ( x , t ) 2 A( x , t ) grad divA( x , t ) ie ( x , t ) t t 1 A( x , t ) ( x , t ) div e ( x, t ) t (12) (13) (15) (17) 新しいMaxwell方程式系 A( x , t ) grad ( x , t ) t B ( x , t ) rot A( x , t ) E ( x, t ) 2 ( x , t ) 2 A( x , t ) grad divA( x , t ) ie ( x , t ) t t 1 A( x , t ) ( x , t ) div e ( x, t ) t (12) (13) (15) (17) 上の新しいMaxwell方程式系による解法は、電荷密度分布e(x, t)および伝導電流 密度の分布 ie(x, t)が与えられていれば、まず(15), (17)式による連立方程式を解い て電磁ポテンシャルA(x, t)および(x, t)を決める。次にこれを(12), (13)式に代入す ることにより、電場 E(x, t)および磁場 B(x, t)が求まる。 しかし、この新しいMaxwell方程式系では、最初に(15), (17)式による連立方程式を 解かなければならないので解法が煩雑。 もっと簡単にできないか? そこで、上の(12), (13), (15), (17)の方程式系の次の性質に注目する。 新しいMaxwell方程式系 今、任意の微分可能な関数をu(x, t)とし、先の電磁ポテンシャルAおよびの代わりに A' ( x, t ) A( x, t ) grad u( x, t ) ' ( x, t ) ( x, t ) u ( x, t ) t (18) (19) として、新しくA’(x, t)および’(x, t)を定義する。 このとき、 A u grad ( A' grad u ) grad ' t t t A' grad' t E また、 B rot A rot( A' grad u) rot A' rot(grad u) rot A' 即ち、式(18), (19)によって与えられた A’と ’は、(12), (13)式により、元の電磁ポ テンシャル A, と全く同じ電磁場 E, B を与え、これらも新しい電磁ポテンシャルと 見ることができる。つまり、式(12), (13)で与えられた電磁ポテンシャルには、任意 関数 u(x, t)だけの不定性がある。 新しいMaxwell方程式系 今、(15)式に(18), (19)式を代入すると、 2 ' 2 A' grad div A' t t 2 u 2 ( A grad u ) graddiv ( A grad u ) t t t 2 2 2 A 2 grad u grad div A grad 2 u 2 t t t t 2 2 ( div ( grad u ) ( u ) u u) A grad div A i e 2 t t ( また、 (grad u) grad(u) ) また(17)式に(18), (19)式を代入すると、 u A' ' div div ( A grad u ) t t t u u A div t t t 1 A div e t ゲージ変換 従って、A’と’は、 A と と全く同じ方程式を満たしている。 即ち、(18), (19)の新しい電磁ポテンシャルA’と ’は、 A と の組と同じ電磁場 E, B をもたらすだけではなく、これらの満たす方程式も全く同じである。つまり、電磁 ポテンシャルA および には、任意関数 u の不定性がある。 (18), (19)をゲージ変換と言う。また、関数 u(x, t) をゲージ関数と言う。 新しいMaxwell方程式系(12), (13), (15), (17)は、ゲージ変換(18), (19)のもとで不変 次に、任意関数として次式を満足するような関数 を仮定する。 2 ( x, t ) 2 ( x, t ) div A( x, t ) t t (20) 下記のゲージ変換による新しい電磁ポテンシャルALと Lは、勿論もとの A と と 同じ電磁場 E, B を導き、またそれは(15), (17)式と同じ形の方程式を満足する。 AL ( x, t ) A( x, t ) grad ( x, t ) L ( x, t ) ( x, t ) ( x, t ) t (21) (22) ゲージ変換 ALと Lは関数 として(20)式を満たすようにとったため、以下の条件式を満足する。 L ( x, t ) 2 div AL ( x, t ) div A 2 0 t t t (23) この条件式を用いて、 ALと Lの満たす、 (15), (17)の方程式を書き換えると、 2 2 AL ( x, t ) ie ( x, t ) t (24) 2 1 2 L ( x, t ) e ( x, t ) t (25) となる。 上の(24), (25)式を、ダランベール(d’Alembert)の方程式と言う。 ローレンツ・ゲージにおけるMaxwell方程式 従って、ゲージ変換により、Maxwellの方程式は、以下の一連の方程式系で置き 換えられたことになる。 AL ( x, t ) gradL ( x, t ) t B ( x, t ) rot AL ( x, t ) E ( x, t ) (12) (13) 2 AL ( x , t ) ie ( x , t ) t 2 (24) 2 1 ( x , t ) e ( x, t ) L 2 t (25) L ( x , t ) 0 (23) t この新しいMaxwell方程式系では、 (24), (25)式を見ると(15), (17)式とは異なり、AL と Lとはそれぞれ独立な方程式を満たしており、連立方程式にはなっておらず、 AL, L, ie, e の4個の成分に関して極めて対称性の良い形をしている。 div AL ( x , t ) (23)式の条件をローレンツ(Lorentz)条件と言い、この条件を満足する電磁ポテン シャルAL(x, t), L(x, t)を、ローレンツ・ゲージにおける電磁ポテンシャルと言う。 ローレンツ・ゲージにおけるMaxwell方程式 AL ( x, t ) gradL ( x, t ) t B ( x, t ) rot AL ( x, t ) E ( x, t ) (12) (13) 2 AL ( x , t ) ie ( x , t ) t 2 (24) 2 1 ( x , t ) e ( x, t ) 2 L t (25) div AL ( x , t ) L ( x , t ) 0 t (23) このローレンツ・ゲージにおけるMaxwell方程式による解法は極めて見通しが良く、 電流密度分布 ie(x, t)および電荷密度分布e(x, t) が与えられていれば、まず(24) 式および(25)式を各々独立に解いて、電磁ポテンシャルAL(x, t)およびL(x, t) を求 める。その求まった AL(x, t) と L(x, t)が(23)式を満たしているかどうか確認し、次 にこれを(12), (13)式に代入することにより、電場E(x, t)および磁場B(x, t)が求まる。 ローレンツ・ゲージにおけるMaxwell方程式 ところで、このローレンツ・ゲージにおける電磁ポテンシャルAL(x, t), L(x, t) も、 一義的な値を持たない。何故なら、 2 2 0 ( x, t ) 0 t (26) を満たすような 0 を用いて、ゲージ変換 AL' ( x, t ) AL ( x, t ) grad 0 ( x, t ) L' ( x, t ) L ( x , t ) 0 ( x, t ) t (27) (28) を行うと、この新しいローレンツ・ゲージの電磁ポテンシャルAL’(x, t), L’(x, t) も また、(12), (13), (23), (24), (25)と全く同形の方程式系を満たす。 即ち、 (12), (13), (23), (24), (25)の方程式系は、(27), (28)式の条件に基づいて規 定されたゲージ変換のもとで不変である。 静電場、静磁場の式 さて、 (12), (13), (23), (24), (25)の方程式系において、全ての物理量が時間 t に 依存しないとき、 静電場の基本法則 E ( x ) gradL ( x ) (29) 1 L ( x ) e ( x ) (30) 静磁場の基本法則 B( x) rotAL ( x ) (31) AL ( x ) ie ( x) (32) div AL ( x ) 0 (33) が得られる。 相対論における扱い 以下のローレンツ・ゲージにおけるMaxwell方程式は、 1 2 v 1 2 v 2 A i 2 t (24) 2 1 2 t (25) 相対論においては、4次元ベクトルとしての電磁ポテンシャル A v , Ax , Ay , Az および4次元電流密度 i v, ix , i y , iz を用いて 1 2 2 2 A i v t vは、電流密度の次元を持つ (34) と表される。 さらに、ダランベルシアン□を用いて(34)式は、 □A i (35) 1 2 □ 2 2 v t と表される。 ローレンツ力と相対運動 z E Bz K z’ y K’ v + q Fy’ x y’ x’ -v Fy’ = q v×Bz ローレンツ力と相対運動 z E Bz K z’ y -Fy’ K’ + q Fy’ v A ベクトルポテンシャル x y’ 磁場Bが有るのなら、必ずそれを作って いるベクトルポテンシャルAが有るはず x’ -v Fy’ = q v×Bz 座標系K’の観測者から見ると、ベクトルポテンシャルが時間的に変化しており、 電場Eとして見える。このEによって受ける力が -Fy’となるため、点電荷は動かない ローレンツ力と相対運動 ローレンツ力 F q( E v B) ケース1 +q x v x F E = 0 とする B +q v y F z B A 電流 z F=qvB V ケース2 F = q (v +V)B ? y F=qvB 1. F = q (V+v) B 2. F = q v B ? 3. F = q V B ? V ? ヒント: 磁場 B ではなく、その磁場を作っている ベクトルポテンシャル A で考えてみよう v F B V A 電流
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