電磁気学C

電磁気学C
Electromagnetics C
7/2講義分
遅延ポテンシャルと先進ポテンシャル
山田 博仁
ローレンス・ゲージにおけるMaxwell方程式
今回からは、自由空間への電磁波の放射の問題を取り扱う。
まず、ローレンス・ゲージにおける基本方程式系は、
A( x, t )
 grad ( x, t )
t
B ( x, t )  rotA( x, t )
E ( x, t )  

1
   2
c


1
   2
c

2 
1


(
x
,
t
)


 e ( x, t )
t 2 
0
2 
 A( x, t )    0 ie ( x, t )
2 
t 
div A( x, t ) 
1  ( x, t )
0
c2
t
 (1)
 (2)
 (3)
真空中を仮定して、
 (4)
   0 0  c2
 (5)
としている。
電荷分布 ρe(x, t)と電流分布 ie(x, t) とが与えられているとき、それらの時間的変化
に伴って発生する電磁波を求める。
そのためには、非斉次項をもつ波動方程式(3)および(4)を解いて、その特解を求
めなければならない。
時間に依存した静電ポテンシャル
式(3)において、左辺第2項が無いときは、静電場におけるポアソンの方程式
 ( x )  
1
0
e ( x)
 (6)
になり、その特解は、
 ( x) 
1
4 0

V
d 3 x'
e ( x' )
x  x'
 (7)
教科書の式(2.34)参照
で与えられていた。式(7)では、電荷分布 ρe(x’)は時間的に変化していないから、
それによって作られる場所 x における静電ポテンシャルϕ(x)も時間に依存しな
い。
しかし、電荷分布が時間的に変化する時でも、|x|→∞の遠方におけるポテンシャル
の様子は、だいたい式(7)と同じであろうと考えられる。ただし、式(3)の波動方程式
で伝わる電磁波は、有限の速度 c で空間内を伝搬していくので、x’点の電荷分布
の変動の影響は、時間 |x - x’|/c だけ遅れて x 点に到達するはずである。従って、
x 点でのポテンシャルϕ(x, t)は次式のように表される。
 ( x, t ) 
1
4 0

V
d 3 x'
x  x'
)
c
x  x'
 e ( x', t 
 (8)
遅延ポテンシャル
このような物理的考察から、式(3)の特解は式(8)のように表される。ここで積分領域
V は、観測点 x および電荷分布の存在する全領域を含む空間領域を表している。
式(8)が式(3)の解であることの証明 → 出席レポート
式(4)に対しても同様に考えることができるので、式(4)の解として次式が得られる。
A( x, t ) 
0
4

V
x  x'
)
c
d 3 x'
x  x'
ie ( x', t 
 (9)
式(8)或いは式(9)で表される電磁ポテンシャルは、影響が光速で伝わることによる
時間的な遅れを考慮して導かれるというので、遅延ポテンシャルという。
それに対して、
x  x'
e ( x', t 
)
1
3
c
 ( x, t ) 
d x'
4 0 V
x  x'
A( x, t ) 
0
4

V
x  x'
)
c
d 3 x'
x  x'
ie ( x', t 
 (10)
 (11)
で表される式(10)或いは式(11)の電磁ポテンシャルも、式(3)および式(4)の解となる。
先進ポテンシャル
これらは電荷や電流が動くよりも前に何故かその動きを知っていたかのように存
在していて、それが周囲から電荷に向かって集まってくる電磁波であり、言わば映
画を逆回ししたようなイメージである。そのため、先進ポテンシャルと呼ばれてい
る。
先進ポテンシャルの物理的解釈については色々と議論があるが、これはMaxwell
方程式やそれらから導かれる波動方程式が時間反転に対して共変的(即ち、
Maxwell方程式において、t’= -t とおいて変換してやっても、全く同じ方程式系が
得られる)であることに由来するものである。
ところで、式(8)~(11)は、式(5)のローレンス条件を満足しているか、各自で確かめ
てみて下さい。
波動の時間反転性と位相共役波
今、ほぼ +z 方向に伝搬している周波数 、波数成分 kz の波を、空間座標 r と時
間 t の関数として表すと、



E(r , t )  Re E(r )e j ( t kz z )  Re A(r )e j t

と書かれる。
この式の複素共役(complex conjugate)をとり、t’ = -t とした波は、



Ecc (r , t' )  Re E* (r )e j ( t' kz z )  Re A* (r )e j t'

となる。
このように、波の複素振幅が元の波の複素共役で表される波を位相共役波(phase
conjugate wave)と言い、これもまた電磁波の波動方程式の解となっている。
これは、波面の形が同じであり、伝搬方向がちょうど反対の波であり、あたかも時間
を逆向するかのように振舞う波である。 Maxwell方程式の時間反転性に由来
A*(r) jejtt’
A(r)e
*(r)
A(r)
A
波源
障
害
物
四光波混合と位相共役波
非線形光学(nonlinear optics)の技術を用いれば、位相共役波を作り出すことが可能
・ 四光波混合
ポンプ波
kpump pump
プローブ波
非線形光学媒質
kp p
3次非線形感受率 c(3)
ks s
-kpump pump
ポンプ波
シグナル波
 p  s  2 pump
エネルギー保存則
k p  ks  k pump  k pump  0
波数(運動量)保存則
 p  s   pump
k p  k s
の時、
縮退四光波混合
このとき、プローブ波とシグナル波は位相共役波の関係にある。
つまり、非線形光学媒質を鏡と見なせば、プローブ波に対する位相共役波が得られる。
位相共役波には、様々な応用が考えられる。
位相共役鏡
普通の鏡と位相共役鏡との違い
入射光
z = 0 (鏡面)
入射光
z = 0 (鏡面)
k(i)
k(i)
反射光
k(r)
z
z
k(r)
つまり、k(r) = -k(i)
反射光
k(i)x = k(r)x
k(i)y = k(r)y
k(i)z =- k(r)z
k(i)x = -k(r)x k(i)y = -k(r)y k(i)z =- k(r)z
普通の鏡
位相共役鏡
Q. 位相共役鏡に自分の顔を映せば、どのように見えるか ?
1. 普通の鏡と同じ
2. 左右反対に映る 3. 上下反対に映る
4. 何も映らない
鏡に自分の顔が映るしくみ
ということで、位相共役鏡には、
自分の顔は映らない
敢えて言えば、自分の目だけが、
鏡全体に映る
普通の鏡
普通の鏡の場合
位相共役鏡
位相共役鏡の場合
位相共役波の応用その1、防御シールド?
防御シールド、防御スクリーン、エネルギーシールド、バリヤー、航宙デフレクター
非線形光学媒質のガス
ポンプ光
位相共役光
USSエンタープライズ (スタートレック)
縮退四光波混合により位相共役波が発生
ポンプ光の強度を高めれば、位相共役光の発生に
光学利得を持たせることも可能で、攻撃を受けた光
よりもはるかに強い位相共役光を返すことも可能
クリンゴン(敵)の戦艦
擬似的な位相共役波の作り方
平面波
平面鏡
球面波
凹面鏡
コーナーキューブ・ミラー
3枚の鏡を互いに直角になるように組み
合わせたもの。入射した光は平面で反射
を繰り返し、元来た方向へ帰る。
コーナーキューブ・プリズム
コーナーキューブ・リフレクタの応用例
電磁波の伝搬においては時間反転が可能
映画を逆回しにしたように伝搬する波(電磁波)は波動方程式の解とな
り、実在する。
そのような波を位相共役波と言い、実際に発生させるには、縮退四光波混合など
の技術を用いる。
位相共役波には、以下のような様々な応用が考えられる
1. 通信応用
・ 伝搬路の障害物による波面の乱れを補正
・ フォトニックNWにおける波長変換
・ 暗号通信(信号波形を解読できないように歪ませて送信し、受信側で元に戻す)
2. 軍事応用
・ 対ビーム兵器に対する防御シールド
3. その他天文学や医療応用などなど