認知神経科学講義 意識下認知機構: サイトカイン、フェロモン 九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻 高次脳機能講座 認知神経科学分野 粟生 修司 AOU Shuji サイトカインによる 生体警告信号 1.第六の感覚? •かぜをひくと気分が悪くなる。熱が出る前から調子 が悪い。 •肝炎の治療に使うインターフェロンは副作用として 抑うつ症状を引き起こす。 •ストレスで血液中にエンドトキシン(リポポリサッカラ イド、LPS)やサイトカインが増加し、脳内でもサイト カイン(インターロイキン-1β、インターロイキン-6、 インターフェロンα等)が発現する。 Interleukin-1 in the Central Nervous System Acute phase responses in the brain : Fever, Anorexia, Slow wave sleep↑, Pain modulation, Sympathetic nerve system↑, Neuroendocrine reactions ( CRH-ACTH-GC↑, GH↑, Prolactin↑, TSH↓, LH↓, Endorphin↑, Somatostatin↑) Neurotrophic or neurotoxic effect : Growth and proliferation of glial cells↑, NGF production↑, Neurite outgrowth of sympathetic ganglion cells↑, Neuronal cell death after, Neurodegeneration after ischemia or chronic stress↑, NMDA neurotoxity↓↑ GCグルココルチコイド、GH 成長ホルモン、LH黄体形成ホルモン、NGF: nerve growth factor神経成長因子、 TSH甲状腺刺激ホルモン Expression of IL-1b in the CNS 1) Brain insults 脳の損傷: Ischemia 虚血 ( Liu et al.,Northern,'93: Buttini et al., ISH, '94, etc ) Trauma 外傷 ( Fan et al.,Northern,'95: Gabellec et al., ISH,'99, etc ) CNS infection 感染 ( Blasi et al.,Northern,'93: Ben-Hur et al., ISH,'96, etc ) 2) Peripheral inflammation 末梢の炎症: LPS i.p. ( De Simoni et al., Northern,'95: リポポリサッカライド腹腔内注射 Buttini et al.,'95, ISH, etc ) 3) Physico-emotional stress 物理的-情動的ストレス: Immobilization stress ( Minami et al., Northern,'91: Suzuki et al., semi-quantitative PCR '97 ) IL-1β mRNA after LPS i.p. (block sample) 10-1 ** ** 10-2 Hypothalamus 10-3 10-4 10-1 IL1- b /GAPDH 10-2 control 1h 2h 4h n=6 n=5 n=5 n=4 ** ** ** Hippocampus 10-3 10-4 10-1 10-2 control 1h n=6 n=5 ** ** 2h 4h n=5 n=4 ** Cortex 10-3 10-4 control 1h n=7 n=5 2h 4h n=5 n=4 拘束ストレスで視床下部に発現する IL1-b mRNA Sample mRNA cDNA standard mimic DNA IL1- b /GAPDH co-amplification by PCR -3 10 BamHI digestion 拘束 対照 * * * Target -4 10 -16.5 -15.5 -14.5 mimic DNA (log M) 競合的PCR 内側 外側 視索前野 腹内側核 2.免疫系から脳への信号 1)活性化した免疫細胞は種々のサイトカイン(インターロイキン (IL)-1,IL-2,IL-3,IL-6,腫瘍壊死因子(TNF), インターフェロン (IF),Thymosins)や生理活性ペプチド(ACTH,プロラクチン PRL, TSH, エンケファリンENKs, エンドルフィンENDs, 成長 ホルモンGH)を産生する。 2)末梢サイトカインは脳室周囲器官や自律神経を介して中枢 に信号を伝達する。 3)神経細胞やグリア細胞もサイトカインを産生する。 4)視床下部やその他の部位の神経細胞はサイトカインに感受 性を有する。 サイトカインの中枢伝達経路 孤束核 1) 脳室周囲器官 4) 迷走神経 LPS Cytokines 2) サイトカイントランスポーター 肝臓 (クッパ−細胞) COX2 3) 内皮細胞 プロスタグランジンE2 マクロファージ etc LPS i.p. LPS Cytokines 3.サイトカインの中枢作用 1)食欲抑制、発熱、睡眠誘発 2)痛覚過敏(低濃度)、鎮痛(高濃度) 3)学習・記憶機能の調節 4)視床下部−下垂体−副腎軸の賦活化 –(1) 内分泌反応 –(2) 免疫機能の調節 非発熱量の視床下部IL1-b による痛覚 過敏 三叉神経中脳路核wide dynamic neuronの痛覚応答 IL1- b 10 pg/kg 顔面ピンチ刺激 IL1- b 100 pg/kg -10 -5 5 10 15 20 50 Imp/s 25 30 40 50 60 min 一酸化窒素/プロスタグランジンを介する IL1-bのNA放出促進 NA (%) IL1- b NA(%) IL1- b * * 200 200 * * 150 150 * * * * 100 100 PG合成阻害剤 NO合成阻害剤 L-NNA (100 m M) 50 -200 -100 0 100 200 300 400 Diclofenac (500 mM) 50 -200 -100 0 100 200 300 400 Time ( min ) 脳内マイクロダイアリシス法 4.サイトカイン受容体および細胞内 信号伝達 1) NF-B を介するTNF, IL-1b 2) JAK-STATを介する (i) IL-3, IL-5, GM-CSF(共通のβ鎖を使用) (ii) IL-6, LIF , OSM, CNTF, CT-1 (gp130が共通) (iii) IL-2, IL-4, IL-7, IL-9, IL-15, (IL-2 受容体γ 鎖を共有) (iv) エリスロポイエチン受容体, 成長ホルモン 受容体(ホモ二量体化により活性化) 3) MAPK経路 4)PI3K, PLCγも関与 ウィルス 抗原 エンドトシキン 紫外線 細胞障害と防御に関与する IBa 転写因子NF- B P IBa サイトカイン フリーラジカル PKC活性化 p50 p65 free NF-B IBa p50 p65 p50 p65 炎症性酵素 受容体 p50 p65 iNOS IL-2 receptor ( iCOX-2 5-lipoxygenase PLA 2 T-cell receptor ( mRNA a chain) b chain) 接着因子 intracellular adhesion molecule 1 炎症性サイトカイン vascular-cell adhesion molecule 1 TNF a , IL-1 E-selectin b , IL-2, IL-6 granulocyte-macrophage colony-stimulating factor macrophage colony-stimulating factor granulocytee colony-stimulating factor ケモカイン macrophage inflammatory protein 1 macrophage chemotactic protein 1 IL-8, Gro- a , - b , &- g , eotaxin 5.脂質メディエーター 1)プロスタグランディンD2:睡眠誘発 2)プロスタグランディンE2:発熱、覚醒、摂食抑制、 鎮痛(極低濃度/非発熱量) 3)血小板活性化因子(PAF):摂食抑制 フェロモンによる 意識に登らない情報伝達 生物の情報伝達物質 種内個体間 Pheromon Releaser ph. 相手の行動を変化させる Primer ph. 相手の内分泌環境を変化させる Allomones 生産者に利益がある 種間 Allelochemicals Kairomones 受容者に利益がある Synomones 生産者と受容者に利益がある Antimones 生産者と受容者両方に不利益 無生物−生物間 Apneuones 無生物由来であるが作用を持つ フェロモン 個体から環境中に放出され、同種の個体で受容さ れる信号。生殖や個体間情報など個体の生存に不 可欠な情報を伝達する。 特定の行動を速やかに誘発するリリーサー効果( releaser pheromone)とホルモン分泌などの生理機能 に影響を与えるプライマー効果(primerr pheromone) の二つに大別できる。 1.生理作用 1)生殖機能への影響 (1)思春期前の雌の性成熟の促進と抑制 雄による促進、母親による抑制 (2)性周期の同調 母娘、女子寮、女性刑務所:腋下アポクリン腺 (3)マウス妊娠阻止反応(Bruce効果) 交尾時の雄の尿中物質 (4)発情信号、誘惑信号 コプリン(雌ザル) 生理作用 2) 社会行動への影響 (1)個体識別、家系・種属の識別、コロニーの識別 尿によるマーキング(イヌ、ネコ) (2)母子識別、母子親和性(嗅覚も関与) 母乳を介する母子親和性(ヒト、羊、ラット、マウス) (3)配偶者選択 主要組織適合抗原遺伝子による選択的体臭嗜好性 (ヒト、マウス) 生理作用 3) その他 (1)警戒フェロモン (2)年齢、性 *昆虫では:性行動誘発フェロモン、コミュニ ケーションフェロモン、警告フェロモン 2.伝達経路 鋤鼻器−副嗅球−扁桃体−視床下部 1)嗅覚系と副嗅覚系が存在 (1) 鋤鼻器と副嗅球をもつ:偶蹄目、奇蹄目、食虫目、 食肉目、霊長目(新世界ザル)、ゲッ歯目、有袋類 (2) 鋤鼻器のみもつ:霊長目(ヒト) 2)嗅覚系のみ存在: 霊長目(旧世界ザル)、鰭脚目 3)どちらも退化: 鯨目、海牛目 *水棲動物には存在しない。樹上動物では退化の傾向 フェロモン受容機構とその伝達経路 嗅上皮 嗅神経 梨状皮質 嗅球 視床背内側核 前頭眼窩野 ピット 鋤鼻神経? 副嗅球? 扁桃体 鋤鼻器 鋤鼻器電位 視床下部 ヒトでは鋤鼻器はあるが 鋤鼻神経や副嗅球は存在せず 主嗅覚系は梨状皮質を経て、内嗅野、 扁桃体、視床を含め、さまざまな経路を 経て最終的に前頭眼窩野へ達する。 一方、鋤鼻系は副嗅球から扁桃体から 分界条床核、視索前野へ至り、さらに視 床下部へ投射する。 3.フェロモン受容体 7回膜貫通型G蛋白共役型受容体。 1細胞−1受容体。 V1R:100種。 V2R:100種、細胞外ドメインが非常に 長い。 4.同定されたフェロモン •Z-7-ドデセニルアセテート (ゾウ、イラクサキンウワバ(蛾)) •ブレビコミン(マウス、キクイムシ) •アンドロステノン(ヒト、ブタ)
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