学位記番号 ニ 歯 博 第 5 3 0 号 学位授与å - 東北大学

しかまようすけ
氏 名(本籍) :四 釜 洋 介
学位の種類:博 士 (歯 学) 学位記番号:歯 博 第 5 3 0 号
学位授与年月日:平成22年 3 月25日 学位授与の要件:学位規則第4条第1項該当
研究科・専攻:東北大学大学院歯学研究科(博士課程)歯科学専攻
学位論文題目: Muramyldipeptide augments the action of LPS in mice by stimulating macrophages to produce pro-IL- 1β and by downregulation of suppressor of cytokine
signaling lSOCSI within them
(LPSの作用のムラミルジペプチドによる増強:メカニズムの解析)
論文審査委員: (主査)教 授 関
島 健
内 由
莱
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根
教授 小
元
英
二
論 文 内 容 要 旨
高齢化社会に伴い,歯周病による歯槽骨の吸収とそれによる歯牙の喪失は歯科領域において解決すべき重要
課額の一つである.口腔内には唾液lmb当りまたはデンタルプラーク1mg中に億単位の細菌が存在し,これら
が歯周病の原因となる。これらの細菌は特有な構造(pathogen-associated molecular patterns PAMPs)を
有しており,生体内の自然免疫系を活性化することが知られている。生体側のPAMPsの受容体としては,
細胞表面に存在するTolトlike receptor (TLR)系分子や,細胞内のNOD系分子が知られている。細菌表層
には様々なPAMPsが局在しているが,代表的なものとしてグラム陰性菌外膜成分の内毒素性リボ多糖
(LPS)があり,これはTLR4によって認識される。一方,ペプチドグリカソ(PGN)はほぼ全てり細菌の細
胞壁に存在し,その最小構成単位がムラミルジペプチド(MDP)である。 MDPの受容体はNOD2であり,
ヒトの口腔上皮系細胞や単球系細胞にも強く発現がみられる。しかしヒトロ腔上皮系細胞や,単球系細胞を
MDPのみで刺激しても,炎症性サイトカインはほとんど産生されないo ところが, in vitroにおいてMDP
前刺激または同時刺激を行うことにより,これらの細胞からのLPS刺激による炎症性サイトカイン産生が顛
著に増強される。 in vivoでも類似の現象が起こり,マウスにMDPを前投与してから, LPSを投与するとエ
ンドトキシンショックや炎症性サイトカイン産生の増強を生じることも報告されている。しかし,これらの
MDPによる増強効果のメカニズムは依然として不明のままである。以前我々は,窒素含有ビスフオスフォネト(NBP,骨吸収抑制薬)の炎症作用を解析する過程で, NBPがLPSの作用を増強する一方で,血清中の
炎症性サイトカイン上昇を伴わずに,組織の炎症性サイトカインを腐著に増加させることを兄いだした。この
現象をもとにして,本研究ではMDPの組織の炎症性サイトカインレベルに及ぼす効果とエンドトキシンショ
ック増強との関連性を検討した。その結果,今まではマウスにMDPを投与してもサイトカイン応答などはほ
とんど認められないとされてきたが, MDP投与により, 1)炎症性サイトカインの一つであるIL-1βの前
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駆体が組織中で誘導され 2)サイトカインシグナルを負に制御するタンパクであるSOCSlの発現が低下し,
これらの反応にマクロファージが関わっている事を兄いだした。本研究は,歯周病や敗血症によるショック,
またNOD2の異常が原因と言われているクローン病などの病態解明に,大いに貢献できるものと考えられる。
審 査 結 果 要 旨
歯周病の病態形成機構の解明に当たり,歯周組織における宿主一細菌相互作用の解析は欠かすべからざるも
のである。歯周病細菌を含む細菌は特有な構造(pathogen-associated molecular patterns; PAMPs)を有し
ており,代表的なものにはグラム陰性菌外膜成分の内毒素性リボ多糖(LPS) `やはば全ての細菌の細胞壁に存
在するペプチドグリカソ(PGN)などがあり,生体内の自然免疫系を活性化することが知られている。一方,
生体側のPAMPsの受容体としては,細胞表面に存在するTol1-like receptor (TLR)系分子や,細胞内の
NOD系分子がある。それぞれの受容体分子には結合特異性があり, LPSはTLR4により,一方PGNの最小
構成単位であるムラミルジペプチド(MDP)はNOD2で認識され 同分子はヒトの口腔上皮系細胞や単球系
細胞にも強く発現がみられる。これらの細胞をMDPのみで刺激してち,炎症性サイトカインはほとんど産生
されないが, in vitroあるいはin uivoにおいてMDP前添加投与または同時添加を行うことにより, LPSに
よる炎症性サイトカイン産生やエンドトキシンショックの顔著な増強反応がみられることが知られていた。し
かしこのMDPによる増強反応のメカニズムは不明なままで,これを明らかにするため,本研究ではMDPの
組織の炎症性サイトカインレベルに及ぼす効果とエンドトキシンショック増強との関連性を検討した。
本研究の結果,以下に示す知見が得られた。すなわち,今まではマウスにMDPを投与してもサイトカイン
応答などはほとんど認められないとされてきたが, 1) in uivoにおいてLPS誘導性の低体温ショックは,野
生型マウスではMDP投与により増強されたが, IL-1α/βおよびTNF-α欠損マウスではみられなかった,
2) MDP投与はマウス組織中のIL-1β前駆体の産生を誘導した, 3') MDP投与はサイトカインシグナルを
負に制御するタンパクであるSOCSlの発現を低下させる一方で, LPSにるTNF-α, IL-12 p40及びIFN一㌢
産生が上昇した。さらにこれらの反応にマクロファージが関わっている事を兄いだした。
以上示した通り,四釜洋介君が行った研究は,歯周病細菌もが有するPAMPs間で生じる相互作用の分子
メカニズムを明らかにしたもので,歯周組織における炎症反応増強機構の可能性を示している。本研究の成果
は,歯周病の病態形成機構の解明に重要な情報を提供するばかりでなく,細菌感染に伴う敗血症によるショッ
ク,またNOD2の異常が原因と言われているクローン病などの病態解明にも大いに貢献できるものと考えら
れる。従って,当審査委員会は博士(歯学)を授与するに相応しい業績と判定した。
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