Phase I clinical trial of fibronectin CH296-stimulated T cell therapy in patients with advanced cancer 進行・再発がんに対するレトロネクチン(FN-CH296)誘導 T リンパ球療法の第Ⅰ相臨床試験 <背景> 養子免疫療法の臨床的効果発現において移入する細胞の分化度は重要であり、分化度のより低いリンパ 球の方が、生体内での生存能、増殖能およびがん局所への集積能などの点で優れ、養子免疫療法における 移入細胞として適した細胞であると考えられている。 ヒトフィブロネクチン組み換え蛋白であるレトロネクチン(FN-CH296)を、抗 CD3 抗体および IL-2 とと もにリンパ球拡大培養の際に用いると、より高い拡大培養率が得られ、この方法で獲得した培養リンパ球 には、低分化型のリンパ球をより多く含有することが既に報告されている。 本研究においては、我々が確立した方法で得たレトロネクチン誘導 T リンパ球を担癌患者に投与し、そ の安全性および有効性を検討した。 <方法> 本試験は 3+3 コホートで安全性を評価する第Ⅰ相臨床試験であり、試験細胞の投与量は、1×109 → 3 ×109 → 9×109 と dose escalation を行い、2 週間隔で試験細胞を最低 2 回投与し、その後 28 日間の有 害事象の発生を観察した。試験細胞の投与は重篤な有害事象が発生しなければ最大で計 6 回行えることと した。 試験細胞の調整のために、患者末梢血 50-70ml から末梢血単核球(PBMC)を分離し、抗 CD3 抗体・ FN-CH296 を pre-coat した培養バッグ内で IL-2 を添加し、10 日間拡大培養し、細胞の生存率評価および 無菌試験を行った上で基準を満たしたものを投与細胞として供した。 対象患者は、消化器癌および肺癌と組織学的に診断され、標準治療が不応となった 20-80 歳までの患者 で、試験期間中経口フッ化ピリミジン薬の併用は可能とした。 試 験 細 胞 の phenotype の 解 析 は フ ロ ー サ イ ト メ ー タ ー で 行 い 、 免 疫 モ ニ タ リ ン グ と し て 、 phytohemagglutinin-P (PHA-P)誘導末梢血サイトカイン産生能と末梢血制御性 T 細胞(Treg)数を治療開 始前、治療開始 6 週後、14 週後に末梢血を採取し解析した。 <結果> 10 人の患者が登録されたが、1 人は病状悪化のため、試験 細胞投与前に脱落した。残り 9 人の患者に試験細胞が投与さ れた(表 1)。No9 の患者は 2 回の試験細胞投与を受け終了 したが、その他の 8 名は計 6 回試験細胞の投与を受けた。 FN-CH296 を用いた培養法で拡大培養した結果、平均の拡大 培養率は 394 倍であった(292.5 -554.5 倍)。培養細胞の phenotype をフローサイトメーターで解析すると、拡大培養 前後で CD3 陽性細胞の割合が有意に増加し、T 細胞中 CD8 陽性細胞が有意に増加した(Fig. 1)。低分化型リンパ球を示す マ ー カ ー で あ る CD27+CD45RA+ 細 胞 お よ び CD28+CD45RA+細胞の割合は培養後有意に増加したが、CCR7+CD45RA+細胞の割合に差はなかった。 有害事象に関しては、S-1 を内服している患者でグレード 3 の好中球減少を認めたが、試験細胞に関連す ると考えられる重篤な有害事象は発生しなかった(表 2)。臨床効果については、CR と PR がそれぞれ 1 例(11.1%)ずつ見られ、4 例(44.4%)が SD、3 例(33.3%) <図 1.拡大培養前後細胞表面マーカーの変化> が PD であった。奏功率(RR)は 22.2%で、病勢コントロ ール率(DCR)は 66.7%であった(表 3)。免疫モニタリング の解析では、患者全体では試験細胞移入前後で有意な変 化を認めなかったが、最も移入細胞数の多いコホート 3 のみに限ると、細胞移入後に PHA-P 刺激で誘導される IFN−γ, TNF-α, IL-2, IL-12, GM-CSF 産生能が亢進して いた(図 2)。また、効果別にみると、CR/PR 症例で は IFN−γ, IL-2, IL-12, GM-CSF 産生能が治療介入後に亢進 していた。Treg 数に関しては対象症例全体、コホート別、 効果別に解析してもいずれも変化はなかった。 <考察> 本臨床試験によって FN-CH296 誘導 T リンパ球療法の安 全性が示された。また、比較的進行した癌患者の PBMC においても、FN-CH296 を用いたリンパ球拡大培養法に よって多くの低分化型 T リンパ球を拡大培養できること も示された。効果に関しては奏功率 22.2%、病勢コント ロール率 66.7%と期待のもてる結果であった。免疫モニ タリングの解析においては、これまで腫瘍免疫のモニタ リングにおいて重要性が指摘されている IFN-γについて、 試験細胞投与数の多いコホートと CR/PR 症例において、 治療介入後に PHA-P 誘導 IFN-γ産生能が亢進しており、 これまでの報告と同様、PHA 誘導 IFN-γ産生能検査が治 療効果のサロゲートマーカーとして有用である可能性を示唆する結果であった。低分化型 T リンパ球を多 く含む FN-CH296 を用いたリンパ球拡大培養法は、TCR 遺伝子導入リンパ球輸注療法やキメラ型抗原受 容体発現(CAR)T 細胞療法といった新しい細胞療法にも応用可能であり、細胞療法の基盤的技術となる可 能性がある。本治療法の臨床的意義についてはさらに検証していく必要があり、効果を検証するための臨 床試験が今後必要である。 <図 2.PHA-P 誘導末梢血サイトカイン産生能> IFN-γ TNF-α IL-2 IL-12 GM-CSF
© Copyright 2025 ExpyDoc