日本認知科学会シンポジウム 科学方法論から生成文法を見る 企画者: 上山あゆみ(九州大学) 生成文法の説明対象 言語能力 vs. 言語運用 ↑ 説明対象とする Computational System 言語能力のモデル 「文」を生成する操作の集合体 → 確定的な予測を生む 原則的に、人間に共通しているもの (ただし、も ちろん、文の構築の材料となる単語は言語によっ て異なる。) 2 1. 問題提起 生成文法の説明の対象は何か? 現在の研究は、その説明の対象にせまること ができているのか。 研究の目標に対して、方法論の整備が足りな いのではないか。 3 文法性(grammaticality) 文法性(grammaticality) = Computational Systemから出力される表示で あるかどうか 原則的に、その言語の使い手に共通しているは ず 生成文法研究の目標は: =文法的な文と非文法的な文の分布を説明するべ く、Computational Systemの仮説を構築し、それ を検証していくこと 4 理想 もし、文法性が観察可能なら・・・ (1) 1. 文法的な文と非文法的な文の分布を 観察する。 2. 文法的な文を生成し、非文法的な文 を生成しないように、Computational Systemの仮説をたてる。 3. その仮説からどのような予測が導き 出されるかを考える。 4. その予測を検証する。 5 現実 観察可能なもの =容認可能性 (2) 容認可能性の判断 入力 ... 判断の対象となる文 出力 ... 容認可能性の度合い 必ずしも文法性と一致するとは限らない。 言語運用の影響を大きく受ける 6 課題 Computational Systemに関する仮説を検証 するためには、容認可能性と文法性の関係を 明らかにすることが必要である。 7 2. 文法理論の変遷と 容認可能性判断の位置づけ 言語能力についての理論が大きく発展してき たにもかかわらず、方法論の議論においては、 初期のころの言語能力の理論がイメージされ たままなのではないか。 8 2.1. 標準理論時代の「文法」観 「文法」 「文法的」な文の集合を再帰規則(recursive rule)を用いて定義づける規則の集合 句構造規則+変形規則 (5) 経験によって習得しなければならない。 言語によって異なっている。 どのような表示が文法的であるかが、比較的直接 述べられている。 9 (3) 標準理論時代の「文法性判断」: 提示された文(のそれぞれの部分)を、 句構造規則・変形規則の構造記述と見比べ、 パターンマッチングを試み、 合致すれば「文法的」、 合致しなければ「非文法的」 と結論づけること 10 2.2. ミニマリスト・プログラム以降の「文法」観 Computational System Numeration Merge Move Agree PF 表示 (「音」関連) LF 表示 (「意味」関連) 11 「文法」のイメージの大きな変化 (6) (ミニマリスト・プログラム以降の生成文法 における)Computational System 生得的なものである。 言語普遍的である。 1つ1つの操作は、単純なアルゴリズムとして定 義されているだけなので、それが組み合わさって、 結果的にどのような表示が出てくるのかは、実際 に、この装置を動かしてみないとわからない。 12 ミニマリストにおける「文法性判断」: (7) 提示文と食い違いのないPF表示を持つ文が生成 できた。 →「文法的」と結論づけてよい。 提示文と食い違いのないPF表示を持つ文が生成 できなかった。 →その時できなかっただけ、という可能性もある。 →何度繰り返してもダメならば、その提示文は、 「非文法的」と結論づけてもよい。 13 このシンポジウムの構成と目的 窪薗晴夫 「音韻論研究の方法論」 上山あゆみ「統語論研究の方法論」 戸田山和久 「生成文法研究におけるモデル の役割」 出口康夫 「生成文法を経験科学化するとは いかなることか?」 コメンテーター:片桐恭弘 14
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