スライド 1

日本認知科学会シンポジウム「科学方法論から生成文法を見る」
統語論研究の方法論
上山あゆみ(九州大学)
言語能力のモデル
(1) Computational System
Numeration
Merge
Move
Agree
PF 表示
(「音」関連)
LF 表示
(「意味」関連)
2
方法論としての問題点
 Computational Systemの仮説(言語能
力の仮説)を構築し、検証するのに、容
認可能性の分布(言語運用の結果)を
データとせざるをえないということ
3
問題点の解決に向けて
1. 容認性の判断という行為とComputational
Systemとの関連を明示的にする。
2. 容認性判断のデータのうち、文法性の証拠
となりうるものを選別する手法を確立する。
4
1.1. 容認可能性判断のモデル
 容認性の判断という行為とComputational
Systemとの関連を明示的にする。
5
生成文法における「文法」観
文法
意味
音
NG!
意味
文法
音
6
(2)γという解釈で文αが容認可能かどうか考える
判断される提示文(α)
Parser (P)
Computational System (C)
Information Extractor (Ⅰ)
容認可能性の度合い(β)
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(3) 提示文α と 指定された解釈γ
判断される提示文(α)
P
α:トヨタが あそこの下請けを 訴えた
C
γ:「トヨタ」と「あそこ」が同じものを指示
する
Ⅰ
β
8
(4) Parser の出力
α
α:トヨタが あそこの下請けを 訴えた
Parser (P)
C
 「トヨタが」は「訴えた」の項である。
 「あそこの」は「下請けを」に係る。
Ⅰ
β
 「下請けを」が主要部である句は「訴
えた」の項である。
→ Numeration の形成へ
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(5)(6) Computational System
α
P
Numeration μ:
{トヨタ1が, あそこ1の, 下請け2を, 訴えた}
LF(μ), PF(μ)
Computational System (C)
トヨタ1が
Ⅰ
β
NP2
あそこ1の
訴えた
下請け2を
10
チェックポイント 1
(7) これがαが容認可能であるという判断の行
為だとみなされるための必要条件 (I):
PF(μ) がαと食い違っていないこと
α: トヨタが あそ
この下請けを 訴
えた
PF(μ)
トヨタ1が
NP2
あそこ1の
訴えた
下請け2を
11
(8) SR(μ)
α
P
C
α:トヨタが あそこの下請けを 訴えた
訴えた(x2)(x1)
x1:トヨタ
x1:あそこ
x2:下請け(x1)
Information Extractor (Ⅰ)
β
12
チェックポイント 2
(9) これがαが容認可能であるという判断の行
為だとみなされるための必要条件 (II):
SR(μ) がγという条件を満たしていること
SR(μ)
訴えた(x2)(x1)
x1:トヨタ
x1:あそこ
x2:下請け(x1)
γ:「トヨタ」と「あ
そこ」が同じもの
を指示する
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(10) 容認可能性の度合い(β)
α
P
C
0≦β≦1
β = [C] — [P] — [Ⅰ] + error
[C] = 出力がある(1)か無い(0)か
[P] = Parsingの困難度
[Ⅰ] = SRの不自然度
Ⅰ
容認可能性の度合い(β)
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(11)γのもとでのαの容認性判断の手続き
1. 文αが提示される。
2. Parserが働く。
3.γに対応する部分のSRをWorking Memoryに作る。
4. Numeration μが形成される。
5. Computational Systemが作動する。
6. PF(μ)がαと食い違いがないか調べる。
7. SR(μ)と、3.を比べて、食い違いがないか調べる。
8a. 6,7.で食い違いがない場合、(10)に従って容認可能性の感
覚を得る。
8b. 6,7.で食い違いが見つかった場合、そのまま 1~7.の行為
を繰り返す。6,7.で矛盾の生じない状況が訪れない場合、ど
こかの時点で、その繰り返しを打ち切って、(10)に従って容認
可能性の感覚を得る。
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日常の言語生活との違い
 文の容認性判断においては、次の2つの
チェックポイントがある。
 PF(μ) がαと食い違っていないこと
 SR(μ) がγという条件を満たしていること
 普段のコミュニケーションにおいては、これら
の点は、それほど厳密にチェックされない。
 PF(μ)がαと食い違っている可能性も十分にある。
 γは提示されないので、SR(μ)が大きく状況と矛
盾しない限り、受け入れられる。
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2.1. 容認可能性の度合いと検証可能性
 容認性判断のデータのうち、文法性の証拠と
なりうるものを選別する手法を確立する。
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容認可能性の度合い
(10) β= [C]—[P]—[Ⅰ]+error (0≦β≦1)
[C] = 出力がある(1)か無い(0)か
[P] = Parsingの困難度
[Ⅰ] = SRの不自然度
(12) a.
b.
文法的な文の場合には、0≦β≦1
非文法的な文の場合には、β=0
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文法性と容認性の対応関係
 文法的な場合
 「意味解釈」の過程で、容認性が様々な影響を受
けうる
 非文法的な場合
 そもそも出力が存在しないのであるから、「意味解
釈」による影響を受けるはずがない
… 唯一、理論的に「意味解釈」の影響を受けない
ケース
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検証可能(testable)
 感知可能なこと
(13) a. ある文が出力されるかどうか
b. ある文がγの解釈になるかどうか
 検証可能な主張
(14) a. ~という条件を満たさないと、
…という文は出力されない。
b. ~という条件を満たさないと、
…という文はγの解釈を持てない。
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Licensed Observation
(15) Licensed observation
 Requirement 1:
その観察が(14)の形で述べられていること
 Requirement 2:
実際の文の容認可能性のパターンが(12)に合
致していること
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2.2. 例: 「連動読み」

甲子園も東京ドームも、そこを本拠地とす
る球団がある。
xは、xを本拠地とする球団がある。
x∈{甲子園, 東京ドーム}
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ソ vs. ア
甲子園も東京ドームも、そこを本拠地とする球団
がある。
xは、xを本拠地とする球団がある。
x∈{甲子園, 東京ドーム}

*甲子園も東京ドームも、あそこを本拠地とする
球団がある。
xは、xを本拠地とする球団がある。
x∈{甲子園, 東京ドーム}

 ソ系列指示詞は連動読みを生むが、ア系列
指示詞は連動読みを生まない。
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c-command (構造条件)

甲子園も東京ドームも、そこを本拠地とす
る球団がある。
xは、xを本拠地とする球団がある。
x∈{甲子園, 東京ドーム}

*そこの応援団が、甲子園も東京ドームも
埋め尽くした。
xの応援団がxを埋め尽くした。
x∈{甲子園, 東京ドーム}
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観察
 ソ系列指示詞は連動読みを生むが、ア系列
指示詞は連動読みを生まない。
 「依存語」は、それをc-commandするもの(≒
構造的に上位のもの)にしか依存できない。
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この観察を検証するためには
 検証可能な主張
(14) b. ~という条件を満たさないと、
…という文はγの解釈を持てない。
 ここまでの観察の場合:
ソ系列指示詞が「先行詞」にc-command
されていないと、連動読みにならない。
。。。という主張でなければ、検証可能でない。
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okCondition
/ *Condition
 okCondition
AがBをc-commandしており、Bがソ系列指示詞な
らば、AとBの間の連動読みが可能になる。
 *Condition1
AがBをc-commandしていても、Bがア系列指示詞
ならば、AとBの間の連動読みはできない。
 *Condition2
Bがソ系列指示詞でも、 AがBをc-commandしてい
なければ、AとBの間の連動読みはできない。
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okSchema
 okSchema-1
Aが [そこのB]を ... V
Aが複数のものから成るグループであるか、「とり
たて詞」のついた名詞句である場合、 連動読み
が見られうる。
 okSchema-2
Aが [[そこのB]が ... V と] ... V
Aが複数のものから成るグループであるか、「とり
たて詞」のついた名詞句である場合、 連動読み
が見られうる。
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*Schema
 *Schema1-1
Aが [あそこのB]を ... V
Aが複数のものから成るグループであるか、「とり
たて詞」のついた名詞句であっても、 連動読みは
見られない。
 *Schema2-1
[そこのB] が Aを ... V
Aが複数のものから成るグループであるか、「とり
たて詞」のついた名詞句であっても、 連動読みは
見られない。
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Condition と Schema
 1つ1つの*/okConditionに対して、Schemaは
何種類もあげていくことができる。
…
*Condition1 …
*Condition2 …
okCondition
okSchema
-1
okSchema
-2
okSchema
-3
*Schema1-1 *Schema1-2 *Schema1-3
*Schema2-1 *Schema2-2 *Schema2-3
 さらに、それぞれの Schema に対して、無数
のExampleが考えうる。
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okExample

-1-1
/ *Example1-1-1
トヨタだけが そこの子会社を 連盟に 推
薦した。
xが、xの子会社を 連盟に 推薦した。
これが成り立つのは、トヨタだけ。

*トヨタだけが あそこの子会社を 連盟に
推薦した。
xが、xの子会社を 連盟に 推薦した。
これが成り立つのは、トヨタだけ。
31
okExample

-1-2
/ *Example1-1-2
55%以上の自動車会社が そこの子会社
を 連盟に 推薦した。
xが、xの子会社を 連盟に 推薦した。
これが成り立つのは、自動車会社の55%以上。

* 55%以上の自動車会社が あそこの子
会社を 連盟に 推薦した。
xが、xの子会社を 連盟に 推薦した。
これが成り立つのは、自動車会社の55%以上。
32
okExample

-1-1
/ *Example2-1-1
トヨタだけが そこの子会社を 連盟に 推
薦した。
xが、xの子会社を 連盟に 推薦した。
これが成り立つのは、トヨタだけ。

*そこの子会社が トヨタだけを 連盟に
推薦した。
xの子会社が xを 連盟に 推薦した。
これが成り立つのは、トヨタだけ。
33
okExample

-1-2
/ *Example2-1-2
55%以上の自動車会社が そこの子会社
を 連盟に 推薦した。
xが、xの子会社を 連盟に 推薦した。
これが成り立つのは、自動車会社の55%以上。

*そこの子会社が 55%以上の自動車会
社を 連盟に 推薦した。
xの子会社が xを 連盟に 推薦した。
これが成り立つのは、自動車会社の55%以上。
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Licensed Observation
(15) Licensed observation
 その観察が(14)の形で述べられていること
 実際の文の容認可能性のパターンが(12)に合
致していること
okSchema-1
okSchema-2
okSchema-3
*Schema1-1
*Schema1-2
*Schema1-3
*Schema2-1
*Schema2-2
*Schema2-3
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3. 生成文法研究の進歩とは
(36) licensed hypotheses:
言語現象に関する仮説の中で、
(i) Computational Systemに関わるもので
あり、
(ii) licensed observationとの対応が明示的
にされているもののこと
36
連動読みの分析例

甲子園も東京ドームも、そこを本拠地とす
る球団がある。
xは、xを本拠地とする球団がある。
x∈{甲子園, 東京ドーム}
「先行詞」の部分も variable にする必要がある。
↓
連動読みを起こす表現は、LFにおいて移動し、SRで
は、その痕跡が variable に相当すると仮定する。
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仮説1:QR
 QR移動
甲子園も東京ドームも
x
そこを本拠地とする球団が
ある
Numerationにおいて Q というfeatureがついた
ものは、このようにQR移動すると仮定しておく。
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仮説2: ソ vs. ア
 ソ系列指示詞は連動読みを生むが、ア系列
指示詞は連動読みを生まない。
↓
 ソ系列指示詞には、「他の言語表現に依存できる」と
いう性質がある。
↓
 ア系列指示詞は、R(eferential) indexを持た
ずにNumerationに入ることがないが、ソ系列
指示詞は、R-indexなしにNumerationに入る
こともあると仮定する。
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仮説3: 構造条件
 「依存語」は、それをc-commandするもの(≒
構造的に上位のもの)にしか依存できない。
↓
 AがBをc-commandしており、BがR-indexを
持っていないときだけ、FD(A,B)が形成できる、
とする。(FD=Formal Dependency)
↓
 FD(A,B)が成り立っている場合、SR(A)が x
ならば、SR(B)も x となる。
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連動読みを説明するための仮説群
 Numerationにおいて Q というfeatureがつい
たものはQR移動する。
 ア系列指示詞は、R-indexを持たずに
Numerationに入ることがないが、ソ系列指示
詞は、R-indexなしにNumerationに入ることも
ある。
 AがBをc-commandしており、BがR-indexを
持っていないときだけ、FD(A,B)が形成できる。
 FD(A,B)が成り立っている場合、SR(A)が x
ならば、SR(B)も x となる。
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okCondition
/ *Condition
 okCondition
AがBをc-commandしており、BがR-indexを持って
いないと、AとBの間の連動読みが可能になる。
 *Condition1
AがBをc-commandしていても、BがR-indexを持
つものならば、AとBの間の連動読みはできない。
 *Condition2
BがR-indexを持っていなくても、 AがBをccommandしていなければ、AとBの間の連動読み
はできない。
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生成文法における「進歩」
(37) 生成文法における「進歩」
a. licensed observationが増えること
b. より多くのlicensed observationに
説明が与えられること
c. Computational Systemに関わる
概念/仮定が整理されスッキリした
ものになっていくこと
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「進歩」のために
(38) Normative claim:
Every empirical assumption regarding
the Computational System has to be
connected to and supported by a
licensed observation.
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(perceived) phonetic strings
word recognition
Lexicon
frequent
patterns
Parser
(formal)
features
Numeration
formation
Numeration
Computational
System
PF
Phonology
(generated
)phonetic
stringgs
LF
Information
Extractor
Concepts
SR
Working Memory
(Characters list)
input/output
algorithm
Inference
influence
operations
Information Database
(Index keys)
reference
long-term memory
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