トランジット惑星系TrES-1での Rossiter-McLaughlin効果の観測結果 東京大学大学院 宇宙理論研究室 成田憲保 1/39 目次 背景 (20min) 観測と解析結果 (15min) トランジット惑星系とRossiter効果 hot Jupiterの形成理論 Subaru / MAGNUMでの同時分光・測光観測 モデル、パラメータ、χ2 統計量など Rossiter効果以外の解析 今後の展望 (10min) トランジット惑星研究の今後の展望 Rossiter効果を用いたもうひとつのサイエンス 2/39 背景: トランジット惑星系とは? 惑星の食が起こる太陽系外惑星系 Charbonneau et al. (2000) 恒星の明るさが少しだけ暗くなる 2000年に初めてHD209458のトランジットが発見された 3/39 背景: 測光観測 トランジット惑星系の観測からわかること 軌道傾斜角 i、恒星に対する惑星半径比 Rp/Rs これを視線速度の観測や恒星半径の推測と合わせると、大きさや 密度まで知ることができる 惑星のsecondary eclipse(後ろに隠れる現象)から惑星の熱輻射を とらえることができる 分光観測(Transmission Spectroscopy) トランジット中に惑星の外層大気を通過してきた光を分光する HD209458では、ナトリウム、炭素、酸素、水、シリケイトの雲(?)の 検出が報告されている 4/39 背景: トランジットの視線速度観測 トランジットは主星の自転も隠す star planet 近づく側を隠す → 遠ざかって見える planet 遠ざかる側を隠す → 近づいて見える トランジット中の視線速度は見かけ上 ケプラー運動の理論曲線からずれるはず 5/39 背景: Rossiter-McLaughlin効果 もともとは食連星系で発見された効果 β Lyrae: Rossiter 1924, ApJ, 60, 15 Algol: McLaughlin 1924, ApJ, 60, 22 1924年に βLyrae と Algol で発見された 6/39 背景: トランジット惑星系でのRM効果 トランジット惑星系でも原理は同じ ELODIE on 193cm telescope Queloz et al. (2000) 2000年にはHD209458のRM効果が確認されていた 7/39 背景: RM効果からわかること 視 線 速 度 の ず れ 惑星の公転軌道例 時間 Ohta, Taruya & Suto (2005) 惑星がどのように主星の前面を通過したかがわかる 8/39 背景: λの定義 λ:主星の自転軸と惑星の公転軸のなす角 9/39 背景: Rossiter効果とλの関係 トランジット中の視線速度の振る舞いから λを求めることができる Gaudi & Winn (2007) 10/39 背景: 多様な系外惑星の姿1 軌道長半径 – 惑星質量 11/39 背景: 多様な系外惑星の姿2 軌道長半径 - 離心率 12/39 背景: hot Jupiterはどうやってできたのか 巨大惑星が~0.05AU付近にある Core accretion modelではここで形成されたとは考えにくい もっと遠くで形成し、この場所まで移動してきたはず 惑星のmigration → これまでの主流の理論 ある程度離れたところには離心率の大きな惑星が多い 離心率を大きくするメカニズムがあるはず ~0.05AU付近より近いところでは離心率は0に近づいている これらの特徴を説明できる理論はどんなものだろうか? 13/39 背景: 1. hot Jupiter形成理論の例 diskの中で遠くでできた巨大惑星がmigrationしてきた disk-planet interaction (Type I & II migration) 大きな離心率や大きな軌道傾斜角のずれは生まない 2. 惑星同士の重力散乱で内側に放り込まれた planet-planet interaction, Jumping Jupiter model 大きな離心率や大きな軌道傾斜角を持つ可能性がある 主星近傍ではtidal circularizationで離心率はほぼ0に落ちる 3. (連星系の場合) 伴星からの摂動を受ける Kozai migration (Wu & Murray 2003) 大きな離心率と軌道傾斜角を持つ → HD 80606を説明 14/39 背景: Type I & II migrationとJumping Jupiter Model Type I & II migration 主星から離れたところでダスト集積によりコアが形成 コアが周囲のガス・ダスト円盤と相互作用をする Type I migration: ~10ME まで Type II migration: ~ 10ME 以上 円盤とのトルクの交換から動径方向に移動する 離心率や軌道傾斜角はダンプする ~0.05AU付近で惑星落下が止まるメカニズムがある(?) Jumping Jupiter Model 3つ以上の巨大惑星ができた時、軌道不安定が起こる 15/39 背景: Jumping Jupiter Model 9割が10度以上 軌道傾斜角 離心率 軌道長半径 近星点距離 ずれている 集中しているのは ・初期の惑星配置 ・エネルギー保存 のため Marzari & Weidenschilling (2002) : 3つの木星質量惑星で散乱した場合 16/39 背景: hot Jupiterの形成モデルを見分けるには hot Jupiterの公転軸が主星の自転軸と そろっているかどうかを見ればよい※ hot Jupiterの公転軸と主星の自転軸のなす角を 天球面に射影した角(λ)はRM効果を使って 測ることができる ※初期状態では惑星の軌道面(円盤面)と主星の自転面は一致していたと仮定 17/39 背景: まとめ A) トランジット惑星系ではRM効果が観測できる B) RM効果からλという観測量が求められる C) ホットジュピター形成理論は大きく分けて2つある D) 2つの理論では終状態の軌道傾斜角の分布が異なる E) λはその惑星の形成過程を調べる手がかりになる A B E C D 18/39 観測: ターゲットと先行研究 RM効果が観測できるターゲット → V<12等より明るい惑星系※ これまでにKeckでRM効果が観測されたトランジット惑星系 HD209458: 2000年発見、 V=7.65, Winn et al. 2005 HD189733: 2005年発見、 V=7.67, Winn et al. 2006 HD149026: 2005年発見、 V=8.15, (Wolf et al.) → 全て視線速度法で発見された明るい(V~8)惑星系 今回のターゲット: TrES-1 2004年発見、V=11.8 トランジット法で発見された暗い(V~12)惑星系で初めて (+ すばる望遠鏡で初めて) ※すばる望遠鏡でRM効果の検出が可能(2005年度春季年会:成田他) 19/39 観測: TrES-1について 2004年に10cmの望遠鏡で発見(Alonso et al. 2004) V=11.8、K0V、やや自転が遅い(1.08 ± 0.30 km/s) 暗いため視線速度がほとんど観測されていない(12点) ハッブル望遠鏡のトランジット観測から黒点の発見※ 上:TrES-1 下:HD209458 ※Charbonneau et al. (2007) 20/39 観測: すばる/マグナム同時分光・測光観測 UT 2006/6/20のTrES-1のトランジットを2つの望遠鏡で同時観測 マウイ島ハレアカラの マグナムで測光観測 ハワイ島マウナケアの すばるで分光観測 21/39 観測: すばるでの視線速度観測 すばる/HDSで得られた視線速度 20 samples 波長分解能 : 45000 露光時間 : 15 min シーイング : ~1.0 arcsec S/N :~ 60 (ヨードセル入) Sato et al. (2002)のアルゴリ ズムで視線速度を決定 10 ~ 15 m/s の決定精度 22/39 観測: マグナムでの測光観測 マグナムで得られたV band光度曲線 184 samples フィルター : V 露光時間 : 40 or 60 sec 2 mmag の測光精度 黒点らしきイベントはなし トランジット中心時刻の決定 精度は~30 sec 23/39 解析: なるべく強い制限をつけるためpublished dataを追加 Keck 12 ( 7 + 5 ) RV samples FLWO 1149 (3 transits) photometric samples Ohta, Taruya, & Suto (2005) の公式でモデル化 データ、モデル、パラメータ Rossiter効果を含む視線速度・光度曲線を同時フィット フリーパラメータ : 15個 K, VsinIs, λ: 主に視線速度に関係 i, uV, uz, Rs, Rp/Rs : 主に光度曲線に関係 v1, v2, v3 : 視線速度のoffset Tc(234), Tc(235), Tc(236), Tc(238) : トランジット中心時刻 24/39 解析: TrES-1ではVsinIsに制限がつけられている VsinIsへの制限、χ2 統計量 VsinIs = 1.08 ± 0.30 km/s (Laughlin et al. 2005) VsinIsの制限を考慮した場合(a)、しない場合(b)で計算 (a) (b) AMOEBA(Numerical Recipes)アルゴリズムで最小化 eは0と仮定してフィット (後で制限を外した場合も行った) 25/39 結果: RV fittingの例 -0.5 -0.05 orbital phase 0.05 transit phase a : 制限あり、 b : 制限なし 26/39 結果: VsinIsとλへの制限 (a) : VsinIs = 1.3 ± 0.3 [km/s], λ= 30 ± 21 [deg] (b) : VsinIs = 2.5 ± 0.8 [km/s], λ= 48 ± 17 [deg] コントアは内側から⊿χ2=1,00, ⊿χ2=2.30, ⊿χ2=4.00, ⊿χ2=6.17 27/39 考察: トランジットサーベイで発見された暗い(V~12) トランジット惑星系で初めてRossiter効果を検出 観測結果の小まとめ1 同様の研究が他のトランジット惑星系でも可能 TrES-1のλに初めて制限をつけた 不定性は大きいが、少なくとも惑星は順行している 大きく(10度以上)ずれている可能性も残されている さらなる視線速度観測で制限を強められる Jumping Jupiter Modelの証拠になりえる初候補 28/39 追加解析: 分光・測光観測からわかること secondary planet はあるのだろうか? 離心率のチェック Transit Timing Variationのチェック 同じ軌道に小惑星はあるのだろうか? トロヤ群小惑星のチェック 29/39 結果: eccentricityのチェック 未発見の惑星があれば離心率を持つはず eとωをフリーパラメータに加えて解析を行ったが、 e = 0.048 ± 0.025 となり、有意な離心率はなかった コントアは内側から⊿χ2=1,00, ⊿χ2=2.30, ⊿χ2=4.00, ⊿χ2=6.17 30/39 結果: Transit Timing Variationのチェック 1:nの共鳴軌道に惑星が存在すると、 n回の周期でトランジット中心時刻にmodulationがかかる 全ての時刻は1.5σ以内で予想された時刻とあっているが、 なんとなく単調増加しているようにも見える 観測されたトランジット中心時刻と、公転周期から予想された時刻の差 31/39 結果: トロヤ群小惑星のチェック 検出原理 ホットジュピターのラグランジュ点 まわりにトロヤ群小惑星が存在すると、 視線速度のゼロ点の時刻と トランジットの中心時刻に ずれが生じる 有意なずれは見られず14ME以上の トロヤ群小惑星の存在を棄却 32/39 考察: 観測結果の小まとめ2 TrES-1にホットジュピター以外の天体の存在は 現段階では検出されなかった 離心率とトロヤ群小惑星の探索には、さらなる視線 速度の観測が必要 Transit Timing Variationには兆候らしき変化があり、 今後の連続測光観測が期待される 33/39 観測結果のまとめ TrES-1でのRM効果の検出に成功 暗い(V~12)惑星系では世界初の検出 系外惑星の順行公転をすばるでは初めて確認 λの不定性は大きいが、有意に大きい可能性もある 候補の発見 しかし、これだけでは理論へのフィードバックができない 34/39 展望: トランジット惑星研究の今後 トランジット惑星系の発見は今後ますます増加していく 2006年に4つの地上トランジットサーベイチームが合計5つの トランジット惑星系の発見に成功 (XO, TrES, HAT, WASP) 全てV~12等より明るい惑星系をターゲットとしている ESAのCOROTの打ち上げが成功し、さらに発見数は増えて いくと期待される 今後はより観測的・統計的な議論が可能となってくる 35/39 展望: 我々の結果の意義 V~12の惑星系でもRM効果が検出できることを実証 hot Jupiter形成理論に対する制限の手がかり 有意にλが大きい候補の初発見 → 追観測でλの精度を高める まだ観測されていない観測ターゲットが既に5つある 今後より多くのターゲットでλの分布を調べることで、 主星の自転軸と惑星の公転軸がどれくらいの割合で そろっているか・ずれているかという観測事実を 提示することができる 36/39 展望: もうひとつのサイエンス 太陽-地球系を観測した場合の視線速度曲線はどうなるか? RM効果は地球型惑星発見の 追試に有利 振幅 ~10cm/s 必要観測期間 1年 振幅 ~30cm/s 必要観測期間 半日 Gaudi & Winn (2007) 望遠鏡時間の節約! Kepler計画提案書ではRM効果で追試を行うことが明記されている 37/39 展望: 地球型惑星のフォローアップ観測 原理的な検出限界の図 (Gaudi & Winn 2007) 観測期間による限界 緑:Keplerで12等の恒星の まわりで検出できる惑星の 領域 赤丸:ハビタブルな地球型 惑星のある領域 実線:現在の観測機器で フォローアップできる下限 点線:30m級の望遠鏡でフォ ローアップできる下限 測光精度による限界 RM効果では遠い方がトランジット時間が長いので、検出しやすくなる 38/39 展望: 将来の地球型惑星発見に向けて まずは地球型惑星候補のRM効果による追試 KeckとHARPS-North(Harvard & Geneva)がKeplerの フォローアップ観測機器として挙げられている すばるではどうか? RM効果では発見の追試はできるが、惑星の質量はわからない 現状の機器でできるのは質量の上限をつけることのみ 質量を知るのに必要なのは、 30m級望遠鏡で長期安定な視線速度観測装置 高分散分光器を使ったこうした研究も将来行っていきたい 39/39
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