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大離心率トランジット惑星HD17156bの
公転軌道傾斜角の測定
国立天文台 光赤外研究部
成田 憲保
佐藤 文衛(東工大)、 大島 修(水島工業高)
Joshua N. Winn(MIT)
内容
• 惑星形成理論と公転軌道傾斜角
• ロシター効果について
• 岡山での分光・測光観測結果
• 今年度の観測予定
太陽系外惑星の多様性
惑
星
の
有
効
質
量
Snow Line
Jupiter
惑星の軌道長半径
Extrasolar Planets Catalog より作成
太陽系外惑星の多様性
Eccentric Planets
惑
星
の
軌
道
離
心
率
Jupiter
惑星の軌道長半径
惑星軌道分布の特徴
• 巨大惑星が内側の軌道にある
–
もともとは遠くでできたはず
 外側から内側への惑星の移動過程があったはず
• 離心率を持った惑星が多く存在する
–
離心率を増大させる何らかの機構があるはず
• これらの特徴を説明する理論モデルは?
hot Jupiter形成理論の例
1.
惑星が円盤との相互作用で徐々に移動(Type II migration)

コア集積モデルの自然な帰結

離心率と公転軌道傾斜角は~0となる
2.
惑星同士の重力散乱による移動(planet-planet scattering)

3つ以上の巨大惑星が形成した場合に起こる

大きな離心率と大きな公転軌道傾斜角を得る可能性がある
3.
伴星による古在共鳴と主星の潮汐力で移動(Kozai migration)

連星系にある一部の惑星に対して起こる

大きな離心率と大きな公転軌道傾斜角を得る可能性がある
HD17156bについて
• N2Kプロジェクトで発見(佐藤文衛他 2007年秋季年会P55a)
• 2007年10月にトランジットが報告された(Barbieri et al. 2007)
• 非常に面白い恒星・惑星パラメータ
– 主星が明るい (V = 8.2)
– 大きな離心率を持つ (e = 0.67)
– トランジット惑星としては最長の公転周期 (P = 21日)
– 大きな惑星質量 (Mp = 3.1MJup)
• 大きな公転軌道傾斜角を持つかもしれない絶好のターゲット
– どうやって公転軌道傾斜角を測定するのか?
ロシター効果
恒星
惑星
惑星
近づく側を隠す
→ 遠ざかって見える
遠ざかる側を隠す
→ 近づいて見える
ロシター効果 = 惑星がトランジット中に主星の自転を隠す効果
トランジット中の視線速度を測定する
ロシター効果の形
Gaudi & Winn (2007)
惑星がどのような軌道を通ったかでロシター効果の形が変わる
主星の自転軸に対する惑星の公転軸の傾き(公転軌道傾斜角)が測定できる
今回の観測
• 2007年11月12日(トランジット発見後、最初のトランジット)
• 世界で初めてこの惑星系のロシター効果を観測できるチャンス
• かつ2007年中に日本で観測できる唯一の機会
• 岡山での同時分光・測光観測
– 岡山天体物理観測所 188cm望遠鏡 HIDES による分光観測(※)
– 「日本トランジット観測ネットワーク」による測光観測
※謝辞 京大の森谷さんらのグループと岡山プラネットサーチグループより観測時間をいただきました
得られたデータ
上段
• Rc バンド測光データ
• 251 samples
• 約4mmag の測光精度
下段
• HIDES視線速度データ
• 25 samples
• 10~20 m s-1 の精度
データの解析方法
• 視線速度にpublished dataを追加
– Subaru 9, Keck 24 samples (Fischer et al. 2007)
• Ohta, Taruya, & Suto (2005, 2006) の公式でモデル化
– ロシター効果を含む視線速度・光度曲線を同時フィット
• 3つの統計手法でパラメータの最適値と誤差の評価
– Δχ2
– Monte Carlo bootstrap
– Markov Chain Monte Carlo (MCMC)
ロシター効果のフィット結果
λ= 62 ± 25 度 (Δχ2), reduced χ2 = 0.97
67 ± 26 度 (bootstrap) 65 ± 25 度 (MCMC)
観測結果のまとめとその後の進展
• HD17156bのロシター効果を世界で初めて観測
• 岡山HIDESの観測結果から λ= 62±25 度 を得た
– Narita et al. (2008) PASJ 4月25日号で報告
– 面白い結果だが、視線速度の誤差がまだ大きい
• 別の観測結果が最近報告された(Cochran et al. ApJL 08/08/10)
– HET(9.2m)のトランジット前半の観測からλ= -32.4±25.2 度
– 我々のデータを合わせると、ほとんどずれていないと結論
• 視線速度の残差にうねりが見える?(Short et al. ApJL submitted)
– P = 111 days に ~20 MEarth の惑星があると予言している
今年度の観測予定
• すばると岡山での観測時間を確保
– すばるではλを5度以内の精度で決定可能
– 岡山では昨年と同じ位相を観測し去年の結果と比較できる
• 今年度の観測から目指すこと
– HD17156bのλのより正確な値の測定
– この惑星系での2つ目の惑星の存在を確認/制限