周産期データベースから分かるもの

インダシン予防投与多施設ラン
ダム化比較試験・二次解析報告
大阪府立母子保健総合医療センター
森 臨太郎
インドメタシン予防投与の効果が周産期因子に
より変化するかを二次解析により検討
• アウトカムは1歳半、3歳時の後遺症なき生存
•
– 運動発達遅延、脳性まひ、てんかんがなく、視力・聴
力ともに正常で、DQが85以上
•
在胎週数、出生体重、母体ステロイド投与、性
別、母体中毒症、院内出生、分娩様式、アプ
ガースコアなどを検討
インダシン予防投与による脳室内出血予防に関する多施設
共同ランダム化比較試験・長期予後の検討
母体ステロイド投与、性別、母体中毒症、院内出生、分娩様式、ア
プガースコアはインドメタシンの効果に交絡していなかった
在胎週数は1歳半時には交絡し、3歳時には相互作用を示した
1歳半時の後遺症なき生存
オッズ比
95%信頼区間
p値
相互作用検定
p=0.33
在胎週数26週未満
2.41
1.04
5.59
0.04
在胎週数26週以降
1.45
0.80
2.62
0.22
全体(調整前)
1.56
全体(調整後)
1.72
1.07
2.79
0.03
3歳時の後遺症なき生存
オッズ比
95%信頼区間
p値
相互作用検定
p=0.02
在胎週数26週未満
2.36
1.06
5.24
0.04
在胎週数26週以降
0.71
0.39
1.29
0.27
二次解析の結果(多変量解析)
1歳半時の後遺症なき生存
p=0.33
3歳時の後遺症なき生存
p=0.02
2.00
2.00
1.00
1.00
26週以降
26週未満
全体(調整後)
全体(調整前)
26週以降
26週未満
0.20
0.20
インダシン予防投与による脳室内出血予防に関する多施設
共同ランダム化比較試験・長期予後の検討
(ロジスティック多変量解析)
26週未満児において特にインダシン予防投与の
3歳時の後遺症なき生存への効果が明らか
インドメタシン予防は児の在胎週数によって効
果の程度が違う
 26週未満の児では、それ以上の週数児に比べ、
インドメタシン予防の3歳児の後遺症なき生存
への効果が明らか

得られた示唆
NRN Japan Database
日本の新生児医療改善のために
大阪府立母子保健総合医療センター
森 臨太郎
周産期ネットワーク・データベース
 全国の総合周産期センターを中心とした新生児
医療データベース
 2003年より当該施設に入院した出生体重1
500グラム以下の児の入院中データをすべて
収集

周産期データベース

施設間格差の死亡危険度への影響
(ランダム効果による分散)
0
重症度を調整した施設間格
差の死亡危険度への影響
上記に診療の違いによる影
響を取り除くと
極低出生体重児の入院時におけ
る各種重症度を示す因子で調整
しても施設間格差が有意に死亡
危険度に影響している。
影響大
0.07 [0.01, 0.13]
0.05 [-0.08, 0.19]
この差は診療行為因子により有意でなくな
る
=施設間格差の死亡危険度への影響の一部
は診療行為の違いで説明できる
まずは施設間格差が死亡危険度に影響しているか?
(マルチレベル・ポワソン多変量解析)
周産期データベースから分かるもの
ある施設編
大阪府立母子保健総合医療センター
森 臨太郎

施設Aの極低出生体重児治療成績は
◦ 他の総合周産期センターよりも良好か、
◦ だとすればなぜか
◦ さらに治療成績を改善させるにはどうすればよいか
研究上の疑問

対象:
◦ 2003年から2006年までに入院した極低出生体重児

比較:
◦ 施設A入院児とNRN Japanにデータを提出している
他の総合周産期センター入院児

結果:
◦ 退院時死亡率
◦ ハザード比で表現(リスク人日比)=死亡危険度と表
現
前提

相対死亡危険度
◦ 0.75 [95%CI 0.47 – 1.22], p=0.25
全く交絡因子を調整しない状態では、施設Aに入院する児は他
の施設に入院する児に比べて約25%の死亡のハザード低下を
認めるものの、統計学的な有意差は認めなかった。
まず無調整の死亡率

児の重症度にかかわる以下の因子で調整すると
◦ 出生年、母年齢、妊娠回数、分娩回数、多胎、妊娠中
耐糖能の異常、妊娠中毒症、臨床的絨毛膜羊膜炎、前
期破水、胎位、分娩様式、入院時日齢、性別(児)、
院外出生、在胎日数、アプガースコア(1分)、出生
体重、出生身長、子宮内感染、先天奇形

相対死亡危険度
◦ 0.51 [95%CI 0.29 – 0.89], p=0.02
児の重症度による交絡因子を調整すると、
施設Aに入院する児は他の施設に入院する児に比べて有意
に約50%の死亡のハザード低下を認めた。
重症度にかかわる因子で調整すると・・・

施設Aの極低出生体重児の治療成績は良いらしい
◦ ちなみに53施設中8位

ではどのような因子がそうさせるのか?
◦ 母体ステロイド投与、アプガースコア5分値、蘇生時酸素
使用、蘇生時気管内挿管、RDS、空気漏出症候群、肺出血、
新生児遷延性肺高血圧症、動脈管開存症、PDAに対するイ
ンダシン投与、晩期循環不全ステロイド療法、新生児けい
れん、脳室内出血、脳室周囲白質軟化症、敗血症、抗菌薬
使用、中心静脈栄養、壊死性腸炎、特発性消化管穿孔

について検討
次のステップ
オッズ比 P値
オッズ比
P値
母体steroid
2.48
<0.001
循環steroid
0.39
0.02
アプガー5<7
0.83
0.15
痙攣
0.86
0.66
酸素
0.64
0.004
IVH
1.13
0.48
挿管
1.98
<0.001
PVL
0.83
0.61
RDS
1.61
<0.001
敗血症
0.98
0.95
Air Leak
0.77
0.53
抗菌剤
0.19
<0.001
肺出血
1.50
0.13
中心静脈栄養
7.14
<0.001
PPHN
1.27
0.40
NEC
1.38
0.48
PDA
0.78
0.08
消化管穿孔
1.34
0.46
インダシン
0.96
0.76
施設Aの診療の特徴
ハザード比
P値
ハザード比
P値
母体steroid
0.65
<0.001
循環steroid
0.98
0.88
アプガー5<7
4.95
<0.001
痙攣
4.40
<0.001
酸素
1.25
0.09
IVH
4.56
<0.001
挿管
5.26
<0.001
PVL
0.79
0.20
RDS
2.01
<0.001
敗血症
5.08
<0.001
Air Leak
3.22
<0.001
抗菌剤
1.85
<0.001
肺出血
5.83
<0.001
中心静脈栄養
0.92
0.21
PPHN
5.34
<0.001
NEC
5.48
<0.001
PDA
1.45
<0.001
消化管穿孔
2.71
<0.001
インダシン
1.20
0.01
各因子の死亡ハザードとの関係
ハザード比
P値
ハザード比
P値
母体steroid
0.71
<0.001
循環steroid
0.76
0.14
アプガー5<7
1.84
<0.001
痙攣
2.82
<0.001
酸素
0.72
0.02
IVH
3.02
<0.001
挿管
1.33
0.05
PVL
0.71
0.15
RDS
1.30
0.01
敗血症
2.89
<0.001
Air Leak
2.17
<0.001
抗菌剤
0.86
0.23
肺出血
3.01
<0.001
中心静脈栄養
0.55
<0.001
PPHN
2.57
<0.001
NEC
3.54
<0.001
PDA
0.83
0.03
消化管穿孔
1.53
0.02
インダシン
0.69
<0.001
各因子の死亡ハザードとの関係
(重症度を調整後)
かなり強い
やや強い
母体ステロイド投与
 中心静脈栄養


アプガー5分値
 酸素投与
 痙攣
 敗血症
 抗菌剤
 脳室内出血
 NEC
 PPHN
 肺出血
交絡因子として可能性の強いもの
ハザード比
変化
ハザード比
変化
母体steroid
0.56
9.8%
循環steroid
0.63
23.5%
アプガー5<7
0.56
9.8%
痙攣
0.55
7.8%
酸素
0.50
2.0%
IVH
0.43
15.7%
挿管
0.50
2.0%
PVL
0.52
2.0%
RDS
0.50
2.0%
敗血症
0.55
7.8%
Air Leak
0.52
2.0%
抗菌剤
0.49
3.9%
肺出血
0.49
3.9%
中心静脈栄養
0.67
31.3%
PPHN
0.52
2.0%
NEC
0.50
2.0%
PDA
0.50
2.0%
消化管穿孔
0.50
2.0%
インダシン
0.50
2.0%
紫部分はこの施設が改善すべき点
緑部分はこの施設が優秀
な理由因子
欠損値多し
各因子の調整による施設Aのハザード比の
変化(調整前:0.51)
ハザード比
中心静脈栄養
アプガー5
母体steroid
敗血症
痙攣
0.69
0.76
0.72
0.81
0.91
0.88
0.98
最終モデルのハザード比
0.98 [95%CI 0.56-1.72], p=0.93
交絡因子の強さと調整後のハザード比
ハザード比
脳室内出血
肺出血
0.98
0.88
0.91
0.84
児の重症度を調整しても、脳室内出血と
肺出血が多いことにより施設Aの治療成
績を相対的に低下させている
陰性交絡因子の検討
欠損値により検討できない項目もあり、重要課題
 施設Aに入院した極低出生体重児の死亡危険度は重症度
を加味しても、その他の施設に比べて約50%低い
 その低い理由は強い順番に、

◦
◦
◦
◦
◦

中心静脈栄養の使用
蘇生技術(5分後アプガースコア)
母体ステロイド投与
敗血症予防
新生児痙攣予防
一方で施設Aにおいて頻度が全国平均より13%多い脳
室内出血および50%多い肺出血の影響による死亡危険
度の相対的上昇を認めており、これを手掛かりに診療カ
イゼンを試みることでさらにアウトカム向上も可能か
まとめ
施設ごとの改善項目は施設ごとに違う
 これを全施設に行うのは時間・人員的に不可能
 手を挙げた施設向けに診療の質改善コンサル
テーション(tailor-made workshop)
 クラスターランダム化比較試験も可能

今後の発展