末梢静脈栄養(PPN)と 中心静脈栄養(TPN)

中心静脈栄養(TPN)
平成27年2月2日
急性期病棟看護師
輸液の歴史
輸液の起源は、17世紀になって、William
Harveyが「血液の循環の原理」(1628年)を発表
したことが端緒とされるが、最初の輸液はイギ
リスの生理学者、天文学者、建築家である
Christopher Wrenが1658年にガチョウの羽と豚
の膀胱を用いてワインやale(ビール)をイヌの血
管内に投与したのが始まりとされている。
人間に対して、1832年にイギリスのLattaが、
塩化ナトリウム0.5%と炭酸水素ナトリウム0.2%
を含む製剤をコレラの治療に投与したのが始
まりである。
栄養補給の選択基準
栄養療法
• 低栄養に陥っている患者の栄養状態を正常に
保つことにより、疾患の治療効果を高めたり、生
命を維持することである。
• 消化管が使用できないか、使用しないほうが望
ましい場合は経静脈栄養が選択される。
※消化管機能があり、消化管が安全に使える場合
は、経腸栄養が第一選択になる。
“If the gut works,use it”(腸が使える場合は腸を使え!)
輸液の目的
水・電解質の補給
栄養の補給
血管の確保
病態の治療
水・電解質平衡の維持
酸・塩基平衡の維持
循環動態の維持
エネルギー源
体の構成成分
薬剤投与ルートの確保
肝性脳症など特殊な病態の治療
静脈栄養と投与エネルギー
水・電解質の補給
末梢静脈栄養(PPN)
中心静脈栄養(TPN)
投与
熱量
400~500kcal
600~1200kcal
1200~2500kcal
輸液剤
水・電解質輸液
5~7.5%糖液
ビタミン剤
水・電解質輸液
5~10%糖液
電解質補正液
10~20%脂肪乳剤
アミノ酸製剤
ビタミン剤
TPN用基本液
20~50%糖液
高濃度アミノ酸製剤
10~20%脂肪乳剤
ビタミン剤
微量元素製剤
適応と
目的
・栄養状態は良好
・栄養状態は良好で、
・主として水・電解質の
必要熱量として経口
投与が目的
摂取不十分な場合
・蛋白異化を抑える目 ・1週間~10日程度の
的で最低限の熱量補 栄養維持
給
・栄養状態やや不良、
経口摂取が1週間以上
なされていない場合
・蛋白異化亢進状態
・非経口的な完全栄養
補給
末梢静脈栄養(PPN)
適 応
・経口摂取が術後比較的早期に可能な中等度侵襲手術後の栄養管理
・経口摂取の不十分の補充
・菌血症などで、中心静脈カテーテルの留置を避けたい場合
・腸閉塞、胃・十二指腸潰瘍の急性期
・急性胃腸炎などによる嘔吐・下痢の際の腸管安静
禁 忌
(不適応)
・高度の栄養障害例
・高度のストレスからの回復期などでエネルギー需要の亢進している例
・カリウムなど血管刺激性の強い電解質の多量投与が必要な例
・長期にわたる絶食の必要な例
・水分制限を要する例
末梢静脈栄養(PPN)時のトラブル
血管痛
静脈炎
PPNでは、血液の流れが少ない比較的細い血管内
に投与されるため、輸液の浸透圧やpHの影響により
血管痛や静脈炎を起こすことがある。
血管外露出
投与した輸液が血管外に漏れ、穿刺部位周辺の疼痛
や腫脹が起こる。
感染症
注射針の留置部位や三方活栓、輸液混合時の細菌
汚染により、感染症が起こる。
血腫
動脈の損傷や静脈穿刺時の失敗などにより穿刺部位
の腫脹や皮下出血が起こる。
特にヘパリンなど抗凝固薬を投与している患者さんで
起こりやすい。
中心静脈栄養(TPN)
適 応
絶対的適応
・消化管が機能していない場合(重度の腸管麻痺や吸収障害など)
・消化管の使用が不可能あるいはすべきでない場合
・難治性の下痢や嘔吐
・消化管閉塞
・短腸症候群
・腸管の安静を要する場合(高度の炎症など)
相対的適応
・外科周術期
・消化管出血
・抗癌薬使用や放射線照射時
・重症感染症
・急性膵炎(原則経腸栄養が望ましい)
・その他重症患者
・経腸栄養不耐症
中心静脈栄養(TPN)
禁 忌 (非適応)
・十分な消化吸収能を持った患者
・高カロリー輸液が5日以内にとどまる患者
・緊急手術が迫っている患者
・患者、あるいは法的保護者が強力な栄養療法を希望していない場合
・強力な化学療法を行っても予後が保証されない場合
・高カロリー輸液の危険性が効果を上回る場合
中心静脈栄養(TPN)時のトラブル
カテーテルによる合併症
血栓形成
空気塞栓
カテーテル関連血流感染症
(CRBSI)
真菌性眼内膜炎
カテーテル位置異常
穿刺部皮膚壊死・感染
皮膚腫脹
代謝に基づく合併症
高血糖
低血糖
電解質異常
必須脂肪酸欠乏症
微量元素欠乏症
ビタミン欠乏症
代謝性アシドーシス
・乳酸アシドーシス
・高Cl性アシドーシス
①機械的合併症
カテーテルが原因
・カテーテル挿入時に起こる合併症
気胸・血胸・動脈穿刺・先端位置異常など
・カテーテル留置後の合併症
閉塞・血栓・破損・真菌性眼内膜炎・先端位置
異常・カテーテル関連血流感染(CRBSI)など
カテーテル関連血流感染CRBSI
(Catheter‐Related Blood Stream Infection)
②代謝性合併症
栄養が原因
・栄養が多い、投与が速い
高血糖・re-feeding syndrome・高TG血症
・栄養が少ない、急激に減量
乳酸アシドーシス・微量元素欠乏・必須脂肪
酸欠乏症・ビタミン欠乏症、低血糖
③消化器合併症
消化管を使わないことが原因
・消化管粘膜の萎縮
・バクテリアルトランスロケーション(BT)
※TPNとSPN
TPN(中心静脈栄養)
SPN(補完的中心静脈栄養)・・・経口・経腸栄養によるエネル
ギー量が40%以上である
TPNの合併症
種類
因子
機械的合併症 カテーテル
対策
閉塞
ヘパリンロック
位置異常
X線検査
CRBSI
感染対策
高血糖・低血糖
適切な糖の量・スピー
ド
Re-feeding syndrome
適切な糖の量
ビタミンB1
乳酸アシドーシス
ビタミンB1の補給
脂質
必須脂肪酸欠乏症
脂質補充
高トリグリセリド血症
適切な脂質のスピード
微量元素欠乏症
微量元素補充
代謝性合併症 糖質
微量元素
消化器合併症 消化管を使わない 消化管粘膜の萎縮
バクテリアルトランスロケーション
腸を使う
腸を使う
症
例
T・S氏 直腸癌
手術目的による入院
入院4日目 PICC挿入
入院8日目 術前の為、絶食、静脈栄養開始
入院10日目 腹腔鏡下超低位前方切除術施行
入院13日目 高カロリー輸液開始
入院16日目 流動食開始
入院22日目 食事が7分粥へ形態アップ、静脈栄養終了 PICC抜去
入院経過
TP
ALB
4日目
6.7
3.8
10日目
11日目
(OPE直後) (OPE翌日)
4.0
4.7
3.1
2.8
13日目
5.0
2.9
16日目
5.4
3.3
ま と め
・消化管が7~14日間以上使用できない場合に
中心静脈栄養(TPN)を選択する。
・中心静脈栄養時の合併症を理解する。
・患者の病態、身長、体重、年齢に合わせて
中心静脈栄養(TPN)のカロリー、組成を適切に
投与する。